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力の差
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膝を突くエリオは中段で構えた剣をそのままに、激しい呼吸の合間でこう言った。
「ありがとう。お前はいい練習台になった」
その声が聞こえたのだろう。ディグラーは視線だけを上げて言い返す。
「お前の心を折って無様に逃げるさまを見てやろうと思ったが、それが仇になっちまった。せめて戦闘不能にするつもりで戦っていれば練習なんてさせずに終わらせられたのにな」
ディグラーの愚行がエリオの勝利というこの結果へと導いた。
「最近、強敵との死闘が続いてね。絶対に勝てないような奴とも対峙した。そのおかげで俺の中で変化があったみたいでさ」
苦境に立ち、それを乗りこえ、強者と出会い、上を目指すことを選んだエリオは、成長の切っ掛けを掴んでいた。
「ソルーダウルフェンとお前との戦いのおかげで、俺は成長できたのかもしれないな」
これは自力で成長の壁を突破する兆しだったのだが、エリオはまだ気付いてはいない。
グレンを支えに立ち上がったエリオは、ふらふらしながらディグラーのそばに近寄っていく。
「ディグラー。黒の荒野に帰るならこの場は見逃してやる。でなければトドメだ」
「なんだと?」
「俺を逃がせば真っ先にお前を殺しに来るぜ」
エリオを睨みながら力の入らない拳を握る。
「真っ先にか。ぜひそうしてくれ」
「なんだと?」
「つまり俺を殺すまで、お前は他の者を殺さないってことだろ?」
「都合よく受け止めやがって」
「俺も敵を殺したいわけじゃない。人を守りたいのさ。だからお前が人を殺さないと約束するのならこの場は見逃してやる」
「見逃すだと? 俺がその約束を守るとでも?」
エリオはアルティメットガールの志に強い影響を受けていた。
「だけど、運が悪ければもっとつらい思いをするかもしれないぞ」
「どういう意味だ?」
「今、この世界にはとんでもない女の子がいるんだ。その子と戦ったらきっとお前は戦いを放棄して故郷で畑を耕して暮らしたくなると思うぜ」
「畑を耕す? なにを言っているかわからんが、次を与えるのなら後悔させてやるまでだ」
ディグラーは震える拳を持ち上げた。
「戦いには敗れたが、俺の目的の一部は達成されたからよしとする」
「達成? おい、ディグラー。目的の一部とはなんだ」
エリオの追及に彼は笑いながら答えた。
「それだそれ。俺の名前をお前の胸に刻むことだ」
その言葉にエリオは目を丸くした。
「とはいえ、勝負に負けたことは腹立たしいぜ。勝利したうえでお前を見下ろしながら命令してやろうと思っていたのによ」
「ならば勝者の俺が敗者のお前に命ずる」
「あぁ?」
エリオの言い分にディグラーは表情を歪ませた。
「エリオ=ゼル=ヴェルガン。俺の名だ。この名前を覚えていたら次も相手をしてやる」
「フルネームかよ。なら俺も教えてやる。ディグラー=グランディス。忘れたら殺す!」
「俺たちとそんなに変わらない名前だな。親近感が湧きそうだ」
「お前こそ。聞いたことがあるような名前だぜ。親戚でもいるんじゃないのか?」
エリオが笑った。
「ソルーダウルフェンに殺されて俺をガッカリさせるなよ」
そこまで言ったディグラーは目を閉じる。
「じゃぁな」
エリオはグレンを鞘に納めて仲間たちのもとに向かった。
仲間たちがいる場所まで戻ってきたエリオは、その戦いを路地から見守る。いつでも飛び出せるようにとグレンを手にしているエリオに気が付かない三人の戦いは、マルクスの剣が人狼の胸を捉えたことで決着を迎えた。
「少しリズムが悪かったね。ザックがふたりに合わせている感じが強かったな」
「最初はもうバラバラでどうなることかと思ったんだが、少しずつ昔の連携を思い出してきたのかどうにかな。たまには三人で合わせたほうが良さそうだ」
ザックがそう返答する横で、マルクスとレミは大の字になって倒れたまま声も出せず、ひたすら激しく息をするのみ。
「エリオも無事だったか。相手は魔族か?」
座ったままエリオに問いかけるザック。ふたりとは違い彼にはまだ余裕があった。
「うん。この人狼を送り込んだ魔族だった。その魔族から少々情報を得たよ。話したいけどまだ町で暴れる奴が残っているようだから応援にいかないと」
「応援とは言ってもなぁ」
マルクスとレミはもう戦える状態ではない。無理をすれば返り討ちにあってしまうと判断したエリオは、ザックとふたりでいくことにした。
「落ち着いたら宿に戻って休んでろ。あとは俺とエリオでどうにかする」
走って行くその背を見てふたりは悔しく思い、これまでの自分たちを振り返る。
「ザックが言ってたな。エリオはもっと強くなるって」
「肩を並べて戦うには冒険者百選に入れるくらいにならないといけないってことよね」
道の先に消えていくエリオ。それを追うザック。そして、大の字で寝ている自分たち。マルクスとレミはこの現状を四人の力の差とその関係に重ねた。
「ありがとう。お前はいい練習台になった」
その声が聞こえたのだろう。ディグラーは視線だけを上げて言い返す。
「お前の心を折って無様に逃げるさまを見てやろうと思ったが、それが仇になっちまった。せめて戦闘不能にするつもりで戦っていれば練習なんてさせずに終わらせられたのにな」
ディグラーの愚行がエリオの勝利というこの結果へと導いた。
「最近、強敵との死闘が続いてね。絶対に勝てないような奴とも対峙した。そのおかげで俺の中で変化があったみたいでさ」
苦境に立ち、それを乗りこえ、強者と出会い、上を目指すことを選んだエリオは、成長の切っ掛けを掴んでいた。
「ソルーダウルフェンとお前との戦いのおかげで、俺は成長できたのかもしれないな」
これは自力で成長の壁を突破する兆しだったのだが、エリオはまだ気付いてはいない。
グレンを支えに立ち上がったエリオは、ふらふらしながらディグラーのそばに近寄っていく。
「ディグラー。黒の荒野に帰るならこの場は見逃してやる。でなければトドメだ」
「なんだと?」
「俺を逃がせば真っ先にお前を殺しに来るぜ」
エリオを睨みながら力の入らない拳を握る。
「真っ先にか。ぜひそうしてくれ」
「なんだと?」
「つまり俺を殺すまで、お前は他の者を殺さないってことだろ?」
「都合よく受け止めやがって」
「俺も敵を殺したいわけじゃない。人を守りたいのさ。だからお前が人を殺さないと約束するのならこの場は見逃してやる」
「見逃すだと? 俺がその約束を守るとでも?」
エリオはアルティメットガールの志に強い影響を受けていた。
「だけど、運が悪ければもっとつらい思いをするかもしれないぞ」
「どういう意味だ?」
「今、この世界にはとんでもない女の子がいるんだ。その子と戦ったらきっとお前は戦いを放棄して故郷で畑を耕して暮らしたくなると思うぜ」
「畑を耕す? なにを言っているかわからんが、次を与えるのなら後悔させてやるまでだ」
ディグラーは震える拳を持ち上げた。
「戦いには敗れたが、俺の目的の一部は達成されたからよしとする」
「達成? おい、ディグラー。目的の一部とはなんだ」
エリオの追及に彼は笑いながら答えた。
「それだそれ。俺の名前をお前の胸に刻むことだ」
その言葉にエリオは目を丸くした。
「とはいえ、勝負に負けたことは腹立たしいぜ。勝利したうえでお前を見下ろしながら命令してやろうと思っていたのによ」
「ならば勝者の俺が敗者のお前に命ずる」
「あぁ?」
エリオの言い分にディグラーは表情を歪ませた。
「エリオ=ゼル=ヴェルガン。俺の名だ。この名前を覚えていたら次も相手をしてやる」
「フルネームかよ。なら俺も教えてやる。ディグラー=グランディス。忘れたら殺す!」
「俺たちとそんなに変わらない名前だな。親近感が湧きそうだ」
「お前こそ。聞いたことがあるような名前だぜ。親戚でもいるんじゃないのか?」
エリオが笑った。
「ソルーダウルフェンに殺されて俺をガッカリさせるなよ」
そこまで言ったディグラーは目を閉じる。
「じゃぁな」
エリオはグレンを鞘に納めて仲間たちのもとに向かった。
仲間たちがいる場所まで戻ってきたエリオは、その戦いを路地から見守る。いつでも飛び出せるようにとグレンを手にしているエリオに気が付かない三人の戦いは、マルクスの剣が人狼の胸を捉えたことで決着を迎えた。
「少しリズムが悪かったね。ザックがふたりに合わせている感じが強かったな」
「最初はもうバラバラでどうなることかと思ったんだが、少しずつ昔の連携を思い出してきたのかどうにかな。たまには三人で合わせたほうが良さそうだ」
ザックがそう返答する横で、マルクスとレミは大の字になって倒れたまま声も出せず、ひたすら激しく息をするのみ。
「エリオも無事だったか。相手は魔族か?」
座ったままエリオに問いかけるザック。ふたりとは違い彼にはまだ余裕があった。
「うん。この人狼を送り込んだ魔族だった。その魔族から少々情報を得たよ。話したいけどまだ町で暴れる奴が残っているようだから応援にいかないと」
「応援とは言ってもなぁ」
マルクスとレミはもう戦える状態ではない。無理をすれば返り討ちにあってしまうと判断したエリオは、ザックとふたりでいくことにした。
「落ち着いたら宿に戻って休んでろ。あとは俺とエリオでどうにかする」
走って行くその背を見てふたりは悔しく思い、これまでの自分たちを振り返る。
「ザックが言ってたな。エリオはもっと強くなるって」
「肩を並べて戦うには冒険者百選に入れるくらいにならないといけないってことよね」
道の先に消えていくエリオ。それを追うザック。そして、大の字で寝ている自分たち。マルクスとレミはこの現状を四人の力の差とその関係に重ねた。
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