Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

文字の大きさ
96 / 114
第6節 皮肉

(1)

しおりを挟む
ー 解剖医学センター ー

17時11分

畑の死因特定のため、解剖が行われることになり、解剖医学センターには、畑の妹の栞菜と祖父母、出版社から山本、稗田、生駒、正人の四人、そして今日正人と携帯番号を交換したばかりの粟田が駆け付けていた。

待合室は、すすり泣く声が共鳴しており、一日で二人の友人を失った粟田は廃人のようだった。

山本と稗田の上司二人は、畑の家族にお悔やみを告げるとともに、状況を説明していた。

コンコンというノックとともに、待合室に秋吉と石井が入ってきた。

「皆さん、この度はご愁傷様です。神奈川県警の秋吉と石井です。これより、畑賢太郎さんの司法解剖をさせていただきます。」

秋吉は、いつもの癖で殺人だと仮定し、容疑者を探すように集まっている人間を見回した。すると、その中に正人がいることに気が付いた。

秋吉は、正人に近づき一礼した。

「北条出版の村上さんですよね。同僚の池畑から話を聞いています。度重なるご不幸、誠にご愁傷さまです。」

正人は立ち上がり一礼した。

「すみません、ご丁寧に。…あの、池畑さんたちは?まだ群馬ですか?」

「…えぇ、まだ午前中の件が残ってるようで。…では、解剖に立ち会う時間ですので。また。」

秋吉はドアの前で一礼し、部屋を出ていった。

司法解剖は、久保寺と本多の手により手際よく行われていた。

「死因は……心臓麻痺ね。まだ若いのに。ストレスかしら、午前中にツラい事件があったんでしょ?」

久保寺は、取り出した心臓を隈無く見回しながら聞いた。側にいた秋吉が答えた。

「はい。まぁ過度のストレスを感じた可能性はありますが。…脳はどうですか?」

「脳ね…ちょっと待って。この人も呪いでってこと?警察は何やってんのよ。どんどん呪いの被害者増えてるじゃない。」

久保寺は、イライラしたような口調で、頭を切開する道具を手に取った。本多と二人で頭蓋骨を開き、呪いの症例が出る場所を確認した。

18時15分

コンコンとノックとともに、待合室に秋吉と石井が入ってきた。

「皆さんお待たせいたしました。ご家族の方は?」

秋吉は、涙を流しながら、手を挙げた栞菜に検死結果を示した紙を渡した。

「お兄さんは心臓麻痺…病気で亡くなったことが分かりました。ツラいとは思いますが、お兄さんの分まで生きてあげてください。」

秋吉は深々と頭を下げた。紙を受け取った栞菜と祖父母は、石井の案内のもと、畑の遺体と対面するために待合室を出ていった。

それを見送ると、秋吉はまた正人の元に行き、正人を誘い出した。

誰もいないイーティングルームで、手前の円卓に正人を座らせ、部屋の隅の自販機で缶コーヒーを二本買い、秋吉も席に座った。

「甘いのはお好きですか?」

正人が頷くと、加糖コーヒーを手渡し、秋吉はブラックの缶コーヒーを開け、一口飲んだ。

「すみません、お疲れのところ。今日は、その…濃い一日でしたね。本当に。」

正人は秋吉の言葉に頷き、やりきれない表情を浮かべて答えた。

「…えぇ、本当に。嘘だと思いたいことばかりです。」

「…そんな中、追い討ちを掛けることになるかもしれませんが、一点お聞きしたいことが。」

秋吉は、鞄から正人たちが手掛けている雑誌のバックナンバーを取り出し、予め付箋を貼っていたページを開いた。

「この呪いにまつわるページは、畑さんがご担当ですか?」

「その通りです。あと…今日捕まった足立もいました。二人で作り上げたものです。…畑は…この号で初めて主担当を任されたと…張り切っていました。」

今や遠い思い出のように感じた正人は、我慢できずに、涙を流しながら答えた。

「ここに、呪いの紙は実験により効果が証明されたとあります。この中身はご存知ですか?」

秋吉が指差しながら聞いた。

「えぇ、足立が…畑にくだらない呪いを掛けたと。…ほら、中身はここに。顔に落書きを書かせた、と。」

秋吉は、正人の答えに頭を抱えた。

「…やっぱりか。やはり、畑さんは一度呪いを掛けられてたんですね。」

大袈裟な反応の秋吉に、正人は疑問を抱いた。

「…それが何か?…あ、いや、また足立の罪が重くなりますか。これは彼女だって単なる遊びで…。」

「遊びじゃ済まないんですよ!…この呪いは、どんなに簡単な命令でも、一度でも行えば、対象となった人間は死に至ることが、つい最近分かりました。」

正人は、頭の中で秋吉の言葉を整理した。

つまり、足立に落書きの呪いを掛けられたせいで、畑は死んだのかと。

正人の表情を伺いながら、秋吉が続けた。

「畑さんの脳から呪いの痕跡が見つかりましたので、裏付けのためにお聞きしました。ご協力感謝いたします。では。」

秋吉は正人の反応を待つことなく立ちあがり、部屋のドアへと向かい、開ける前に立ち止まった。

「村人さん。この事は最重要事項です。すみませんが絶対に口外しないでください。」

正人は秋吉の言葉に立ち上がって質問した。

「ご家族にもですか?…畑は両親を事故で亡くし、以来ずっと妹と生きてきました。妹は、祖父母以外に親族がいない。いずれは一人ぼっちになってしまうことになります。…妹の栞菜ちゃんには、真実を伝えてあげるべきでは?」

「…心臓麻痺という結論の方が一番彼女の救いになる。知らない方がいい真実もある。…私はそう思っています。」

秋吉はそう言い放ち、ドアを開けて出ていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神楽坂gimmick

涼寺みすゞ
恋愛
明治26年、欧州視察を終え帰国した司法官僚 近衛惟前の耳に飛び込んできたのは、学友でもあり親戚にあたる久我侯爵家の跡取り 久我光雅負傷の連絡。 侯爵家のスキャンダルを収めるべく、奔走する羽目になり…… 若者が広げた夢の大風呂敷と、初恋の行方は?

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

【完結/番外追加】サリシャの光 〜憧れの先へ〜

ねるねわかば
恋愛
彼女は進む。過去に囚われた者たちを残して── 大商会の娘サーシャ。 子どもの頃から家業に関わる彼女は、従妹のメリンダと共に商会の看板娘として注目を集めていた。 華々しい活躍の裏で、着実に努力を重ねて夢へと向かうサーシャ。しかし時には心ないことを言う者もいた。 そんな彼女が初めて抱いた淡い恋。 けれどその想いは、メリンダの涙と少年の軽率な一言であっさり踏みにじられてしまう。 サーシャはメリンダたちとは距離をおき、商会の仕事からも離れる。 新たな場所で任される仕事、そして新たな出会い。どこにあっても、彼女が夢を諦めることはない。 一方、光に囚われた者たちは後悔と執着を募らせていき── 夢を諦めない少女が、もがきながら光を紡いでいく軌跡。 ※前作「ルースの祈り」と同じ世界観で登場人物も一部かぶりますが、単体でお読みいただけます。 ※作中の仕事や制作物、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。

ソツのない彼氏とスキのない彼女

吉野 那生
恋愛
特別目立つ訳ではない。 どちらかといえば地味だし、バリキャリという風でもない。 だけど…何故か気になってしまう。 気がつくと、彼女の姿を目で追っている。 *** 社内でも知らない者はいないという程、有名な彼。 爽やかな見た目、人懐っこく相手の懐にスルリと入り込む手腕。 そして、華やかな噂。 あまり得意なタイプではない。 どちらかといえば敬遠するタイプなのに…。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

処理中です...