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連載
さわこさんと、3人でおでかけ その3
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
バスを途中で下車した私達は、お昼を食べに行くことにいたしました。
あまり人の多い場所ですとリンシンさんがはぐれてしまいかねませんので……興味をもたれるとすぐにフラフラ移動されてしまうものですから……少し郊外にある食堂を選びました。
棚におかずが並んでいて、好きな物を選んで取れるスタイルの食堂にいたしました。
「すごくいっぱいある……」
リンシンさんは目を輝かせていらっしゃいました。
そのお姿に私は思わず笑顔を浮かべていました。
「好きなだけお選びくださいね」
「うん……わかった……」
私の言葉に頷かれたリンシンさんは、並んでいるおかずを次々に手に取っていかれます。
かなりの量になったものの、こうなるだろうというのは予期しておりましたのでさほど驚きはしなかったのですが……
レジの横におかれているおでんを、入れ物ごと持ち上げてしまった時には少々慌ててしまった次第です。
「リンシンさん!? そ、それはこちらのお皿に欲しいものをのせるのです!」
「そうなんだ……わかった……」
どうにか理解してくださったリンシンさんは、おでんも山盛りに取り皿にのせていかれたのは言うまでもございません。
4人がけのテーブルなのですが、リンシンさんがお持ちになった料理が大変多かったものですからテーブルの上はリンシンさんの料理でほとんど占拠されておりました。
「では、いただきましょうか」
「うん……」
そう言うと、リンシンさんは両手をパンと合わせて目をお閉じになりました。
「いただきます……」
いつものように挨拶をなさり、黙祷よろしくしばらくそのままジッとなさってから食べ始められた次第です。
リンシンさんの食事のスタイルは、まず見ることから始まります。
食べようと思われた料理をまずじっくり眺めていきます。
次に、その匂いを吸い込んでいかれます。
それから、料理を一口分、フォークで突き刺してそれを口に入れていかれます。
それをゆっくり咀嚼なさってから、ごくんと飲み込まれるのです。
このように、リンシンさんの食事風景のこの部分だけを切り取ると、なんだかすごく時間をかけて食事をなさる方のように見えるのですが……
今のリンシンさんは、すでに半分近くのお皿をたいらげておられます。
ちなみに、あんかけ豆腐と豚汁にご飯しか頼んでいない私は、まだ全体の3分の1も食べておりません。
よく見ているとわかるのですが……一口目をしっかり味わったリンシンさんは、2口目で一皿すべてをお口の中に入れてしまわれるのです。
おかしいですね……家ではこんな食べ方はなさらないのですが……
よく見ると、リンシンさんは、そのお顔に不思議そうな表情を浮かべてもおられます。
「これ……あんまり美味しくない……さわこの料理の方が美味しい……」
リンシンさんは、そんな言葉を口になさいました。
私といたしましてはとても嬉しい一言ではあるのですが……ここはお店の中ですので、リンシンさんには
「あまりそれは言わないでくださいね」
小声でそうお願いさせていただいた次第です。
◇◇
かなりの量をお食べになったリンシンさんですが、お店から出ると
「帰ったら……さわこの料理を食べたい」
そう言われました。
「はい、私の料理でよろしければ」
私は、笑顔でリンシンさんにお答えいたしました。
その後、食後の運動とばかりに、私達3人は歩道を歩いていきました。
リンシンさんは周囲の様子を不思議そうに眺めておられます。
「空気……あんまりよくない……森もない……」
街中を歩いているせいでしょうか、リンシンさんは少し表情を曇らせておられました。
すると、そんなリンシンさんの様子を、バニラ最中を口になさりながら横目で見つめておられたバテアさんが、人気の少ない路地へと移動なさいました。
そこで、バテアさんは魔法陣を展開なさいまして、そこに転移ドアを出現なさいました。
「さ、ここに入ってご覧なさい」
バテアさんに言われるがままに、リンシンさん・私の順番でそのドアをくぐっていきました。
「……うわぁ……」
ドアをくぐるなり、リンシンさんは笑顔を浮かべられました。
そのドアの向こう……そこは、あのバス停留所のある田舎でした。
「ここがね、アタシとさわこが始めて出会った場所なのよ」
「へぇ……そっか……」
リンシンさんは、満面の笑顔を浮かべながら周囲を見回しておられます。
今は廃線になっているこのバス停留所ですが、その後方はうっそうと茂った森になっています。
それだけではありません。
道路もございますが、このあたり一帯はすべて木々で囲まれているのです。
「いいね……うん、ここ、すごくいい……」
リンシンさんは、満面の笑顔を浮かべながらおもむろに森の中へと入っていかれました。
せっかくですので、私達もここでしばらく休憩することにいたしました。
「この森にはね、魔法薬を生成するのに重宝する薬草がたくさん自生しているのよ」
そう言いながら、バテアさんはオオバコやオシロイバナを摘んでおられます。
私の世界でも薬効があるとされている草花ですが、それらの草花が異世界でも同じ用途で重宝されていることに、私はなんだか嬉しくなった次第です。
リンシンさんの後をゆっくり追いかけながら、バテアさんと私は草花を摘んでおりました。
その時です。
前方の森の中で、何やらすごい音がいたしました。
なんでしょう……ドゴッという、何かを鈍器でぶん殴ったような、とでも申しましょうか……
私とバテアさんが足を止めて目を丸くしていると、ほどなくして前方からリンシンさんが戻ってこられました。
その肩には、やや小ぶりな猪を抱えておられます。
「マウントボア……仕留めた」
リンシンさんは満面の笑顔でそう言われているのですが……
「リンシン、あんた今日は武器を持ってきてなかったはずよね? ど、どうやったのよ?」
バテアさんの言葉に、リンシンさんは
「これで、一発……」
そう言いながら、右手の拳をバテアさんの前に差し出されました。
よく拝見いたしますと……猪の顔のあたりに陥没した部分があったのですが、その陥没部分がちょうどリンシンさんのこぶしと同じ形をなさっていた次第です……
リンシンさん曰く、
「……このサイズのマウントボアなら、こぶしで十分」
とのことですが……私とバテアさんは苦笑することしか出来なかった次第です。
私達は、誰かに見つからないうちに、と、バテアさんが急いで作成してくださった転移ドアをくぐってパルマ世界にある、バテアさんのお家へと帰っていきました。
野生の猪の匂いは、マウントボアよりもかなりきつかったものですから、それを担いでおられたリンシンさん自身にも猪の匂いがしみついておられました。
そのため、リンシンさんには先にお風呂に入って頂きまして、私は地下室で猪をさばいていきました。
いつもここでマウントボアをさばいていますので、この部屋の中にはバテアさん特製のにおい消しの魔石が設置されてあります。
そのおかげで、猪の匂いも気になりません。
久しぶりに猪をさばいてみて感じたのですが……猪はマウントボアに比べてかなり身が引き締まっています。
脂身も、どちらかといえばマウントボアの方が多めですね。
とはいえ、猪はマウントボアのように毒を持っておりませんので、その分下ごしらえの手間がいらないのが助かります。
作業を終えた私が2階にあがると、お風呂からあがったリンシンさんが、ご自分の武具を手になさっておられました。
よく見ると、その柄の部分に、今日みはるからもらったパワーストーンのネックレスをくくりつけておられたのです。
リンシンさんは、よっぽどそのパワーストーンが気に入られたのですね。
子供のような笑顔を浮かべながら、リンシンさんはくくりつけ終わったパワーストーンを見つめておられます。
私は、そんなリンシンさんを笑顔で見つめておりました。
「さ、さわこもお風呂はいっちゃいなさいな。お湯、入れ替えておいたからさ」
「あ、はい、いただきます」
バテアさんに言われて、私はお風呂へ移動していきました。
すると、そんな私の後をバテアさんもついてこられます。
「せっかくだから、一緒に入りましょう」
「え? でも、今の私……猪の匂いが残っている気が……」
「さわこの匂いなら、別に気にしないわよ」
そう言いながらバテアさんは私を抱き寄せられたのですが
「……あら、ホント……ちょっと匂うわね……」
そんな事を口になさった次第です。
「で、ですから言いましたのにぃ」
慌てて、バテアさんから離れようとする私。
そんな私をバテアさんは、
「あはは、冗談よ、冗談」
そのままお風呂にひっぱっていかれた次第でございます。
……お風呂に入った私が、すぐさま必死になって髪と体を洗っていってのは言うまでもございません。
ーつづく
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