異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

文字の大きさ
133 / 343
連載

さわこさんと、リットの街 その3

しおりを挟む
 ……なんといいますか……とても不思議な光景が私の目の前に広がっております。

 湖の畔、山麓の洞窟の前の開けた場所にシートを敷いて座っている私達。
 私が準備して参りましたお昼ご飯が詰まっているお重をみんなで囲んでいるのですが……

 そのすぐ後ろに、ドラゴンさんが座っているのです。

 身の丈は……そうですね6,7メートルというところでしょうか。
 そんなドラゴンさんが、足を前に投げ出すようにしてその場にちょこんと座っていらっしゃるお姿は、どこか現実離れしている気がしないでもありません。

 そんなドラゴンさんの膝の上にバテアさんがお座りになっているもんですから、それが夢物語ではないことを思い知らせてくれている気がいたします。

「そっかぁ、ここに最近引っ越してきたのねぇ」
 そんなバテアさんのお言葉に、ドラコさんと名乗られたそのドラゴンさんは頷いておいでです。

 先ほどは、このドラゴンさんの言葉が脳の中に直接聞こえてきていた気がしていたのですが、それはドラゴンさんが私に話しかけるために神の耳魔法という物を使用なさっていたのだそうです。

 今は、バテアさんと会話をなさっておいでですので、その神の耳魔法をバテアさんに向かって使用なさっていられるのでしょうね。
 今の私には、ドラコさんがうなり声をあげているようにしか聞こえなくてですね、何をお話になっているのかさっぱりわからない状態なのです。

 ただ、バテアさんと何やら楽しくお話なさっているのでしょうね、ということはお2人の様子から察することが出来ている次第です。

 ちなみにですね……
 ドラコさんの手には、私が作ってまいりましたお重が1つのっかっております。
 
 ドラコさんが危険がないとわかったものですから、皆さんのお昼を準備しておりましたところ、
『なんだか美味しそうですね~』 
 ドラコさんが、私が作ってまいりましたお重に興味津々のご様子だったものですから、
「おひとつ如何ですか?」
 そうお勧めさせていただきましたところ、
『え~!? いいんですか~!?』
 と、とても大喜びなさったものですから、おかずのつまっているお重を1段、そのままお渡しさせていただいている次第でございます。

 さ……さすがに、お体の大きいドラコさんですので、この程度の量ではまったく足りないの百も承知だったのですが……
『いえいえ~、私、こう見えて小食なんですよ~』
 ドラコさんはそう言いながら、口から蛇のような舌を伸ばされましてお重の中身を器用に食べておいでなのでございます。

『大変おいしゅうございます~、さわこさんはお料理がとてもお上手なのですね~?』
「そ、そうですか? お口にあったようで何よりですわ」
 時折、私の脳内にドラコさんのお声が聞こえてまいりますので、私もその度にお答えさせていただいているのですが……こうしてお話をさせていただいていてわかったのですが、このドラコさんは、とっても可愛い女性なんですよね。

『うふふ~』
 とお笑いになる際には、手で口元を押さえておいでですし、
『そうですか~?』
 と、いいながら小首をおかしげになったり、
『いやだ~、そんなことないですよ~』
 と、恥ずかしがられながら手をお振りになったりと……

 そのお姿が私達と同じでしたら可愛い仕草でしょうに、と思わず思ってしまうような……いえ、ドラゴンであられる今のお姿のままでも、とても可愛く思えてしまう仕草をしょっちゅうなさっておいでなのでございます。

 そんなドラコさんは、基本的にバテアさんとの昔話に華を咲かせておいでです。

 ……そんなお2人を拝見していて、私はふとあることに思い当たりました。

「あの……つかぬことをお伺いするのですが……ドラコさんは人の姿に変化することは出来ないのですか?」
 
 そうなんです。
 この世界の亜人種族の方は、人の姿から魔獣の姿に変化する能力をお持ちの方が少なくないとお聞きしています。当然、その逆も可能なのだ、と。
 それに、以前バテアさんからお聞きしたことがあるのですが、
『姿形変化魔法っていうのがあってね、これを使うと人の姿から魔獣の姿に変化出来たりするのよ』
 そう、お聞きしたこともあったものですから……

 私がそうお聞きいたしますと、ドラコさんは
『それがですね~……』
 そう言うと、うなだれ気味になってしまいました。
『私はですね~、人型に変化出来る龍人(ドラゴニュート)種族ではなくてですね~、純粋な龍族なのですよ~ですので、亜人の皆様のように人の姿には変化出来ないんです~』
「スア師匠も、ドラコを人型に変化させることが出来る魔法を研究してくださってはいるんだけどさ……」
 バテアさんも、そう言いながら、まるでドラコさんを励ますかのように、その体を撫でておいでです。

「あ、あの……へ、変な事をお聞きしてしまいまして申し訳ありませんでした」
 そんなお2人向かって、私は深々と頭を下げた次第でございます。

 お2人のご様子からして……ドラコさんが人型になりたがっておられるのは間違いございません。
 その方法が、このパルマ世界最高の魔法使いであられますスア師匠さんをもってしてもまだ見つかっていないというのですから……あまりにも失礼な質問をしてしまったことを自覚した私は、何度も何度も頭を下げていた次第でございます。

 そんな私にドラコさんは、
『あぁ、お気になさらないでください~、スア師匠も研究を続けてくださっていますし~、私もあれこれ頑張っておりますので~、きっといつか人型になってですね~、大好きな殿方と結ばれたいと思っておりますので~』
 努めて明るい口調でそう言われたのですが……なんでしょう、人型になりたい理由まで乙女なドラコさんなのですね、と、思わずほっこりしてしまった私でございます。

「人型になることが出来た暁には、私もぜひお会いさせてくださいね。あ、もちろん、今のお姿のままでもお友達にならせていただけたらとってもうれしいです」
 私がそうお伝えしますと、
『え~?ホントですか~、うふふ~、新しいお友達が出来てとってもうれしいです~』
 ドラコさんは、嬉しそうな声でそう言ってくださったのでした。

 こうして、私は新しくドラゴンのドラコさんとお友達になれたのでございます。

◇◇

 その後、ドラコさんからあれこれお聞きしたところによりますと、

『この一帯にはですね~、最近流血狼を魔法で呼び寄せていますので~、クッカドウゥドルは寄りついていない感じですね~。南下してきているのでしたら、もう少し南東の方かもしれません~』

 とのことでございましたので、昼食を終えた私達はそちらの方へ向かって移動していくことにいたしました。

「せっかくですのでお散歩がてら一緒に行ってみませんか?」
 私がそうお声をかけさせていただきましたところ、ドラコさんは、
『せっかくのお申し出なのですが~……私が同行してしまいますと~、いくら気配を魔法で消しておりましても~、気配にすごく敏感なクッカドウゥドルには気が付かれてしまうと思うんです~。そうなりますと~、結果的に皆様の狩りの邪魔をしてしまうことになってしまいますので~』
 そう言われてですね、同行をお断りなさった次第でございます。

 そのような理由ですと、私もそれ以上強く誘うことが出来ません。

 ここでドラコさんと別れた私達は、バテアさんの転移ドアで南東の森へと移動していきました。

『お気をつけて~またお会いしましょう~』
 そんな私達を、ドラコさんは手を振りながら見送ってくださいました。

「ふふ……ドラコってば、さわこのことがとっても気に入ったみたいね。初対面の相手とあんなに楽しそうに話をするドラコなんて、はじめてみたわ」
 バテアさんはそう言いながら笑っておいでだったのですが……

 思い返してみますと、あの場には私とバテアさん以外にもリンシンさんやジューイさんといった冒険者の皆様が同席なさっていたのですが、ドラコさんはそちらの方々には一度も話しかけられていなかったのでございます。

 リンシンさん達もドラゴンの言葉はわかりませんので、ドラコさんが神の耳魔法で話しかけない限りは会話することは不可能だったわけです。

 ドラコさんに気に入っていただけたのは個人的に嬉しく思ったのですが……

「……次にお会いしたときは、リンシンさんや皆さんもお友達になれるといいですね」
 皆さんを見回しながら、そう言った私なのですが……

「……ど、ドラゴンとお友達って……」
「ジュ……さわこ、よくそんなことが言えるジュ」
 私の言葉を聞いたリンシンさんとジューイさんは、顔を青くしながらそう仰られたのでございます。

「そうですか? 普通に可愛い女性の方でしたよ?」
 何度もそう説明させていただいたのですが、
「……無理、怖すぎる」
「ジュ……隙を見せたら食われるジュ」
 皆さん、首を左右に振りながら「無理です」との意思表示を繰り返すばかりでございました。

 ……もう、困ったものですね。ドラコさんってば、あんなに可愛くて素敵な女性ですのに……

 ドラコさんとの会話を思い出しながら、次回お会い出来ることがございましたら、その際にはもっとたくさんのお弁当を作って行こうと思った次第でございます。

ーつづく
しおりを挟む
感想 164

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。