Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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第3節 震撼

(1)

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10月26日

ー 横浜駅 ー

8時53分

正人と池畑は、眞鍋との待ち合わせ場所に時間前に到着していた。二人は各々、千里と佐倉に着せる洋服などを持ってきているため、いつもより荷物が多かった。

池畑は、少し緊張していた。これから自分たちが行おうとしていることは、非現実的なことであり、まずは本当の話なのかという点。そして、本当であれば、佐倉の生死に決着がつくことになる。

仮に、佐倉がどこかで命を落としているなら、その亡き骸を自分で見つけ、佐倉の死を受け入れる覚悟で生きてきた。なので、今日の機械によって、佐倉の生死がハッキリしてしまうのは、本来の希望ではなかった。しかし、自身の心が限界を迎えていたことも分かっていた。

暫く沈黙が続いた後、池畑が小さな声で語り掛けた。

「村上さん、正直今、私は複雑な気分です。佐倉が生き返りに失敗すればまだこの世に生きている証明になる。でも、生き返った場合は、彼女の死を認めたことになる。…勿論、前者を望むべきなのはわかっているつもりなんですが、その場合はまた彼女を捜す旅が始まることになります。…この一年間で、私の心身は見た目以上にズタボロで、正直疲れています。…後者であれば一区切りがつく、そんな考えが頭を過る。……自分が恥ずかしいですよ。」

正人は、首を横に振りながら答えた。

「そんなことはありませんよ。あなたはずっと辛い思いをしてきた。私はあなたに励まされました。今度は自分の番だと思い、あなたにこの話をしました。言い方が悪いかもしれませんが、私は後者であって欲しい。あなたは今日で救われるべきだ。」

「……佐倉が死んでることが、自分にとって救い……複雑な気分です。でも、否定できない自分もいる。……とにかく今日は、朝から気持ちが落ち着きませんよ。」

正面を見ながらそんな話をしていると、正人の視界に、こちらに向かって歩いてくる眞鍋の姿が入ってきた。

「来ましたよ、池畑さん。」

眞鍋はゆっくり辺りを見回しながら駅に近づき、正人が手を振っている姿を見つけると、急ぎ足で二人の元へ来た。

「お待たせしました。…あっ、あなたが池畑さんですか?はじめまして、眞鍋です。」

眞鍋は名刺を差し出した。

「はじめまして、池畑です。神奈川県警の刑事をしています。今回、村上さんから話をいただきました。初めは驚きましたが、私にとっても、とても意味があるものと思い、今回の結論に達しました。よろしくお願いいたします。」

眞鍋は笑顔で頭を下げた。

「場所はどちらで?」

正人が聞いた。

「ここからタクシーで 20分くらいの郊外です。ご移動を一緒にお願いします。」

眞鍋はそう言うと、タクシー乗り場へと二人を連れて行き、通常の待ち列とは離れた場所でタクシーを待ち始めた。

「あの……待ち列はあっちでは?」

正人の質問に、ニコッと微笑むだけで、また正面を向く眞鍋に、池畑は少し顔をしかめた。それからすぐ、眞鍋が手を挙げてた訳ではないが、目の前に一台の黒塗りのセダン車が停まった。正人と池畑は、眞鍋の誘導で後部座席に乗り込み、眞鍋は助手席に座った。後部座席の扉が自動で閉まると高齢の男性運転手が二人に振り向き、挨拶をした。

「本日はご利用ありがとうございます。運転手の柳田(やなぎだ)です。では、発車しますので、安全のためシートベルトの着用をお願いします。」

タクシーは行き先も告げてないのに走り出した。正人は、池畑にだけ聞こえるように耳もとで囁いた。

「普通のタクシーじゃないですよね?」

「えぇ。…用心した方が良いかもしれ… 。」

言葉の途中で池畑は、意識を失ったように首を下に垂らした。その様子を見て正人は焦り、助手席の眞鍋に手を伸ばした。

「眞鍋さん、一体どうゆう…。」

正人も言葉の途中で意識を失ってしまった。正人が最後に見たのは、ガスマスクをしている眞鍋が振り返った姿だった。 


「…てください。…きてください。……起きてください。」

段々と大きくはっきり聞こえてくる声がし、正人はゆっくりと瞼を開いた。

目が覚めると、高級そうなソファに眠らされていた。慌てて飛び起き、辺りを見回すとすぐ横にも同じソファがあり、池畑が眠っている姿があった。

そこは、何とも特異な場所だった。

テニスコート三面分程の敷地を有する密閉された倉庫のような場所で、大きな木箱や布に隠された謎の物体など、様々な物が無造作に置かれていた。そして、目に見える景色とは反して、全く埃っぽくなく、温度や湿度も快適な空間だった。

更に、異質なのは、正人たちがいる場所だった。そこは、まるで映画撮影にでも使われるような部屋のセットが組まれており、正人と池畑は、そのセットのような空間に眠らされていた。

部屋のようだが、壁があるのは背面だけで、目の前には前記した倉庫の景色が広がり、勿論天井は、部屋の天井では無く、はるか上に倉庫のトタン性の屋根が見えていた。

キョロキョロと辺りを見回す正人に、背後から声が掛けられた。

「あ、村上さま、お目覚めですか。手荒なまねをし、ご容赦ください。この場所を第三者に漏らすわけにはいかなかったもので。」

正人が声のする方に振り向くと、ソファの後ろに置かれたダイニングテーブルで、ゆったり紅茶を入れている眞鍋の姿があった。
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