異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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連載

さわこさんと、南方の狩り その2

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 バテアさんと、リンシンさん達冒険者の皆様は、南方へ狩りに出かけられました。
 バテアさんの転移ドアを利用しての移動でございます。

 今回、私はお留守番です。

 前回は食事係として同行させて頂いたのですが、私は狩りではまったく役にたちませんからね。
 皆様の邪魔にならないように、お留守番を志願させていただいた次第です。

 お留守番と申しましても、することはたくさんございます。

 外は今日も快晴です。
 こちらの世界は快晴の日が多いので、嬉しくなってしまいます。

「さぁ、ベル。手伝ってくださいな」
「任せてさーちゃん!」
 私の言葉を受けて、ベルが気合い満々といった様子で胸を叩いております。

 私とベルが向かいましたのは寝室です。

 せっかくですので、今日はまずお布団を干そうと思っております。

 バテアさんのご自宅でもありますこの巨木の家は、地上3階地下1階の構造となっております。
 3階はバテアさんの研究室なのですが、その脇の階段をさらに上っていくと屋上に出ます。

 巨木の家の屋上は、ちょっとしたベランダ状態になっています。
 巨木の太い幹を、そこで真横に切断したかのように平坦になっているんです。
 
 そこに、私の世界のホームセンターで購入してまいりましたステンレス製の物干し台が並んでいます。
 
 ここに私は、ベルと2人掛かりでお布団を運びこんでいきます。
 布団カバーを外したそれを、
「いきますよベル」
「うにゃ!」
 ベルと2人がかりで物干しにかけていきます。

 ダブルベッドのお布団
 リンシンさんのお布団
 お客様用の予備のお布団

 それらを干し終えますと、今度は布団カバーを洗濯いたします。

 こちらの世界には魔石洗濯機というものがございます。
 仕組みは、私の世界にございます洗濯機とほぼ同じなのですが、その動力源が魔石なんです。
 ちなみに、この世界にはドラム式洗濯機は存在していなくて、すべて水槽式の洗濯機でございます。

 その魔石洗濯機で布団カバーを洗っていきます。
 1枚1枚が大きいだけに、2回にわけて行う必要がありそうです。

「にゃは~」
 水槽を上から覗き込みながら嬉しそうにしているベル。
 水が回転しているのを眺めるのが大好きなんです。

 ベルがそれに夢中になっている間に、私は別の作業を再開いたしました。
 
 お風呂に入り、桶に水を入れまして、そこに洗濯板をいれていきます。
 次に、私は洗濯カゴを持ち込みました。
 その中には、使用済みのお手拭きが満載になっています。

 これ、全て居酒屋さわこさんでお出ししたお手拭きなんです。

 居酒屋さわこさんでは、ご来店くださったお客様に、まずお手拭きをお出しします。
 そして、お客様がご使用になられましたお手拭きをこうして溜めておきまして、翌日こうして手洗いしております。

 お手拭きは、汚れがこびりつきやすいんです。

 仕事で汚れた手をお拭きになったり
 食事をなさって汚れた口をお拭になったり
 顔を拭いてすっきりなさったり

 そうして、様様な汚れがお手拭きにはこびりつきます。

 そんなお手拭きを、私はすべて手洗いしております。

 そうすることで、細かな汚れまでしっかり落とすことが出来ますからね。

 私の世界では、お手拭きの回収・機械洗浄・配送をしてくださる業者もございました。
 もちろん、そのサービスによって配送されておりますお手拭きも綺麗です。

 ですが、私はあえてこうして自ら手洗いすることを選択いたしておりました。
 えぇ、これ、居酒屋酒話時代からずっと行っているんです。

 すでに10年近く愛用している洗濯板ですが、少々くたびれた気がしないでもありません。
 ですが、この10年使い込んだことで、手に馴染んでいるんです。
 そのおかげで、汚れをよりいっそう落とせている……そんな気がしております。

 ゴシゴシゴシ

 しばらく洗っては、両手で広げて汚れが残っていないか確認いたしまして、再び丁寧に洗っていきます。

 洗剤は、すべて私の世界で購入してきた物を使用しております。
 こちらの世界の洗剤も効果はなかなかのものなのですが、実用性のみに特化しているのでちょっと気に入らないと申しますか……

 具体的に申し上げますと、匂いです。

 この世界の洗剤には、洗濯した物に香りを添加する効果を持ったものがございません。
 
 お客様にご使用頂くわけですから、少しでもいい気持ちになって頂きたい……そう思っているわけでございます。

 毎日洗っておりますので、そんなに多くはありませんが、それでもそれなりの量はございます。
 それをすべて洗い終えた私は、洗濯し終えたお手拭きが満載になっている洗濯カゴを抱えて屋上へと移動していきました。

 そんな私に気が付いたベルも一緒でございます。

 物干しにかけてあります、角型ハンガーにせっせとお手拭きを干していきます。
 ベルも、私と一緒にお手拭きをハンガーに干してくれています

 ですが、ベルはまだハンガーにございます洗濯ばさみになれていないものですから、
「うにゃ? うにゃにゃ!?」
 時折、そんな声をあげながら悪銭苦闘していることもございます。

 そんなこともありながら……

 私とベルは、ほどなくいたしまして全てのお手拭きを干すことが出来ました。

 屋上にずらっと並んでいるお手拭きというのもなかなか壮観でございます。

 私とベルは、そんな光景をしばらく笑顔で見つめていたのですが
「いけない、そろそろ洗濯機が終わりますね」 
 布団カバーの事を思い出しまして、慌てて2階へと駆け下りていきました。

◇◇

 今日は一日中好天が続きました。
 おかげで、お昼過ぎにはすべての洗濯物が無事乾きました。

 ふっくらいたしました布団に、布団カバーを掛けてから、それぞれ元の位置へと戻していきます。

 すると、早速ベルがベッドの上に飛び乗っていきました。
「ふにゃあ……ふかふかにゃあ」
 嬉しそうな声を上げると、ベルはあっという間に寝息をたてはじめてしまいました。
 そんなベルに毛布をかけた私は、お手拭きを濡らしてから巻く作業を行うために、一階にございます居酒屋さわこさんの厨房へと移動していきました。

◇◇

「ジュ、やっぱりこのお手拭きで顔を拭くのは最高ジュ!」
 南方に狩りで出かけておられましたジューイさんが、嬉しそうにそうおっしゃられながらお手拭きで顔をゴシゴシ拭いておられます。

 今日は夕方近くまで狩りをなさった冒険者の皆様。

 そんな皆様を慰労させていただくために、本日は居酒屋さわこさんの開店を少し早めた次第です。

 ジューイさん以外の、本日狩りに出向かれておられました冒険者の皆様も、思い思いにお手拭きを使われながら手や顔の汚れを拭き取っておられます。

「この店のお手拭きっていいわよね、適度に湿ってるし、何より良い匂いがするのが」
 クニャスさんが笑顔でそうおっしゃられています。

「ありがとうございます」
 私は、そんなクニャスさんに笑顔でお礼を申し上げました。

 いつも普通に行っているお手拭きの洗濯作業ですが、それだけにこうしてお褒め頂けるととても嬉しくなってしまいます。

 おかげで、今夜も目一杯がんばれそうです。

ーつづく
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