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互いの主義

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「アルティメットォォォ、ジャブ! フック! ボディアッパー! そして、ストレェェェェ……」

  腹を押さえてヨタヨタと後ろに下がるゴリバに、アルティメットガールがトドメの攻撃に踏み込んだ。しかし、その一撃を待たずして、ゴリバが自らの魔法で作り出した泥の地面に崩れ倒れてしまう。

「あら、決まらなかったわ」

「ちっ、手加減しやがって」

  その戦いを見ていた片角の魔族が文句を付けた。

「しでかした悪事に対する罰としては軽いけど、これ以上やったら死んでしまうわ」

「そいつを殺さんのか?」

「そうよ。戦闘不能の人をいたぶるとか、トドメを刺すなんてことをしたりしないわよ」

「それは敗者に対する侮辱だ」

「そんな理屈、わたしの主義とは関係ないの」

「生かしておけば、また殺しにくるぞ。貴様が守る人族をな」

「そんなことさせない。何度だって守ってみせる!」

  しばし睨み合うふたり。だがそこには以前のような殺気はなく、事を構える雰囲気もない。そんな静かな睨み合いから目を伏せて片角の魔族は言う。

「ふっ。敗者に対する侮辱などと言ったが、そんなことを本気で思っている奴はほんのひと握り。ほとんどの奴はただの意地で、本心は死にたくないと祈っているだろうぜ」

  そう言ってゆっくりと手のひらを倒れている魔族に向けた。

「バーストウィンドーエッヂ」

  アルティメットガールのケープと髪を激しくはためかせた突風が青い記章の魔族に接触し、破裂すると同時に切り刻んだ。

「あなた、なんてことするのっ!」

  片角の魔族はアルティメットガールのとがめなど気にする様子はない。

「俺にも貴様の主義は関係ない。甘っちょろいことを言っていると人族の被害が増えるぞ。特に青い記章を持つ奴らが相手ならな。言っておくが、貴様や人族のためにやったわけじゃない。そいつは俺の敵でもあっただけのこと」

  息絶える魔族を見ていた彼女は、長いケープをバサリと腕で広げて振り向いた。

「そいつのような奴らに情けはかけず、見かけたらぶっ殺せ。俺の手間も省ける」

「詳しく知らないあなたの因縁に干渉する気はないわ」

  再びふたりは視線をぶつけ合う。

「それで。わたしと戦うつもり?」

  その短い沈黙を破ったのはアルティメットガールだ。棒立ちだが心構えのある彼女に対し、この魔族にその様子はない。

「俺と敵対した者で四度も顔を見せたのは貴様が始めてだ」

「あらそうなの? でも、どっちかというとあなたが顔を見せにきてるんだけどね」

「だまれ!」

  相変わらずの彼女の切り返しに怒声で言い返した魔族は、舌打ちしてから本題に入った。

「俺から奪った境界鏡。あいつが持っているな」

  少し離れた民家の横に寝かせているセミールに視線を移した。

  境界鏡とは、賢者の石が使われた魔道具のこと。もともとはこの魔族が所有していたが、彼がおこなっていた儀式を止めるためにエリオたちが奪って逃げたのだ。

「取り返すというなら阻止させてもらうわ。悪用させるわけにはいかないから」

「悪用か。俺が昇格することが悪だと?」

「だって昇格して魔王になったら困るじゃない。魔族の王って悪者でしょ?」

「他人の物を盗むのは悪者じゃないのか?」

(なんでわたしは魔族に善悪を問われてるの?)

「いちおう、わたしは勧善懲悪かんぜんちょうあくのヒーローだから悪は罰する立場を取っているんだけど、悪い人から正しいことのために奪う行為を罰したりはしないわ」

「その善悪の基準はなんだ?」

「わたしの判断」

  アルティメットガールは即答した。

「言っておくけどわたしの考えが完全正義だなんて思っていないわ。間違うことくらい誰でもあるもの。力なき人たちを救う。それが一番の命題よ」

  彼女は悪を倒すのではなく人々を救うことを目的としている。ハルカが魔法士ではなく白魔術士を志しているのはそのためだ。

「貴様の言い分はわかった。そういうことなら力なき俺も救ってくれるのか?」

「え? あなた今なんて?」

  小声で言った魔族に聞き返したが「ふん」と鼻息荒く返された。

「魔族が攻めてくる要因はお前ら人族にもあるんだぜ」

「それはどういうこと?」

  アルティメットガールの問いには答えず、魔族は翼を広げると空へと昇っていく。

「境界鏡は貴様を倒して奪い返す」

  最後にひと言そう告げて、魔族は飛び去っていった。

(なにやら事情があるんだろうけど魔族同士の争いにまで介入する必要はないわよね)

  変身を解いたハルカは、セミールを背負って仲間たちのところに戻っていった。
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