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連載
さわこさんと、お使いの方 その1
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
日中はまだまだ暑いのですが、朝夕は少し過ごしやすくなってきております。
朝食を終えた皆さんを送り出した私は、居酒屋さわこさんの仕込みをはじめようと厨房へ向かっていきました。
「もし……」
そんな私を呼び止める声が聞こえました。
「はい?」
振り返った私は、思わず目を見開いてしまいました。
そこには女性……の方がおられます。
いえ……正確には、女性とは少々違いますね。
体の半分が女性といいますか、女の子のような姿をなさっておられまして、残りの半分は……骸骨とでもいいましょうか……
頭からボロボロの外套を被っておられるのですが、着衣は身につけておられません。
そして、その手には大きな鎌を持っておられます。
例えるなら、死に神の鎌という物がありましたら、このような形状をしているかもしれませんね。
そんな女性が、宙に浮かんだ状態で私を見下ろしておられたのです。
そうですね……そのような女性と出くわしましたら、出来ることは一つしまありません。
「きゃあああああああああああああああああああああ、おばけえええええええええええええええええ」
◇◇
「まったくさわこってば、何事かと思ったわよ」
私の悲鳴を聞きつけて、飛び起きて飛んで来てくださったバテアさんが大笑いしながら私の肩を叩いておられます。
私は、その横で顔を真っ赤にしてうつむいています。
居酒屋さわこさんのお客様用のテーブルに座っている私とバテアさん。
その向かい側に、先ほどの女性が座っておられます。
手に持っておられた大きな鎌は魔法で消しておられます。
「人種族よ、あそこまでびっくりすることもあるまい」
「そ、そんなことを言われましても……」
私は、その女性の言葉をお聞きしながらも、極力視線を合わせないようにしております。
「ゾフィナ、しょうが無いのよ。さわこはこの世界の住人じゃないからね。神界の使いを始めて見ればみんなあんな反応をするわよ……まぁ、さわこの悲鳴はちょっと規格外だったかな」
「も、もう、バテアさんってば……」
楽しそうに私の肩を叩いてこられるバテアさんに、私は少し頬を膨らませながら肘でバテアさんの脇をつつき返していきました。
ゾフィナさんはそんな私達の様子をジッと見つめておられます。
このゾフィナさんと言われる女性なのですが……神界という世界にお住まいの方だそうでして、神界の女神様のお使いをなさっているのだそうです。
神界というのは、なんでも私の世界で言うところのあの世といいますか、天国のようなところだそうでして、ゾフィナさんは、その世界の女神様から使わされた天使というところなのでしょう。
とはいいましても、体の半分が骸骨の天使なんて聞いた事がございません。
こういう姿の方は、だいたい悪魔か死に神と相場が決まっているではありませんか、ねぇ?
このゾフィナさんとバテアさんは顔なじみなのだそうです。
「その表現には語弊があるな。私がバテアと顔なじみになってしまうほどで出会ったことがあるということは、バテアが神界が捨て置けない程の問題行動を、それだけの回数しでかしたということだからな」
「え?」
「そういうことなのよ、さわこ。このゾフィナはね、神界が管理している下部世界……ここパルマ世界のことね、そこで問題行動を起こした者に警告を与えに来るのが仕事なのよ」
「それだけが仕事ではないのだが、バテアの元へは警告絡みでしか訪れたことがないだけのことだ」
そう言うと、ゾフィナさんは右手を前にだされました。
その手に、消えていた鎌が出現し、バテアさんの首の裏側へとあてがわれたのです。
ゾフィナさんが、このまま鎌を引けばバテアさんの首がちょんぎれ……えぇ!?
困惑している私の前で、ゾフィナさんはおもむろに口を開かれました。
「汝バテアよ、汝は先日、禁じられている異世界への人種族生物の大量移動を行ったな? 身に覚えあるや? なしや?」
「あぁ、はいはい、ありますよぉ、やりましたよぉ、どうもごめんなさいねぇ」
「ふむ……今回はやけに素直に認めるのだな。いつもであれば詭弁を弄して煙に巻こうとするであろうに」
「まぁいいじゃないの、そんなことはさ」
その時、バテアさんがちらっと横目で私を見た気がいたしました。
その視線に気がついた私は、ハッとなりました。
ゾフィナさんは先ほどこう言われました。
『異世界への人種族生物の大量移動を行った』と……
「バテアさん、ひょっとして善治郎さんの夏祭りを助けて頂くために、中級酒場組合の皆さんを私の世界に連れて行ってくださったあのことが問題になっているのですか!?」
私の言葉を聞いたバテアさんは、
「さわこは気にしなくていいのよぉ」
そう言っておられますが、ゾフィナさんは私の顔を見つめながら厳しい表情崩しておられません。
その様子から考えますに、私の推測はあたっているように思えます。
そこで、私は
「ゾフィナさん、それは違います。あれは私がバテアさんにお願いしたことなのです。バテアさんは悪くありません。罰するのであればこの私を罰してくださいませ」
少し声をうわずらせながらそう言うと、バテアさんの首にあてがわれている鎌をひっぱりまして、私自身の首にそれをあてがおうといたしました。
そんな私の様子に、ゾフィナさんは本日始めて感情をその顔に、びっくりなさった表情をその顔に浮かべられたのでした。
「さわことかいう女よ……お前、バテアの身代わりになるというのか?」
「身代わりも何も、私が犯人ですもの」
私が鎌を引っ張っていますと、その手をバテアさんが掴んでこられました。
「こら、さわこ! 大丈夫だからあなたは引っ込んでなさいって」
「いいえ引っ込みません、この件は私が悪いのですもの」
「あ~もう! やったのはアタシなんだから!」
「お願いしたのは私です!」
私とバテアさんは、いつのまにか怒鳴りあい一歩手前の状態になっていました。
お互いに、本気で声をあげています。
それだけ、私はバテアさんが罰せられることが許せませんでした。
だからこそ、ここを引く気はありませんでした。
おそらくバテアさんは、私がそうするだろうとわかっていたからこそ、早く罪を認めてご自分でその罰を受けてお終いにしようとなさったのでしょう。
そんな私達を見つめていたゾフィナさんは、改めて私に向き直られました。
「さわこよ、汝に問う。汝、この罪の罰として死を言い渡されたなら、それを受け入れるや? 受け入れざるや?」
「受け入れるにきまっているではありませんか!」
私は即座に言い切りました。
バテアさんと言い合いになっていた流れのために、やや怒鳴り気味になった私の言葉をゾフィナさんは何度も頷きながら聞いておられます。
すると、バテアさんが大慌てで私の口を塞いでこられました。
「ち、違うのよゾフィナ、今のはなし! ノーカウント! さわこはちょっと気が動転しててさ……」
ここで私はバテアさんの手を振りほどきました。
「動転なんてしてません! とにかくこの罪の罰として死ねと言われるのでしたらもがががが」
私の口を再びバテアさんが押さえられました。
私は、その手を必死に振りほどこうとしております。
そんな私達を見つめていられたゾフィナさんは、
「……もういい。このさわこの心の底からの自己犠牲の精神に免じて今回は厳重注意にとどめることにしよう」
そう言いながら、鎌を魔法で消してしまわれました。
「ほ、本当ですか?」
その言葉に、私は目を丸くしながらそう言いました。
その言葉に、ゾフィナさんは
「あぁ、二言はない」
力強く頷かれました。
その時です。
私は、椅子をなぎ倒すようにしながら、へなへなと床の上へとへたり込んでしまいました。
なんでしょう……緊張が一気に解けてしまったといいますか……腰が抜けてしまったといいますか……
そんな私を、バテアさんが慌てて助け起こしてくださいました。
何か言葉を口になさっておられるのですが……なんでしょう、意識が遠くなってしまって、よく聞こえな……
ーつづく
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