Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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第4節 満悦

(4)

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正人は、失神した母親をおぶって運ぶ事にした。千里は、何故ゆかりが倒れたのかが分からず、病気だと思い慌てふためいていた。千里は、救急車を呼ぼうとスマホを手に取ったが、正人は大丈夫だからと全力で止めた。

正人は、ゆかりを家の中まで運び、ソファに下ろした。

「ごめんよ、母さん。驚かせて。」

正人は息を切らせながら、ゆかりの頭を撫でた。

「と、とりあえず、私、下に置きっぱなしの買い物したビニール袋取ってくるわね。」

千里はそう言って部屋を出ていった。

「千里、ちょっと待って!」

正人は、千里の姿を誰かに見られたら困るので行って欲しくなかった為呼び止めたが、千里の方が一歩早かった。

「はぁ…大丈夫かな。」

正人は、誰もいない玄関を見つめながら言った。

「なぁあにが大丈夫なんだ。」

急に声がして驚き、声がした方を向くと、ゆかりがソファに腰掛けて正人を睨んでいた。

「母さん!気が付いたのか、良かった。」

「とっくに気が付いてるよ。そんなことより、正人、あれはどういうことだい?」

どうやら、ゆかりは千里が居なくなるタイミングを待っていたようだった。正人は意を決して、鞄からリムのマニュアルを取り出し、ゆかりに渡した。

「これ、持って帰って父さんと見てくれ。」

ゆかりは、マニュアルを受け取ると、ペラペラと開きながら流し読みするが、内容を理解できなかった。

「…これは、何なんだい?」

正人は、ゆかりの隣に腰掛け、マニュアルの最初に書かれている、リムの目的を指差しながら答えた。

「…簡単に言うと、人間を生き返らせる機械で千里を生き返らせたんだ。」

ゆかりは、正人の言葉に衝撃を受け、マニュアルを床に落とした。

「…正人…あんた、確か前に母さんにそんな話をしてたわよね。そんな…現実だったなんて…こんなことが。」

動揺するゆかりに、正人は土下座をした。

「母さん、今はこれで納得してくれ。今度ちゃんと話すから。あと、千里には事故に遭って永い眠りに付いていたと嘘を付いている。今の千里は由美が死んで、自分が自殺したことを全く覚えてないんだ。今はまだ黙っていてあげたい!時が来たらちゃんと話すから。母さん、この通りだ。」

正人は、頭を床に付けたまま、微動だにしなかった。

「……正人、頭をお挙げ。…わかった。もうすぐで千里さんも帰ってくるだろうし、今は何も聞かないわ。でも、近いうちにちゃんと話なさいよ。向こうのご両親にもね。」

ゆかりはそう言うと立ちあがり、鞄を手にとって玄関に向かって歩き出した。

「もう帰るのか?」

「…当たり前でしょ。母さん、今はとても演技なんてできないわ。まだ幽霊だと思っちゃう。」

母親は手を振って、玄関から出ていった。

「ごめん、ありがとう、母さん。」

玄関が閉まると、ゆかりは深い溜息を付いた。

「人の命って…こんなに軽いものなのかしら…。」

ゆかりは、千里とすれ違うことを避けるために、わざと遠いエレベーターを目指した。

ー 横浜市内セレモニーホール ー

17時55分

千代田の通夜式会場には、18時30分から始まる式を前に、親族や受付の手伝いの人たちが集まっていた。職場からは、翌日の告別式との分担で、杉崎、秋吉、溝口が来ており、池畑を待っていた。

「池畑のやつ、6時集合って言ったら、10分前には来ないのか?…ったく。」

秋吉がぼそりと愚痴を溢した。

「まぁ、まだ集合時間前だ。…あ、この度は…。」

杉崎たちの所に千代田の両親が挨拶にやって来た。

「お忙しい中、ありがとうございます。それで、歩美の件は何か進展ありましたでしょうか?」

千代田の父親が聞いた。杉崎は、頭を下げて答えた。

「すみません、まだ詳しくご報告できる内容は。ただ、誰かに操られた可能性がある症状が脳に見られました。」

「それって…今世間を騒がしている呪いってやつですか?」

千代田の母親が、ハンカチで口元を隠しながら言った。

「まだ確定とまではいきませんが。またご報告の機会を設けさせていただきますので。…この度は本当に御愁傷様でした。」

杉崎たちは揃って頭を下げた。千代田の両親が離れると、秋吉は頭を上げて時計を見た。

「課長、もう約束の時間ですよ。…池畑のやつ何やってんだ。」

「さっきから秋吉さん、随分イラついてますね。何かあったんですか?」

溝口が秋吉にだけ聞こえる声で聞いた。

「溝口、お前は昼間ウハウハだったもんな。……お気楽なやつだ。」

秋吉は、そのままトイレへと消えていった。溝口は、ムスッとした顔で秋吉を睨んでいた。

18時20分

通夜式開始となる10分前に漸く池畑が会場に走って来た。

「ハァハァ、すみません、遅くなりました。」

息を切らして走ってきた池畑は、直ぐに受付奥の椅子に腰を下ろした。

「珍しいですね、池畑さんがこういうのに遅刻するの。何かあったんですか?」

溝口が池畑の顔を覗きこみながら聞いた。池畑は、溝口の顔を右手で遠ざけながら答えた。

「別に。…最近疲れが溜まってたみたいで、知らぬ間に寝てしまっただけだ。すまん。」

池畑は、この場で真実を語れるわけもなく、嘘を付いた。

「ほぉ、寝ていたのか。俺はてっきり何処かに出掛けてたのかと…。」

不快感を抱く話し方で挑発するように話す秋吉に、池畑は内心イラっときたが、冷静に言葉を返した。

「…どうしてだ?」

「ふん、お前は知らぬ間に眠るようなタイプじゃねぇだろ。…池畑、ちょっと来い。」

池畑は秋吉に呼ばれるがまま付いていき、誰もいない控室に入った。扉を閉めると、秋吉が直ぐに本題を切り出した。

「お前、石井を疑ってんのか?」

「……確信があるわけじゃ。でも、状況的には可能性はあるだろう。」

「ふん、馬鹿か。石井に人殺しなんてできるわけねぇだろ。これやるよ、帰ってから観てみろ。」

秋吉は、池畑に一枚のディスクを渡すと、部屋を出ていこうと扉を開けた。秋吉は、部屋を出る前に振り返り、一言池畑に告げた。

「…眞鍋は重罪人だ。もう関わるなよ。」

秋吉は、池畑のリアクションを見るわけでもなく部屋を出ていった。

池畑は、秋吉から眞鍋の名前が出るとは思ってもみなかった。秋吉がどこまで事を知っているのか気になり、胸の鼓動が速くなっていることに気が付いた。
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