異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、トツノコンベのある夏の日

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 先日のお休みの日、ベル達と一緒にティーケー海岸のお祭りへと行ってきた私達ですが、

「ニャア、お祭りとっても楽しかったニャ」
「そうね、私もそう思うわ!」
「……シロも、とっても楽しかった」
「そうじゃの、夏の祭りもなかなか楽しかったのぉ」
「みゅ! みゅう!」

 家に戻ってからのベル達も、お祭りがとっても楽しかったみたいでして、食事の度にみんなで楽しそうにそんな会話を交わしているんです。

 特に、お祭りで仲良くなったパラナミオちゃんという女の子に関しては、

「とっても仲良しになったニャ! また一緒に遊びたいニャ!」

 ベルが笑顔でそう言うと、他のみんなも揃って笑顔で頷くほどだったんです。

「なんか、辺境都市ガタコンベに住んでるって話だし、今度また転移魔法で連れてってあげるわ」
「ニャ! バーちゃん、ありがとニャ!」
「お礼を言うのなら、その「バーちゃん」はやめなさいっていつも言ってるでしょ!」

 笑顔で抱きついてきたベルを、苦笑しながら抱きしめているバテアさん。
 一応、訂正するように言っていらっしゃるのですが、内心ではすでにあきらめられている感じですね。
 ベルにしても、悪戯で言っているのではなく、その方が言いやすいからそう言っているだけみたいですし……ここは、しばらく様子見ってことでしょうか。

 とはいえ、しばらくの間、食事時の話題はティーケー海岸のお祭りのことになりそうです。

◇◇

 そんな中……ここ、辺境都市トツノコンベはとっても暑いです。

 ティーケー海岸や、私が元いた世界ほどではないのですが、

「今年の夏の暑さはちょっと異常ねぇ……ちかくに火鳥が住み着いたしてるのかしら」
「火鳥……ですか?」

 バテアさんの言葉に首をひねる私。

「そうなのよ、滅多にいないんだけどね、別の世界から全身から炎を発している魔鳥が迷い込んでくることがあるんだけど、こいつが住み着くと、その周囲の気温がグンってあがるのよ。去年は、スア師匠が住んでる都市の近くに住み着いてたって話だったんだけど……」

 そう言うと、バニラアイスを口にくわえながら目の前に魔法のウインドウを展開していくバテアさん。

「……ん~……それっぽい生命反応はない……ってことは、単に今年が猛暑ってことなのかしらねぇ……」

 一度ため息をつくと、バテアさんは部屋の端にセットしてある冷製魔石のところへ歩み寄っていかれました。

「そうねぇ……今の設定温度だと、室内が十分冷えなくなってるわけだし……もう少し設定温度を下げた方がよさそうね。魔法道具の店で販売している冷製魔石も、温度設定が低めのヤツを増産しとくかなぁ……」

 この世界には、私の世界のクーラーはありません。
 ですが、室温を調節出来る魔石が存在しています。
 冷製魔石を部屋の柱にセットして置けば、室内の温度が低くなるんです。
 クーラーと違って、室内空間の温度を魔石の力で下げているため、窓を開けていても問題ないんですよね。

 で、魔法使いのバテアさんは、この冷製魔石を精製して、ご自分が経営なさっている魔法道具のお店で販売なさっているんです。
 今の時期は冷製魔石が、冬の時期は暖製魔石がとってもたくさん売れていまして、バテアさんのお店の季節の主力商品なのだそうです。

 しかし……そうですね。
 これだけ暑いと、何か冷たい物でも作りたくなってしまいますね。

 ベル達は、トツノコンベの夏祭りや、ティーケー海岸の夏祭りで食べたかき氷がお気に入りでして、猫集会かた帰ってきたら、毎日のようにかき氷を食べています。

「そうですね……たまには変わった冷たい物でも……」

 そう思った私は、ある物のことを思い出しました。
 実は、バテアさんが管理なさっている小規模な異世界空間「さわこの森」の中で、私の世界のわらびによく似た植物「ワルラビ」を見つけていたんです。
 その根っこを採取してですね、水洗い・干し・砕きを繰り返して下ごしらえをしていたのですが……

「……そうですね、いい感じになっているみたいですし、今日はこれを使ってみましょうか」

 魔法袋の中からとりだしたワルラビの粉を確認した私は、居酒屋さわこさんの厨房へと移動していきました。

 準備したボールの中に本ワルラビ粉を入れ、そこに水を少しずつ入れながら粉を溶かしていきます。
 天然物ですので、なかなかすぐには溶けないのですが……それでも、根気よく混ぜていると、ゆっくり水と一体化していきます。

 ざるで、細かな塊を除去しながらお鍋にうつし、そこに水飴を加えて味を調えます。
 
 お鍋を魔石コンロにかけて、コトコト温めていきます。
 木べらでかき混ぜていると、結構な早さで固まっていきますので、ある程度の固さになったところで中身をトレーの上に移し、一口大の大きさにちぎっては、準備しておいた氷水の中につけていきます。

「へぇ……不思議ねぇ、真っ黒でぷよんぷよんなんだ……」

 大鍋の中で浮いている塊を見つめながら、不思議そうな表情をなさっているバテアさん。

「そうなんです。お店で売っている品物は白い物が多いのですが、本わらび粉を使用すると、こうして黒くなるんです……どうやら、ワルラビでも上手くいったみたいですね」

 大鍋の中に浮かんでいる塊を見つめながら、私も思わず笑顔になっていました。
 はい、わらび餅ならぬ、ワルラビ餅の出来上がりです。

 ワルラビ餅が冷えるまでの間に、きな粉と黒蜜を用意して……これで、準備万端ですね。

「バテアさん、まずは味見をしてみますか?」
「そうね、お願いしようかしら」

 バテアさんの言葉に笑顔で頷くと、私は大鍋の中に浮かんでいるワルラビ餅を3つ手にとり、小皿へと移していきました。
 その上に、きな粉と黒蜜をたっぷりとかけて……

「さ、どうぞお召し上がりくださいな」

 そう言いながら、カウンターに座っているバテアさんへ小皿を手渡しました。

 まだ私が小さかった頃、父がこうやってわらび餅を作ってくれたものでした。
 父は、こうして作成したわらび餅を屋台で売りにいったりもしていたんです。
 屋台の中央が水槽状になっていて、その中に氷水を入れておき、その中にわらび餅を浮かべておきます。
 買いに来たお客さんに、そのわらび餅を容器に入れ、きな粉と黒蜜をかけてお売りするわけです。

 夏の日差しの元で食べた、父のわらび餅……私にとって忘れることの出来ない夏の思い出の味なんです。

 そんなワルラビ餅を口に運んでいくバテアさん。
 きな粉と黒蜜がのっかっているワルラビ餅を口に中へ入れ……

「……うん、冷たくて美味しいわ。このキナコとクロミツが甘くていいわねぇ」

 満面の笑みを浮かべながらそう言うと、残りのワルラビ餅もあっという間に口に運んでいかれました。

「うんうん! これは美味しいわ! アイスもいいけど、たまにはこういうのも良いわね、さわこ、もう一皿もらえるかしら?」
「はい、喜んで」

 バテアさんが差し出してこられた小皿を、私は笑顔で受け取りました。

 ……すると

「さわこ、私も私も! 私にも、そのワルラビ餅をお願い! ちゃんとお金は払うからさ!」

 バテアさんの隣で、そう言って右手を挙げている女性……はい、毎度お馴染み、お隣のツカーサさんです。
 まだ開店前ですので、お店の周囲にはバテアさん製の結界魔法が張られているはずなのですが……

「……もう、ツカーサの神出鬼没には、負けたわよ」

 さすがのバテアさんも、苦笑するしかないようですね。
 そんなツカーサさんに、私も苦笑していたのですが、

「はい、喜んで準備させていただきますね」

 そう言葉を返すと、ワルラビ餅を2人分準備していきました。
 父の味にどこまで近づけたのかはわかりません。
 ですが、とりあえずバテアさんを笑顔にすることが出来ましたので、まずは大成功ってことで……

 あとは、これから食べてくださるツカーサさんと、戻ってきたベル達がどんな反応をしてくれるのか……今からとっても楽しみです。

ーつづく

 
 
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