Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

文字の大きさ
44 / 114
第2節 命の条件

(4)

しおりを挟む
注意事項の記述は更に続く。

まず、蘇らせた対象は、不慮の事故や天災、予測し得ない病気、寿命以外で死に至らしめてはならない。

これは簡単に言うと、蘇らせた人間を故意に殺してはいけないということのようだ。また、責任をもって管理する条件が附せられており、蘇らせた対象が、引き取った人間以外の手によって殺された場合は、監督不行により、引き取った人間に罰が与えられるという記載もあった。

これを読むとやはり戦争には不向きのような気がしたが、この章の最後に答えがあった。

゛なお、不測の事態に陥り、自国が窮地に立たされた際に限り、自国ために死者を蘇らせる行為については、この章に記載の罰則の対象外とする。゛

つまり、戦争のために戦死した者を蘇らせ、再び戦地に赴かせて戦死しても、監督不行には当てはまらないということだ。

きっと、リムには状況により様々な設定ができるのだろうと正人は予想した。

他には、一つの対象につき、蘇らせることができるのは一回のみという記載や、蘇らせることが失敗するケースもあり、失敗した場合も一回とカウントされてしまう等の内容が書かれていた。

あまりの衝撃的な内容が多く、一気に目を通してしまい、ふと時計を見ると読み始めてから2時間が経過しており、読む前に淹れたコーヒーはすっかり冷めきっていた。

コーヒーカップを片付けるついでに、スマホに目を向けると、畑からメッセージアプリが届いていることに気が付いた。正人は、その画面を見て、メッセージの中身を読む前に、通夜式会場での畑からの頼まれごとを思い出し、すぐに池畑に電話を掛けた。

「はい、池畑です。」

「あ、こんな時間にすみません、村上です。昨日は通夜にもお越しいただきありがとうございました。」

「いえいえ、こちらこそ昨日はお疲れのところお時間いただきありがとうございました。告別式も全て無事に終わったんですか?」

「はい、お陰様で。実は私の同僚が池畑さんにお会いしたいと言ってまして、お時間つくっていただけないかと。」

「え?私にですか?一体何の件でしょうか。」

「実はその同僚が記事作成のために取材をしていた人が母親に殺される事件がありまして。」

「母親に…え!まさか、群馬の事件ですか!?」

「そうです!さすが刑事ですね。それで、同僚が事件のことで話したいことがあるようでして。」

「管轄外なので捜査状況が詳しくはわかってないのですが、お話を聞く分には勿論大丈夫です。それに、いただいた情報は私から前橋警察署に連絡しときますよ。ただ、明日はたて込んでまして、明後日の午前中なら大丈夫なんで、同僚の方にお伝えください。」

「お忙しい中ありがとうございます。同僚に伝えます。畑という男性なんで、よろしくお願いします。」

「畑さんですね、わかりました。あ、いただいた電話であれですが、明日、南雲由実さんのご両親に話を伺いに行ってきますので。合わせて由実さんの部屋とかを見させていただいて、事件の犯人に繋がるものがないか捜査をしてきます。」

「そうですか。由実の母親は、千里の通夜にも顔を出してくれていました。村上がよろしく言っていたとお伝えください。また捜査が進展したら教えていただきたいです。」

「あ、通夜にいらしてたんですか。わかりました、伝えます。では、畑さんによろしくお伝えください。また。」

正人は池畑との電話が終わると、すぐに畑にメッセージアプリを送った。

この数日の怒濤の出来事が葬儀が終わったことで、一旦区切りを迎えた。正人は、流石に疲れきっていた。

だが、明日には死者を蘇らせるといった、また色々と一筋縄ではいかなそうな世界に飛び込むことになりそうだ。正人は、明日に備えてすぐに風呂に入って寝ようと思った。

正人は、湯船に浸かりながら、水面から上がる湯気をぼーっと眺めていた。実は正人は湯船に浸かることは好きではなかった。

それは、湯船でゆっくり浸かれば浸かるほど、不安や悩みが鮮明に頭に蘇るからだ。

千里が死んでからは、風呂に入りぼーっとしていると、空っぽになった頭の中で、千里の亡き骸を発見した時の記憶が鮮明に蘇ってくるようになった。それから、風呂の曇りガラスの扉の向う側にぼやっと人影みたいなものを感じていた。

そして、今もそれがやってきた。多分、実際は恐怖心から生まれた幻影なのだろうが、正人は、呪いやら死者を蘇らせるやら、非現実的なワードに囲まれた生活で、幽霊やお化けといった存在も有り得なくはないという思考に変化しており、ただただ恐怖に感じていた。

しかしそれは、千里の幽霊に恐怖心を抱いているわけではなく、一人っきりになってしまったという孤独感が恐怖に変化していたのだ。

正人は、カラスの行水のごとく、さっと入浴を済ませた。

スウェットを着て、頭をバスタオルで拭きながらリビングのテーブルの上のスマホを無意識に手に取った。すると、畑からメッセージが届いており、池畑へのアポ取りのお礼と、可能であれば正人に一緒に来てもらいたい旨の内容だった。正人は、“了解”の旨のメッセージを送り、寝室へと向かった。

正人は、ベッドに横になり天井を見ながら考え事をしていた。眞鍋の言う死者を蘇らせるリムという機械が本当に存在するなら、世の中を震撼させる大ニュースであり、雑誌記者として、このニュースを取り上げるべきかどうか。

ただ、きっと眞鍋は許さないだろう、リムはきっと来る戦争に備えて開発されたもの。そして、公表されていないということは、国が極秘で開発を進めているということだ。

眞鍋は恐らく自分の職業は知らないはずであり、明日聞かれた時の反応で判断しよう。

そんなことを考えていたら、正人は知らぬ間に眠りについていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。 五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。 都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。 見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――! 久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――? 謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。 ※カクヨムにも先行で投稿しています

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

処理中です...