私達、何もしてませんからぁ! ~追放された令嬢による逃走狂想曲(エスケープラプソディ)

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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こんなプロローグ、断じて認められませんわぁ!

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「……え?」

 リエネッタは、目の前の光景に思わず立ちつくした。

 婚約者である第一王子の寝室。

 この日、第一王子に招かれた伯爵令嬢のリエネッタはいつものように第一王子と一夜を共にするために身支度を調えてきたばかりだった。

 そんなリエネッタの目の前。

 寝室の中では、ベッドに倒れこんでいる第一王子の姿。
 その周囲には鮮血が飛び散っている。

「ど、どういうことなのですかぁ……」

 震える体を自ら抱きしめるリエネッタ。

 室内を見回していく。

 ……ま、窓は開いていますぅ……っていうことは、第一王子を襲った相手は、あの窓から逃げていったのですねぇ……

 その時、

「何かございましたか?」

 寝室内に、メイド達が駆け込んできた。
 皆、第一王子の身の回りの世話をしている者達であり、リエネッタとも面識がある者達ばかりであった。

「だ、第一王子!?」
「こ、これは一体……」

 メイド達は、ベッドに倒れこんでいる第一王子を見つけると、声をあげた。
 その声に呼応し、室内に衛兵達が駆け込んでくる。

「こ、これは一体!?」
「第一王子が襲われているだと!?」
「メイド達は何をしていたのだ!」

 室内に衛兵とメイドの声が錯綜していく。

 そんな中、事態が飲み込めないままその場に立ちつくしているリエネッタ。

「メイド長、室内には他に誰がいたのだ?」
「第一王子以外には、リエネッタ様しか……」


 その言葉と同時に、室内に集まっていた全員の視線がリエネッタへと注がれていく。

「え? あ、あの……わ、私が室内に入った時には、もう……」

 慌てて釈明の言葉を口にするリエネッタ。
 その言葉に嘘はないものの、気が動転しているため声が異常に震えていた。

 そんな中。

 部屋の中に入ってきた一人のメイドが、衛兵長に何かを差し出した。

 ……あれは……

 衛兵長が手にした物に、リエネッタは見覚えがあった。

 ……私が、メイド達に預けた、護身用の短剣……

 よく見ると、その短剣は血に染まっていた。

「……まさか、リエネッタ様がこのような……」
「え? え?……」
 
 困惑するリエネッタ。
 そんなリエネッタの前で、衛兵長が右手を振った。

「皆の者、リエネッタを取り押さえろ」

 その口調は、第一王子の婚約者に対するものではなく、明らかに罪人に対するものになっていた。

「ち……違います……わ、私は何もしていません……」
「事情は後でお聞きします。大人しく我々と一緒に来て頂きましょう」

 衛兵長の冷たい口調を前にして、リエネッタは背筋が冷たくなるのを感じた。

 次の瞬間。

 リエネッタは窓に向かって駆け出すと、そのまま窓の外に身を躍らせた。

「飛行魔法!」

 リエネッタのかけ声と同時に、その体がふわりと宙に舞った。

 王国の中でもトップクラスの魔法の使い手であるリエネッタ。
 とはいえ、そんなリエネッタをしても、上級魔法である飛行魔法で長時間飛行し続ける事は出来ない。

 ……とにかく、まずは家に戻って、お父様とお母様に事情を説明して匿っていただきませんと……

 王城の近くにある屋敷の庭へと着地したリエネッタ。

「来たぞ!」
「第一王子を殺害しようとしたリエネッタだ!」

「え?」


 周囲の声に、目を丸くするリエネッタ。
 その周囲を、鎧に身を固めた衛兵達が取り囲んでいく。

「ど、どうして王城の衛兵が、我が家に……」

 第一王子がベッドに倒れていたのはつい先ほどのことである。
 にも関わらず、すでにリエネッタの実家にまで王城の衛兵が駆けつけていたことに、困惑するリエネッタ。

「リエネッタ……」

 衛兵達の後方から、初老の男性が姿を現した。

「お父様!」
「リエネッタ……」
「お父様、私の話をお聞きください。私は、何も……」
「婚約者である第一王子を殺そうとするなんて……リエネッタ……お前には失望したよ」
「お、お父様、違うんです! それは誤解で……」
「お前のような恥知らずなど、もう娘などではない。大人しく捕まり、罪を償いなさい」

 その顔に怒りの表情を浮かべながら言い放つリエネッタの父。
 その言葉に、呆然とするリエネッタ。

 そんなリエネッタに、衛兵達が駆け寄ってくる。

「ち、違うんです……私は何もしていません!」

 そう言うと、門の外に向かって駆け出していくリエネッタ。

「私、何もしてませんからぁ!」
「なら、何故逃げる!」
「なら、なんで追いかけるんですかぁ!」

 自らに加速魔法を付与したリエネッタは、衛兵達を振り切って街道を駆けていく。
 途中、馬にのった衛兵達が追いかけてくるも、必死になってそれをも振り切っていくリエネッタ。

「なんで……なんでこんなことになってしまったのですかぁ」

 追っ手を振り切るために、銛の中へと駆け込んだリエネッタは、涙目になりながら走り続けていた。


 ……これが、後に「リエネッタの逃走狂想曲」と言われ、語り継がれる物語の序章になろうとは、走り続けているリエネッタは夢にも思っていなかった。

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