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さわこさんと、バテアさんのはじめての映画鑑賞 その2
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私がバテアさんと一緒に観たのはヒーロー映画でございます。
地球を滅ぼそうとする敵がやってきて、それを地球の複数のヒーローが協力して倒すというものでした。
最初に映画に関する注意事項が流れたのですが、バテアさんはその度にふんふんと頷いてくださっていました。
その内容をしっかり理解してくださっていたようで、映画の最中に私に話しかけてきたり、大きな音を立てたり歓声をあげたりといったことは一切ございませんでした。
最初の頃は、やたらとポップコーンを食べておられたバテアさんなのですが、話が終盤になるとジッとスクリーンを見ておられた次第です。
……えっと、ポップコーンがなくなっていたのも要因の一つかもしれませんけど……
そ、それはともかく、私個人といたしましても、こういったヒーロー集結映画は大好きなものですから、大変楽しく拝見させていただけた次第でございます。
◇◇
映画が終わった後、せっかくですので映画館コーナーのすぐ近くにありますフードコートで少しお茶をしてから帰ることにいたしました。
「いやぁ、なかなかよく出来てたわねぇ、あれで魔法は一切つかっていないんでしょ?」
「そうですね、すべてCGや特撮という技法を用いて撮影されたものですよ」
「なかなかよく出来てたし、話もなかなかおもしろかったわ、うん」
「そうですか、そう言って頂けましたら、私もうれしいです」
少し興奮気味にお話してくださるバテアさん。
そのお話を、私も楽しくお聞きさせて頂いております。
バテアさん的には、空を飛んだり急に移動速度が速くなったり、と、いった主人公達が使用していた特殊能力の描写に興味をもたれたご様子でした。
「どれも実際に魔法を使って撮影したんじゃないかって思ったわ」
そう言って笑っておられたバテアさんだったのですが……
「しかしあれね、さわこから『あれは作り物ですから』って聞いてなかったらうっかり魔法をぶっ放してたかもそしれないわ」
そう言って笑われているバテアさんを拝見いたしまして、
……じ、事前にしっかりご説明しておいてよかった
と、心の底から思った私でございました。
◇◇
「さわこ、これ気に入ったわ。これ買って帰りましょう」
映画館の売店に戻ったバテアさんがそう言って指さされましたのはキャラメルポップコーンでした。
そういえば、映画の最中もすごい勢いで食べておられましたからね、バテアさん。
「そうですね、では少し多めに買って帰りますか」
そう言うと、私とバテアさんは2人して大きいサイズのキャラメルポップコーンを8個購入いたしました。
袋に入れて頂いたのですが、
片手に2袋、両手で4袋、それを2人が同じように持っているものですから、周囲からとても目立ってしまっていた次第です。
すぐにでも魔法袋に入れてしまいたかったのですが、食べ物を持ってトイレに入るのも少々はばかられますし、さてどうしたものかと思案を巡らせていたのですが……そんな私の目に、あるものが飛び込んでまいりました。
はい、そこにあったのは映画の巨大ポップでした。
近日公開予定の妖怪のアニメ映画の巨大ポップなのですが、そのポップの裏に回って顔をのぞかせる場所があるんです。
その裏に回って、ポップから顔をだしている振りをしながら、その間にキャラメルポップコーンをそれぞれの腰につけている魔法袋に入れてしまおう、と、画策した私でございます。
まずは、私がお手本を兼ねて作戦を実行いたしました。
そのアニメが子供向けのものでしたので少々恥ずかしかったのですが、ポップの裏に回って穴から顔をだしつつ、同時にキャラメルポップコーンを収納していきました。
少し恥ずかしかったのですか、バテアさんに向かって笑顔を浮かべながら、どうにか作業を遂行した次第でございます。
さぁ、次はバテアさんです。
私と入れ替わりに、ポップの裏に回ったバテアさんは、さっき私がやったようにポップの穴から顔を出しながら、魔法袋の中にキャラメルポップコーンを収納しておられます。
うん……このまま行けば問題なく……
そう思っていると、
「おや? あなた方は映画の前にお会いした……」
私達の後方からそんな声が聞こえてまいりました。
振り返ってみますと、そこには映画開始前にバテアさんが、私と間違って手を掴んでいた方が立っているではないですか。
「これも何かのご縁でしょう。よかったらそのポップの前に2人で並んで写真をとられませんか? この雪花が撮影してさしあげますよ」
その方は、善意の笑顔をその顔に浮かべながらそう言ってくださっています。
ですが
私達は、あくまでも偽装でやっているだけですのでデジカメもスマホも準備しておりません。
「あ、あの、お気持ちだけで……その、あ、ありがとうございましたぁ」
私は、慌ただしくその方に頭を下げると、戻ってこられたバテアさんの手を掴みまして、大急ぎでその場から退散した次第でございます。
◇◇
そのまま無事、バスの中へ駆け込んだ私達なのですが、出発したバスの中……
「あぁ!?」
バテアさんが大声をあげられました。
「ど、どうしたのですか、バテアさん!?」
「さ、さわこ、大変よ……大事なことを忘れてしまったわ」
バテアさんは、愕然となさっておいでです。
「え、えぇ!? な、何をですか!?」
その様子に、私も思わず目を丸くしながら唾を飲み込んだのですが、
「……アイス屋に、よってないわ」
「……はい?」
「だから、アイス屋に寄り忘れたのよ。こうしちゃいられないわ、ちょっと窓からひとっ飛び戻って買って……」
「バテアさん! ここでは洒落になりませんからぁ! 業務用スーパーでバニラ最中をいっぱい買ってあげますから、今日はそれで我慢してくださいぃ」
窓から飛び出そうとするバテアさんを私は必死に引き留めました。
声こそ、お互いに控えめにしてはいたのですが、周囲のお客様や運転手様には
『あの2人は何をしているんだ?』
と、思われたことと思います……
◇◇
私の度重なる説得が功を奏しまして。
「……まぁ、今回はキャラメルポップコーンも買ったし……」
そう言って、ようやくアイス屋さんをあきらめてくださったバテアさんだったのですが、業務用スーパーでバニラ最中をいつもの三倍、しっかり購入なさっておられた次第でございます。
そんなことがございましたものの、業務用スーパーでの買い物も無事に終えまして、最後に善治郎さんのお店に顔を出した私達は、そこで善治郎さんとしばし雑談してから転移ドアの場所まで戻っていきました。
「この世界も肌寒くなってきてるけど、トツノコンベほどじゃないわね」
「えぇ、そうですね」
そんな会話を交わしながら、私とバテアさんは転移ドアをくぐっていきました。
◇◇
私とバテアさんが帰宅いたしました、夕方少し前の居酒屋さわこさんの店内では、だるまストーブがしゅんしゅんと音を立て続けていました。
エミリアがお湯を補充してくれたみたいですね、タライの中のお湯もいっぱいです。
ベルは、私とバテアさんが出発した際と全く同じ姿勢で、座布団の上で丸くなって眠り続けていました。
唯一違っていたのは、そのお腹の辺りにエンジェさんが横たわっていたことくらいでしょうか。
「さわこ、バテア、お帰りなさい」
私達を最初に出迎えてくれたのは、そのエンジェさんでした。
すると、その声に反応したベルがパチッと目を覚ましまして、
「さーちゃん、バーちゃんお帰りニャ!」
嬉しそうな声をあげながら、牙猫の姿のまま私達に向かって飛んで来ました。
「もう、だからアタシはバーちゃんじゃないって言ってるでしょ、ベル」
苦笑しながらそう言うバテアさん。
そんなバテアさんに、ベルは、
「わかったバーちゃん!」
そう言いながら頷いています。
「まったくも……言った側から……」
これには、バテアさんも苦笑するしかありませんでした。
しばらく、居酒屋さわこさんには私達の笑い声が響いていった次第でございます。
ーつづく
地球を滅ぼそうとする敵がやってきて、それを地球の複数のヒーローが協力して倒すというものでした。
最初に映画に関する注意事項が流れたのですが、バテアさんはその度にふんふんと頷いてくださっていました。
その内容をしっかり理解してくださっていたようで、映画の最中に私に話しかけてきたり、大きな音を立てたり歓声をあげたりといったことは一切ございませんでした。
最初の頃は、やたらとポップコーンを食べておられたバテアさんなのですが、話が終盤になるとジッとスクリーンを見ておられた次第です。
……えっと、ポップコーンがなくなっていたのも要因の一つかもしれませんけど……
そ、それはともかく、私個人といたしましても、こういったヒーロー集結映画は大好きなものですから、大変楽しく拝見させていただけた次第でございます。
◇◇
映画が終わった後、せっかくですので映画館コーナーのすぐ近くにありますフードコートで少しお茶をしてから帰ることにいたしました。
「いやぁ、なかなかよく出来てたわねぇ、あれで魔法は一切つかっていないんでしょ?」
「そうですね、すべてCGや特撮という技法を用いて撮影されたものですよ」
「なかなかよく出来てたし、話もなかなかおもしろかったわ、うん」
「そうですか、そう言って頂けましたら、私もうれしいです」
少し興奮気味にお話してくださるバテアさん。
そのお話を、私も楽しくお聞きさせて頂いております。
バテアさん的には、空を飛んだり急に移動速度が速くなったり、と、いった主人公達が使用していた特殊能力の描写に興味をもたれたご様子でした。
「どれも実際に魔法を使って撮影したんじゃないかって思ったわ」
そう言って笑っておられたバテアさんだったのですが……
「しかしあれね、さわこから『あれは作り物ですから』って聞いてなかったらうっかり魔法をぶっ放してたかもそしれないわ」
そう言って笑われているバテアさんを拝見いたしまして、
……じ、事前にしっかりご説明しておいてよかった
と、心の底から思った私でございました。
◇◇
「さわこ、これ気に入ったわ。これ買って帰りましょう」
映画館の売店に戻ったバテアさんがそう言って指さされましたのはキャラメルポップコーンでした。
そういえば、映画の最中もすごい勢いで食べておられましたからね、バテアさん。
「そうですね、では少し多めに買って帰りますか」
そう言うと、私とバテアさんは2人して大きいサイズのキャラメルポップコーンを8個購入いたしました。
袋に入れて頂いたのですが、
片手に2袋、両手で4袋、それを2人が同じように持っているものですから、周囲からとても目立ってしまっていた次第です。
すぐにでも魔法袋に入れてしまいたかったのですが、食べ物を持ってトイレに入るのも少々はばかられますし、さてどうしたものかと思案を巡らせていたのですが……そんな私の目に、あるものが飛び込んでまいりました。
はい、そこにあったのは映画の巨大ポップでした。
近日公開予定の妖怪のアニメ映画の巨大ポップなのですが、そのポップの裏に回って顔をのぞかせる場所があるんです。
その裏に回って、ポップから顔をだしている振りをしながら、その間にキャラメルポップコーンをそれぞれの腰につけている魔法袋に入れてしまおう、と、画策した私でございます。
まずは、私がお手本を兼ねて作戦を実行いたしました。
そのアニメが子供向けのものでしたので少々恥ずかしかったのですが、ポップの裏に回って穴から顔をだしつつ、同時にキャラメルポップコーンを収納していきました。
少し恥ずかしかったのですか、バテアさんに向かって笑顔を浮かべながら、どうにか作業を遂行した次第でございます。
さぁ、次はバテアさんです。
私と入れ替わりに、ポップの裏に回ったバテアさんは、さっき私がやったようにポップの穴から顔を出しながら、魔法袋の中にキャラメルポップコーンを収納しておられます。
うん……このまま行けば問題なく……
そう思っていると、
「おや? あなた方は映画の前にお会いした……」
私達の後方からそんな声が聞こえてまいりました。
振り返ってみますと、そこには映画開始前にバテアさんが、私と間違って手を掴んでいた方が立っているではないですか。
「これも何かのご縁でしょう。よかったらそのポップの前に2人で並んで写真をとられませんか? この雪花が撮影してさしあげますよ」
その方は、善意の笑顔をその顔に浮かべながらそう言ってくださっています。
ですが
私達は、あくまでも偽装でやっているだけですのでデジカメもスマホも準備しておりません。
「あ、あの、お気持ちだけで……その、あ、ありがとうございましたぁ」
私は、慌ただしくその方に頭を下げると、戻ってこられたバテアさんの手を掴みまして、大急ぎでその場から退散した次第でございます。
◇◇
そのまま無事、バスの中へ駆け込んだ私達なのですが、出発したバスの中……
「あぁ!?」
バテアさんが大声をあげられました。
「ど、どうしたのですか、バテアさん!?」
「さ、さわこ、大変よ……大事なことを忘れてしまったわ」
バテアさんは、愕然となさっておいでです。
「え、えぇ!? な、何をですか!?」
その様子に、私も思わず目を丸くしながら唾を飲み込んだのですが、
「……アイス屋に、よってないわ」
「……はい?」
「だから、アイス屋に寄り忘れたのよ。こうしちゃいられないわ、ちょっと窓からひとっ飛び戻って買って……」
「バテアさん! ここでは洒落になりませんからぁ! 業務用スーパーでバニラ最中をいっぱい買ってあげますから、今日はそれで我慢してくださいぃ」
窓から飛び出そうとするバテアさんを私は必死に引き留めました。
声こそ、お互いに控えめにしてはいたのですが、周囲のお客様や運転手様には
『あの2人は何をしているんだ?』
と、思われたことと思います……
◇◇
私の度重なる説得が功を奏しまして。
「……まぁ、今回はキャラメルポップコーンも買ったし……」
そう言って、ようやくアイス屋さんをあきらめてくださったバテアさんだったのですが、業務用スーパーでバニラ最中をいつもの三倍、しっかり購入なさっておられた次第でございます。
そんなことがございましたものの、業務用スーパーでの買い物も無事に終えまして、最後に善治郎さんのお店に顔を出した私達は、そこで善治郎さんとしばし雑談してから転移ドアの場所まで戻っていきました。
「この世界も肌寒くなってきてるけど、トツノコンベほどじゃないわね」
「えぇ、そうですね」
そんな会話を交わしながら、私とバテアさんは転移ドアをくぐっていきました。
◇◇
私とバテアさんが帰宅いたしました、夕方少し前の居酒屋さわこさんの店内では、だるまストーブがしゅんしゅんと音を立て続けていました。
エミリアがお湯を補充してくれたみたいですね、タライの中のお湯もいっぱいです。
ベルは、私とバテアさんが出発した際と全く同じ姿勢で、座布団の上で丸くなって眠り続けていました。
唯一違っていたのは、そのお腹の辺りにエンジェさんが横たわっていたことくらいでしょうか。
「さわこ、バテア、お帰りなさい」
私達を最初に出迎えてくれたのは、そのエンジェさんでした。
すると、その声に反応したベルがパチッと目を覚ましまして、
「さーちゃん、バーちゃんお帰りニャ!」
嬉しそうな声をあげながら、牙猫の姿のまま私達に向かって飛んで来ました。
「もう、だからアタシはバーちゃんじゃないって言ってるでしょ、ベル」
苦笑しながらそう言うバテアさん。
そんなバテアさんに、ベルは、
「わかったバーちゃん!」
そう言いながら頷いています。
「まったくも……言った側から……」
これには、バテアさんも苦笑するしかありませんでした。
しばらく、居酒屋さわこさんには私達の笑い声が響いていった次第でございます。
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