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第5節 決断の瞬間(とき)
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一斉に知らない三人からの目線を浴びた男は立ち止まり、何事だという表情でキョロキョロ目を泳がせた。
「え?あ、あのぅ…僕に何か用ですか?」
男はおどおどしながら池畑たちに聞いた。
「あ、驚かせてすみません。我々はこういう者です。失礼ですが、あの角部屋の白井(しらい)さんですか?」
犬童が警察手帳を見せながら質問した。
「警察の方?…そうですが、何か事件でも?」
「え!?知らないんですか!?」
松蔭が驚いた表情で言った。
「え、どういう…ここで何かあったんですか?数日前から海外出張に行ってまして、今帰ってきたところなんですよ。」
大きなスーツケースの謎が解明された。
「そうでしたか。では驚きになるかと思いますが…。」
犬童は、今回の殺人事件の概要を説明した。
「えぇ!?あの子が死んじゃったんですか?」
「長尾さんとは面識が?」
池畑がメモを取りながら聞いた。
「時々朝に会って簡単な話をするくらいでしたけど…びっくりですよ。しかも母親に殺されたって………あ!そう言えばあの時…。」
白井は何かを思い出したようだった。それを見て池畑が詰め寄るように聞いた。
「何かあったんですか?」
「あ、はい。今聞いた事件の日が、調度この出張の出発日だったんですけど、確か部屋を出た時に、初めて見る女性が二階に上がっていく所でして、目があって会釈したんですよ。年齢的にも彼女の母親くらいだと思います。それで、アパートの入口から出た時に、急に怒鳴り声が聞こえて…。」
「怒鳴り声?どんな内容の?」
事件の重要な手掛かりに感じた池畑は、興奮気味だった。
「…えっと確か、手紙がどうとか。…あ、手紙を返せってのと、そんなの知らないっていう問答でしたよ。一瞬でしたけどね。多分部屋の中に入って扉が閉まったから聞こえなくなったと思いますが、結構な剣幕だったんでびっくりした記憶があります。…ただ、飛行機の時間もあったんで、私はそのまま。今思えば戻って助けたこともできたかもしれないって…そう考えちゃいますね…。」
白井は何故か自分の責任に感じてるようで、元気を無くしていた。
「白井さん。あなたは今回の権では全く何も悪くはないですから!絶対にそんな考えは持たないでください。…お疲れのところ、ご協力ありがとうございました。」
犬童がそう言って一礼すると、池畑と松蔭も頭を下げ、アパートを後にした。アパートを出るや否や、犬童は内ポケットからタバコを取り出し火を付けた。
「犬童係長、公道での喫煙は…。」
松蔭が口を尖らせて注意した。
「一腹だけだ、堅いこと言うな。……さぁ事件が動き出したぞ、身震いするわ。…手紙…か。」
犬童は冷静を装っていたが、池畑が言った通り、単純な事件じゃないかもしれないと確信を得たようで、内面では興奮していた。
(…手紙か。…あ、そいや千代田も確か電話で…。)
池畑は、千代田の電話の内容を思い出し、急いで電話を掛け直した。
ー 神奈川県警 署内 ー
11時30分
「溝口くん、ちょっといいか。」
溝口はトイレの帰りで廊下を歩いていると、突然課長の杉崎に呼ばれ、小さい会議室に通された。
杉崎は、溝口が部屋に入ると会議室の扉を閉め鍵を掛け、椅子に座るように勧めた。杉崎は対面に腰掛け、溝口の顔をじっと見た。溝口は自分が何でこんな状況になっているのか分からず、杉崎と目を合わせずにオドオドしていた。
「プッ、ハハハ。驚かせてしまったかな?いやぁ、すまんすまん。定例の人事評価面談だよ。」
「え!?あっ、あーはいはい…。」
溝口は拍子抜けしてしまった。そんな溝口をおいて、杉崎は、淡々と溝口に評価内容を伝えた。
「…ということだから、まぁこれからも池畑くんと名コンビで頑張ってくれたまえ。」
「はい、ありがとうございました。」
「…あ、そいや池畑くんは今日はどこ行ってんだ?珍しく急に有休を取りたいって言ってきたもんだから、余程の事があったんだろうか。」
杉崎はいつもの明るい口調で淡々と質問してるが、溝口は自分を見つめてくる杉崎の目が怖く感じた。
「え、いやぁ……何で休んでるかは自分は知りません。」
溝口は咄嗟に嘘をついた。自分でも何で嘘を付いたのかわからなかったが、何か直感が働きかけ、杉崎には群馬の件は伏せておくという伝達が体内で起こったようだった。
「…そうか。…ま、有休だからな、理由なんてのはどうでもいいんだがね。…時間ありがとう、戻っていいぞ。」
杉崎は立ちあがり会議室の扉を開け、溝口を見送った。杉崎は、溝口が嘘をつく前のちょっとした間を見逃さなかった。
「…桐生朱美の件…かな。」
「え?あ、あのぅ…僕に何か用ですか?」
男はおどおどしながら池畑たちに聞いた。
「あ、驚かせてすみません。我々はこういう者です。失礼ですが、あの角部屋の白井(しらい)さんですか?」
犬童が警察手帳を見せながら質問した。
「警察の方?…そうですが、何か事件でも?」
「え!?知らないんですか!?」
松蔭が驚いた表情で言った。
「え、どういう…ここで何かあったんですか?数日前から海外出張に行ってまして、今帰ってきたところなんですよ。」
大きなスーツケースの謎が解明された。
「そうでしたか。では驚きになるかと思いますが…。」
犬童は、今回の殺人事件の概要を説明した。
「えぇ!?あの子が死んじゃったんですか?」
「長尾さんとは面識が?」
池畑がメモを取りながら聞いた。
「時々朝に会って簡単な話をするくらいでしたけど…びっくりですよ。しかも母親に殺されたって………あ!そう言えばあの時…。」
白井は何かを思い出したようだった。それを見て池畑が詰め寄るように聞いた。
「何かあったんですか?」
「あ、はい。今聞いた事件の日が、調度この出張の出発日だったんですけど、確か部屋を出た時に、初めて見る女性が二階に上がっていく所でして、目があって会釈したんですよ。年齢的にも彼女の母親くらいだと思います。それで、アパートの入口から出た時に、急に怒鳴り声が聞こえて…。」
「怒鳴り声?どんな内容の?」
事件の重要な手掛かりに感じた池畑は、興奮気味だった。
「…えっと確か、手紙がどうとか。…あ、手紙を返せってのと、そんなの知らないっていう問答でしたよ。一瞬でしたけどね。多分部屋の中に入って扉が閉まったから聞こえなくなったと思いますが、結構な剣幕だったんでびっくりした記憶があります。…ただ、飛行機の時間もあったんで、私はそのまま。今思えば戻って助けたこともできたかもしれないって…そう考えちゃいますね…。」
白井は何故か自分の責任に感じてるようで、元気を無くしていた。
「白井さん。あなたは今回の権では全く何も悪くはないですから!絶対にそんな考えは持たないでください。…お疲れのところ、ご協力ありがとうございました。」
犬童がそう言って一礼すると、池畑と松蔭も頭を下げ、アパートを後にした。アパートを出るや否や、犬童は内ポケットからタバコを取り出し火を付けた。
「犬童係長、公道での喫煙は…。」
松蔭が口を尖らせて注意した。
「一腹だけだ、堅いこと言うな。……さぁ事件が動き出したぞ、身震いするわ。…手紙…か。」
犬童は冷静を装っていたが、池畑が言った通り、単純な事件じゃないかもしれないと確信を得たようで、内面では興奮していた。
(…手紙か。…あ、そいや千代田も確か電話で…。)
池畑は、千代田の電話の内容を思い出し、急いで電話を掛け直した。
ー 神奈川県警 署内 ー
11時30分
「溝口くん、ちょっといいか。」
溝口はトイレの帰りで廊下を歩いていると、突然課長の杉崎に呼ばれ、小さい会議室に通された。
杉崎は、溝口が部屋に入ると会議室の扉を閉め鍵を掛け、椅子に座るように勧めた。杉崎は対面に腰掛け、溝口の顔をじっと見た。溝口は自分が何でこんな状況になっているのか分からず、杉崎と目を合わせずにオドオドしていた。
「プッ、ハハハ。驚かせてしまったかな?いやぁ、すまんすまん。定例の人事評価面談だよ。」
「え!?あっ、あーはいはい…。」
溝口は拍子抜けしてしまった。そんな溝口をおいて、杉崎は、淡々と溝口に評価内容を伝えた。
「…ということだから、まぁこれからも池畑くんと名コンビで頑張ってくれたまえ。」
「はい、ありがとうございました。」
「…あ、そいや池畑くんは今日はどこ行ってんだ?珍しく急に有休を取りたいって言ってきたもんだから、余程の事があったんだろうか。」
杉崎はいつもの明るい口調で淡々と質問してるが、溝口は自分を見つめてくる杉崎の目が怖く感じた。
「え、いやぁ……何で休んでるかは自分は知りません。」
溝口は咄嗟に嘘をついた。自分でも何で嘘を付いたのかわからなかったが、何か直感が働きかけ、杉崎には群馬の件は伏せておくという伝達が体内で起こったようだった。
「…そうか。…ま、有休だからな、理由なんてのはどうでもいいんだがね。…時間ありがとう、戻っていいぞ。」
杉崎は立ちあがり会議室の扉を開け、溝口を見送った。杉崎は、溝口が嘘をつく前のちょっとした間を見逃さなかった。
「…桐生朱美の件…かな。」
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