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第5節 決断の瞬間(とき)
(5)
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同日
ー 北条出版社 ー
8時55分
畑は、昨日、池畑に言いたかったこと全てを告げられたため、スッキリした表情で仕事開始の準備をしていた。
「おはよう、畑くん。」
畑がパソコンを立ち上げていると、足立が出勤してきた。
「おはようございます!」
「なんか今日はいつもより元気だね。あ、昨日の夜、霞ちゃんに会ったんだけど、昨日の昼に霞ちゃんと会ったんだって?あの食堂で。霞ちゃん、畑くんに私のことを守るように言っておいたからって言ってたんだけど、何か変な話してた?」
「いや、特に。…三日三晩U.F.O呼んでた話くらいです。」
畑はニヤニヤしながら答えた。
「そーれ!もう、霞ちゃんのやつぅ。」
してやられた的な表情の足立だったが、畑には可愛く見え、ニヤニヤ度が増してしまった。
「朝からイチャつきは止めてくれ。」
ニョキッと畑の机の資料の隙間から生駒が顔を出した。
「べ、別にイチャついてなんか。」
「おはようございます!」
畑の言葉に被るように、正人が職場にやって来た。生駒は思わず席を立ち上がった。
「正人、もう大丈夫なのか!?」
「あぁ、長いこと悪かった。」
正人はそのまま編集長の山本の席まで行き、挨拶をした。
「編集長、長い間お休みありがとうございました。三戸班長をはじめ皆さんにも色々迷惑おかけしました。」
「堅苦しい挨拶いらないから、席に座れよ。…おかえり。」
三戸班長が優しい口調で返し、正人は自席に着いた。正人は、席に座るなり右隣の生駒の方を向き頭を下げた。
「色々ありがとうな。」
「止めてくれ、俺そういうの弱いから。色々話したいこともあるんだ。後でな。」
正人は頷くと、自分のパソコンを立ち上げて仕事の準備をし始めた。すると、ポケットに入れていたスマホのバイブが鳴り、取り出すと眞鍋からの連絡だった。
正人は、ちょっとすみません、という仕草をして執務室を出て、誰も使っていない応接室に入り電話を取った。
「もしもし、眞鍋です。昨晩はどうもありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ。」
10月23日(前日)
ー 村上宅 ー
19時42分
正人は、池畑との話を終えて、何も考えずにブラブラと街中を散歩しながら、簡単な夕食を済ませて帰宅し、ソファに腰を下ろしたところだった。
部屋の明かりは付けずに、態とカーテンを全開にし、ベランダ窓から射し込んでくる月明かりを眺め、部屋の中は壁時計の針が進む音が小さく響いているだけだった。
どれくらい経っただろうか、月明かりの射し込む角度も大きく変わり、少し風が出てきたのか窓がカタカタと鳴り始めた。
「よし。」
正人は何かを決意したかのように一言呟くと、スマホを取り出し、通話履歴から眞鍋の番号を探し、電話をかけるアイコンを押した。
「もしもし、眞鍋です。」
2コール目で電話を取った眞鍋は、正人が何かしらの決断をして電話をしてきたのだろうと悟ってか、少し緊張感のある声だった。
「こんばんは。夜分遅くにすみません、村上です。」
「いえ。もしかしたら何かしらの結論が出ましたか?」
正人は、少し間を置いてゆっくり話し出した。
「…はい。千里を…妻を生き返らせていただけますか。」
「勿論です!いやぁ、断られると思っていたんですが良かったです。…どのような経緯でこの結論に?」
眞鍋の質問に、正人は再び少し間を置いて、か細い声で答えた。自分の答えに他人が理解を示してくれる自信が無かったからだ。
「…自分を救いたい…からです。色々綺麗事を考えていましたが、単純な話、今の自分の状況がツラいんです。…楽になってもいいんだと背中を押してくれる人がいまして…。」
「…村山さん。あなたはきっと、自分勝手な理由だと感じてますか?声に表れてますよ。…私はあなたの考え、間違っていないと思います。その、背中を押してくれた人って、以前リムの事を教えてあげたいと仰っていた方ですか?」
「はい。その人も近々結論を出してくれると思います。」
「リムを造り上げて良かった。必要に感じてくれる人がいて。では、明日にでもリムの使用日を連絡します。奥様の遺骨の欠片でも結構ですんで、ご用意ください。では。」
眞鍋はそう言うと電話を切った。
正人はスマホをテーブルに置き、仏壇風に飾った棚の前に立ち、マッチで蝋燭に火を灯した。線香に火をつけ左手で仰いで線香の火を消し、香炉に立て、千里の遺影と位牌と骨壺に向かってゆっくり手を合わせた。
正人は心の中で千里に語り掛けた。その時、優しく背後から包まれている感覚になり、千里も何かを語ってくれているような気持ちになった。
ー 北条出版社 ー
8時55分
畑は、昨日、池畑に言いたかったこと全てを告げられたため、スッキリした表情で仕事開始の準備をしていた。
「おはよう、畑くん。」
畑がパソコンを立ち上げていると、足立が出勤してきた。
「おはようございます!」
「なんか今日はいつもより元気だね。あ、昨日の夜、霞ちゃんに会ったんだけど、昨日の昼に霞ちゃんと会ったんだって?あの食堂で。霞ちゃん、畑くんに私のことを守るように言っておいたからって言ってたんだけど、何か変な話してた?」
「いや、特に。…三日三晩U.F.O呼んでた話くらいです。」
畑はニヤニヤしながら答えた。
「そーれ!もう、霞ちゃんのやつぅ。」
してやられた的な表情の足立だったが、畑には可愛く見え、ニヤニヤ度が増してしまった。
「朝からイチャつきは止めてくれ。」
ニョキッと畑の机の資料の隙間から生駒が顔を出した。
「べ、別にイチャついてなんか。」
「おはようございます!」
畑の言葉に被るように、正人が職場にやって来た。生駒は思わず席を立ち上がった。
「正人、もう大丈夫なのか!?」
「あぁ、長いこと悪かった。」
正人はそのまま編集長の山本の席まで行き、挨拶をした。
「編集長、長い間お休みありがとうございました。三戸班長をはじめ皆さんにも色々迷惑おかけしました。」
「堅苦しい挨拶いらないから、席に座れよ。…おかえり。」
三戸班長が優しい口調で返し、正人は自席に着いた。正人は、席に座るなり右隣の生駒の方を向き頭を下げた。
「色々ありがとうな。」
「止めてくれ、俺そういうの弱いから。色々話したいこともあるんだ。後でな。」
正人は頷くと、自分のパソコンを立ち上げて仕事の準備をし始めた。すると、ポケットに入れていたスマホのバイブが鳴り、取り出すと眞鍋からの連絡だった。
正人は、ちょっとすみません、という仕草をして執務室を出て、誰も使っていない応接室に入り電話を取った。
「もしもし、眞鍋です。昨晩はどうもありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ。」
10月23日(前日)
ー 村上宅 ー
19時42分
正人は、池畑との話を終えて、何も考えずにブラブラと街中を散歩しながら、簡単な夕食を済ませて帰宅し、ソファに腰を下ろしたところだった。
部屋の明かりは付けずに、態とカーテンを全開にし、ベランダ窓から射し込んでくる月明かりを眺め、部屋の中は壁時計の針が進む音が小さく響いているだけだった。
どれくらい経っただろうか、月明かりの射し込む角度も大きく変わり、少し風が出てきたのか窓がカタカタと鳴り始めた。
「よし。」
正人は何かを決意したかのように一言呟くと、スマホを取り出し、通話履歴から眞鍋の番号を探し、電話をかけるアイコンを押した。
「もしもし、眞鍋です。」
2コール目で電話を取った眞鍋は、正人が何かしらの決断をして電話をしてきたのだろうと悟ってか、少し緊張感のある声だった。
「こんばんは。夜分遅くにすみません、村上です。」
「いえ。もしかしたら何かしらの結論が出ましたか?」
正人は、少し間を置いてゆっくり話し出した。
「…はい。千里を…妻を生き返らせていただけますか。」
「勿論です!いやぁ、断られると思っていたんですが良かったです。…どのような経緯でこの結論に?」
眞鍋の質問に、正人は再び少し間を置いて、か細い声で答えた。自分の答えに他人が理解を示してくれる自信が無かったからだ。
「…自分を救いたい…からです。色々綺麗事を考えていましたが、単純な話、今の自分の状況がツラいんです。…楽になってもいいんだと背中を押してくれる人がいまして…。」
「…村山さん。あなたはきっと、自分勝手な理由だと感じてますか?声に表れてますよ。…私はあなたの考え、間違っていないと思います。その、背中を押してくれた人って、以前リムの事を教えてあげたいと仰っていた方ですか?」
「はい。その人も近々結論を出してくれると思います。」
「リムを造り上げて良かった。必要に感じてくれる人がいて。では、明日にでもリムの使用日を連絡します。奥様の遺骨の欠片でも結構ですんで、ご用意ください。では。」
眞鍋はそう言うと電話を切った。
正人はスマホをテーブルに置き、仏壇風に飾った棚の前に立ち、マッチで蝋燭に火を灯した。線香に火をつけ左手で仰いで線香の火を消し、香炉に立て、千里の遺影と位牌と骨壺に向かってゆっくり手を合わせた。
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