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連載
さわこさんと、怪しい2人 その2
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
昨夜、散々恋話で盛り上がった私達でございます。
そんな一夜があけて、迎えた本日なのですが……
「やぁ、さわこ殿こんばんわ」
満面の笑顔でゾフィナさんが来店なさいました。
「ウェルカム。カウンターでいいかしら?」
「えぇ、問題ないわ」
「オーケー、じゃ、こちらへ」
エミリアが、笑顔でゾフィナさんをカウンター席へと案内していきます。
すると……テーブル席に座っていらしたヒーロさんも、カウンター席へと移動なさったのです。
そのお姿を横目で確認した私は、思わず胸が高鳴ってしまいました。
そうですね……以前、私の世界でお店をしていた際にも、こういった出来事は無きにしも非ずだったのですが、こういうシーンに出くわしてしまうとやはり心がときめいてしまいます。
だって、女の子ですもの……えぇ、三十ウン才になっても女の子なんです!
気のせいか、リンシンさんもお2人のことを意識しているような気がいたします。
とはいえ、お2人はお客様ですし、憶測でお2人が気まずくなってしまうようなことを口にするわけには……
「ねぇねぇ、2人ってさぁ付き合ったりしてるの?」
私がそんな事を考えながらぜんざいの準備をしていると、カウンターの端っこの席に座っておられたツカーサさんが直球を投げ込んでこられたのです。
「は? 失礼だがそれは誰と誰のことを言っているのだ?」
「やだなぁ、ゾフィナさんとヒーロの事に決まっているじゃない」
「は? なぜそのような話になるのだ?」
「え~、だってさぁ、最近いっつもいい雰囲気で話をしてるじゃない?」
「は? 別に私は、ぜんざいの味を理解しているこの御仁とぜんざいについて熱く語り合っているだけだが?」
「うそ~、だって、ヒーロさんってば甘い物は苦手なのもがががが」
言葉を続けようとなさったツカーサさんの口を、バテアさんが背後から押さえ込みました。
「あ~、ゾフィナもヒーロも気にしないでねぇ、酔っぱらいの戯れ言だからさぁ」
「もごご、バテアちょっと、アタシは酔ってなんか」
「あらあら、飲みが足りないのかしらぁ? おほほほほ」
バテアさんは満面の笑みを浮かべながら、ツカーサさんの口に一升瓶をつっこ……えぇっと……これは止めた方がいい気がしないでもないのですけど……
そんなやりとりが繰り広げられている横で、ゾフィナさんは
「ふむ……酔客と言うのは、とかく妄言を口にするということか……いやはや難儀なことだな」
そう言いながらヒーロさんの方へ顔を向けておられます。
そんなゾフィナさんに、ヒーロさんは少し困ったようなといいますか、残念そうな表情をその顔に浮かべながら
「いや、ホント……そうですねぇ」
そう返事を返すのがやっとなご様子でした。
◇◇
その日の営業後のことです。
「ヒーロはともかく、ゾフィナには全くそんな意識はなさそうね」
いつものように女3人で晩酌をしている中で、バテアさんが笑いながらそう言われました。
そのお言葉に、私とリンシンさんも苦笑しながら頷くしかありませんでした。
何しろ、あそこまでツカーサさんがズバッと言われたにも関わらず、ゾフィナさんはご自分のことを言われているなどとは微塵も思われていないご様子でしたから……
「ゾフィナさんはなんと言いますか……こういった色恋沙汰には疎いご様子ですねぇ」
パルマ酒を口にしながら、私は少しため息をつきました。
現状では、
ヒーロさんは、ゾフィナさんに好意をもたれているっぽい
ゾフィナさんはぜんざい談義以外まったく興味なし
そんな感じでございます。
「……まぁ、こればっかりはしょうがない……」
リンシンさんは、日本酒をちびちび舐めながらそう言われました。
実際、相手のあることですし、まさにその通りなんですよね……
「まぁ、さわこもジュチのアプローチを散々お断りし続けているわけだしねぇ」
「ちょっとバテアさん、なんでここで私とジュチさんの話題が出てくるのですか? ジュチさんはともかく、私はいたってノーマルですよ? 女性を恋愛対象として見ることなんてありませんわ」
「あはは、こりゃジュチも苦労しそうね」
「ですから、苦労も何も最初からありえないのですよ」
私は顔を真っ赤にしながらバテアさんに反論していきました。
この夜の私達は、そんな会話で盛り上がっていった次第でございます。
◇◇
翌日のことでございます。
その光景を前にした私は、思わず目を丸くいたしました。
そんな私の視線の先には、開店したばかりの居酒屋さわこさんへと入ってこられたヒーロさんのお姿がございます。
その横には……ゾフィナさんが並んで立っておられます。
ヒーロさんは、少し頬を赤くしたご様子で、時折ゾフィナさんの方へチラチラと視線を向けておられます。
「いやぁ……昨日の帰りに少しご一緒してね。よかったら街中にある甘い物を食べられるお店をご紹介しましょうか、と、お誘いさせていただいたんだ」
ヒーロさんはそうおっしゃいました。
なんということでしょう。
店内では、ゾフィナさんのぜんざい談義に終始お付き合いなさっていたヒーロさん……その後、しっかり行動を起こしておられたのですね。
さすが年配者の手腕とでも申しましょうか。
私は、少しわくわくしながらゾフィナさんへ視線を向けました。
……おや?
ここで私は思わず眉をひそめてしまいました。
私の視線の先、ヒーロさんのお隣に立っておられるゾフィナさんは、明らかに不満そうな表情をなさっておいでなのです。
「……うむ……せっかくお誘いいただいたのだが……居酒屋さわこさんのぜんざいと甘酒に勝る甘味には巡り会えなかった……」
そう言うと、ゾフィナさんはエミリアに案内されながらカウンター席へと座られました。
ヒーロさんも、その横に腰を下ろされました。
……どうやら、ヒーロさんの頑張りは、空振りだったご様子ですね。
私は、苦笑しながらぜんざいの準備を始めました。
「……そういうわけだ。ヒーロ殿よ、今度はもう少しましな店に連れて行ってもらえるか?」
「え? またお付き合いくださるので?」
「あぁ……ヒーロ殿と一緒に店を巡るのは楽しかったしな」
そう言うと、ゾフィナさんはようやく笑顔を浮かべられました。
その時です。
「あはは、それはヒーロとのデートが楽しかったってことですね?」
いつの間にか店内に入ってこられていたツカーサさんが、ゾフィナさんの顔を覗き込んでそう言われたのです。
その存在に気が付いたエミリアが
「ほ、ホワット!? ど、どこから入ったの!?」
その顔に困惑の表情を浮かべています。
ホントに……ツカーサさんの神出鬼没ぶりにはびっくりすることこの上ありません。
そんなツカーサさんの言葉を聞いたゾフィナさんなのですが……しばらくきょとんとなさったまま無言です。
「……で、でぇと?」
ようやく、そう口になさったゾフィナさんは、ヒーロさんへ視線を向けました。
「ヒーロ殿、でぇととはなんです?」
そのお言葉に、店内にいた全員が一斉にガクッと崩れ落ちてしまいました。
ヒーロさんも、思わず机につっぷなさっている次第です。
そんな私達の様子を見回しながら、ゾフィナさは
「なんだ? 私は何か変なことを言ったのか?」
きょとんとなさりながら、そんな言葉を口になさっている次第です。
なんと言いますか……ゾフィナさんの恋愛音痴ぶりは私達の想像を遙かに凌駕なさっているご様子ですね。
これでは、この先このお2人がどうなっていくのか、まったく想像がつきません。
そんなことを考えながら、私はぜんざいをよそっていきました。
ーつづく
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