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さわこさんと、夜のお楽しみ その1

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 居酒屋さわこさんの定番メニューとして人気なのが

 クッカドゥウドルの焼き鳥
 タテガミライオンの串焼き
 マウントボアの串焼き 

 この3品でございます。

 この世界で居酒屋さわこさんを開店して以降、来店なさったお客様は必ずといって良いほど、この3品のうちのどれか1つを御注文なさっておられます。

 これに続きますのが、

 和風すぅぷかれぇ
 クッカドゥウドル・タテガミライオン・マウントボアの、いずれかのお肉のステーキ

 こちらになります。

 和風すぅぷかれぇは2種類ございまして、

 クッカドゥウドルのガラを煮こんだスープを使用し、クッカドゥウドルのお肉使った鶏肉味
 マウントボアのお肉を煮こみに煮こんだスープを使用した猪肉味

 どちらも1日以上煮こんだスープを使用しておりますので、自分でいうのもなんですがどちらもかなり美味しく仕上がっていると自負しております。

 ステーキは、いずれも素材の味を生かした逸品です。
 
 さっぱりとしていて、それでいて食べ応えのあるクッカドゥウドル
 私の世界で例えますと、松坂牛などのA5相当のお肉に該当するタテガミライオン
 どっしりとしていて、濃厚な味わいを楽しめるマウントボア

 その日の気分にあわせてどれを注文するか決めているお客様も少なくない感じでございます。

 最近、寒さが厳しくなるにつれ、季節限定でメニューに加えております

 おでん
 一人鍋

 こういった商品も現在好調な売れ行きを示している次第でございます。

 メニューが増えますと、その分仕込みにかかる時間も増えてしまいます。
 ですが、そのメニューを楽しみにしてご来店くださるお客様が、そのメニューを口になさって、笑顔になってくださる……その事を想像いたしますと、
「うん。頑張らないと」
 そんな感じで、自然と気合いが入る次第でございます。

◇◇

 そんな中……

 隠れた人気メニューとして定着しつつあるのが「うどん」でございます。

 現在は、一人鍋のシメの一品として提供させていただいているこのうどんなのですが、先日、さわこの森のみなさんの朝ご飯として提供させて頂きましたところ

「これは美味しい!」
「ぜひまた出してほしい!」

 そういった声を多数いただいた次第でございます。

 この時のおうどんは、昆布といりこで出汁をとったスープを、薄口醤油・みりん・お酒を少々加えて味を調えたお汁に、うどんを入れた一品でした。

 お試しといたしまして、土鍋ご飯との選択制でお出ししていたのですが、物珍しさもあってかうどんはあっという間に品切れになってしまう程の大人気でございました。

「ホントに……こんなにおうどんが人気になるなんて」
 私もびっくりしていたのですが、このことを聞いて一番喜んでいたのはベルでした。

「さーちゃんの役にたててるニャ?」
 ベルが嬉しそうにそう言いながら私の腕を引っ張ります。
「えぇ、とっても役にたっていますよ。皆さんも、ベルが踏み踏みしてくれたおうどんがすごく美味しいって褒めてくれています」
 私がそう答えると、
「さーちゃん! ベルね、もっともっと踏み踏みするから、もっともっとうどんのタネを作ってほしいニャ!」
 ベルはすごく気合いの入った表情でそう言いました。

 そんなわけでして……

 今までの昼間のベルは、だいたいだるまストープの近くで丸くなって眠っているのが定番でしたのに、今ではすっかり様相が変わっている次第でございます。

 だるまストープの近くは相変わらずなのですが、そこで
「おいっちニャ! おいっちニャ!」
 そう言いながら、うどんのタネの上で足踏みしている姿が定番に取って代わった感じでございます。

 嬉しそうにうどんのタネを踏み踏みしているベル。
 その肩に笑顔でのっかっているエンジェさん。

 そして、

 そんな2人の様子を時折見つめながら、居酒屋さわこさんの厨房で夜の仕込みをしている私。

 これが、お昼の居酒屋さわこさんの定番の光景になりつつあります。

◇◇

 お昼は、もっぱら仕込みをおこなっている私ですが……

 お店がつながっているお隣の、バテアさんの魔法道具のお店も連日多くのお客様で賑わっておられます。
 こちらのお店は、最近はエミリアが開店から閉店まで店番をしてくれています。

 それ以前は私が店番を仰せつかっていたのですが、居酒屋さわこさんのお客様が増えるにつれ、仕込みに要する時間が増大化していったため、今ではお昼時の、特にお客様が多い時間帯だけ助っ人としてお手伝いに駆けつけている次第でございます。

 もともと飲み込みの早いエミリアは、今ではお店で扱っている魔法道具のほぼすべての商品の名前と用途、注意事項までしっかり把握しています。
 ですので、お客様が
「あの、これはどんな効果が……」
 そうご質問してこられましても、
「はい、それはですね……」
 と、すぐにスラスラとお答えしている次第でございます。

 ……ちなみにですが

 私が店番を仰せつかっていた頃はですね
「ええと……ち、ちょっとお待ちください」
 そう言いながら、バテアさんが準備してくださっていたカンペを必死にくりながら、該当のページを探しまくっていた次第でございます。

 ……なんといいますか……根本的に魔法を理解出来ていない私ですので、どうにも飲み込めないといいますか……

 これが料理に関することでしたらすんなりと理解出来るのですが……

 その証拠に、と、申しますか、バテアさんの魔法道具のお店で扱っている品物の中でも、火属性の魔石と魔石コンロはすぐに理解出来ました。
 
 火属性の魔石は火をおこすのに必要ですし、魔石コンロはその火属性の魔石をセットする道具ですからね。

◇◇

 そんな私達が一同に介しまして情報交換をしているのが、毎晩の晩酌の時間でございます。

 毎晩、居酒屋さわこさんを閉店した後、お店の片付けを終えてから行われるこの晩酌ですが、

 魔法道具のお店の店長で、毎日あちこちの町や村、異世界に素材を仕入れに出向かれているバテアさん。
 居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者のみなさんと毎日狩りに出向かれているリンシンさん。
 そして、居酒屋さわこさんを切り盛りしている私。

 この3人がいつものメンバーなのですが、

 ここに、時折、バテア青空市と魔法道具のお店、さらに居酒屋さわこさんのお手伝いまでしてくれているエミリアが加わることも少なくありません。

 エミリアは、私の世界基準ですとまだお酒を飲めない年齢なのですが、こちらの世界基準ですとすでに成人扱いですのでお酒を飲むことが出来るんです。

 もし、私の世界でお酒を飲むことがありましたら、エミリアに関しては少々気をつけておかないと、と、常日頃から思っている次第でございます。

 こんなメンバーで、毎晩わいわいお話をしながらお酒を頂いているのですが、私はこの時間が大好きなんです。

 お仕事に関することよりも、たわいもないお話が多いこの時間なのですが……だからでしょうか、みなさんとの距離がすごく近くなる、そんな気がする時間なんです。

「……今日はね、ジューイが崖から落ちそうになった」
「まぁ!?」
「……ジューイは、獣種だから、寒い時期の狩りは苦手みたい……でも、あのモフモフすごくあったかそう」
「あぁ……わかります!すっごくわかります! 時々無性にぎゅってしたくなっちゃうんですよね」
「……うんうん」
 この日は、リンシンさんと私が、居酒屋さわこさんの常連客の1人であり、居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者のお1人でもございますジューイさんの話題で少々盛り上がってしまいました。

 こうしてざっくばらんに、なんでも語り合える友人がいるというのは本当に嬉しいものですね。

 まだ幼いためか、この時間にはいつも熟睡してしまっているベルも、いつかこの輪に加わる日がくるのでしょうか。
 ふふ……今からその時が楽しみで仕方ありません。

 もっとも、今、ベルがこの輪に加わったら、
「踏み踏み楽しいニャ! 今日もいっぱい踏み踏みしたニャ」
 と、そんな話題ばかりになるような気がしないでもないのですが、それはそれでとっても楽しそうですね。

 そんな事を考えながら、今夜の私達も遅くまで晩酌を楽しんだ次第でございます。

ーつづく
 
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