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連載
さわこさんと、秋のドタバタ その1
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朝の騒動が一段落した昼下がり。
私は、いつものようにバテアさんの魔法道具のお店の店番をしていました。
バイトのショコラさんも一緒です。
ショコラさんは、いつもはお昼の時間にバテアさんの魔法道具のお店のバイトだけしているんですけど、居酒屋さわこさんが予約のお客様が多い時にはお手伝いしてもらったりしているんです。
「そういえばショコラさんって、絵を描かれるんですね」
「え!? そ、それどうしてご存じなんです!?
「あ、はい、辺境都市情報北部編の最新号に載っていたのを拝見したんですよ」
辺境都市情報北部編っていうのは、私の世界で言うところのタウン情報誌みたいなものでして、魔女魔法出版って雑誌社が定期的に刊行しているんです。
居酒屋さわこさんを紹介していただいたことがありまして、そのご縁で定期購読させていただいているんです。
「魔女魔法出版さんのコンテストに入賞出来まして、それで最近お仕事をもらえるようになったんです」
「わぁ、すごいですね!」
私の言葉に、嬉しそうに笑顔を浮かべているショコラさん。
そうですね……せっかくのお祝い事ですし、何か美味しい物でも……
「……あ、そうだ!」
しばらく考えを巡らせていた私は、ある物を思い出しました。
先日、私の世界へ仕入れに行った際に、ある物を多めに仕入れていたんです。
以前、ベル達を一緒に連れて行った際に、
『ニャ! これすっごく美味しいニャ!』
って、みんなお気に入りだったものですから、こちらの世界でもおやつに作ってあげようと思っていたんです。
ちょうどお客様も少なくなっていましたので、店番をショコラさんにお任せした私は居酒屋さわこさんの厨房へと移動しました。
魔法袋から取り出したのは、栗です。
包丁で皮を剥き、フードミキサーで攪拌。
合間にシロップとホイップクリームを加えながら更に攪拌していきます。
良い感じに艶が出て来たら、本来はラム酒などを加えるのですが、ここで私は純米料理酒を使用します。
福来純って言う白扇酒造さんが製造している料理酒なんですけど、ほんのり甘くて甘味の隠し味にもとてもいい感じだって、個人的に思っているんです。
ベル達にも食べさせてあげるつもりなので、加える量は少なめにして……
出来上がったクリームを絞り袋に入れて、ベル達のおやつ用にあらかじめ準備しておいたプリンの上にデコレーション。
仕上げに、栗の渋皮煮をのせて……
「はい、モンブランプリンです」
出来上がったモンブランプリンの容器をショコラさんの前に差し出す私。
「え? こ、これバックリンですか?」
ちょこんと乗っている栗を見つめながら目を丸くしています。
それもそのはず、バックリンというのは私の世界の栗によく似ているのですが……とにかく皮が渋いというか苦いというか……相当なアク抜きをしないと食べられないんですよね。
そんなバックリンそっくりな物が、皮付きでのっているわけですし、皮ごと攪拌していたのをショコラさんも見ていましたから。
「大丈夫ですよ、これは私の世界の食べ物ですから」
「そ、そうですか……じ、じゃあ……」
おずおずとした様子でスプーンを手にとり、クリームと栗をすくうショコラさん。
おっかなびっくりな様子で、それを口に運んでいったのですが、
「ん!? こ、これ美味しい!」
目を見開き、すごい勢いでモンブランプリンをかきこみはじめました。
「美味しい! すごく美味しい!」
「気にいってもらえてよかったです」
嬉しそうにモンブランプリンを食べているショコラさんを見ていると、私まで笑顔になってしまいます。
どうやら、お祝いになったみたいですね。
笑顔でショコラさんの横顔を見ていた私なのですが、
「あのさぁ、さわこ……私にも……」
不意に、ショコラさんの反対方向から声が聞こえて来ました。
そちらへ視線を向けると、そこにはお隣のツカーサさんの姿が……
「あれ、ツカーサさんってば、いつの間に……」
「えへへ……なんだか美味しそうな匂いがしてたからさ……」
照れくさそうに笑うツカーサさん。
でも、延ばしている右手は引っ込みそうにありません。
まぁ、でも、いつものことですものね。
「ひょっとしたらおいでになるんじゃないかと思って、準備しておきましたよ」
「わ! さっすがさわこ! 愛してる」
笑顔で飛び跳ねているツカーサさんに苦笑を返しながら、私は準備していたモンブランプリンをツカーサさんに差し出しました。
……すると
「ニャ! さーちゃん、美味しそうな匂いニャ!」
「さわこ、何なのかしら?」
「うむ、妾も所望するのじゃ!」
ベル・エンジェさん・ロッサさんの3人が我先にと階段を降りてくるではありませんか。
みんなお昼前に起きてきて、昼食券用の朝ご飯をたくさん食べたはずなんですけど……甘い物はやっぱり別腹なんですかね。
「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ、みんなの分もちゃんと準備していますから」
私の声に歓声を上げながら駆け寄ってくるベル達。
その笑顔を見ていると、なんだかとっても幸せな気持ちになってしまいます。
やっぱり、美味しい笑顔はいいですね。
◇◇
結局、多めに準備しておいたモンブランプリンは、ショコラさんとツカーサさん、それにベル達によってあっという間に食べ尽くされてしまいました。
とはいえ、夜、お店で出すために準備している栗の渋皮煮はまだまだたくさんありますので、また作ろうかなと思っています。
夕方になり、お店の仕込みを進めている私。
「……さわこ、そろそろ暖簾と提灯を出す?」
「あ、はい、よろしくお願いいたします」
着物姿に着替えたリンシンさんが、私の言葉を受けてお店の軒先に暖簾と提灯を出してくださいました。
あれを見ると、私も気合いが入ります。
さぁ、今夜もたすき掛けして頑張らないと。
「さわこ、おでんはここでオーケー?」
「あ、はい、エミリア、そこで大丈夫です」
「さわこ、今日のお勧めのお酒は、これでいいのよね?」
「あ、はい、赤磐雄町で大丈夫です」
アミリアとバテアさんも、準備万端です。
すると、お店の扉が開きました。
「ジュ、もうやってるジュ?」
「いらっしゃいませ、ジューイさん。大丈夫ですよ」
今夜の一番目のお客様は冒険者のジューイさんでした。
その後方には、スーガさんとネコクマさんといったお馴染みの皆様のお姿も……
さぁ、今夜も忙しくなりそうです。
ーつづく
私は、いつものようにバテアさんの魔法道具のお店の店番をしていました。
バイトのショコラさんも一緒です。
ショコラさんは、いつもはお昼の時間にバテアさんの魔法道具のお店のバイトだけしているんですけど、居酒屋さわこさんが予約のお客様が多い時にはお手伝いしてもらったりしているんです。
「そういえばショコラさんって、絵を描かれるんですね」
「え!? そ、それどうしてご存じなんです!?
「あ、はい、辺境都市情報北部編の最新号に載っていたのを拝見したんですよ」
辺境都市情報北部編っていうのは、私の世界で言うところのタウン情報誌みたいなものでして、魔女魔法出版って雑誌社が定期的に刊行しているんです。
居酒屋さわこさんを紹介していただいたことがありまして、そのご縁で定期購読させていただいているんです。
「魔女魔法出版さんのコンテストに入賞出来まして、それで最近お仕事をもらえるようになったんです」
「わぁ、すごいですね!」
私の言葉に、嬉しそうに笑顔を浮かべているショコラさん。
そうですね……せっかくのお祝い事ですし、何か美味しい物でも……
「……あ、そうだ!」
しばらく考えを巡らせていた私は、ある物を思い出しました。
先日、私の世界へ仕入れに行った際に、ある物を多めに仕入れていたんです。
以前、ベル達を一緒に連れて行った際に、
『ニャ! これすっごく美味しいニャ!』
って、みんなお気に入りだったものですから、こちらの世界でもおやつに作ってあげようと思っていたんです。
ちょうどお客様も少なくなっていましたので、店番をショコラさんにお任せした私は居酒屋さわこさんの厨房へと移動しました。
魔法袋から取り出したのは、栗です。
包丁で皮を剥き、フードミキサーで攪拌。
合間にシロップとホイップクリームを加えながら更に攪拌していきます。
良い感じに艶が出て来たら、本来はラム酒などを加えるのですが、ここで私は純米料理酒を使用します。
福来純って言う白扇酒造さんが製造している料理酒なんですけど、ほんのり甘くて甘味の隠し味にもとてもいい感じだって、個人的に思っているんです。
ベル達にも食べさせてあげるつもりなので、加える量は少なめにして……
出来上がったクリームを絞り袋に入れて、ベル達のおやつ用にあらかじめ準備しておいたプリンの上にデコレーション。
仕上げに、栗の渋皮煮をのせて……
「はい、モンブランプリンです」
出来上がったモンブランプリンの容器をショコラさんの前に差し出す私。
「え? こ、これバックリンですか?」
ちょこんと乗っている栗を見つめながら目を丸くしています。
それもそのはず、バックリンというのは私の世界の栗によく似ているのですが……とにかく皮が渋いというか苦いというか……相当なアク抜きをしないと食べられないんですよね。
そんなバックリンそっくりな物が、皮付きでのっているわけですし、皮ごと攪拌していたのをショコラさんも見ていましたから。
「大丈夫ですよ、これは私の世界の食べ物ですから」
「そ、そうですか……じ、じゃあ……」
おずおずとした様子でスプーンを手にとり、クリームと栗をすくうショコラさん。
おっかなびっくりな様子で、それを口に運んでいったのですが、
「ん!? こ、これ美味しい!」
目を見開き、すごい勢いでモンブランプリンをかきこみはじめました。
「美味しい! すごく美味しい!」
「気にいってもらえてよかったです」
嬉しそうにモンブランプリンを食べているショコラさんを見ていると、私まで笑顔になってしまいます。
どうやら、お祝いになったみたいですね。
笑顔でショコラさんの横顔を見ていた私なのですが、
「あのさぁ、さわこ……私にも……」
不意に、ショコラさんの反対方向から声が聞こえて来ました。
そちらへ視線を向けると、そこにはお隣のツカーサさんの姿が……
「あれ、ツカーサさんってば、いつの間に……」
「えへへ……なんだか美味しそうな匂いがしてたからさ……」
照れくさそうに笑うツカーサさん。
でも、延ばしている右手は引っ込みそうにありません。
まぁ、でも、いつものことですものね。
「ひょっとしたらおいでになるんじゃないかと思って、準備しておきましたよ」
「わ! さっすがさわこ! 愛してる」
笑顔で飛び跳ねているツカーサさんに苦笑を返しながら、私は準備していたモンブランプリンをツカーサさんに差し出しました。
……すると
「ニャ! さーちゃん、美味しそうな匂いニャ!」
「さわこ、何なのかしら?」
「うむ、妾も所望するのじゃ!」
ベル・エンジェさん・ロッサさんの3人が我先にと階段を降りてくるではありませんか。
みんなお昼前に起きてきて、昼食券用の朝ご飯をたくさん食べたはずなんですけど……甘い物はやっぱり別腹なんですかね。
「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ、みんなの分もちゃんと準備していますから」
私の声に歓声を上げながら駆け寄ってくるベル達。
その笑顔を見ていると、なんだかとっても幸せな気持ちになってしまいます。
やっぱり、美味しい笑顔はいいですね。
◇◇
結局、多めに準備しておいたモンブランプリンは、ショコラさんとツカーサさん、それにベル達によってあっという間に食べ尽くされてしまいました。
とはいえ、夜、お店で出すために準備している栗の渋皮煮はまだまだたくさんありますので、また作ろうかなと思っています。
夕方になり、お店の仕込みを進めている私。
「……さわこ、そろそろ暖簾と提灯を出す?」
「あ、はい、よろしくお願いいたします」
着物姿に着替えたリンシンさんが、私の言葉を受けてお店の軒先に暖簾と提灯を出してくださいました。
あれを見ると、私も気合いが入ります。
さぁ、今夜もたすき掛けして頑張らないと。
「さわこ、おでんはここでオーケー?」
「あ、はい、エミリア、そこで大丈夫です」
「さわこ、今日のお勧めのお酒は、これでいいのよね?」
「あ、はい、赤磐雄町で大丈夫です」
アミリアとバテアさんも、準備万端です。
すると、お店の扉が開きました。
「ジュ、もうやってるジュ?」
「いらっしゃいませ、ジューイさん。大丈夫ですよ」
今夜の一番目のお客様は冒険者のジューイさんでした。
その後方には、スーガさんとネコクマさんといったお馴染みの皆様のお姿も……
さぁ、今夜も忙しくなりそうです。
ーつづく
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