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連載
さわこさんと、夏祭り その4
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トツノコンベで開催されていた夏祭りですが、いよいよ本日が最終日になります。
連日多くのお客様が都市を訪れてくださり、いつもよりもかなりたくさんの方々が街道を往来しておられたのですが、それも今日でお終いかと思うとなんだか少し寂しく思えてしまいますね。
「……でも、だからといってしんみりしていてはいけませんね。最後まで笑顔で頑張りませんと」
いつもの着物姿に着替えた私は、気合いのたすき掛けをしていきました。
お昼は屋台の営業をバテアさんと2人で行います。
時折、ミリーネアさんやベル達が歌を歌って客寄せをしてくれていたのですが、今日はミリーネアさんが冒険者組合のお仕事を請け負われたとのことで、夜まで戻ってこられないんです。
ベル達はと言いますと、
「最後の日くらい、お祭りを回りたいニャ!」
そう言っていたのですが……
「あら? ベル達は猫集会のみんなと一緒にお祭りを見て回っていたんじゃなかったの?」
そうなんです。
お祭りの間、ベル達は子供達で集まってお祭りをしっかり満喫しているはずなんです。
ちゃんとお小遣いもあげていますし……
私が小首をかしげていると、ベルは笑顔で私の手を握りました。
「違うニャ! 最後の日くらいさーちゃんと一緒にお祭りを回りたいのニャ!」
「そうよさわこ! 最後の日くらいいいでしょう?」
「……うん、行こう」
「そうじゃぞさわこ、子供のお願いは聞くものじゃぞ」
ベルが握った私の手を、エンジェさん・シロ・ロッサさんも握って引っ張っているのですが……
「あの、ロッサさん? あなたは見た目は子供ですけど、実年齢は私よりも……」
「そんな細かいことは気にするでない! そら行くぞ!」
都合の悪いことを私がいいはじめたものですから、その言葉を遮ったロッサさん。
そのまま、私は4人に引っ張られていったのですが……
「いいじゃないのさわこ、最終日なんだし行ってきなさいな。もうじきエミリアも来るし、屋台はアタシ達に任せておきなさいな」
「そ、そうですか……で、ではお言葉に甘えさせていただきますね」
手を振っているバテアさんに何度も頭を下げながら、私は4人に引っ張られていきました。
すると……
「みゅ! みゅみゅ~!」
家の二階から、パタパタと羽根を羽ばたかせながら、ミュウが私を追いかけてきました。
最近、屋台とお店のお仕事で1日中忙しくしていたもんですから、あまりかまってあげることが出来ていなかったからでしょう。ミュウは、必死になって私を追いかけてきています。
追いついたミュウを優しく抱きしめた私。
「じゃあ、今日はミュウも一緒にお祭りを回りましょうね」
「みゅ! みゅ~!」
私の言葉に、ミュウは嬉しそうに体をすり寄せてきました。
◇◇
居酒屋さわこさんが入店しているバテアさんのお宅は、商店街組合の街道の端の方にあります。
城門も反対側なので、本来ではあればあまり人通りは多くないはずなのですが、昼間はバテアさんの魔法道具のお店が、夜は居酒屋さわこさんが営業しているものですから、普段からこの辺りにも割と大勢の方々が足を運んでくださっているんです。
ですが
お祭りのメイン会場になっています中央広場の方へ近づいていくと……その人混みはさらにすごくなっていきました。
この辺りは、以前から何度も通ったことがあるのですが……
「こんなにたくさんの方々がいらっしゃっていたんですねぇ……びっくりです」
私は、周囲を見回しながら目を丸くしていました。
今までに見たことがない程、たくさんの人々が街道を行き交っていたんです。
このあたりは、ジュチさんが組合長を務めている中級酒場組合の方々が屋台を出しているあたりです。
ですので、
「あ、さわこさん! よかったら寄ってってよ!」
「さわこさん、こっちにもぜひ寄っていってください!」
あちこちの屋台から、そんな声が聞こえてきました。
何しろ、中級酒場組合の皆さんには料理教室で料理をお教えさせていただいているものですから、知らない方の方が少ないといいますか……
あちこちに、ご自分のお店の前に屋台を出している方々がおられます。
そんな皆さんに笑顔で挨拶をしていると、
「さーちゃん、こっちにゃ!」
ベルが、私の手を引っ張りました。
人混みの中を抜けてたどりついた場所には……
「さぁ、当たりに入ったら景品をあげるからねぇ」
多くのお客さんが集まっている屋台から、そんな声が聞こえています。
ベル達は、私の手を引っ張ると屋台の前へと移動していきました。
「おっちゃん! 今日こそ景品ゲットするニャ!」
「お、ベルとそのお仲間じゃないか……おや? 今日は大きなお姉さんも一緒だと思ったら……なんだ、居酒屋さわこさんのさわこさんじゃないか」
屋台のカウンターの中で笑顔を浮かべておられるのは、蜘蛛人のユキさんでした。
居酒屋さわこさんの常連さんです。
「ユキさんも屋台を出しておられたんですね」
「えぇ、ちょっとしたお遊びの屋台なんですけどね、結構人気なんですよ。ほら、この縄で作った輪っかを、向こうの棒に入れることが出来たら景品を差し上げるって仕組みでして。一回に3つの輪っかを投げて入った本数によって景品が豪華になる仕組みなんです。ベル達はよく遊びにきてくれていましてね」
「そうニャ、何度も挑戦してるニャけど、どうしても3本入らないニャ」
ユキさんの前で悔しそうな表情を浮かべているベル。
「だからさーちゃん、ベル達の敵討ちをお願いするニャ!」
「……え? わ、私が!?」
ベルの言葉に、目を丸くする私。
そ、そりゃそうですよ……運動神経の欠片もないこの私がですよ、な、なんでこの輪投げのようなゲームを出来ると思ったのでしょうか、ベルってば……
「あ、あのベル……わ、私はですね……」
どうにかしてこの場を穏便に逃げ仰せないと……そう考えた私は、笑顔でベル達を説得しようとしたのですが……
「お、さわこさんが挑戦するのか!?」
「こりゃ期待出来るかも!」
「さわこさん、ガンバレ~」
……な、なんでしょう……いつの間にか、屋台のみなさんが私に向かって声援をあげはじめまして……気がついたら周囲に大さわこコールが巻き起こっておりまして……
……ど、どうしよう……に、逃げられそうにないです
輪っかを3つ手にした私は、思わず生唾を飲み込んでいました。
……ど、どうやら、覚悟を決めてやるしかなさそうです、はい……
◇◇
その後……
ベルは、とっても大きなぬいぐるみを抱きかかえてご満悦です。
「ニャはぁ! 一等のぬいぐるみ欲しかったのニャ!」
「よかったわね、ベル」
嬉しそうなベルに、私は笑顔で頷きました。
……この光景だけ見ると、まるで私が輪っかを3つ入れたようですが……
「……リンシン、すごい! 格好良かった」
「……うん、輪投げは得意」
私の後方でそんな会話を交わしているのは、シロとリンシンさんです。
えぇ……偶然なのですが、冒険者組合で用事を済ませたリンシンさんが輪投げの屋台の前を通りかかられまして、見事一回で、輪っかを3つ、入れてくださったんです。
おかげで、ベル達が欲しがっていた大きなぬいぐるみを入手することが出来たんです。
他にも、屋台の食べ物券なんかもあったのですが、
「食べ物はさーちゃんが作ってくれたものが一番美味しいからいらないニャ」
そう言って見向きもしなかったんです。
……え、私の結果ですか? ……ぬいぐるみが1個しかないことでお察しください……
◇◇
その夜……
まだ、居酒屋さわこさんが営業している最中なのですが……
二階にある大きなベッドの上で寝ているベル・エンジェさん・ロッサさんの3人は、あの大きなぬいぐるみに抱きつくようにして眠っていました。
そのぬいぐるみの頭のところでは、みゅうが丸くなって寝ています。
いつもリンシンさんと一緒に寝ているシロだけは、ベッドの下に敷かれているリンシンさんのお布団の中で寝息を立てています。
「……なんでも、あのぬいぐるみがさわこに似てたから、抱き枕代わりに欲しかったんだって」
「そうだったんですねぇ」
バテアさんの言葉に、笑顔で頷く私。
その大きなぬいぐるみって、毛がモコモコな魔獣を可愛くしたものらしいのですが、言われてみればおかっぱなところとか、笑顔なところが似てなくもないといいますか……
そのぬいぐるみに抱きついて寝ているみんなを見ていると、なんだか元気が出てくるから不思議です。
「では、お祭りの最終日、頑張りましょう」
「そうね、頑張りますか」
私はバテアさんと顔を見合わせると、みんなを起こさないように気をつけながらお店に戻っていきました。
今夜も居酒屋さわこさんは、閉店まで多くのお客様で賑わっていきました。
ーつづく
連日多くのお客様が都市を訪れてくださり、いつもよりもかなりたくさんの方々が街道を往来しておられたのですが、それも今日でお終いかと思うとなんだか少し寂しく思えてしまいますね。
「……でも、だからといってしんみりしていてはいけませんね。最後まで笑顔で頑張りませんと」
いつもの着物姿に着替えた私は、気合いのたすき掛けをしていきました。
お昼は屋台の営業をバテアさんと2人で行います。
時折、ミリーネアさんやベル達が歌を歌って客寄せをしてくれていたのですが、今日はミリーネアさんが冒険者組合のお仕事を請け負われたとのことで、夜まで戻ってこられないんです。
ベル達はと言いますと、
「最後の日くらい、お祭りを回りたいニャ!」
そう言っていたのですが……
「あら? ベル達は猫集会のみんなと一緒にお祭りを見て回っていたんじゃなかったの?」
そうなんです。
お祭りの間、ベル達は子供達で集まってお祭りをしっかり満喫しているはずなんです。
ちゃんとお小遣いもあげていますし……
私が小首をかしげていると、ベルは笑顔で私の手を握りました。
「違うニャ! 最後の日くらいさーちゃんと一緒にお祭りを回りたいのニャ!」
「そうよさわこ! 最後の日くらいいいでしょう?」
「……うん、行こう」
「そうじゃぞさわこ、子供のお願いは聞くものじゃぞ」
ベルが握った私の手を、エンジェさん・シロ・ロッサさんも握って引っ張っているのですが……
「あの、ロッサさん? あなたは見た目は子供ですけど、実年齢は私よりも……」
「そんな細かいことは気にするでない! そら行くぞ!」
都合の悪いことを私がいいはじめたものですから、その言葉を遮ったロッサさん。
そのまま、私は4人に引っ張られていったのですが……
「いいじゃないのさわこ、最終日なんだし行ってきなさいな。もうじきエミリアも来るし、屋台はアタシ達に任せておきなさいな」
「そ、そうですか……で、ではお言葉に甘えさせていただきますね」
手を振っているバテアさんに何度も頭を下げながら、私は4人に引っ張られていきました。
すると……
「みゅ! みゅみゅ~!」
家の二階から、パタパタと羽根を羽ばたかせながら、ミュウが私を追いかけてきました。
最近、屋台とお店のお仕事で1日中忙しくしていたもんですから、あまりかまってあげることが出来ていなかったからでしょう。ミュウは、必死になって私を追いかけてきています。
追いついたミュウを優しく抱きしめた私。
「じゃあ、今日はミュウも一緒にお祭りを回りましょうね」
「みゅ! みゅ~!」
私の言葉に、ミュウは嬉しそうに体をすり寄せてきました。
◇◇
居酒屋さわこさんが入店しているバテアさんのお宅は、商店街組合の街道の端の方にあります。
城門も反対側なので、本来ではあればあまり人通りは多くないはずなのですが、昼間はバテアさんの魔法道具のお店が、夜は居酒屋さわこさんが営業しているものですから、普段からこの辺りにも割と大勢の方々が足を運んでくださっているんです。
ですが
お祭りのメイン会場になっています中央広場の方へ近づいていくと……その人混みはさらにすごくなっていきました。
この辺りは、以前から何度も通ったことがあるのですが……
「こんなにたくさんの方々がいらっしゃっていたんですねぇ……びっくりです」
私は、周囲を見回しながら目を丸くしていました。
今までに見たことがない程、たくさんの人々が街道を行き交っていたんです。
このあたりは、ジュチさんが組合長を務めている中級酒場組合の方々が屋台を出しているあたりです。
ですので、
「あ、さわこさん! よかったら寄ってってよ!」
「さわこさん、こっちにもぜひ寄っていってください!」
あちこちの屋台から、そんな声が聞こえてきました。
何しろ、中級酒場組合の皆さんには料理教室で料理をお教えさせていただいているものですから、知らない方の方が少ないといいますか……
あちこちに、ご自分のお店の前に屋台を出している方々がおられます。
そんな皆さんに笑顔で挨拶をしていると、
「さーちゃん、こっちにゃ!」
ベルが、私の手を引っ張りました。
人混みの中を抜けてたどりついた場所には……
「さぁ、当たりに入ったら景品をあげるからねぇ」
多くのお客さんが集まっている屋台から、そんな声が聞こえています。
ベル達は、私の手を引っ張ると屋台の前へと移動していきました。
「おっちゃん! 今日こそ景品ゲットするニャ!」
「お、ベルとそのお仲間じゃないか……おや? 今日は大きなお姉さんも一緒だと思ったら……なんだ、居酒屋さわこさんのさわこさんじゃないか」
屋台のカウンターの中で笑顔を浮かべておられるのは、蜘蛛人のユキさんでした。
居酒屋さわこさんの常連さんです。
「ユキさんも屋台を出しておられたんですね」
「えぇ、ちょっとしたお遊びの屋台なんですけどね、結構人気なんですよ。ほら、この縄で作った輪っかを、向こうの棒に入れることが出来たら景品を差し上げるって仕組みでして。一回に3つの輪っかを投げて入った本数によって景品が豪華になる仕組みなんです。ベル達はよく遊びにきてくれていましてね」
「そうニャ、何度も挑戦してるニャけど、どうしても3本入らないニャ」
ユキさんの前で悔しそうな表情を浮かべているベル。
「だからさーちゃん、ベル達の敵討ちをお願いするニャ!」
「……え? わ、私が!?」
ベルの言葉に、目を丸くする私。
そ、そりゃそうですよ……運動神経の欠片もないこの私がですよ、な、なんでこの輪投げのようなゲームを出来ると思ったのでしょうか、ベルってば……
「あ、あのベル……わ、私はですね……」
どうにかしてこの場を穏便に逃げ仰せないと……そう考えた私は、笑顔でベル達を説得しようとしたのですが……
「お、さわこさんが挑戦するのか!?」
「こりゃ期待出来るかも!」
「さわこさん、ガンバレ~」
……な、なんでしょう……いつの間にか、屋台のみなさんが私に向かって声援をあげはじめまして……気がついたら周囲に大さわこコールが巻き起こっておりまして……
……ど、どうしよう……に、逃げられそうにないです
輪っかを3つ手にした私は、思わず生唾を飲み込んでいました。
……ど、どうやら、覚悟を決めてやるしかなさそうです、はい……
◇◇
その後……
ベルは、とっても大きなぬいぐるみを抱きかかえてご満悦です。
「ニャはぁ! 一等のぬいぐるみ欲しかったのニャ!」
「よかったわね、ベル」
嬉しそうなベルに、私は笑顔で頷きました。
……この光景だけ見ると、まるで私が輪っかを3つ入れたようですが……
「……リンシン、すごい! 格好良かった」
「……うん、輪投げは得意」
私の後方でそんな会話を交わしているのは、シロとリンシンさんです。
えぇ……偶然なのですが、冒険者組合で用事を済ませたリンシンさんが輪投げの屋台の前を通りかかられまして、見事一回で、輪っかを3つ、入れてくださったんです。
おかげで、ベル達が欲しがっていた大きなぬいぐるみを入手することが出来たんです。
他にも、屋台の食べ物券なんかもあったのですが、
「食べ物はさーちゃんが作ってくれたものが一番美味しいからいらないニャ」
そう言って見向きもしなかったんです。
……え、私の結果ですか? ……ぬいぐるみが1個しかないことでお察しください……
◇◇
その夜……
まだ、居酒屋さわこさんが営業している最中なのですが……
二階にある大きなベッドの上で寝ているベル・エンジェさん・ロッサさんの3人は、あの大きなぬいぐるみに抱きつくようにして眠っていました。
そのぬいぐるみの頭のところでは、みゅうが丸くなって寝ています。
いつもリンシンさんと一緒に寝ているシロだけは、ベッドの下に敷かれているリンシンさんのお布団の中で寝息を立てています。
「……なんでも、あのぬいぐるみがさわこに似てたから、抱き枕代わりに欲しかったんだって」
「そうだったんですねぇ」
バテアさんの言葉に、笑顔で頷く私。
その大きなぬいぐるみって、毛がモコモコな魔獣を可愛くしたものらしいのですが、言われてみればおかっぱなところとか、笑顔なところが似てなくもないといいますか……
そのぬいぐるみに抱きついて寝ているみんなを見ていると、なんだか元気が出てくるから不思議です。
「では、お祭りの最終日、頑張りましょう」
「そうね、頑張りますか」
私はバテアさんと顔を見合わせると、みんなを起こさないように気をつけながらお店に戻っていきました。
今夜も居酒屋さわこさんは、閉店まで多くのお客様で賑わっていきました。
ーつづく
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