敗北勇者の魔王討伐

よりおん

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敗北。

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 勇者の敗北。
 それは人類にとってまさに青天の霹靂となる出来事だった。
 いままでの約二千年におよぶ勇者と魔王との戦いで勇者が敗北したことなど一度も無かった。たとえ勇者が歴代最弱と呼ばれていようとも勇者は勝利を重ね、人類の栄光を支えてきた。
 今代の勇者も歴代十八人の勇者と比べて際立った力はないが平均的な力をもち、当然いままで通り魔王は討伐されるはずだった。だが敗北した。理由は勇者の研鑽不足だと言われている。



 ̄ ̄ ̄魔王城強制収容所___

 僕はエルグ、エルグ・フォト・オルグ。第十八代目勇者だ。
 身体が重い。魔王につけられた剥奪の呪印により加護を奪われたからだ。
 僕は先日魔王に挑み敗北した。連れだった仲間は死に、僕は捕らえられてしまった。
 あまりにも魔王は強かった。想定していた全てを凌駕する力を持っていて、そして今までの魔王にはない高い知性を持っていた。
 その知性故に今僕は捕らえられて生き延びている。勇者は時代に一人しか存在できないからだ。僕が捕らえられているる限り人類に新たな勇者は現れない。

 耳を澄ますと牢獄に近づいてくる足音が聞こえる。魔族ではない。魔族ならば足音を殺したりはしないだろう。
 エルグが顔をあげるとそこには死んだはずの仲間が立っていた。

「シルク、僕を殺してくれ。人類には勇者が必要だ、僕ではない本当の勇者が」
「エルグ、勇者エルグ。人類にはまだ貴方が必要だ」
「落ちた光では人類は照らせない。僕じゃもうだめなんだ」
「希望である必要はない、正義である必要はない。ただ勝利のみが勇者を勇者たらしめる。魔王ヲルダオは狡猾だ。次の勇者の芽が生える前に摘み取られてしまう。勇者が育つ頃には人類の抵抗力は無くなってしまう。貴方が勝つのだ。貴方が勇者だ」

 シルクは錠を魔法で開けてエルグを解放した。そしてシルクはなにか呪文を唱えるとバキバキと音をたてて姿を変え、エルグと同じ姿になり、エルグと同じ場所に剥奪の呪印をつけた。

「シルク、いったい何をしているんだ!」
「きっとこれが私の役割だった。このために私は呪術の才能を与えられて生かされていたのだと思う。私が身代わりになって時間を稼ぐ。だから力を蓄えるんだ。貴方が魔王ヲルダオを倒すのだ。頼んだぞ勇者エルグ」

 その言葉と共にシルクは錠をかけ直し先程までのエルグのように牢獄に入った。
踏み鳴らすような足音が近づいてくる。看守が帰ってきたのだ恐らく拷問道具を携えて。

「シルク、勝つよ。君の献身は無駄にはしない。必ず魔王ヲルダオを倒して君を救いにいく。だから必ず生きて待っていてくれ」

 返答は無かった。僕はただ勇者として魔王をどんな手を使っても倒すと決めたのだった。



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