異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

文字の大きさ
301 / 343
連載

さわこさんと、夏祭り その3

しおりを挟む
 夏祭りが開催されている辺境都市トツノコンベ。
 いつもは、夜中に閉店する酒場が多いのですが、この期間はそんなお店の多くが朝方まで開店しているんです。

 ただし

 居酒屋さわこさんは、そこまでの営業はいたしません。
 就業時間はいつもと同じで、深夜にはぴったり閉店しております。

 お祭りの実行委員長をなさっている中級酒場組合長のジュチさんからは、

「なぁ、朝までやってくれとは言わないけどさぁ、もう少し長く営業してくれないかなぁ」

 って、打診されてはいるのですが、

「私達は、少人数でのんびり楽しく経営しておりますのでご勘弁ください。その代わり営業中は街道に屋台も出していつもより頑張らせていただいておりますし、屋台の営業をお昼頃から行ったりしていますので……」

 そう言ってご理解頂いている次第なんです。

 実際、居酒屋さわこさんで働いてくださっている皆さんといいますと……

 家主のバテアさん、リンシンさん、エミリアがメインのメンバーで、忙しい時には、ショコラやお向かいで喫茶店をしているマリーさんにお手伝いに来てもらっています。

 ミリーネアさんもいますが、吟遊詩人のミリーネアさんは歌を歌うことがお仕事ですから、お店のお手伝いをお願いするわけにはいきません。
 それに、ミリーネアさんの歌は、今では居酒屋さわこさんに欠かせない存在になっているんです。
 ミリーネアさんの歌う歌は、声がとても澄んでいて綺麗なんです。
 でも、それだけではないんです。
 ミリーネアさんの歌声には、疲労回復や気分高揚といった魔法効果が含まれているんです。
 ですから、居酒屋さわこさんにいらしたお客様は、店内で歌っているミリーネアさんのおかげで無意識のうちに元気になっているんですよ。

「……ボク達吟遊詩人の中には、パーティに入って歌で戦闘支援を行う人もいるし、その方がお金を稼げたりするのですが、ボクは戦闘行為が苦手なものですから……こうして、酒場の片隅をお借りして歌を歌っているのがとても楽しいんです……それに、この居酒屋さわこさんはとっても居心地がいいですので」

 そう言って、にっこり笑ってくださるミリーネアさん。
 
「そう言って頂けると、私もとっても嬉しいです」

 そんなミリーネアさんに、私も笑顔で頷きました。
 ミリーネアさんは、夏祭りの間も日中は冒険者組合へ出向いて、この都市にやってきたばかりらしい冒険者の方に声をかけては、歌の題材になりそうな話がないか聞いて回られていまして、それが終わるとお店に戻ってこられまして、屋台の隣に座って歌を歌ってくださっています。

 今日も、屋台で串焼きやかき氷を販売していると、

「……ただいま」

 いつものように、大きなリュックサックを背負ったミリーネアさんが戻ってこられました。
 その後方には、ベルやエンジェさんをはじめとした、猫集会に集まっている子供達が10人くらい続いています。

「お帰りなさい、ミリーネアさん。今日はベル達と一緒なんですね」
「……うん、みんなに歌を教えてあげていた」

 私の言葉に、コクリと頷くミリーネアさん。
 その後方で、ベルが元気に右手をあげました。

「ニャ! 公園で一緒にお歌を歌ったニャ! とっても楽しかったニャ!」

 嬉しそうなベル。
 その後方では、エンジェさんやシロ、ロッサさんをはじめとした猫集会のみんなも笑顔で頷いています。
 そんな中、ミリーネアさんは少し困った表情をその顔に浮かべながら私を見つめてこられました。

「……あの、さわこ……みんなまだ歌いたいって言ってるんだけど……ここで一緒に歌ってもいい?」
「あぁ、そういうことでしたか。それでしたら全然問題ありませんよ」
「……うん、ありがとう、さわこ」

 私の言葉に、安堵しながら頷くミリーネアさん。
 その様子から察すると、ミリーネアさんも、ベル達と一緒に歌を歌いたかったようですね。
 でも、この屋台で歌を歌ってくださる約束だったものですから……

 そんなことを考えている私の横で、椅子に座ったミリーネアさん。
 その周囲に、子供達も思い思いに座っていきます。

「……じゃ、さっきの歌をもう一回練習……」
「「「はい!」」」

 子供達の元気な返事に、満足そうに頷いたミリーネアさん。
 右手の人差し指でリズムを刻むと、

 ♪ 歩いていこう~ 緑の野原を~

 いつもの透き通った歌声。
 その声に、子供達の元気な声が重なっていきます。

 最初は、たくさんの声がごちゃ混ぜになっているようにしか聞こえませんでした。
 すると、ミリーネアさんが子供達を指さしていきます。
 指さされた子供は、ミリーネアさんの指の動きをじっと見つめながら、その指が上に向くと声を大きく、下に向くと声を小さくしていきます。
 そんな感じで、子供達一人一人の声のトーンを、歌いながら調整していくミリーネアさん。
 気がつくと、歌が中盤を過ぎたあたりになると、その歌声は綺麗なハーモニーを奏で始めていたんです。

 もちろん、ミリーネアさんの歌声に、子供達の歌声が叶うはずがありません。
 でも、一生懸命、楽しそうに歌っている子供達の歌声を、ミリーネアさんの透き通った声が包み混んで、ひとつにまとめ上げているかのような……そんな感じを、聞く人に与えているんです。

 気がつくと、ミリーネアさん達の周囲に、街道を行き来していた人達が集まりはじめていました。

「へぇ……なんだか楽しい歌声だね」
「聞いてると、思わず元気になれる歌だよ」
「もっと聞かせてちょうだい」

 そんな声が、周囲からあがっていきます。
 そんな皆さんの前で、ミリーネアさんを中心にした猫集会のみんなは気持ちよさそうに歌い続けています。
 その光景を拝見していると、私までとっても楽しい気分になってきてしまいます。

 歌が一曲終了すると、周囲に集まっていた皆さんが一斉に拍手をしいてくださいました。
 すると、そんな皆様の前にバテアさんが歩み寄っていかれました。

「さ、楽しい歌には美味しい料理ってね、串焼きにかき氷、どっちも美味しいわよ。食べながら歌を聴いてはいかがかしら?」
「お、それもいいね」
「じゃあ、串焼きを3本ちょうだい」
「こっちにはカキゴオリをくださいな」

 バテアさんの営業トークを受けて、お客様達から注文の声があがりました。
 そんな皆様に、私も笑顔を向けていきまして、

「はい、喜んで!」

 早速、串焼きとかき氷を準備していきました。
 その間にも、ミリーネアさんと猫集会のみんなは次の歌の準備をしているようです。

 そんな感じで、お昼の居酒屋さわこさんの屋台では、元気な歌が聞けると評判になっていったのは、言うまでもありません。

ーつづく 
 

しおりを挟む
感想 164

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。