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連載
さわこさんと、3人でおでかけ その1
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
昨夜、お店にいらした役場のヒーロさんから教えて頂いたのですが……
以前私を拉致した犯人の調査は一向に進展していないのだそうです。
相変わらず、
上級酒場組合の皆様は
「犯人は卸売り市場に違いない」
その主張を崩されておられず、
一方の卸売り市場の皆様は
「犯人は上級酒場組合に決まっている」
そう主張し続けておられているそうです。
すでに取り調べが始まってからそれなりに時間が経っているのですが、物的証拠も少なくまた容疑者の方々がどちらも主張を変えられないため、一向に進展しないのだそうです。
私は街道でさらわれました。
人の少ない場所で襲われたものの、少ないながらも目撃者がおられたのですが、皆さんはっきりと覚えていらっしゃらないのだそうです。
なんでも、
「気分が悪くなった女性に肩を貸しているのかと思った」
皆様そう思われていたそうで、そんなに注目なさらなかったのだとか……
「とにかく、役場と衛兵局が責任をもって犯人を見つけ出すから」
ヒーロさんはそうおっしゃってくださっていたのですが、その横におられたヒーロさんの部下のシウアさんがかなり渋い顔をなさっていたことから判断いたしましても、なかなか難しそうですね。
そのため、私が外出する際には必ずバテアさんが同伴してくださっています。
拉致事件が起きるまでは、近くなら一人で外出することも少なくなかったのですが、
「ダメよさわこ、一緒にいくから待ちなさい」
バテアさんは、例え近所にお住まいのツカーサさんのお宅にお裾分けを持って行く際でも、私に同伴なさる次第です。
少々大げさでは、と、思わなくもないのですが……実際に拉致されているのも事実なわけですし、これをお断りするわけにもいきません。
それに、事件後すぐの頃は、トイレの前で待たれたり、お風呂もつねに一緒という徹底警護をされていた時期もございましたので、それに比べれば、室内での警護が無くなった分少し楽になっている次第です。
◇◇
今日は、居酒屋さわこさんの定休日です。
バテアさんの魔法道具のお店も一緒にお休みしています。
お店がお休みといいましても、農作業と酒造りがメインの仕事のさわこの森の皆さんのご飯をつくらないといけません。
今日の献立は
土鍋炊きご飯
焼き魚
大根おろし
海苔
卵焼き
自家製の浅漬け
豚汁
以上となっております。
いつものように、カウンターの厨房側に、私・ラニィさん・エミリア・リンシンさんの順に並びまして、
私が焼き魚と卵焼きんのお皿を、
ラニィさんが大根おろし・海苔・浅漬けの小鉢を
エミリアが豚汁をよそったお椀を
リンシンさんがご飯をよそった器を
カウンターを、トレーを持って移動していかれる皆様へ順に手渡していきます。
全てが揃った皆様から、思い思いの席に座られて食事を始められます。
最近では恒例になっているこの光景ですが、朝から皆さん元気な笑顔で
「さわこさんの朝ご飯はホントに美味しいのよね」
「うん、元気が出るわ」
口々にそう言ってくださるものですから、私も思わず笑顔になってしまいます。
「さわこ~、豚汁のお代わりもいいのよね?」
すっかり朝ご飯に加わることが恒例になっておられます、近所のツカーサさんが笑顔でそう言われいます。
お金はあとで頂いていますので別によろしいのですが……ホント、ツカーサさんもすっかり常連さんですね。
「はい、しっかりお食べくださいね」
「いえーい! やったぁ」
私の言葉に、ツカーサさんは満面の笑顔を浮かべながら席に移動していかれました。
◇◇
皆さんの朝ご飯が終わると、さわこの森に戻られる皆さんと、狩りに向かわれるリンシンさんをお見送りいたしました。
今日は、エミリアはさわこの森で姉のアミリアさんのお手伝い。
ラニィさんは、さわこの森の農作業のお手伝い。
リンシンさんも、専属契約を結ばせていただいておりますジューイさん達冒険者の皆さんがお休みのため、仕掛けている罠の様子を確認に行かれただけですのですぐに戻ってこられるはずです。
バテアさんが相変わらずお寝坊なさっていられますので、私は一人でお店の拭き掃除をしておりました。
今日は、パワーストーンのお店を経営している私の親友みはるのお店へ、委託販売してもらっている魔石の売り上げを受け取り、追加商品を納品に行く日です。
なので、拭き掃除が終わったら起こしに上がろうと思います。
あらかた拭き掃除を終えた頃合いになりますと、リンシンさんが罠にかかっていたというマウントボアを2頭、肩にかけて戻ってこられました。
そこで私は早速マウントボアをさばいていきました。
マウントボアのお肉は独特な硬さがありますので、つけ込む必要がありますからね。
手慣れた様子で包丁を動かしていく私を、リンシンさんは不思議そうな顔で見つめています。
「……さわこ……包丁上手」
マウントボアのお肉を巧みに捌いていく私の様子をカウンターを拭きながら見つめていたリンシンさんが感心しきりといった様子の声をあげておられます。
その目の前で私は、作業を続けていきました。
程なくすると、ようやくバテアさんが起きてこられました。
相変わらず、寝間着がわりの肌着の下には下着をつけていないという、男性に見られたら破廉恥なことこの上ない格好だったバテアさんですが、すぐに私が
「バテアさん! いくらお休みだからって、その格好はだめですよ」
そう申し上げますと、
「はいはいわさこ、わかったわよ」
素直に2階に戻り、服を身につけてから戻ってこられました。
以前のバテアさんでしたら
『え~、めんどくさいぃ、減るもんじゃないんだし、これでいいわぁ』
そうおっしゃられまして、私が一緒に2階にお連れしないと服を着てくださらなかったのですが……
ゾフィナさんの一件以降、バテアさんはこんな感じです。
いくら寝ぼけて私のことを『わさこ』と呼ばれていたとしても、一度で言うことを聞いてくださるようになっていたのでした。
バテアさんに遅い朝食をお出しした私は、
「バテアさん、今日はよろしくお願いいたしますね」
笑顔でそう言いました。
すると
「さわこ……今日は私も一緒に行きたい……」
リンシンさんがそうおっしゃったのです。
さて……これはいいのでしょうか?
先日、ゾフィナさんに
『大人数での移動は慎むように』
と念を押されているわけですけど……
「ま、1人くらいなら大丈夫よ、さわこ」
私の危惧していることを察してくださったバテアさんが笑顔でそう言ってくださいました。
その一言で、私も安堵の息を漏らした次第です。
こうして、本日はリンシンさんも一緒に、私の世界にいくことになりました。
ここでちょっと困ったのが、リンシンさんが着ていく服でございます。
いつものリンシンさんの普段の服装といいますと……
獣の皮で作られている衣類の上に金属製の肩当て
だいたい、こんな感じでございます。
居酒屋さわこさんで接客なさる際には私の着物を着て頂いていますけれども……正直、かなりキツキツな状態で着て頂いている次第です。
リンシンさんは少々ふくよかでいらっしゃいますので……
健康的でとても素敵だと思うのですが……あいにく私の普段着はどれも入らない状態です。
そこで、私とバテアさんが先に私の世界に行きまして、リンシンさんがお召しになれる服を買ってきて、それをリンシンさんに着ていただいてから、改めて3人で私の世界で移動することになりました。
ーつづく
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