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連載
さわさこさんと、利き酒
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今夜の居酒屋さわこさんなのですが、
「……ふむ……ふむ……」
最近よくお店にこられているエルフのウバシノンノさんが、カウンター席に座ったままじっと壁を見つめておいでです。
その視線の先にあるのは、壁に陳列している日本酒の瓶でした。
「さわこさん、この瓶はすべて別のお酒なのだよね?」
「はい、そうですよ。全部私の国で販売されているお酒なんです」
一応、居酒屋さわこさんの常連客の皆様の間では、私はとっても遠くからやってきたことになっていまして、時折バテアさんの転移魔法で帰省しているってことになっているんです。
なので、この説明で一応問題ないわけなんですよ。
と、いうわけで、私の世界で購入してきているお酒ですのでそういう説明をさせて頂いたわけなのですが、その説明を聞いたウバシノンノさんは、お酒の瓶を眺めながら腕組みしたまま何事か考えを巡らせておいでのようです。
「あの……ウバシノンノさん? どうかなさったのですか?」
「ん?……あぁ、私はお酒に関しては色々詳しいと自負していたのだが、見た事も無いお酒の瓶がこんなに並んでいるのを見ると……なんというか、自分の無知さを痛感してしまってな」
「なら、順番に全部飲んでみたらいいじゃない」
ウバシノンノさんの横に歩みよっていったバテアさんが、ご自分が手になさっているお酒の瓶をウバシノンノさんにお見せしています。
「うむ……そうしたいのは山々なのだが、コップ1杯ずつ飲んでいたらすぐに酔っ払ってしまうではないか……かといって、一回に数杯ずつでは、すべて味わうまでに相当時間がかかってしまうし……うむぅ……」
ウバシノンノさんは、そう言って再び首をひねっておいでです。
「では、利き酒形式で味わってみては如何ですか?」
「利き酒?」
私の言葉に、ウバシノンノさんはさらに首をかしげられました。
◇◇
カウンターには、私が準備した利き酒用のお猪口が並んでいます。
底に青い渦巻き模様があるお猪口です。
「不思議な模様があるのだな」
「えぇ、この底にある青い丸模様はお酒の透明度を見極めるためのものなんですよ」
「透明度?」
「えぇ、お酒に濁りがありますと、この模様の境目がぼやけてみえるんです」
「ふむ……このニホンシュという酒は、濁りが少ない方がよいというわけだな」
「はい、そう言われております」
「わかった。では試していくとしよう」
私の説明に頷いたウバシノンノさんは、カウンターの右端へと移動して行かれました。
お酒は、左から右へ向かって日本の北から南の日本酒を並べております。
今回準備したのは
北海道の辛口純米酒「国士無双」
青森の辛口純米酒「八甲田おろし」
山形の甘口純米大吟醸酒「龍の落とし子」
新潟の超辛口吟醸酒「越乃寒梅」
同じく新潟の甘口大吟醸酒「北雪」
愛知の辛口純米吟醸酒「金鯱」
兵庫の辛口大吟醸酒「大坂屋長兵衛」
広島の甘口純米大吟醸酒「幻」
佐賀の甘口純米大吟醸酒「七田」
とりあえず以上の9本です。
カウンターに、日本酒の瓶を置き、その前に利き酒用のお猪口を置いています。
お猪口は、一本につき複数準備しております。
「せっかくですから、皆様も一緒にいかがですか?」
私がお店にいらしていた冒険者のクニャスさんや、龍人のスーガさん達が
「うわぁ、よかったぁ、参加させてもらえるんだぁ」
「僕も参加したいなぁ、って思ってたところなんですよ」
皆さん嬉しそうに笑顔を浮かべながら早足でカウンターへ寄ってこられました。
どういうわけか店員のバテアさんまで、当然のように参加する気満々のご様子でウバシノンノさんの隣に立っておられます。
「利き酒ですので、お猪口1杯には少しずつ日本酒をいれておりますので、それで味をお試しくださいな。一杯口に含んで口の中で味を堪能されたらこちらの容器に吐き出してくださいね。その後こっちのお水で口をゆすいでから次のお酒をお試しくださいな」
私が利き酒の説明をさせて頂いたのですが……
「え? 吐き出すのか?」
「そんなもったいないわよ」
そう言うと、ウバシノンノさんとバテアさんってば、最初のお猪口を一気に飲み干してしまいました。
「ちょ!? お2人とも、それでは味が……」
「いや、やはり酒は喉越しというか……」
「こんなにチビチビやってたんじゃ、味なんてわかんないわよ」
2人はそう言うと、お猪口一杯にお酒をつぎ直して、それをぐいっと飲み干されました。
すると……
「そうだよね、せっかくのお酒なんだし」
「吐き出しちゃもったいない」
他の皆様も、2人にならってぐいっとお酒を飲み干していかれたのです。
◇◇
そんな感じでスタートしてしまった利き酒ですが……当然、そのまま進んでいきました。
途中から
「こんなお猪口じゃやってられないわよ!」
バテアさんがコップを持ち出して来たものですから、利き酒用のお猪口すら使用されなくなってしまった次第です。
ウバシノンノさんも、
「あはははは、結論、どのニホンシュも素晴らしくうまい!うん、うまい!」
ご機嫌な様子でそう言いながら、日本酒をコップでグイグイ飲み続けておられます。
「さわこ~! 何かおつまみもお願いねぇ」
「あ、こっちには焼き鳥を!」
「こっちは肉じゃがをお願いします」
ついにはそんな声まで上がり始めまして……
「はいはい、喜んで!」
私は苦笑しながら厨房へと移動してきいまして、とりあえず焼き鳥を炭火コンロの上に並べていきました。
こうなってしまいますと、当初の目的だった利き酒どころではありませんね。
でもまぁ、それもまた楽しいですので悪くはないかな、と、思っています。
店内では、すっかり出来上がってしまった皆様が、肩を組んで歌を歌ったりされています。
それに吟遊詩人のミリーネアさんがハープを奏でながら即興でBGMを流しておいでです。
「あれ、今日はまたいつもよりもずいぶんと賑やかだね」
「ホント、何かあったの?」
新たに来店くださった皆様も、店内の雰囲気に最初こそびっくりなさるのですが、いつしか皆さんと一緒にお酒をグイグイ飲み始めまして、そのまま大騒ぎの輪に加わっていかれます。
そんなお客様からの注文をうけながら、私は料理をあれこれ調理しておりました。
リンシンさんとエミリアがそれを運んでくれています。
スーガさんは、日本酒をグイグイのみながらも、
「あ、さわこさん、シメのうどんを三玉お願いしますね」
すっかり酔っ払った様子でそんな注文をくださっています。
こんな感じで、今日の居酒屋さわこさんは閉店時間をまわってもしばらく賑やかでございました。
ーつづく
「……ふむ……ふむ……」
最近よくお店にこられているエルフのウバシノンノさんが、カウンター席に座ったままじっと壁を見つめておいでです。
その視線の先にあるのは、壁に陳列している日本酒の瓶でした。
「さわこさん、この瓶はすべて別のお酒なのだよね?」
「はい、そうですよ。全部私の国で販売されているお酒なんです」
一応、居酒屋さわこさんの常連客の皆様の間では、私はとっても遠くからやってきたことになっていまして、時折バテアさんの転移魔法で帰省しているってことになっているんです。
なので、この説明で一応問題ないわけなんですよ。
と、いうわけで、私の世界で購入してきているお酒ですのでそういう説明をさせて頂いたわけなのですが、その説明を聞いたウバシノンノさんは、お酒の瓶を眺めながら腕組みしたまま何事か考えを巡らせておいでのようです。
「あの……ウバシノンノさん? どうかなさったのですか?」
「ん?……あぁ、私はお酒に関しては色々詳しいと自負していたのだが、見た事も無いお酒の瓶がこんなに並んでいるのを見ると……なんというか、自分の無知さを痛感してしまってな」
「なら、順番に全部飲んでみたらいいじゃない」
ウバシノンノさんの横に歩みよっていったバテアさんが、ご自分が手になさっているお酒の瓶をウバシノンノさんにお見せしています。
「うむ……そうしたいのは山々なのだが、コップ1杯ずつ飲んでいたらすぐに酔っ払ってしまうではないか……かといって、一回に数杯ずつでは、すべて味わうまでに相当時間がかかってしまうし……うむぅ……」
ウバシノンノさんは、そう言って再び首をひねっておいでです。
「では、利き酒形式で味わってみては如何ですか?」
「利き酒?」
私の言葉に、ウバシノンノさんはさらに首をかしげられました。
◇◇
カウンターには、私が準備した利き酒用のお猪口が並んでいます。
底に青い渦巻き模様があるお猪口です。
「不思議な模様があるのだな」
「えぇ、この底にある青い丸模様はお酒の透明度を見極めるためのものなんですよ」
「透明度?」
「えぇ、お酒に濁りがありますと、この模様の境目がぼやけてみえるんです」
「ふむ……このニホンシュという酒は、濁りが少ない方がよいというわけだな」
「はい、そう言われております」
「わかった。では試していくとしよう」
私の説明に頷いたウバシノンノさんは、カウンターの右端へと移動して行かれました。
お酒は、左から右へ向かって日本の北から南の日本酒を並べております。
今回準備したのは
北海道の辛口純米酒「国士無双」
青森の辛口純米酒「八甲田おろし」
山形の甘口純米大吟醸酒「龍の落とし子」
新潟の超辛口吟醸酒「越乃寒梅」
同じく新潟の甘口大吟醸酒「北雪」
愛知の辛口純米吟醸酒「金鯱」
兵庫の辛口大吟醸酒「大坂屋長兵衛」
広島の甘口純米大吟醸酒「幻」
佐賀の甘口純米大吟醸酒「七田」
とりあえず以上の9本です。
カウンターに、日本酒の瓶を置き、その前に利き酒用のお猪口を置いています。
お猪口は、一本につき複数準備しております。
「せっかくですから、皆様も一緒にいかがですか?」
私がお店にいらしていた冒険者のクニャスさんや、龍人のスーガさん達が
「うわぁ、よかったぁ、参加させてもらえるんだぁ」
「僕も参加したいなぁ、って思ってたところなんですよ」
皆さん嬉しそうに笑顔を浮かべながら早足でカウンターへ寄ってこられました。
どういうわけか店員のバテアさんまで、当然のように参加する気満々のご様子でウバシノンノさんの隣に立っておられます。
「利き酒ですので、お猪口1杯には少しずつ日本酒をいれておりますので、それで味をお試しくださいな。一杯口に含んで口の中で味を堪能されたらこちらの容器に吐き出してくださいね。その後こっちのお水で口をゆすいでから次のお酒をお試しくださいな」
私が利き酒の説明をさせて頂いたのですが……
「え? 吐き出すのか?」
「そんなもったいないわよ」
そう言うと、ウバシノンノさんとバテアさんってば、最初のお猪口を一気に飲み干してしまいました。
「ちょ!? お2人とも、それでは味が……」
「いや、やはり酒は喉越しというか……」
「こんなにチビチビやってたんじゃ、味なんてわかんないわよ」
2人はそう言うと、お猪口一杯にお酒をつぎ直して、それをぐいっと飲み干されました。
すると……
「そうだよね、せっかくのお酒なんだし」
「吐き出しちゃもったいない」
他の皆様も、2人にならってぐいっとお酒を飲み干していかれたのです。
◇◇
そんな感じでスタートしてしまった利き酒ですが……当然、そのまま進んでいきました。
途中から
「こんなお猪口じゃやってられないわよ!」
バテアさんがコップを持ち出して来たものですから、利き酒用のお猪口すら使用されなくなってしまった次第です。
ウバシノンノさんも、
「あはははは、結論、どのニホンシュも素晴らしくうまい!うん、うまい!」
ご機嫌な様子でそう言いながら、日本酒をコップでグイグイ飲み続けておられます。
「さわこ~! 何かおつまみもお願いねぇ」
「あ、こっちには焼き鳥を!」
「こっちは肉じゃがをお願いします」
ついにはそんな声まで上がり始めまして……
「はいはい、喜んで!」
私は苦笑しながら厨房へと移動してきいまして、とりあえず焼き鳥を炭火コンロの上に並べていきました。
こうなってしまいますと、当初の目的だった利き酒どころではありませんね。
でもまぁ、それもまた楽しいですので悪くはないかな、と、思っています。
店内では、すっかり出来上がってしまった皆様が、肩を組んで歌を歌ったりされています。
それに吟遊詩人のミリーネアさんがハープを奏でながら即興でBGMを流しておいでです。
「あれ、今日はまたいつもよりもずいぶんと賑やかだね」
「ホント、何かあったの?」
新たに来店くださった皆様も、店内の雰囲気に最初こそびっくりなさるのですが、いつしか皆さんと一緒にお酒をグイグイ飲み始めまして、そのまま大騒ぎの輪に加わっていかれます。
そんなお客様からの注文をうけながら、私は料理をあれこれ調理しておりました。
リンシンさんとエミリアがそれを運んでくれています。
スーガさんは、日本酒をグイグイのみながらも、
「あ、さわこさん、シメのうどんを三玉お願いしますね」
すっかり酔っ払った様子でそんな注文をくださっています。
こんな感じで、今日の居酒屋さわこさんは閉店時間をまわってもしばらく賑やかでございました。
ーつづく
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