Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

文字の大きさ
74 / 114
第2節 拡散

(3)

しおりを挟む
ー 北条出版社 ー

10時40分

正人は、眞鍋に電話をするため、出版社の屋上に来ていた。天気も良く、透き通るような青空の下で、遠くの山を眺めながら電話を掛けた。

「はい、眞鍋です。」

「おはようございます、村上です。明日の件なんですが、前に話した人物を一緒に連れていっても大丈夫ですか?」

「あぁ、以前、村上さんがおっしゃってた方ですね。それは調度いいです。実は、リムは二人同時に生き返らせることが可能ですので、こちらとしても貴重なサンプルになります。是非お願いします。」

「ありがとうございます。………あの…。」

正人は、少し沈黙した。

「どうしました?」

「…その…妻が…生き返った際、冷静さを保てなくなってしまったらごめんなさい、と先に謝っておこうかと。」

「そんなの当たり前のことですよ。お気になさらずに。お連れの方にも先日私が申した注意事項だけはお伝えください。では、明日よろしくお願いします。」

眞鍋は明るく答えて、電話を切った。

正人は、スマホをポケットに仕舞うと、安全柵の金網まで歩き、遠くの景色を眺めた。明日妻が生き返ることで、この青空のような気持ちに生まれ変われたら…なんてことを考えていると、背後から急に名前を呼ばれた。

「村上さん!お疲れ様です。」

振り返ると畑が立っていた。

「なんだ、畑か。どうした?びっくりするじゃないか、急に。」

「すみません、二人で話がしたくてチャンスを伺っていました。来週群馬に行く話ですが、自分の考えを伝えておきたくて。」

畑はそう言うと、遠くの景色を見つめながら、話を続けた。

「自分はkiriこと長尾智美さんは…呪いで殺されたと思っています。」

急に本題を切り出した畑。池畑は、畑の言葉に驚いた。

「……呪い!?長尾さんは母親に殺さんだろ?」

畑は首を横に振りながら反論した。

「タイミング的に出来すぎですよ。しかも、桐生朱美の妹ですよ。何か特別なことがあるに違いないです。俺はそれを突き止めて記事に書きたい。」

「まぁた、そんな警察みたいなこと言ってると、荒木さんや生駒にどやされるぞ。」

二人は金網から遠くの景色を眺めながら、互いの表情は全く見ずに話を続けた。

「…運命なんですよ。無数にあるインターネット掲示板投稿者から、僕が長尾智美を選んでしまったのは。」

池畑は、畑の言葉に苦笑いを浮かべた。

「ドラマの見すぎだろ。…お前がのめり込んでしまう理由もわからんでもないが、皆心配してるんだ。お前や足立が、高遠さんみたいな結末にならないかを。」

「…だから、冷静な村上さんに同行をお願いしました。でも、村上さんは、俺じゃなく足立さんのこと、守ってあげてください。」

「………どういう意味だ!?」

正人は会話を始めてから、初めて畑の方を向いたが、正人の視界に畑の姿はなかった。正人は慌てて逆方向に振り向くと、屋上への出入口に向かって歩き出している畑の姿があった。

「………………お前も守るさ。」

正人は畑に向かって呟くと、再び遠くの景色に視点を移し、しばらく柔らかい風を感じてから戻ることにした。

ー 科学研究所 ー 

10時45分 

池畑たちが帰ってから数分後に、府川が買い物袋をぶら下げて研究室に帰ってきた。

「あれ、府川先生、どこ行ってたんですか?もう終わっちゃいましたよ。」

調度スクリーンの片付けをしている瀬古が少し不機嫌そうに言った。 

「え!あ、午前中でしたっけ!?すみません、勘違いしてました。……それで、無事に?」

府川は買い物袋を床におき、恐る恐る瀬古に聞いた。

「まぁ、無事と言えば無事に終わりましたけど。所長も大分ご興味お持ちのようで、残りの懸案事項も早く結果を出したいわ。」

一通り片付けが終わった瀬古は、タバコを吸うため研究室を出ていった。府川はそれを見送ると買ってきた袋からカップ麺を取り出し、電気ポットを使ってお湯を入れ始めた。

「さっきの、わざとでしょ?府川先生。」

お湯を入れている府川の背後から存在感を消した状態で志澤が近づき、小さめの声で言った。

「わぁ!もう驚かせないでくださいよ、志澤先生。」

「なぁ、わざとでしょ。」

志澤が府川の肩を突っつきながら聞いた。

「………何のことですか。」

「さっきの報告会にいなかった件に決まってるでしょ。」

お湯を入れ終えた府川は、自席に向かいながら、志澤の質問に答えた。

「本当に忘れてただけで…。」

「本当は府川先生だもんね、あの症例見つけたの。」

志澤が府川の答えに喰い気味で追い討ちをかけた。志澤が自席に座った府川の耳元で囁くように続けた。

「全部持ってかれましたよ。さっきの報告会では府川先生の名前は一切出ていませんでした。…手柄は府川先生なのに……。」

「…自分は、おかしな点を見つけただけで、それを詳しく調べる流れにしてくれたのも、仮説を立ててくれたのも瀬古先生ですから。」

府川は、しつこい志澤にイラつき、少し声量を上げて答えた。

「お人好しですね。……だから、瀬古先生に抜かれちゃうですよ。ま、それは私もですがね。…女性は武器がありますしね…ハハ。」

志澤はそう言い放すと、研究室を出ていった。志澤の話し方にイライラした府川は、誰も居ないことを確認し、思いっきり机を握り拳で叩いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。 五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。 都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。 見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――! 久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――? 謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。 ※カクヨムにも先行で投稿しています

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

処理中です...