異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、朝の光景

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「……ふぅ」

 朝、バテアさんの巨木の家の前を掃除していると、手が震えてしまいます。
 空気が日に日に冷たくなっているのを実感している今日この頃です。

 ブロロッサムの樹の精霊のロッサさんの髪の毛も真っ赤な紅葉色から、枯れ葉色に変色している最中なんですよね。

 家の前の掃除を終えた私は、片付けを終えると家の中へと移動しました。
 居住空間である2階にあがると、大きなベッドの上でバテアさんが気持ちよさそうに寝息をたてています。
 その周囲には古代怪獣族の女の子ベル、クリスマスツリーのオーナメントの付喪神のエンジェさん、ロッサさんの3人が眠っていて、みんなでバテアさんに抱きついて眠っています。

「もう……みんなでバテアさんのお布団に潜りこんで」

 まるで小山のように盛り上がっているベッドの上を見つめながら、思わず笑みがこぼれてしまいました。

 ちなみに、ベッドの下で眠っていたリンシンさんは、白銀狐の女の子シロと一緒に朝の狩りに出かけています。

 寒さに強い白銀狐のシロは、寒さが増していくに連れて元気になっているんです。
 夏の間はぐったりしていて、冷却魔法で快適な温度に保たれている家の中から出ようとしなかったんですよ。

「やっぱり、子供は元気に外で遊ぶのが一番です」

 リンシンと仲良く手をつないででかけていったシロの後ろ姿を思い出していると、思わず笑顔になってしまいます。

「……あ、いけない。みんなの朝ご飯の準備をしないと」

 私は、慌てて一階へと降りていきました。
 店舗スペースになっている一階ですが、そのうちの半分がバテアさんの魔法道具のお店、残りの半分が私の居酒屋さわこさんのスペースになっています。

 アミリアさんの農場で働いているみなさんに、開店前の居酒屋さわこさんの店内で朝ご飯を食べてもらいますので、その厨房で準備をするんです。
 もっとも、昨夜の閉店間際に下ごしらえは終わらせていますのでそんなに手間はかかりません。

 魔石コンロの火をつけ、お鍋をのせていきます。

「今日は、カゲタケとダルイコンのお味噌汁ですから、皆さん喜んでくれると思います」

 魔法袋に保存しておいたお味噌汁の鍋をかき混ぜながら、思わず笑顔になってしまいます。
 こうして、私の料理を食べて笑顔になってくださるみなさんの姿を想像している時間……とっても楽しいんですよ。


 出汁巻き卵

 きんぴらゴボウ

 ジャッケの切り身

 土鍋でご飯を炊きながら、おかずの仕上げもしていきます。
 昨夜のうちに調理して、魔法袋へ保存しておくという手もあるのですが……やっぱりみなさんには出来たてを食べていただきたいんです。
 ですので、下ごしらえは前日、そして仕上げは朝というのがいつものスタイルなんですよ。

 
 そんな中、居酒屋さわこさんの扉がノックされました。

『おう、さわこ! 起きとるか!』
「あ、ドルーさん、おはようございます。今ちょっと手が離せないので入ってきてくださいますか? 開いてますので」

 厨房から声をかけると、勢いよく居酒屋さわこさんの扉が開け放たれ、ドワーフのおじさまが入ってこられました。
 大工仕事を生業になさっているドルーさん。
 居酒屋さわこさんを気に入ってくださっていて、常連客になってくださっているお方の一人なんです。
 この居酒屋さわこさんの内装も、ドルーさんにあれこれ作成していただいているんですよ。

「いやぁ、朝早くからすまんが、ちと頼みたいことがあっての」
「はい、なんでしょう?」
「実はの、急に南の村へ仕事に行くことになっての。それで道中の弁当をお願い出来ないかと思ってな」

 南の村へ……と、いうことは、おそらく雪に備えて家々の補強工事に出向かれるんでしょう。
 腕のいい大工のドルーさんは、雪の足音が聞こえてくるこの時期になるとあちこちにひっぱりだこになるんです。

「わかりました。腕によりをかけて美味しいお弁当を準備させていただきますね」
「あぁ、よろしく頼むわい。弟子を6人連れていくでな、全部で10人分頼む」

 お弟子さん6人と、ドルーさんを合わせて7人のはずなのですが……ふふ、ドルーさんは1つでは足りないですものね。

 その意図を察した私は、

「はい、喜んで」

 笑顔で頷きました。

 土鍋をもう2つ準備して、ご飯を追加で炊いていきます。

 こんな感じで、今朝の居酒屋さわこさんは朝早くからちょっと忙しくなっていました。

ーつづく
 
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