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榊 祐太郎 12
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プルルルルルッ。
深夜で寝静まっている片野医師の自宅の電話が鳴り響いた。
片野医師は、3コール目で目が覚め、寝室から一階へと寝惚けながらも急いで駆け降りて電話を取った。
「はい、片野ですが。」
「先生!すみません、こんな時間に。」
片野医師の診療科の看護師からだった。
「さっき、救急科の日比野先生から電話があって、榊祐太郎さんが救急で運ばれてくるようです。」
「え!?榊さんが…。分かりました、今すぐ向かいます。」
片野医師は、直ぐに支度をして車を病院へと走らせた。
一方、病院では調度救急車が到着したところだった。
救急車からは、呼吸器を付けられて横たわる祐太郎が運び出され、必死に祐太郎の名前を呼ぶ紗希が一緒に降りてきた。
「ゆうちゃん!ゆうちゃん!ダメ、頑張ってよぉ!」
「すみません。」
日比野医師は、祐太郎の手を握り続ける紗希を優しく離し、処置室へと急がせた。祐太郎の姿が見えなくなると、紗希は力を失い、その場でしゃがみこんで動けなくなってしまった。
すると、後方から車のライトが紗希を照らした。その車は救急搬送口から一番近い駐車場に車を停めると、運転手が急いで降りてきて、紗希に駆け寄った。
祐太郎が倒れた時、パニックになった紗希が救急車を呼ぶ前に電話を掛けた生駒だった。
「紗希ちゃん!!」
「…生駒さん。」
紗希は生駒の胸に飛び込んで、声を出して泣いた。生駒は、紗希を落ち着かせようと、背中を擦りながら聞いた。
「紗希ちゃん、ゆうたは!?」
「今、中に運ばれた。怖いんです、ゆうちゃんがこのまま…もし、うぅぅ…生駒さぁぁん。」
紗希はもう言葉にならないくらいパニックになっていた。
「大丈夫だ、ゆうたは紗希ちゃんを置いてこんな簡単に逝くやつじゃない。」
「うぅ…どうしよう、うぅぅ。」
「と、とにかく中で待とう。」
生駒は紗希を支えながら立たせ、肩で支えながら中へと入って行った。すると、キョロキョロして慌てた様子の嬉野医師が二人を見つけて駆け寄ってきた。
「あ、榊さんの付き添いの方ですか!?」
生駒がコクンと頷いた。
「ご家族の方ですか?」
“ご家族の方は。”
生駒の中で、一番聞きたくない言葉だった。紗希は、その場で床に崩れ落ちるように座り込んだ。
「…今、こっちに向かっているはずです。もうじき到着するかと…。」
パニックになっていた紗希に代わって、生駒は会社で配られている緊急連絡網で祐太郎の自宅の番号を探し、現状を伝えていたのだ。
「そうですか。とりあえず、こちらへどうぞ。」
嬉野医師は、二人を処置室の前の長椅子に案内すると、再び処置室に入っていこうとした。
「あ、あの…。」
生駒が嬉野医師を引き止め、嬉野医師はクルリと生駒たちの方に振り向いた。
「祐太郎は、どんな状況なんですか?」
「…何とか脈は安定してきましたが、まだ危険な状態です。…最善を尽くします。」
嬉野医師は頭を下げ、処置室へと入っていった。
「ゆうちゃん…。」
項垂れる紗希を、生駒は優しく抱き寄せ、落ち着くように、肩を擦った。
二人には、医師たちからの報告を待つことしかできなかった。
余命1ヶ月。
嘘みたいな突然の祐太郎からの告白に、二人は各々、きっと大丈夫、きっと冗談だと、自分なりに言い聞かせてきた部分があった。しかし、今の現実を目の当たりにし、祐太郎の告白は本当だったのだと、少しずつ実感していた。
それからすぐに、一人の白衣を着た男性が足早にやってきて、処置室の扉をノックすると、そのまま中へと入っていった。
処置室の中では、開いた扉に視線が集中した。
「片野先生。」
「うちの看護師から連絡を貰いまして…容態は?」
片野医師は、日比野医師に質問しながら祐太郎の側に近づいた。
「一旦は安定しました。しかし、まだ予断を許さない状態です。どうやら、ご家族もこちらに向かってくれているようです。」
「祐太郎さんは、自宅で倒れたんじゃ?」
「いえ、救急隊の報告では、恐らく彼女のご自宅かと…。外の長椅子にいらっしゃいます。」
嬉野医師が扉を指差しながら答えた。片野医師は、容態が安定した祐太郎の表情を伺い、安定した呼吸で安らかに眠っていることを確認すると、ゆっくりと処置室の扉から外に出ていった。
片野医師は、目の前に座る紗希と生駒に一礼をした。
「祐太郎さんの主治医の片野です。とりあえずは容態が安定して良かったです。」
「…片野…先生、榊くんから話は聞いています。榊くんは、先生を信頼してました。北海道旅行も先生に許可を貰えたって、喜んでました…。」
紗希が涙ながらに語った。
すると、病院の入口からバタバタと足音が聞こえ、こちらに向かって音が大きくなってきていた。
「ゆうたの家族かな?」
生駒が立ち上がって、処置室の待合から廊下に顔を出した。
父親の幸二と母親のゆかりが、慌てた様子で処置室をキョロキョロ探しながら足早に向かっている姿が見えた。
「榊さんですか?」
生駒が二人に向かって声を掛けると、二人は駆け足で生駒の元に駆け寄った。
「祐太郎は!?祐太郎はどこに!?」
慌てふためくゆかりに、生駒は落ち着くように促した。
「祐太郎さんは今安定されてますので、落ち着いてください。」
生駒の背後から、片野医師が姿を見せ、ゆかりに話し掛けた。
「先生…。先生のせいですよ!!」
ゆかりは、乱暴に生駒をどけると、片野医師に詰め寄った。幸二は、ゆかりの急変に戸惑いながらも、背後からゆかりの肩を握った。
「あなた、離してよ!」
ゆかりは、幸二の手を引き離そうと肩を揺さぶった。
「落ち着け、病院だぞ!」
「だって、先生がいけないのよ!北海道旅行を許可したりするから!無理させたから!…うぅぅ。」
騒がしい声を聞いて、処置室から日比野医師も顔を出した。
日比野医師は、片野医師の前で座り込んで泣いている女性と、周りの困った表情を浮かべる面々を見渡し、状況を理解しようと顔をしかめた。
深夜で寝静まっている片野医師の自宅の電話が鳴り響いた。
片野医師は、3コール目で目が覚め、寝室から一階へと寝惚けながらも急いで駆け降りて電話を取った。
「はい、片野ですが。」
「先生!すみません、こんな時間に。」
片野医師の診療科の看護師からだった。
「さっき、救急科の日比野先生から電話があって、榊祐太郎さんが救急で運ばれてくるようです。」
「え!?榊さんが…。分かりました、今すぐ向かいます。」
片野医師は、直ぐに支度をして車を病院へと走らせた。
一方、病院では調度救急車が到着したところだった。
救急車からは、呼吸器を付けられて横たわる祐太郎が運び出され、必死に祐太郎の名前を呼ぶ紗希が一緒に降りてきた。
「ゆうちゃん!ゆうちゃん!ダメ、頑張ってよぉ!」
「すみません。」
日比野医師は、祐太郎の手を握り続ける紗希を優しく離し、処置室へと急がせた。祐太郎の姿が見えなくなると、紗希は力を失い、その場でしゃがみこんで動けなくなってしまった。
すると、後方から車のライトが紗希を照らした。その車は救急搬送口から一番近い駐車場に車を停めると、運転手が急いで降りてきて、紗希に駆け寄った。
祐太郎が倒れた時、パニックになった紗希が救急車を呼ぶ前に電話を掛けた生駒だった。
「紗希ちゃん!!」
「…生駒さん。」
紗希は生駒の胸に飛び込んで、声を出して泣いた。生駒は、紗希を落ち着かせようと、背中を擦りながら聞いた。
「紗希ちゃん、ゆうたは!?」
「今、中に運ばれた。怖いんです、ゆうちゃんがこのまま…もし、うぅぅ…生駒さぁぁん。」
紗希はもう言葉にならないくらいパニックになっていた。
「大丈夫だ、ゆうたは紗希ちゃんを置いてこんな簡単に逝くやつじゃない。」
「うぅ…どうしよう、うぅぅ。」
「と、とにかく中で待とう。」
生駒は紗希を支えながら立たせ、肩で支えながら中へと入って行った。すると、キョロキョロして慌てた様子の嬉野医師が二人を見つけて駆け寄ってきた。
「あ、榊さんの付き添いの方ですか!?」
生駒がコクンと頷いた。
「ご家族の方ですか?」
“ご家族の方は。”
生駒の中で、一番聞きたくない言葉だった。紗希は、その場で床に崩れ落ちるように座り込んだ。
「…今、こっちに向かっているはずです。もうじき到着するかと…。」
パニックになっていた紗希に代わって、生駒は会社で配られている緊急連絡網で祐太郎の自宅の番号を探し、現状を伝えていたのだ。
「そうですか。とりあえず、こちらへどうぞ。」
嬉野医師は、二人を処置室の前の長椅子に案内すると、再び処置室に入っていこうとした。
「あ、あの…。」
生駒が嬉野医師を引き止め、嬉野医師はクルリと生駒たちの方に振り向いた。
「祐太郎は、どんな状況なんですか?」
「…何とか脈は安定してきましたが、まだ危険な状態です。…最善を尽くします。」
嬉野医師は頭を下げ、処置室へと入っていった。
「ゆうちゃん…。」
項垂れる紗希を、生駒は優しく抱き寄せ、落ち着くように、肩を擦った。
二人には、医師たちからの報告を待つことしかできなかった。
余命1ヶ月。
嘘みたいな突然の祐太郎からの告白に、二人は各々、きっと大丈夫、きっと冗談だと、自分なりに言い聞かせてきた部分があった。しかし、今の現実を目の当たりにし、祐太郎の告白は本当だったのだと、少しずつ実感していた。
それからすぐに、一人の白衣を着た男性が足早にやってきて、処置室の扉をノックすると、そのまま中へと入っていった。
処置室の中では、開いた扉に視線が集中した。
「片野先生。」
「うちの看護師から連絡を貰いまして…容態は?」
片野医師は、日比野医師に質問しながら祐太郎の側に近づいた。
「一旦は安定しました。しかし、まだ予断を許さない状態です。どうやら、ご家族もこちらに向かってくれているようです。」
「祐太郎さんは、自宅で倒れたんじゃ?」
「いえ、救急隊の報告では、恐らく彼女のご自宅かと…。外の長椅子にいらっしゃいます。」
嬉野医師が扉を指差しながら答えた。片野医師は、容態が安定した祐太郎の表情を伺い、安定した呼吸で安らかに眠っていることを確認すると、ゆっくりと処置室の扉から外に出ていった。
片野医師は、目の前に座る紗希と生駒に一礼をした。
「祐太郎さんの主治医の片野です。とりあえずは容態が安定して良かったです。」
「…片野…先生、榊くんから話は聞いています。榊くんは、先生を信頼してました。北海道旅行も先生に許可を貰えたって、喜んでました…。」
紗希が涙ながらに語った。
すると、病院の入口からバタバタと足音が聞こえ、こちらに向かって音が大きくなってきていた。
「ゆうたの家族かな?」
生駒が立ち上がって、処置室の待合から廊下に顔を出した。
父親の幸二と母親のゆかりが、慌てた様子で処置室をキョロキョロ探しながら足早に向かっている姿が見えた。
「榊さんですか?」
生駒が二人に向かって声を掛けると、二人は駆け足で生駒の元に駆け寄った。
「祐太郎は!?祐太郎はどこに!?」
慌てふためくゆかりに、生駒は落ち着くように促した。
「祐太郎さんは今安定されてますので、落ち着いてください。」
生駒の背後から、片野医師が姿を見せ、ゆかりに話し掛けた。
「先生…。先生のせいですよ!!」
ゆかりは、乱暴に生駒をどけると、片野医師に詰め寄った。幸二は、ゆかりの急変に戸惑いながらも、背後からゆかりの肩を握った。
「あなた、離してよ!」
ゆかりは、幸二の手を引き離そうと肩を揺さぶった。
「落ち着け、病院だぞ!」
「だって、先生がいけないのよ!北海道旅行を許可したりするから!無理させたから!…うぅぅ。」
騒がしい声を聞いて、処置室から日比野医師も顔を出した。
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