異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

文字の大きさ
166 / 343
連載

さわこさんと、夜のお楽しみ その1

しおりを挟む
 居酒屋さわこさんの定番メニューとして人気なのが

 クッカドゥウドルの焼き鳥
 タテガミライオンの串焼き
 マウントボアの串焼き 

 この3品でございます。

 この世界で居酒屋さわこさんを開店して以降、来店なさったお客様は必ずといって良いほど、この3品のうちのどれか1つを御注文なさっておられます。

 これに続きますのが、

 和風すぅぷかれぇ
 クッカドゥウドル・タテガミライオン・マウントボアの、いずれかのお肉のステーキ

 こちらになります。

 和風すぅぷかれぇは2種類ございまして、

 クッカドゥウドルのガラを煮こんだスープを使用し、クッカドゥウドルのお肉使った鶏肉味
 マウントボアのお肉を煮こみに煮こんだスープを使用した猪肉味

 どちらも1日以上煮こんだスープを使用しておりますので、自分でいうのもなんですがどちらもかなり美味しく仕上がっていると自負しております。

 ステーキは、いずれも素材の味を生かした逸品です。
 
 さっぱりとしていて、それでいて食べ応えのあるクッカドゥウドル
 私の世界で例えますと、松坂牛などのA5相当のお肉に該当するタテガミライオン
 どっしりとしていて、濃厚な味わいを楽しめるマウントボア

 その日の気分にあわせてどれを注文するか決めているお客様も少なくない感じでございます。

 最近、寒さが厳しくなるにつれ、季節限定でメニューに加えております

 おでん
 一人鍋

 こういった商品も現在好調な売れ行きを示している次第でございます。

 メニューが増えますと、その分仕込みにかかる時間も増えてしまいます。
 ですが、そのメニューを楽しみにしてご来店くださるお客様が、そのメニューを口になさって、笑顔になってくださる……その事を想像いたしますと、
「うん。頑張らないと」
 そんな感じで、自然と気合いが入る次第でございます。

◇◇

 そんな中……

 隠れた人気メニューとして定着しつつあるのが「うどん」でございます。

 現在は、一人鍋のシメの一品として提供させていただいているこのうどんなのですが、先日、さわこの森のみなさんの朝ご飯として提供させて頂きましたところ

「これは美味しい!」
「ぜひまた出してほしい!」

 そういった声を多数いただいた次第でございます。

 この時のおうどんは、昆布といりこで出汁をとったスープを、薄口醤油・みりん・お酒を少々加えて味を調えたお汁に、うどんを入れた一品でした。

 お試しといたしまして、土鍋ご飯との選択制でお出ししていたのですが、物珍しさもあってかうどんはあっという間に品切れになってしまう程の大人気でございました。

「ホントに……こんなにおうどんが人気になるなんて」
 私もびっくりしていたのですが、このことを聞いて一番喜んでいたのはベルでした。

「さーちゃんの役にたててるニャ?」
 ベルが嬉しそうにそう言いながら私の腕を引っ張ります。
「えぇ、とっても役にたっていますよ。皆さんも、ベルが踏み踏みしてくれたおうどんがすごく美味しいって褒めてくれています」
 私がそう答えると、
「さーちゃん! ベルね、もっともっと踏み踏みするから、もっともっとうどんのタネを作ってほしいニャ!」
 ベルはすごく気合いの入った表情でそう言いました。

 そんなわけでして……

 今までの昼間のベルは、だいたいだるまストープの近くで丸くなって眠っているのが定番でしたのに、今ではすっかり様相が変わっている次第でございます。

 だるまストープの近くは相変わらずなのですが、そこで
「おいっちニャ! おいっちニャ!」
 そう言いながら、うどんのタネの上で足踏みしている姿が定番に取って代わった感じでございます。

 嬉しそうにうどんのタネを踏み踏みしているベル。
 その肩に笑顔でのっかっているエンジェさん。

 そして、

 そんな2人の様子を時折見つめながら、居酒屋さわこさんの厨房で夜の仕込みをしている私。

 これが、お昼の居酒屋さわこさんの定番の光景になりつつあります。

◇◇

 お昼は、もっぱら仕込みをおこなっている私ですが……

 お店がつながっているお隣の、バテアさんの魔法道具のお店も連日多くのお客様で賑わっておられます。
 こちらのお店は、最近はエミリアが開店から閉店まで店番をしてくれています。

 それ以前は私が店番を仰せつかっていたのですが、居酒屋さわこさんのお客様が増えるにつれ、仕込みに要する時間が増大化していったため、今ではお昼時の、特にお客様が多い時間帯だけ助っ人としてお手伝いに駆けつけている次第でございます。

 もともと飲み込みの早いエミリアは、今ではお店で扱っている魔法道具のほぼすべての商品の名前と用途、注意事項までしっかり把握しています。
 ですので、お客様が
「あの、これはどんな効果が……」
 そうご質問してこられましても、
「はい、それはですね……」
 と、すぐにスラスラとお答えしている次第でございます。

 ……ちなみにですが

 私が店番を仰せつかっていた頃はですね
「ええと……ち、ちょっとお待ちください」
 そう言いながら、バテアさんが準備してくださっていたカンペを必死にくりながら、該当のページを探しまくっていた次第でございます。

 ……なんといいますか……根本的に魔法を理解出来ていない私ですので、どうにも飲み込めないといいますか……

 これが料理に関することでしたらすんなりと理解出来るのですが……

 その証拠に、と、申しますか、バテアさんの魔法道具のお店で扱っている品物の中でも、火属性の魔石と魔石コンロはすぐに理解出来ました。
 
 火属性の魔石は火をおこすのに必要ですし、魔石コンロはその火属性の魔石をセットする道具ですからね。

◇◇

 そんな私達が一同に介しまして情報交換をしているのが、毎晩の晩酌の時間でございます。

 毎晩、居酒屋さわこさんを閉店した後、お店の片付けを終えてから行われるこの晩酌ですが、

 魔法道具のお店の店長で、毎日あちこちの町や村、異世界に素材を仕入れに出向かれているバテアさん。
 居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者のみなさんと毎日狩りに出向かれているリンシンさん。
 そして、居酒屋さわこさんを切り盛りしている私。

 この3人がいつものメンバーなのですが、

 ここに、時折、バテア青空市と魔法道具のお店、さらに居酒屋さわこさんのお手伝いまでしてくれているエミリアが加わることも少なくありません。

 エミリアは、私の世界基準ですとまだお酒を飲めない年齢なのですが、こちらの世界基準ですとすでに成人扱いですのでお酒を飲むことが出来るんです。

 もし、私の世界でお酒を飲むことがありましたら、エミリアに関しては少々気をつけておかないと、と、常日頃から思っている次第でございます。

 こんなメンバーで、毎晩わいわいお話をしながらお酒を頂いているのですが、私はこの時間が大好きなんです。

 お仕事に関することよりも、たわいもないお話が多いこの時間なのですが……だからでしょうか、みなさんとの距離がすごく近くなる、そんな気がする時間なんです。

「……今日はね、ジューイが崖から落ちそうになった」
「まぁ!?」
「……ジューイは、獣種だから、寒い時期の狩りは苦手みたい……でも、あのモフモフすごくあったかそう」
「あぁ……わかります!すっごくわかります! 時々無性にぎゅってしたくなっちゃうんですよね」
「……うんうん」
 この日は、リンシンさんと私が、居酒屋さわこさんの常連客の1人であり、居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者のお1人でもございますジューイさんの話題で少々盛り上がってしまいました。

 こうしてざっくばらんに、なんでも語り合える友人がいるというのは本当に嬉しいものですね。

 まだ幼いためか、この時間にはいつも熟睡してしまっているベルも、いつかこの輪に加わる日がくるのでしょうか。
 ふふ……今からその時が楽しみで仕方ありません。

 もっとも、今、ベルがこの輪に加わったら、
「踏み踏み楽しいニャ! 今日もいっぱい踏み踏みしたニャ」
 と、そんな話題ばかりになるような気がしないでもないのですが、それはそれでとっても楽しそうですね。

 そんな事を考えながら、今夜の私達も遅くまで晩酌を楽しんだ次第でございます。

ーつづく
 
しおりを挟む
感想 164

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。