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第一章

我輩は……

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我輩は一体なんだったのであろうか。
我輩は矮小な一生命体であった。
我輩はあっけなく死んだ。
我輩は死んでも天に召されることは許されなかった。
我輩は…我輩は…。

「我輩は誰だ」
「我輩は我輩だ」
「我輩はどれだ」
「この我輩が我輩だ」
「いや僕が僕だ」
「いいや俺だ」
「違う私よ」
「違う私だ」
「違う」
「違う」
違う

我輩は、我輩は鼠である。
他の誰でもありはしない。
我輩は強者にもてあそばれるだけの弱者だった。
我輩は生まれたときから敗者であった。
我輩は死んだあとも敗者であり続けた。
我輩はもう負けない。
我輩は勝者となる。


人一人、魔物さえ近づかない恐怖の森に揺れていた魂は新たな肉体を得た。
それは生命を無理矢理くくりつけたように歪なものであった。
その姿は彼の魂の姿を表しているようだった。
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