異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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連載

さわこさんと、クリスマスの忘年会 その2

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「ただいま帰りました」
 バテアさんの転移ドアをくぐって、家に戻った私は大きな声で挨拶をしました。

「お帰りさわこ!」
「さーちゃん! お帰り!」
 そんな私に、真っ先に挨拶してくれたのは、エンジェさんとベルでした。

 2人は、ちょうどうどんを踏み踏みしていたところらしく、カウンターの前に仲良く並んでいました。

「あらあら、2人ったら姉妹みたいね」
 その後ろ姿を見たみはるが楽しそうに笑っています。
「そうね、いっぱい寝るところなんかそっくりかもね」
 それに、バテアさんが相づちをうちます。

「わっせわっせわっせわっせ」
「わっせわっせわっせわっせ」

 その頃には、もう2人は声を合わせながら足を上下させていました。
 息ぴったりに、その足が上下しています。
 体の傾き具合までそっくりですね。

 その後ろ姿にほっこりしていると、

 ベン、ベベベンベン
 ベン、ベベベンベン

 2階から三味線の音が聞こえてきました。
 2人分の音色……

「あ、和音が来てるのね!」
 その音を聞くなり、みはるが2階へ駆け上がっていきました。
 みはるも、和音の親友ですので、和音の三味線の音は承知しているんです。

 私とバテアさんもそれに続いて行きます。

 2階のリビングに、和音とミリーネアさんが、向かい合いながら三味線を一緒に弾いています。
 和音は、三味線を得意にしています。
 そこで、居酒屋さわこさんで弾き語り……で、いいのかな? それを始めた吟遊詩人のミリーネアさんに、
『このお店にはこっちの楽器の方が絶対にあうから』
 と言って、この三味線を熱烈にお勧めしたのがはじまりでして、時折こうして和音がミリーネアさんに三味線をお教えしているんです。

 元々楽器の素質がおありだったのでしょう。
 まだ弾き始めてそんなに期間が経っておりませんのに、ミリーネアさんはとても上手に三味線を弾いておられます。
「先生が……とてもいいから」
 私やバテアさんがお褒めすると、ミリーネアさんはいつもそう言われます。

 それをみはるに伝えると、

「違うよぉ、生徒がいいんだよぉ」
 そう言って笑うのです。

 そんな2人が、今、私達の前で、息のあった三味線を披露しています。
 
 その前にあるコタツには、ワノンさんとラニィさんの姿がございました。
 2人は、ワノンさんがご持参なさったらしいお酒を一緒に飲まれているのですが……
「あれ? ワノンさん、そのお酒って……」
「あ?わかるかい、さわこ。これ、試作品なんだ」
 私の声に、ワノンさんはニカッと笑みを浮かべながらご自分の横に置いて折られた酒瓶を持ち上げられました。

 いつもですと、ワノンさんは『パルマ酒』か『二人羽織』と書かれたラベルが貼られている酒瓶をお持ちになっているんです。

 ですが

 今日、その横におかれておりました酒瓶には、ラベルが貼られてなかったのです。
 それに、そのお酒はワノンさんのお酒ではみたことがない、白い色をしていたんです。

「さわこも、一杯いっとく?」
「わぁ! ぜひぜひ!」

 コタツの上には、忘年会用に、すでにたくさんのコップを準備していましたので、そのひとつを手にとった私は、早速それをワノンさんに差し出しました。

 どくどくどく

 少しねっとりした感じのお酒が、コップに注がれていきます。
 お米のいい香りが鼻に届いてきます。
「どぶろくですか?」
「お、さすがさわこね、和音がそう言ってたわ。アミリア米と、さわこの森の新鮮な水を使って作ったお酒でね、「アミろぐ」って名前にしようと思っているんだ」

 お話の最中に、お酒で一杯になったコップ。
 それを私は、口に運んでいきました。

 まず一口。

 少量口に含んで、舌の上で転がします。
 お米の芳醇な甘みが口の中いっぱいに広がっていきます。

 お米がいいからでしょうね、少量なのにお米の甘みがどっしりと伝わってきました。

 そうなると……次にすることは決まっております。
 私は、コップを口につけると、

 くいっ

 っと、一気に飲み干しました。

 喉を、お米の芳醇な甘みが通過していきます。
 口の中には、お米の匂いが充満していて、それが鼻を突き抜けていく、そんな感じがいたします・

 お腹に到達したお酒。

 同時に、私の下腹のあたりがカーッと熱くなった気がいたします。
 同時に、手先や足、頬まで火照った感じになりました。

 まさにこれ、五臓六腑に染み渡るというやつですね。

「……はぁ、おいし」
 うっとりした表情をうかべながら、私は右手で髪の毛を少しかき上げました。
 この仕草……いいお酒をいただいたときのクセなのかもしれません。

「さわこのお墨付きも出たし、この感じで仕上げようかね」
 そんな私を見つめながら、ワノンさんは笑顔です。
 すぐに、私にお代わりを勧めてくださったのですが……いけませんいけません。

 このままどんどんやってしまいますと、みなさんの料理をおつくりするどころではなくなってしまいますからね。

 ただでさえどぶろくは、口当たりはいいのですがアルコール度数が高いのですから……

 ……あぁ、でも……美味しかったなぁ

◇◇

 2階では、和音とミリーネアさんによる即席の三味線演奏会……まぁ、2人で練習しているだけなのですが、それを肴に、ワノンさん、ラニィさん、バテアさんの3人が、アミろぐで酒盛りをはじめています。

 三味線の音とともに、3人の楽しそうな声が漏れ聞こえております。

 それを聞きながら、私は居酒屋さわこさんの厨房で料理の仕上げをしておりました。

 包丁を手に、お刺身やお鍋の準備を整えていきます。
 いつものように、小皿や一人用のお鍋ではなく、

 お刺身は大皿に、

 お鍋は普通サイズの土鍋に、

 それぞれ盛り付けていきます。

 せっかくの忘年会ですもの、みんなでわいわい楽しくやりたいですからね。

 ガチャ

 包丁を振るっていると、居酒屋さわこさんの扉が開きました。
「……ただいま」
 そう言って入ってきたのは、リンシンさんでした。

 仕掛けていた罠を見に行っておられたリンシンさんなのですが、
「……残念……今日は、駄目だった」
 少しがっかりしたような表情をその顔にうかべておられます。

「そんな日もありますよ」
 私は、笑顔でそう言うと、クッカドゥウドルの焼き鳥を炭火コンロの網の上に並べていきました。
 
 リンシンさんがお好きな、ぽんじりです。
 ぷりぷりで、火にかけると脂がしたたるこの焼き鳥。
 その匂いを嗅ぎつけたのか、それまでしょげておられたリンシンさんは、
「……ぽんじり!?」
 ぱぁっと顔を明るくなさいまして、すぐにカウンター席へ座られたのです。
 
 まるで、子供のように目を輝かせながら、膝の上に両手をのせてお待ちくださっているリンシンさん。

 そうなんです。

 リンシンさんが、狩りの結果が思わしくなくてしょげておられると、私はいつもこうやってぽんじりの焼き鳥を焼いてさしあげて、元気づけているんです。

「寒い中、いつもありがとうございます」
「……さわこのマフラーがある、大丈夫」
 私の言葉に、リンシンさんはにっこり微笑んでくださいました。

 ほどなくして……焼き上がったぽんじりの焼き鳥を10本、お皿にのせた私は
「はい、リンシンさん」
 そう言いながら、それをお渡ししたのですが、

「わ!? 何々!? この焼き鳥ってば、いつものとちょっと違くない!?」
 リンシンさんの横からいきなり顔をのぞかせてきたのは……ツカーサさんではありませんか!?

 お、おかしいですね……今日はお店は休みなんですけど……

「え? あはは、なんか美味しそうな気配がした? みたいなというか……」
 そう言いながら、エヘヘと笑うツカーサさん。
 そのまま、さりげなくぽんじりの皿に手を伸ばされたのですが、
「……これは、駄目」
 そのお皿を、リンシンさんが、横にどけてしまいました。
「え~!? そんなにあるんだし、一本くらいいいじゃん」
 そう言い、食い下がられるツカーサさん。
  
 ですが、リンシンさんは、

「……これは駄目、これはさわこが、私のために焼いてくれた分……だからあげられない」
 真剣な眼差しでそうおっしゃいました。

 すると、ツカーサさんは、
「そっか、それじゃ頂けないわ」
 残念そうにそう言うと、その視線を私に向けてこられました。

「ねぇねぇ、もうこのぽんじりないの? 今度は私のために焼いてよ」
 甘えた声で、私におねだりしてくるツカーサさん。
「はいはい、わかりました」
 私は、苦笑しながら、新しいぽんじりの焼き鳥を準備していきました。

 ……あれ?

 ちょっと待ってください。
 ツカーサさんってば、今日の忘年会のお客さんではないのですが……なぜか、カウンター席にしっかり腰をおろしておられるような気が……

ーつづく
  
 
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