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榊 祐太郎 11
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「神谷さんなら、さっき退院されていきましたよ。」
片野医師の声に、あずさの病室の扉を開けようとした日比野医師は、動きを止めて振り返った。
「私も会えませんでした。有縣さんの件で、大分ドタバタしてましたからね。彼女も気を遣って、あの後、さっと退院されていったようですよ。」
「…そうですか。」
「心配…なんですよね?また、今回のような行為をしないか。」
日比野医師は、片野医師の目を見つめて答えた。
「…さっき、鵺野先生に話を聞きました。鵺野先生には、神谷さんと関わったのは、自分を成長させるための運命だと言われました。…私はまだ若手で、中々気持ちに余裕も持てず、患者さんの心に寄り添うということが満足に出来ないでいましたが、神谷さんをきっかけに、色々と気付くことができて…。彼女と関わっていきたいと思ったんです。でも、早速タイミングが悪かったですね。」
「…鵺野先生とお話できて良かったですか?」
日比野医師は、コクンと頷いた。
「神谷さんは、定期的に私の所にも受診に来ます。その時にまた、日比野先生にもお声掛けしますよ。」
「本当ですか。ありがとうございます。」
「あ、いた!片野先生ー!!」
廊下の向こうから呼ぶ声が聞こえ、片野医師が振り返った。片野医師と目が合うと、名前を呼んだ看護師が走って片野医師に向かった。
「探しちゃいましたよ、先生。」
少し息を切らしながら話す看護師。
「何かあったんですか?」
「今さっき榊祐太郎さんから電話がありまして。また電話しますっておっしゃってたんですが、さっきの電話で3回目だったんで…。」
「そうですか、それは申し訳ない。戻りましょう。」
片野医師らは、日比野医師にペコリと頭を下げて、診察室へと向かった。
翌日。
コンコン。
「失礼します。」
ペコリと頭を下げながら、祐太郎が診察室に入ってきた。片野医師は、立ち上がって笑顔で迎えた。
「お帰りなさい。」
片野医師は、祐太郎を椅子に座るように促し、自分も椅子に腰掛けた。
祐太郎はゆっくりと腰を下ろした。
「北海道、いかがでしたか?」
「行って良かったです、どこも素晴らしくて。あ、これ先生にお土産。皆さんで食べてください。」
祐太郎は、ご当地のお菓子が色々入った紙袋を片野医師に手渡した。
「ありがとうございます。本当でしたら、こういうのは受け取れないんですが、榊さんが無事に帰ってきたという証拠として、有り難くいただきます。」
片野医師は、満面の笑みで受け取った。
「…でも結局、紗希に迷惑を掛けてしまって…。」
「…彼女さんは楽しそうでしたか?」
「え、まぁ…そうであってほしいという願望もありますが、あの笑顔は本物だったと…思います。」
「それなら、彼女さんは迷惑だなんて感じてないですよ。…それで、お身体はどうなんですか?」
祐太郎は、苦笑いを浮かべた。
「…正直、大分ツラくなりました。昨日も痛みで寝れなくて。」
片野医師は、頷きながらカルテに今の情報を打ち込んだ。
「あと、実は北海道で、紗希にプロポーズしまして…。」
照れくさそうに話す祐太郎に、片野医師はキョトンとした表情を浮かべた。
「…プロポーズ?…え、つまりご結婚ということですか!?」
片野医師は、ようやく意味を理解でき、興奮したような表情を見せた。祐太郎は、コクンと頷いた。
「そりゃめでたい!良かったですね、本当に。」
「ありがとうございます。…ただ、やはり体調が悪化していることを実感していると、本当に良かったのかって考えてしまうんです。紗希は涙を流してプロポーズを受け入れてくれたんですが、向こうのご両親の事とかを考えてしまうと…。」
「…なら、その悩みや不安は、紗希さんにストレートにぶつけてみてはいかがですか?」
「…へ?」
「頭の中で考えていたって、必ずと言っていいほど、悪い結果ばかりを想像してしまうものです。実際に紗希さんに相談すれば、一瞬で解決する悩みかもしれませんよ。…紗希さんのこと、信用されているんでしょう?」
「…え、えぇ勿論です。…そうか、そうですよね。…うん、そうします。今日、紗希に言ってみます。」
祐太郎は自分に言い聞かせるように呟き、最後は片野医師に笑顔を見せた。
その後、片野医師は祐太郎を放射線科へ繋いだ。
祐太郎が診察室から出ていくと、片野医師は机に向き合い、しばらくぼーっと考え込んでいた。
「…片野先生、大丈夫ですか?」
心配した看護師が片野医師に伺うと、片野医師はハッと我に帰ったようにビクッとした。
「あぁ、すみません。次の患者さんですよね…。」
「次の露木(つゆき)さんはキャンセルになりましたよ。朝お伝えしましたが…先生、大丈夫ですか?榊さんの事ですか?」
看護師が片野医師の表情を伺いながら聞いた。
「…えぇ、放射線科の忍野(おしの)先生に後で詳細を伺ってみますが、中々厳しい状態かもしれません。」
片野医師はそう言いながらゆっくりと立ち上がった。
「この仕事をしていると、つくづく感じますよ。…神様はやはりいないんだなと。もし存在するなら、意地悪な選択ばかりを為さる方だ…。」
片野医師はそう言い残し、診察室を出ていった。
それから2日後の深夜、一通の救急要請が入った。電話を受けた嬉野医師は、電話の対応をしながら、周りに状況を伝えた。
「患者は…サカキユウタロウ、30代男性!状態は……。」
片野医師の声に、あずさの病室の扉を開けようとした日比野医師は、動きを止めて振り返った。
「私も会えませんでした。有縣さんの件で、大分ドタバタしてましたからね。彼女も気を遣って、あの後、さっと退院されていったようですよ。」
「…そうですか。」
「心配…なんですよね?また、今回のような行為をしないか。」
日比野医師は、片野医師の目を見つめて答えた。
「…さっき、鵺野先生に話を聞きました。鵺野先生には、神谷さんと関わったのは、自分を成長させるための運命だと言われました。…私はまだ若手で、中々気持ちに余裕も持てず、患者さんの心に寄り添うということが満足に出来ないでいましたが、神谷さんをきっかけに、色々と気付くことができて…。彼女と関わっていきたいと思ったんです。でも、早速タイミングが悪かったですね。」
「…鵺野先生とお話できて良かったですか?」
日比野医師は、コクンと頷いた。
「神谷さんは、定期的に私の所にも受診に来ます。その時にまた、日比野先生にもお声掛けしますよ。」
「本当ですか。ありがとうございます。」
「あ、いた!片野先生ー!!」
廊下の向こうから呼ぶ声が聞こえ、片野医師が振り返った。片野医師と目が合うと、名前を呼んだ看護師が走って片野医師に向かった。
「探しちゃいましたよ、先生。」
少し息を切らしながら話す看護師。
「何かあったんですか?」
「今さっき榊祐太郎さんから電話がありまして。また電話しますっておっしゃってたんですが、さっきの電話で3回目だったんで…。」
「そうですか、それは申し訳ない。戻りましょう。」
片野医師らは、日比野医師にペコリと頭を下げて、診察室へと向かった。
翌日。
コンコン。
「失礼します。」
ペコリと頭を下げながら、祐太郎が診察室に入ってきた。片野医師は、立ち上がって笑顔で迎えた。
「お帰りなさい。」
片野医師は、祐太郎を椅子に座るように促し、自分も椅子に腰掛けた。
祐太郎はゆっくりと腰を下ろした。
「北海道、いかがでしたか?」
「行って良かったです、どこも素晴らしくて。あ、これ先生にお土産。皆さんで食べてください。」
祐太郎は、ご当地のお菓子が色々入った紙袋を片野医師に手渡した。
「ありがとうございます。本当でしたら、こういうのは受け取れないんですが、榊さんが無事に帰ってきたという証拠として、有り難くいただきます。」
片野医師は、満面の笑みで受け取った。
「…でも結局、紗希に迷惑を掛けてしまって…。」
「…彼女さんは楽しそうでしたか?」
「え、まぁ…そうであってほしいという願望もありますが、あの笑顔は本物だったと…思います。」
「それなら、彼女さんは迷惑だなんて感じてないですよ。…それで、お身体はどうなんですか?」
祐太郎は、苦笑いを浮かべた。
「…正直、大分ツラくなりました。昨日も痛みで寝れなくて。」
片野医師は、頷きながらカルテに今の情報を打ち込んだ。
「あと、実は北海道で、紗希にプロポーズしまして…。」
照れくさそうに話す祐太郎に、片野医師はキョトンとした表情を浮かべた。
「…プロポーズ?…え、つまりご結婚ということですか!?」
片野医師は、ようやく意味を理解でき、興奮したような表情を見せた。祐太郎は、コクンと頷いた。
「そりゃめでたい!良かったですね、本当に。」
「ありがとうございます。…ただ、やはり体調が悪化していることを実感していると、本当に良かったのかって考えてしまうんです。紗希は涙を流してプロポーズを受け入れてくれたんですが、向こうのご両親の事とかを考えてしまうと…。」
「…なら、その悩みや不安は、紗希さんにストレートにぶつけてみてはいかがですか?」
「…へ?」
「頭の中で考えていたって、必ずと言っていいほど、悪い結果ばかりを想像してしまうものです。実際に紗希さんに相談すれば、一瞬で解決する悩みかもしれませんよ。…紗希さんのこと、信用されているんでしょう?」
「…え、えぇ勿論です。…そうか、そうですよね。…うん、そうします。今日、紗希に言ってみます。」
祐太郎は自分に言い聞かせるように呟き、最後は片野医師に笑顔を見せた。
その後、片野医師は祐太郎を放射線科へ繋いだ。
祐太郎が診察室から出ていくと、片野医師は机に向き合い、しばらくぼーっと考え込んでいた。
「…片野先生、大丈夫ですか?」
心配した看護師が片野医師に伺うと、片野医師はハッと我に帰ったようにビクッとした。
「あぁ、すみません。次の患者さんですよね…。」
「次の露木(つゆき)さんはキャンセルになりましたよ。朝お伝えしましたが…先生、大丈夫ですか?榊さんの事ですか?」
看護師が片野医師の表情を伺いながら聞いた。
「…えぇ、放射線科の忍野(おしの)先生に後で詳細を伺ってみますが、中々厳しい状態かもしれません。」
片野医師はそう言いながらゆっくりと立ち上がった。
「この仕事をしていると、つくづく感じますよ。…神様はやはりいないんだなと。もし存在するなら、意地悪な選択ばかりを為さる方だ…。」
片野医師はそう言い残し、診察室を出ていった。
それから2日後の深夜、一通の救急要請が入った。電話を受けた嬉野医師は、電話の対応をしながら、周りに状況を伝えた。
「患者は…サカキユウタロウ、30代男性!状態は……。」
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