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連載
さわこさんと、お使いの方 その3
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
ゾフィナさんはぜんざいを大変気に入ってくださったようでして、結局お鍋に作成した分をすべてお食べになられた次第です。
「……お礼はいずれ」
ゾフィナさんはそう言うと、魔法陣を展開なさいましてその中に出現いたしました転移ドアをくぐってお帰りになられた次第です。
ゾフィナさんを見送った私は、改めましてバテアさんへ向き直りました。
「バテアさん、くれぐれも今回のようなことにならないようお願いいたしますね……危ないことはなさらないでくださいね」
私は真顔で、念を押しながらそう言いました。
いつも笑みを浮かべながら楽しげにお話なさるバテアさんも、真面目な顔で私を見つめてくださっています。
「うん、わかった」
そう言うと、バテアさんは私をそっと抱き寄せられました。
「さわこがこんなに心配してくれるなんてね……」
「当たり前じゃないですか、バテアさんは大事なお友達ですもの」
私がそう言うと、バテアさんはギュッと私を抱きしめられました。
「……ありがと」
「……はい」
私とバテアさんは、お互いに目を閉じて抱き合っていたのですが……
私はこの時、あることをすっかり失念しておりました。
「ちょっとバテア! あ、アタシのさわこに何してんのよ!」
いきなりジュチさんの声が響いてきました。
……そうでした。
ここは居酒屋さわこさんの店内なのです……が、バテアさんの魔法道具のお店から丸見えなのです。
そして魔法道具のお店は営業中でございます。
そんな魔法道具のお店にお客としてこられていたらしいジュチさんは、私とバテアさんが抱き合っているのをみるやいなや、すごい剣幕で駆け寄ってこられました。
魔法道具のお店にいらっしゃっておられました他のお客様も
「いやぁ、2人はそんな仲だったのか」
「お熱いことで、ごちそう様」
口々にそんなことを言われておられます。
「あ、あの!? そ、そんなんじゃないんです。わ、私とバテアさんは親友としてですね……」
私は、顔を真っ赤にしながらそう言ったのですが。
すぐ隣でバテアさんとジュチさんが
「いつさわこがあんたの物になったってのさ? さわこはアタシの大事な友達なんだからね!」
「うっさい! さっきのハグは完全に恋人同士のハグじゃんか! キーうらやましい!」
そんな感じで言い合いを始めてしまったものですから、私の声は周囲の皆様の元へはまったく届いていませんでした。
◇◇
昼間にそんなトラブルがありましたけど、夜の営業はいつもどおり行うことが出来ました。
メニューにタテガミライオンのお肉が加わったものですから、来店なさるお客様はほぼ例外なく、まず最初にタテガミライオンの串焼きをご注文なさいます。
お一人様2皿までの制限がございますので、2皿食べ終えられたお客様は、続いてクッカドウゥドルの焼き鳥や大皿料理の肉じゃがをご注文くださいます。
他の大皿料理も準備しているのですが、肉じゃががやはり一番人気料でございます。
これは、私の世界のジャガイモによく似た野菜、ジャルガイモがこの世界でよく食べられていることが深く影響しているように思います。
この3品が、今の居酒屋さわこさんの定番人気メニューとして定着しつつある感じです。
いつものように、炭火コンロでお肉を焼いていると、
「ウェルカム! さぁ、こちらへ」
エミリアに案内されて一人のお客様がカウンター席へとお座りになられました。
フードを目深に被っておられる女性のお客様ですね。
「いらっしゃいませ。お客様この店を始めてですか?」
「……ん、あ、あぁ」
本日のお通し、里芋の煮物をお出しした私の言葉に、その女性のお客様は小さく頷かれました。
フードを目深に被っておられますので、お顔はあまり見えません。
「ご注文はいかがいたしましょう? お勧めはタテガミライオンの串焼きですよ」
私がそう言うと、その女性のお客様は小さな声で、
「……ぜ、ぜんざいをもらえないか?」
そう言われました。
へ? ぜんざい?
私は、きょとんとしながらその女性のお客様を見つめていました。
そして、ようやく気が付きました。
カウンターに座っている女性のお客様……フードを目深に被っておられますけど、ゾフィナさんです。
ゾフィナさんは、店内をお酒を注ぎながら歩いておられるバテアさんに見つからないようにフードの箸を押さえておられます。
そこまでして、また私のぜんざいを食べに来てくださった、と、いうことなのでしょう。
私は、にっこり微笑むと、
「はい、よろこんで!」
そうお返事いたしました。
ぜんざいですが、実はすでに作り置きしてあるんです。
昼間のゾフィナさんの様子から、多分近いうちにまた起こしになれる、そんな予感がした私は、すぐに多めにぜんざいを調理していた次第です。
切り餅を炭火コンロで焼きまして、ほどよく膨らんだところでそれをお椀に入れていきます。
そして、そこに温め直したお汁をそそぎ、それをカウンター超しにお渡ししていきます。
そのお椀を手になさったゾフィナさんは
「これだ……うん……」
嬉しそうに頷きながら、お椀の中身を見つめておられます。
そんなゾフィナさんの様子を笑顔で見つめながら、私はお代わりに備えまして次の切り餅を炭火コンロの上に置いていきました。
◇◇
ゾフィナさんは7杯ぜんざいをお召し上がりになられました。
甘酒も5杯飲み干されておられます。
「うん……甘いお酒もいいな。すごく優しい甘さだ」
ゾフィナさんは、甘酒も気に入ってくださったようですね。
甘酒とぜんざいを交互に口に運ばれては、嬉しそうな笑顔をその顔に浮かべておられました。
食べるのと飲むのに夢中になられていたせいでしょう。
ゾフィナさんの頭部を覆っていたフードが途中でとれてしまい、その素顔がはっきり見えてしまっていたのです……
バテアさんもその様子にお気づきのご様子だったのですが、あえてゾフィナさんに声を掛けには行かれませんでした。
料理とお酒を満喫なさっておられる、その邪魔をすることを自重くださったのでしょうね。
「ごちそうさま。本当に美味しかった」
「はい、ありがとうございます」
ゾフィナさんの言葉に、私は笑顔で頭を下げました。
すると、ゾフィナさんは、
「これを……」
そう言いながら、カウンターの上に何かおかれました。
「あ、お勘定でしたら、あちらの……」
そう言いながら、私が魔法レジを手で刺し締めすと……すでにゾフィナさんの姿は消えてなくなっていたのです。
カウンターの上を見ますと、そこにはお代とは別に何かが置かれていました。
「……あらあら、これはこれは」
ゾフィナさんがお帰りになったので、こちらへ歩み寄ってこられたバテアさんがその何かを見つめながら少し驚いたような声をあげておられます。
「バテアさん、これは何なのですか?」
私は、その何か……綺麗な石のような物質を手に取りました。
「それは神界でしか採取出来ない宝珠よ。お昼のお礼ってことなんでしょうね」
バテアさんさんはそう言われました。
あれ?
よく見ると、石の下に何やら紙が置かれていました。
その紙を手に取った私は、思わず笑顔を浮かべてしまいました。
その紙には
『さわことバテアの友情に敬意を表して』
そう書かれていたのです。
私は、その紙をそっと着物の袖の中にしまいながら、宝珠を手に取ってご覧になられているバテアさんを笑顔で見つめていました。
ーつづく
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