私達、何もしてませんからぁ! ~追放された令嬢による逃走狂想曲(エスケープラプソディ)

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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第一章 エスケープゲーム

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 この日、王都は朝から大騒動になっていた。

 城下街を衛兵達が駆け周り続けている。
 その数は尋常ではなく、道という道をくまなく捜索し続けていた。

「いったい何があったんだ?」
「なんでも、第一王子様が襲われたらしいんだ」
「しかも、襲ったのが婚約者のリエネッタ様だって話なのよね」
「じゃあ、あの衛兵達はリエネッタを探しているのか」

 城下街の人々が小声で噂話を交わしている横を、衛兵達が休むことなく移動し続けていた。

◇◇

 横を衛兵が通り過ぎていくのを、リエネッタは内心ドキドキしながら横目で見送っていた。

 ……姿形変化魔法で男に変装しているおかげで、今のところはどうにか気がつかれていませんけれども……これからどうしたらよいのでしょうか……

 城下街の中には、私を匿ってくださる方はまずおられないでしょうし……

 城下街を出ようにも、城門には姿形変化魔法を使用していないかどうかを調べるための水晶検査がございますし……

 急がないと、姿形変化魔法は私が寝てしまうと効果が切れてしまいますし……


 内心の焦りを表情に出さないように気を付けながら街道の隅を歩いているリエネッタ。

 昨夜から一睡もすることなく逃げ続けていたリエネッタ。

 伯爵家の令嬢として、何不自由なく暮らしてきた彼女にとって未経験の事だけに、精神的な疲労はピークに達していた。

 ……あぁ、ゆっくり眠りたい……でも、宿に泊まりたくてもお金がありませんし……

 街道をとぼとぼ歩き続けているリエネッタ。
 その視界に、王城がうつった。

 ……本当なら、今頃は第一王子様の腕の中で目を覚まして、一緒に朝食を食べている頃だったはずですのに……

 小さくため息をつくと、衛兵から身を潜めるように裏街道へと移動しいていく。

 ……なんとかして、私の無実を証明したいのですが……どうしたらいいのでしょうか……やはり、今からでも名乗り出て、身の潔白を訴えるしか……あぁ、何故昨夜の私は、思わず逃げ出してしまったのでしょう……

「……あら?」

 リエネッタは、裏街道に止まっている荷馬車へ視線を向けた。

 ゴホン ゴホン

 ゲホッ ゲホッ

 グフッ グエッ

 多数の咳き込む音。

「……この咳……明らかに普通ではありませんわ」

 学生時代に魔法薬学を学んでいたリエネッタは、荷馬車の扉をそっとあけた。
 荷馬車の中には、鎖でつながれている人達の姿があった。

 全員みすぼらしい衣服に身を包んでおり、荷馬車の中で折り重なるようにして倒れ混んでいる。

 ……皆様、奴隷の方々のようですけれども……顔色がすごく悪いですわ……

 荷馬車の周囲に人はいない。

「この荷馬車の持ち主の方はどこへいかれたのでございましょうか……」

「いませんよ……ゴホン、ゴホン」

「……え?」

 荷馬車の中から聞こえてきた声に、目を丸くするリエネッタ。

「俺達は王都の奴隷オークションにかけられるために連れてこられたのですが……ゴホン……流行病にかかってしまって……他の奴隷に感染しないようにと、ここに捨てられたってわけです……ゴホンゴホン」

「まぁ……なんてひどいことを……」

「しょうがないさ……ゲホゲホ……アタシ達を治療するために金を使ったところで、それに見合うだけの儲けがあるとも思えないしね……ゲホゲホ……」

「どうせ売られたとしても、この体ではまともに働けはしなかったでございましょう……グフッグフッ……ならば、ここで朽ち果てるのも一興かと……さ、あなたも感染しないうちに、この場を離れなさい……グフッ……」

 苦しそうな声をあげる3人。

 その声を聞いていたリエネッタは、意を決したように小さく頷くと、荷馬車の中へ入っていった。

 倒れているのは3人。
 その3人に向かって両手をかざしていくリエネッタ。

 上級回復魔法……

 詠唱するリエネッタ。
 その手の周囲が光り輝き、その輝きが3人を包みこんでいく。

「こ、これは……」

「体が……楽になっていく……」

「貴殿は、一体……」 

 上体を起こし、一斉にリエネッタを見つめていく3人。

 先ほどまで青白かった顔色には生気が戻っており、咳も治まっていた。

 ……こんな事をしている場合ではないのですが……でも、私にはこの方々を見捨てることが出来ません……

 上級魔法を使用しているため、リエネッタの体内の魔力が激しく消耗していく。

「……皆様、お加減はいかがですか?」

「あ……あぁ、あなたの回復魔法のおかげで、すっかりよくなりました……」

「こ、こんな回復魔法を使用出来るなんて……あんた一体何者なんだい?」

「それに、我々を助けても、貴殿にお支払い出来るお金も品物も持ち合わせてはござらぬ」

「見返りなど求めておりませんの。ただ、皆様がご無事であればそれで……」

 そう言うと同時にめまいを覚えたリエネッタは、その場にへたり込んでしまう。

「だ、大丈夫ですか!」

 リエネッタの周囲に駆け寄る3人。

 3人とも亜人らしく、魔獣の耳や尻尾がついているのが見えた。
 しかし、裏街道が暗いのと、灯りのない荷馬車の中のため、その種類までは判別が出来ない。

「えぇ……私は大丈夫ですわ……それよりも皆様は大丈夫でございますか?」

 憔悴しきった顔に、笑顔を浮かべるリエネッタ。

 今は男性の姿に変装しているものの、それでもその顔はかなりやつれていた。

 亜人達が、リエネッタを見つめていると、

「お前達、ここで何をしている」

 荷馬車の中に声が響いた。

 リエネッタが振り返ると、衛兵達が荷馬車の中をのぞき込んでいた。

「今、我々はリエネッタという者を探しているのだが……おい、そこの男」

 衛兵がリエネッタに声をかけた。

「は、はい……なんでしょうか?」

「リエネッタは姿形変化魔法を使用出来る。貴様が性別を変えたリエネッタの可能性があるからな、少し検査をさせてもらう」

 衛兵の後ろから、水晶を持った衛兵が姿を現した。

 ……あの水晶は……姿形変化魔法を使用してないかどうか調べるための……

 立ちあがろうにも、回復魔法を使用したために体に力が入らないリエネッタ。

 その場にへたりこんだまま、呆然とするしかなかった。

ーつづく

 
 


 
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