最期の時間(とき)

雨木良

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榊 祐太郎 14

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祐太郎が目覚めた日の昼過ぎ、ゆかりと紗希が付き添う中、病室に元職場の後輩である天野がやってきた。

「榊先輩、大丈夫ですか?」

天野は床に伏し、以前より痩せて見える祐太郎の姿を見て、涙ぐみながら質問した。

「あぁ、昨日ちょっと天国に逝きかけたけど、今はもう元気だよ、ありがとう。…あっ、天国じゃなくて地獄かもな、なんつって!ハハハハッ。」

祐太郎の冗談に笑ったのは本人だけだった。

「…笑えないよ、ホントに。」

紗希が頬を膨らませながら言った。

「…すみません。それより天野、仕事は大丈夫なのか?」

「仕事なんてしてられませんよ!今朝、生駒先輩に聞いて、仕事で調度この辺りに用事があったんで来ちゃいました。」

「そうか、タケが…。…皆はどうしてる?元気にしてるか?紗希は俺に気を遣って、あまり職場の話はしないようにしてくれてるんだ。」

「生駒先輩を筆頭に、なんか空気がどんよりしてますよ。先輩、ムードメーカーだったから。それに…山本編集長や鶴井係長も先輩のこと、毎日気にかけてますよ。」

「…そうか。あの二人は役職者としてツラい立場だったんだよな。…仕事辞めろって言われて、最初は只管(ひたすら)に苛立ちだけがあったんだけど、冷静になれば、会社側の判断が正しい部分もあるって思うようになったよ。…またあの二人と会うことが出来れば…ちゃんと話がしたいよ。」

天野から視線を逸らしながら話す祐太郎に、天野はニコリと微笑みながら答えた。

「出来ますよ、すぐに。」

「…へ?」

キョトンとした表情を浮かべた祐太郎。同時に、天野は病室から出ていった。

「…紗希、天野は一体。」

「…さぁ。」

紗希も首を傾げた。すると、すぐにまた病室の扉が開いて、天野が隙間から顔を出した。

「天野、一体何なんだ?」

「スペシャルゲストです!」

天野はそう言うと、病室の扉を全開にし、一歩下がって姿を消したかと思ったら、スペシャルゲストの背中をポンッと押し、祐太郎たちに視界に飛び込ませた。

「…山本課長、鶴井班長…。」

祐太郎と紗希は驚いた表情を浮かべた。

「…急にすまない。…お邪魔しても良いかな?」

山本の問い掛けに、祐太郎はコクンと頷いた。

ゆかりは、二人に椅子を用意すると、三人きりにしてあげようと、紗希と天野とともに、病室を出ていった。

「どうぞ、お座りください。」

祐太郎が二人に椅子に座るように促すと、山本は腰を下ろしたが、鶴井は下を向いたまま立ち続けていた。

「…鶴井くん?」

山本が鶴井の背中をポンッと叩いた。

「…すまなかった。」

鶴井は頭を深々と下げた。

「や、やめてくださいよ班長。班長の判断じゃないって分かってますし、それに…今は会社側の判断は正しかったとさえ思ってます。だから…。」

「俺は、あの時の榊の表情が頭から離れない。仕事を辞めるように促した時の…あの時の君の顔が…。」

「ムカつきましたよ。」

祐太郎の冷たい返答に、鶴井は頭を上げた。

「…ムカつきましたよ。そりゃそうでしょ、会社のために尽くしてきたのに、病気と分かるや否や、会社のためにすぐに切り捨てられたんですから。」

二人から視線を逸らしながら話す祐太郎に、山本がフォローに入った。

「…榊くん、確かに君の言うとおりだ。ただ鶴井班長も私も、反対はしたんだ。特に鶴井班長はあの後も、部長に直談判に行ったりもしたんだ。」

「…分かってますよ、お二人が本心じゃないことくらい。ただ、あの時はその…自分もいっぱいいっぱいでしたから。…だから、今はもうムカつくとかはないですよ。むしろ、会社側としては当然の判断だったんだと思ってますから。」

祐太郎は微笑みながら言った。

「すまない、本当に。…またちょくちょく見舞いに来てもいいかな?」

鶴井の質問に、祐太郎はコクンと頷いた。

「次来るときは、高級メロンをよろしくお願いいたします。」

「そりゃ高くつくなぁ。」

「冗談で言ったわけじゃないですからねぇ。ハハハハッ。」

紗希は、病室の扉の外で聞き耳を立てていた。そして、中から聞こえてきた笑い声に安堵の表情を浮かべていた。



「片野先生、最近お疲れですか?顔色が芳しくないようですよ。」

パソコンで次の患者のカルテを見ていた片野医師に、看護師が問い掛けた。

「え?そう…ですかねぇ。確かに、最近は私の患者さんが亡くなることが多くて、心が痛いことはありますけど。」

「夜中も病院にいらっしゃることが多いんじゃありません?救急科の看護師に聞きましたよ。」

「まぁ、患者さんの死は突然ですからね。でも、私は出来るだけ最期には立ち会いたいんですよ。」

「お気持ちはわかりますが、先生の身体が心配なんですよ。ご自分の身体をまずご自愛してくださいよ。…あ、次の患者さん呼びますね。」

看護師はそう言うと、患者を呼びに診察室を出ていった。

「…自分の身体か…。私もやらないといけないですかね。」

片野医師は、カルテを見ながら呟いた。
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