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第5節 伝播
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「ちょっと、かぐらちゃん今のどういう意味?」
粟田は、冷静に足立に聞いた。
「え?どういう意味って?」
「失敗とか、自宅って言葉を入れとけば、って今言ってたよね?ね?」
粟田は、段々と動揺してきた。
「…そのままの意味だけど。まさかレンタル倉庫に持ってくるとは思わなかったわ。」
感情が高まり、動揺して質問する粟田に対し、足立は淡々と答えていた。
その様子を他の人間は、何事かと黙って見ていた。
「…かぐらちゃん?…一体何したの?」
粟田が、足立の肩を掴み、目を見つめながら聞いた。
「…何って。手紙を持ってくるように指示しただけよ。」
「指示って?」
「指示って、って、そんなのこの紙でやったに決まってるじゃない。」
足立は鞄から呪いの紙を出した。
「あ、足立さん…。」
畑が信じられないという表情で二人の会話を傍観していた。
「かぐらちゃん、何をしたかわかってる?」
肩を揺らしながら問い詰める粟田に対し、足立はやはり淡々と答えた。
「私は手紙を実家から持って来いって指示しただけよ。記事の資料にしたかったの。だって、あの桐生朱美の直筆の手紙よ。何が書いてあるか興味あるでしょ!?ね?」
足立はとても嬉しそうに語った。
「狂ってんな……呪いに、桐生朱美に魅せられたか。」
池畑が恐ろしいものを見るような表情で呟いた。
「やっぱり呪い…呪いは伝播していく。」
畑が涙を堪えながら言った。もう目の前の足立は、畑の知っている足立じゃ無いような気がして、凄まじい恐怖を感じていた。
「嬢ちゃん…、何で長尾智美が手紙をこの倉庫に持ってきたか教えてやろう。この倉庫は、母親に見られたくないものを隠しておく場所だからさ。バンドのボーカルの名前は、母親が離婚した元旦那と同じ名前。恐らく母親は相当元旦那を恨んでたんだろう。同じ名前ってだけで発狂しかねない状況だった。」
犬童は、鞄から資料を取り出し池畑に渡し、話を続けた。
「母親の通ってた精神科医のカルテだ。今言ったこととほぼ同じことが書いてある。…母親は、苦しむ桐生朱美を助け出せないことに後悔していた。母親は、本当は朱美を助けてやりたがったが、自分がまた夫から暴力を受ける恐怖のが上回っちまったんだ。娘より保身を選んだ後悔は、徐々に恐怖に変わっていった。そして、精神が不安定の中、智美が手紙を持ち出したのに気づいちまったのさ。」
「…つまり?」
池畑は、結論が何となく分かっていたが、犬童に聞いた。
「智美がその手紙を警察に渡すためだと勘違いし、母親の尋常じゃない精神状態の中で悲劇は起こったのさ。…ま、私の推測だがな。」
池畑たちは皆、絶句した。
「そんな裏事情私は知らない。私はただ手紙を持って来いと指示しただけ。」
足立は何一つ変わらずに淡白に同じことを繰り返した。
「あんたが、手紙を持ち出すように指示したから長尾智美は死んだんだ!」
池畑は、足立の態度にイライラが頂点に達し、怒鳴るように言った。だが、足立はびくともせずに、池畑を見てニヤリと笑った。
「…呪いってのは、魅入ると人格も変わってしまうのか…。」
正人はそう呟くと、落ち込む畑の肩を抱きながら、自身も恐怖を感じていた。
すると、荷物を運ぶために交番までパトカーの手配に行っていた松蔭が、向原の運転で倉庫に戻ってきた。
松蔭は、助手席を降りるなり、足立を真ん中に、皆で円状に囲んでいる異様な雰囲気を見て固まってしまった。
「…な、何かあったんですか?」
犬童は松蔭の問いに答えず、足立に近づき、目を見て話した。
「とりあえず署まで来てもらおうか?」
何も言わない足立は、犬童に誘導されるままパトカーに向かって歩き出した。
「松蔭くん、一緒に後ろに乗ってくれ。長尾智美の事件の重要参考人だ。バンドのグッズより、余程の収穫だな。」
松蔭は、訳もわからずに後部座席のドアを開け、重要参考人と言われた女性が乗り込む姿を見ていた。
「………誰?」
ー 群馬県警 署内取調室 ー
取調室には、足立、犬童、池畑、松蔭の四人が、その他の溝口、正人、畑、粟田はマジックミラー越しに様子を見れる隣の部屋にいた。畑と粟田は、憔悴しきった表情で、足立の姿を眺めていた。
「溝口さん。足立は殺人罪ですか?」
正人が小さい声で聞いた。
「…正直、わかりません。本人は殺人の意識はなかったと思いますし。ただ、万が一、殺人罪になった場合、桐生朱美の判例がありますからね……多分死刑です。」
正人たち三人は、溝口の言葉に衝撃を受けた。
粟田は涙を流し、他の二人も何も言えずに、マジックミラーの向こう側を見つめていた。
取調室では、犬童主導で取調が始まっていた。
「足立かぐらさん。あなたはこの紙をどこで入手したんですか?」
「…………ネット。ネットの掲示板。掲示板からダウンロードした。」
足立は、目の前の机を見つめながら淡々と答えた。
「何のために手紙を持って来させたんですか?」
「………中身に興味があった。桐生朱美の素性が分かるかもしれない。皆読みたいでしょ。」
「桐生朱美が好きなのか?」
この質問で、足立は初めて顔を上げ、犬童の顔を見ながら答えた。
「ハハ、そんな趣味はないですよ。…ただ、魅入らされた。あの美しさで殺人鬼、なかなかないでしょ。しかも呪殺……諸々含めて魅力満点ですよ。」
奇妙な発言に、犬童は顔をしかめた。
「呪殺による殺人罪に適合されたら…あんた多分死刑だよ。」
池畑が、睨み付けながら言った。
「呪いってのは自分に返ってくるもの…もし、死刑なら、それを証明したようなものね。それはそれで興味深いわ。」
「…多分、あんたの裁きには時間が要するだろ。…まぁ、ゆっくり時間掛けて話そうじゃないか。あんたの好きな桐生朱美の話も含めてな。」
犬童の言葉に、足立はまたニヤリと笑った。
「あんなの、かぐらちゃんじゃない。」
隣の部屋では粟田が嘆いていた。
「しばらくは、拘置所ですね。今日はもう帰った方がいい。何かあればまた連絡しますから。」
溝口に促され、正人たち三人はトボトボと部屋を出ていった。
警察署を出て、帰路に着く三人には会話が無かった。
まさか、今日こんな結末を迎えるとは誰一人として想定していなかった。駅に向かう中、畑が急に立ち止まった。
「守ってやれなかった……ごめん、霞さん。」
畑が涙を流しながら謝った。振り返り畑を見つめる粟田の目も真っ赤だった。
「いや…守ってやれなかったのは、俺だよ。」
正人は、ぼそりと呟いた。
粟田は、冷静に足立に聞いた。
「え?どういう意味って?」
「失敗とか、自宅って言葉を入れとけば、って今言ってたよね?ね?」
粟田は、段々と動揺してきた。
「…そのままの意味だけど。まさかレンタル倉庫に持ってくるとは思わなかったわ。」
感情が高まり、動揺して質問する粟田に対し、足立は淡々と答えていた。
その様子を他の人間は、何事かと黙って見ていた。
「…かぐらちゃん?…一体何したの?」
粟田が、足立の肩を掴み、目を見つめながら聞いた。
「…何って。手紙を持ってくるように指示しただけよ。」
「指示って?」
「指示って、って、そんなのこの紙でやったに決まってるじゃない。」
足立は鞄から呪いの紙を出した。
「あ、足立さん…。」
畑が信じられないという表情で二人の会話を傍観していた。
「かぐらちゃん、何をしたかわかってる?」
肩を揺らしながら問い詰める粟田に対し、足立はやはり淡々と答えた。
「私は手紙を実家から持って来いって指示しただけよ。記事の資料にしたかったの。だって、あの桐生朱美の直筆の手紙よ。何が書いてあるか興味あるでしょ!?ね?」
足立はとても嬉しそうに語った。
「狂ってんな……呪いに、桐生朱美に魅せられたか。」
池畑が恐ろしいものを見るような表情で呟いた。
「やっぱり呪い…呪いは伝播していく。」
畑が涙を堪えながら言った。もう目の前の足立は、畑の知っている足立じゃ無いような気がして、凄まじい恐怖を感じていた。
「嬢ちゃん…、何で長尾智美が手紙をこの倉庫に持ってきたか教えてやろう。この倉庫は、母親に見られたくないものを隠しておく場所だからさ。バンドのボーカルの名前は、母親が離婚した元旦那と同じ名前。恐らく母親は相当元旦那を恨んでたんだろう。同じ名前ってだけで発狂しかねない状況だった。」
犬童は、鞄から資料を取り出し池畑に渡し、話を続けた。
「母親の通ってた精神科医のカルテだ。今言ったこととほぼ同じことが書いてある。…母親は、苦しむ桐生朱美を助け出せないことに後悔していた。母親は、本当は朱美を助けてやりたがったが、自分がまた夫から暴力を受ける恐怖のが上回っちまったんだ。娘より保身を選んだ後悔は、徐々に恐怖に変わっていった。そして、精神が不安定の中、智美が手紙を持ち出したのに気づいちまったのさ。」
「…つまり?」
池畑は、結論が何となく分かっていたが、犬童に聞いた。
「智美がその手紙を警察に渡すためだと勘違いし、母親の尋常じゃない精神状態の中で悲劇は起こったのさ。…ま、私の推測だがな。」
池畑たちは皆、絶句した。
「そんな裏事情私は知らない。私はただ手紙を持って来いと指示しただけ。」
足立は何一つ変わらずに淡白に同じことを繰り返した。
「あんたが、手紙を持ち出すように指示したから長尾智美は死んだんだ!」
池畑は、足立の態度にイライラが頂点に達し、怒鳴るように言った。だが、足立はびくともせずに、池畑を見てニヤリと笑った。
「…呪いってのは、魅入ると人格も変わってしまうのか…。」
正人はそう呟くと、落ち込む畑の肩を抱きながら、自身も恐怖を感じていた。
すると、荷物を運ぶために交番までパトカーの手配に行っていた松蔭が、向原の運転で倉庫に戻ってきた。
松蔭は、助手席を降りるなり、足立を真ん中に、皆で円状に囲んでいる異様な雰囲気を見て固まってしまった。
「…な、何かあったんですか?」
犬童は松蔭の問いに答えず、足立に近づき、目を見て話した。
「とりあえず署まで来てもらおうか?」
何も言わない足立は、犬童に誘導されるままパトカーに向かって歩き出した。
「松蔭くん、一緒に後ろに乗ってくれ。長尾智美の事件の重要参考人だ。バンドのグッズより、余程の収穫だな。」
松蔭は、訳もわからずに後部座席のドアを開け、重要参考人と言われた女性が乗り込む姿を見ていた。
「………誰?」
ー 群馬県警 署内取調室 ー
取調室には、足立、犬童、池畑、松蔭の四人が、その他の溝口、正人、畑、粟田はマジックミラー越しに様子を見れる隣の部屋にいた。畑と粟田は、憔悴しきった表情で、足立の姿を眺めていた。
「溝口さん。足立は殺人罪ですか?」
正人が小さい声で聞いた。
「…正直、わかりません。本人は殺人の意識はなかったと思いますし。ただ、万が一、殺人罪になった場合、桐生朱美の判例がありますからね……多分死刑です。」
正人たち三人は、溝口の言葉に衝撃を受けた。
粟田は涙を流し、他の二人も何も言えずに、マジックミラーの向こう側を見つめていた。
取調室では、犬童主導で取調が始まっていた。
「足立かぐらさん。あなたはこの紙をどこで入手したんですか?」
「…………ネット。ネットの掲示板。掲示板からダウンロードした。」
足立は、目の前の机を見つめながら淡々と答えた。
「何のために手紙を持って来させたんですか?」
「………中身に興味があった。桐生朱美の素性が分かるかもしれない。皆読みたいでしょ。」
「桐生朱美が好きなのか?」
この質問で、足立は初めて顔を上げ、犬童の顔を見ながら答えた。
「ハハ、そんな趣味はないですよ。…ただ、魅入らされた。あの美しさで殺人鬼、なかなかないでしょ。しかも呪殺……諸々含めて魅力満点ですよ。」
奇妙な発言に、犬童は顔をしかめた。
「呪殺による殺人罪に適合されたら…あんた多分死刑だよ。」
池畑が、睨み付けながら言った。
「呪いってのは自分に返ってくるもの…もし、死刑なら、それを証明したようなものね。それはそれで興味深いわ。」
「…多分、あんたの裁きには時間が要するだろ。…まぁ、ゆっくり時間掛けて話そうじゃないか。あんたの好きな桐生朱美の話も含めてな。」
犬童の言葉に、足立はまたニヤリと笑った。
「あんなの、かぐらちゃんじゃない。」
隣の部屋では粟田が嘆いていた。
「しばらくは、拘置所ですね。今日はもう帰った方がいい。何かあればまた連絡しますから。」
溝口に促され、正人たち三人はトボトボと部屋を出ていった。
警察署を出て、帰路に着く三人には会話が無かった。
まさか、今日こんな結末を迎えるとは誰一人として想定していなかった。駅に向かう中、畑が急に立ち止まった。
「守ってやれなかった……ごめん、霞さん。」
畑が涙を流しながら謝った。振り返り畑を見つめる粟田の目も真っ赤だった。
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