Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

文字の大きさ
61 / 114
第5節 決断の瞬間(とき)

(3)

しおりを挟む
「長尾智美…呪いの使い魔…やはり姉である桐生朱美からですかね。」

池畑は、呪いが長尾智美で終わっているとも思えず、世の中のどこまで広がっているのか、想像しただけでも恐ろしく感じていた。

「まだ証拠はないがな。長尾の部屋から呪いの紙が見つかったよ。それも大量にな。知ってるか?呪いの紙。」

池畑たちの前を歩く犬童は、ポケットからくしゃくしゃのレシートを取り出し、呪いの紙に見立ててピラピラ靡かせながら言った。

「えぇ、知ってますよ。…それにその話、どうやら長尾はその紙をインターネットを使って売っていたらしいですよ。」

「…やはりそうか。」

池畑は、犬童を追い越し足を止め、正人と畑に教えられた゛呪いの伝播゛という掲示板サイトを歩きながら犬童と松蔭に見せた。二人は、長尾が呪いの紙を販売しているような内容の書き込みを流し読みした。

「これが本当なら、少なくても数人は購入してそうですね。」

松蔭が画面に釘付けになりながら呟いた。

「あぁ、あの大量の呪いの紙の意味がわかったな。」

「…あの犬童係長、話が少し戻りますが…何故桐生朱美に妹がいた事を隠す必要があるんですか?それがどう呪いの件に影響するんでしょうか?」

犬童は松蔭の質問に少し考え込むと、再び歩き出しながら答えた。どうやら松蔭の顔を見ながら話したくはないようだと池畑は感じた。

「…真実はわからん。俺も上の指示に従っただけだ。だが、恐らく桐生朱美については如何なる情報も出さないという箝口令でも出てるんだろ。…桐生朱美、判決から死刑までの期間の短さは異常中の異常だ。下手な情報でも出て、それが世間が桐生朱美に同調するような内容だったら困るわけだ。特に家族の話は、世間が桐生朱美に同情してしまう内容かもしれない。きっと、警察は桐生朱美を常軌を逸した世紀の殺人鬼という印象のまま死刑に持ち込みたいのさ。…と、話してる間に着いたな。」

犬童は足を止め、目の前の2階建てのアパートを指差した。見た目は最近出来たばかりのような綺麗な現代的な建物だった。先頭を歩く犬童は、2階の角部屋の前で立ち止まり、持っていた鍵でドアを開けた。

「娘も母親も出血が酷くてな、血溜りの跡が大きく残ってるぞ。」

犬童はそう言うと、靴を脱いで部屋に入っていった。池畑と松蔭も続いて部屋にあがった。

1LDKの間取りのアパートは、玄関、短い廊下とあり、廊下には水回りも含めて3つの扉があった。一番奥の扉を開けるとLDKに繋がり、開けた瞬間渇いた鉄錆びのような臭いが漂ってきた。8畳ほどの部屋の半分近い面積分の床に、赤黒い血痕の跡が残っていた。

「うわっ、こんな現場初めて見ました。」

ハンカチで口と鼻を覆いながら松蔭が言った。どうやら松蔭も現場に来たのは初めてだったようだ。

犬童は、フンッと鼻で笑いながら、部屋の奥まで進み、部屋の全景を見れる位置に立った。

「あの血痕の跡の所に二人の遺体があった。長尾智美の遺体の上に、母親の長尾薫の遺体が重なるような格好でな。」

犬童は血溜まりを指差しながら、遺体の位置を説明した。池畑は、手帳を取り出しメモを取りながら犬童に質問した。

「母親の薫が娘の智美を殺して自殺、それはもう間違いないんですよね?」

「遺体や凶器、部屋の状況からみて、間違いないだろうな。」

「近隣の目撃情報とかは?」

「どんな感じだったっけ、松蔭。」

「あ、はい。えーと、実はこのアパートまだ非常に新しいもので、入居者もそんなにいない状況でして。2階は、ここの長尾さんと、反対の道路側の角部屋に一組です。間には3部屋あります。1階はこの部屋の下と、反対の道路側の角部屋とその隣の3組、アパート全体では5組の住民しかいません。それで、住民に聞き取りを行ったんですけど、全員事件当時にこのアパートにはいなかったようで、目撃情報がないんですよ。…あ、そうだ。この部屋の下の人とはまだ接触できてないです。」

松蔭は手帳をペラペラと捲りながら、所々自分の書いた字に首を傾げながら、たどたどしく答えた。

「犯行時間が昼間でしたからね。それで、母親の動機はわかったんですか?」

池畑は今の松蔭の説明をメモしながら質問を続けた。

「いや、確証を得れるものはまだだ。ただ、見ての通り母親とは別居してたわけだが、実は実家も近くにあって、もしかしたら仲の悪さから実家を出たのかもな。」

「…そうですか。確かに母子家庭で実家が近いのに別居ってのは引っ掛かりますね。…あ、そうだ。この家か実家で手紙がありませんでしたか?」

池畑は正人と畑から聞いた時のメモを確認し、手紙のことを思い出した。

「手紙?中身は?」

「具体的な中身はわかりませんが、長尾家と桐生朱美との関係がわかる手紙があるようです。先日、長尾智美さんと面識のある方から情報提供がありまして。その方の話ですと桐生朱美が母親、つまり長尾薫に宛てた手紙だそうです。」

池畑は、雑誌記者からの提供というのは敢えて伏せた。

松蔭は、ペラペラと手帳を見返しながら、手紙についての情報があったか確認したが見当たらなかった。松蔭は犬童に首を横に振ってそのことを告げた。

「この部屋の捜索は一通り終わってるんだが、今回の事件に関連しそうな物は無かったよ。…今日はまだ聞き取りが出来ていないこの部屋の下の住人を中心に、周辺の聞き取りを行おうと思ってな。…もういいか?部屋出るぞ。」

池畑が頷くと、3人は部屋を出て、アパートの一階を目指し階段を下り始めた。

「ところで池畑、お前は仕事で来てんのか?」

「……いえ、プライベート扱いでお願いします。」

「ハッハハハ、やっぱりな。一人っきりだからおかしいと思ったんだよ。てことは、職場には内緒でか。そうでもしないとマズイ理由があんのか?」

犬童はニヤリとしながら聞いた。

「…桐生朱美の件は、誰が真実を知っていて、誰が隠し事をしてるかわかりませんから。今は自分とこの課長にさえ、疑心暗鬼になりそうで。」

「長年仕事してりゃあそういう事件にも遭遇するさ。」

犬童は池畑の肩をポンっと叩くと、長尾の部屋の下の部屋を目指した。

すると、ガラガラガラとスーツケースを引きずる音が、後方のアパートの入口から聞こえ、3人は後ろを振り返った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

私の優しいお父さん

有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。 少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。 昔、私に何があったんだろう。 お母さんは、どうしちゃったんだろう。 お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。 いつか、思い出す日が来るのかな。 思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。

処理中です...