異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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連載

さわこさんと、夏祭りパルマ紀行 その2

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イラスト:NOGI先生

 このティーケー海岸のお祭は夜通し行われるそうです。
 なんでも、5週間ぶっつづけで行われるそうでして、今週がその最終週なのだそうです。
「しっかし、もう夜中だってのに全然人の波が途切れないわね」
 屋台の前の椅子に座っておられるバテアさんが苦笑しながら道を見つめておられます。

 居酒屋さわこさんの屋台は、いつもの閉店時間を目処に一度閉めさせて頂いております。
 さわこの森で働かれている皆様の夕食は、せっかくですのでこちらのお祭で食べて頂きました。
「たまにはこういうのも楽しくていいわね」
 ワー子こと和音も、ワノンさんと一緒に楽しそうに屋台を回っていました。
 
 夜半を少し回った時間になっております屋台の周囲には、今は私とバテアさんしかおりません。
 こちらへいらしていた皆さんは一足先にバテアさんが出してくださった転移ドアを使ってお戻りになられました。
「こうして夜通しお祭が行われている中で、のんびりお酒を飲むというのもなんだかいいものですね」
 私は、そう言いながらグラスを口へ運んでいきました。

 本日は山田錦の特別純米酒を飲んでおります。
 おつまみといたしまして、自家製のお漬物の皿を置いております。

「まぁね、日中から夜中まで目一杯働いたわけだしさ、これもご褒美ってことでいいんじゃないかしら」
 バテアさんもそう言いながらグラスのお酒を飲み干していかれました。
 私とバテアさんは、閉店している屋台の前に置いているテーブルに、向かい合って座りながらお酒を飲み続けています。
「そういえばさ……さわこの世界のお祭ってどんなの?」
「どう……と、申しますと……そうですね、先日トツノコンベで準備させていただいたような屋台がいっぱい出ていましてですね、みんなで盆踊りを踊ったり、花火が打ち上がったり……」
「花火?」
「はい。火薬の詰まった玉を夜空に打ち上げるんです。それがたかーく上がって、そこでドーン!と爆発するのですが、その際に綺麗な火花が周囲に舞っていくんですよ」
「へぇ……なんか魔法みたいね」
「そうですね。あんな大きな火の花を夜空に満開にさせるのは、ある意味魔法なのかもしれませんね」
 私とバテアさんは、そんな会話を交わしながら、お酒を飲み続け……いけないけない、そろそろ自重しておかないと、とんでもないことになりかねません。
 私、酩酊すると服を脱ぎ去ってしまう癖を持っているようですからね……

「バテアさん、そろそろ家に戻りますか?」
「ん~……そうね」
 私の言葉をお聞きになったバテアさんは少し周囲を見回すと、ポケットから何やら種のような物を取り出されました。
「なんですか、それは?」
「まぁ、みてなさいな」
 バテアさんはそう言うと、それを屋台の前の空き地の中に埋められまして、そこに右手を向けられました。
 そのまま、呪文のようなものを
「詠唱よ」
 あ、はい、詠唱をはじめられました。
 すると、その右手の先に魔法陣が出現いたしました。
 ほどなくして、私の目の前……バテアさんの右手の先の地面の中から、先ほど植えたばかりの種が発芽いたしました。
 その芽はですね、ぐんぐん伸びていきまして……
「え、えぇ!?」
 あっという間に、見上げんばかりの大きな木がそこに出来上がったのです。
 幹はそれほど太くないのですが、それがまっすぐ伸びていまして……そうですね、3階建てのマンションくらいの高さにまで伸びています。
 その途中に大きな実がなっています。
 突如出現した木を、私が唖然としながら見上げておりますと、
「さ、入るわよ」
 バテアさんはそう言われると、木の幹に出来ていた扉を開き、その中へ入っていってしまいました。
 私も慌ててその後を追いかけた次第でございます。

◇◇

 バテアさんの説明によりますと、これは「簡易木の家」という魔法道具なのだそうです。
 この種があれば、どこにでもこの木の家を作ることが出来るのだとか。
 ちなみに、簡易式なので部屋は1つしかありません。
 はい、木の上部に出来ていたあの実の中が部屋になっております。

「うわぁ……」
 実の部屋の窓から外へ視線を向けた私は思わず笑顔になってしまいました。
 屋台の向こうには海が広がっています。
 漁船でしょうか……海岸線にはいくつもの灯りが灯っています。
 実の部屋の下には、今も営業なさっている屋台の灯りが煌々と灯っておりまして、行き交う方々の話し声が海風で運ばれてまいります。
 なんといいますか……すごく贅沢な時間を過ごしている、そんな感じでございます。

 部屋の中にはベッドと簡単なキッチンが備え付けられています。

「さわこどうする? すぐ寝る?」
「あ、はい……せっかくなので、もう少しこの景色を楽しみたいな、と……」
「そう。じゃ、アタシもご一緒しましょうか」
 バテアさんはそうおっしゃると、椅子を2つ、窓際に持ってきてくださいました。
 私とバテアさんは、その椅子に腰掛けまして、窓の外の光景を見つめておりました。
 
 いつまでもこうしていたい
 この景色をずっと眺めていたい

 そんな気持ちが胸の中にいっぱいになっていた私です。

◇◇

 翌朝になりました。

 ベッドの上で目を覚ました私は両手で頭を抱えておりました。

 ……な、なんで私は……素っ裸でベッドの中に……い、いるのでしょうか……

 私は、必死に昨夜の記憶をたどっていきました。
 窓の外の光景に見惚れていたところまでははっきり覚えております。
 ですが……そこから後の記憶が曖昧です。
 ふと、窓辺に視線を向けると、そこには空になっている一升瓶が5本転がっています。

 ……ま、まさか私は……あれをバテアさんと一緒に飲んで、酩酊してしまって……

 私はベッドから起き上がると、その周囲に散乱している衣服を身につけていきました。
 ……って、このブラジャーはバテアさんのじゃないですか!? 
 悲しいくらいにブカブカのブラジャーを手にしてしまった私は、それをいまだに眠っておられるバテアさんの枕元へ置いていきまして……

 ……って、あれ?……私の下の下着は……

 私は周囲を見回しました。
 おかしいですね……室内には見当たりません。
 バテアさんの枕元に置いた衣服を確認いたしましたけど、混じってはいないようです。
 私は、困惑しながら室内を見回し続けていたのですが……その視線がある一点で停止いたしました。

 窓の外

 木の枝の先

「……な、なんであんなところに……」
 海風に揺らめいている私の下着……よりによって、こんな日に限ってクマさんのプリント入りの……
 それを見つめながら、私は真っ赤になっておりました。

◇◇  

 その後、どうにかそれの回収に成功した私は、一度トツノコンベへ戻りまして、さわこの森の皆さんの朝食を作って参りました。
 リンシンさんや専属契約を結ばせて頂いております冒険者の皆様ももちろん一緒です。
 なぜか今朝もツカーサさんまでいらしておられた次第です。
 その後、狩りに出かけられるリンシンさんをお見送りした後、私は木の実の部屋へと戻りました。
 
 寝ぼけながらもトツノコンベへ戻るための転移ドアを作成してくださったバテアさんは、今もベッドで眠っておられました。
 この様子では、もうしばらく目を覚まされそうにはありませんね。

 バテアさんが目を覚ましてくださって、この木の家を回収してくださいませんとお店を開くことが出来ませんので、私は、窓の側におかれている椅子に腰掛けて再び海を眺めていきました。
 本当に、とても綺麗です。

 昨夜は暗かったこともありまして気が付かなかったのですが、この木の家と同じような木の家が少し離れた場所に建っていました。
 その窓からは、子供達が元気にはしゃいでいる姿が見られます。

 私は再び海に視線を戻すと、しばらくその景色を眺めていきました。

ーつづく
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