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第6節 皮肉
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正人は、秋吉に言われた言葉を考えながら、皆のいる待合室に向かった。畑の家族には、本当の事を告げない方が幸せ…なのかと。
結論が出ないまま待合室に戻ると、山本がセンター長の竈山と親しげに話している姿があり、その姿を、秋吉が遠くから眺めていた。
「じゃあヤマちゃん、また今度な。」
竈山は手を振りながら、待合室を出ていった。
「編集長さんは、センター長さんとお知り合いだったんですか?」
秋吉が、山本に近づきながら聞いた。
「えぇ。彼とは大学の同級生で、同じ研究チームにいました。まぁ、私は挫折して、今は真逆の文系の仕事に就いてますがね。…刑事さん、今日は、お世話になりました。」
山本はそう言って一礼し、皆を連れて待合室を出ていった。
待合室には、秋吉と石井のみとなり、石井は皆が手をつけなかった茶菓子に手を伸ばしていた。
「なぁんか、匂うな。」
秋吉は、大きな独り言を言った。その言葉に、石井は菓子を頬張りながら、秋吉の方に振り向いた。
「ふぇ!?自分じゃないっすよ。」
「馬鹿か!屁じゃねぇよ。あの編集長だ。…気のせいかもしれんが、嫌な感じだった。」
秋吉はそう言うと、乱暴に扉を開けて出ていった。
ー 群馬県警 署内 ー
18時00分
「初めての案件だから、判断が出るまで時間がかかる。下手に保釈して、新たな犠牲者が出たら目も当てられんからな。池畑たちは、一度横浜に戻った方がいい。」
「大丈夫ですよ。課長には話してあるんで。」
応接室で、池畑、溝口、犬童の三人は、足立の今後について話をしていた。
「失礼しまぁす。」
ノックもせずに入ってきた松蔭は、資料をペラペラと掲げながら犬童の隣に座った。
「見てください。長尾智美から呪いの紙を購入したと思われる人物のうち、一人だけ顔が分かりました。」
松蔭は、監視カメラの画像を印刷したものを机に置いた。その画像を見た途端、池畑と溝口は絶句した。
「…知ってるやつか?」
二人の様子を見て、犬童が聞いた。
「犬童さん、やっぱり今すぐ帰ります。」
ー 村上宅 ー
18時32分
「ただいま。」
正人は、衝撃的な一日を終え、疲れ切った身体をそのままソファに預けた。千里は正人が帰ってきたことに気が付き、リビングに繋がっている奥の部屋から出てきた。
「お帰りなさい。大変な一日だったね。大丈夫?」
正人はもう眠りにつきそうで、頭の中で千里の声が反響しているような感覚だった。
「あぁ、…ありがとぅ……。」
正人はそのまま眠りについた。
寝ていることに気が付いた千里は、うつ伏せで寝る正人にタオルケット毛布を掛けた。
「無茶しないでね。…私にはあなたしかいないんだから。」
千里は、正人の頭を撫でながら寝顔を見て微笑んでいた。
「……あなたしかいないんだから。」
千里は、正人が事故死した自分を生き返らせてくれたことには感謝していた。しかし、この前の義母のゆかりの反応を見て、気軽に街を歩いたり、友人に連絡したりは多分できないのだろうと感じていた。
今日も正人がいない間は、家から一切出ることはなく、寂しさからか、不安からか、自然と涙が流れる時間もあった。
だが、正人の寝顔を見ていると癒されている自分がいることにも気が付いた。
少し前向きに生きていこうと、心の中で強く思った。
「………ん?…寝ちゃった…か。」
正人が目を覚まし、ふと目線を窓に向けると千里がベランダに立っていた。
徐にサンダルを脱ぎ、綺麗に揃え、柵によじ登る姿が見えた。
「え!?千里!…………?」
自分では千里と言ったつもりが、全く声が出ず、止めに動こうとも、まるで何かに押さえ付けられてるように身体が動かなかった。
千里は、柵の上にバランスを取りながら仁王立ちした。
「止めてくれ。」
正人は声にならない声で呼び止めた。
千里はくるっと首を振り返らせ正人を見つめた。千里が何かを喋っているようだが、正人には全く聞こえなかった。
正人は、足をバタバタと動かしたが、やはりびくとも動かない。
急に頭が痛くなり、頭の中で千里の声がこだまのように聞こえ始めた。
その声は、頭の中で徐々にボリュームが大きくなっていった。
「…で……かえ…たの?…んで…きかえ…せたの?…なんでいきかえらせたの?何で生き返らせたの?」
正人は言葉の意味を理解し、ハッと窓を見ると、千里は目線を空に向け、そのまま前に倒れるように落下していった。
「千里ぉぉぉぉぉ!」
正人はハッと目を開け、勢いよく起き上がった。
ふと斜め下に目線をやると、ソファに顔を埋めるように安眠してる千里の姿があった。
「ハァハァ…夢…か。……くそ。」
額から足の先まで嫌な汗でベタベタだった。
正人は千里を起こさないように立ちあがり、シャワーを浴びようと着替えを隣の部屋で物色していると、千里が部屋にそっと入ってきた。
「あ、ごめん、起こしちゃったね。」
「ううん、やだ凄い汗…大丈夫?嫌な夢でも見た…。」
正人は、千里の話を遮るように千里を抱き締めた。千里は驚いたが、正人が小刻みに震えていることに気が付き、背中に腕を回し、ギュッと抱き締めた。
「…私が…嫌な夢見せちゃったかな?」
千里が耳元で囁くように聞いた。
「……いや、いいんだ。千里が居れば。居ればいいんだ……。」
「ずっといるよ。…ねぇ、シャワー浴びるつもりだったんでしょ?……一緒に…入ろうかな。」
二人は洗面所で同時に服を脱ぎ始め、正人から先に風呂場へ入り、シャワーを付けた。シャワーの湯気がたち始めた頃に、千里が風呂場へ入った。
正人は千里にシャワーを浴びせながら、優しくキスをした。千里はキスを受け入れ、正人の頭に腕を回しながら激しいキスをし始めた。
お互いの全てを感じることができた二人は、本能のまま風呂場内で愛し合った。
結論が出ないまま待合室に戻ると、山本がセンター長の竈山と親しげに話している姿があり、その姿を、秋吉が遠くから眺めていた。
「じゃあヤマちゃん、また今度な。」
竈山は手を振りながら、待合室を出ていった。
「編集長さんは、センター長さんとお知り合いだったんですか?」
秋吉が、山本に近づきながら聞いた。
「えぇ。彼とは大学の同級生で、同じ研究チームにいました。まぁ、私は挫折して、今は真逆の文系の仕事に就いてますがね。…刑事さん、今日は、お世話になりました。」
山本はそう言って一礼し、皆を連れて待合室を出ていった。
待合室には、秋吉と石井のみとなり、石井は皆が手をつけなかった茶菓子に手を伸ばしていた。
「なぁんか、匂うな。」
秋吉は、大きな独り言を言った。その言葉に、石井は菓子を頬張りながら、秋吉の方に振り向いた。
「ふぇ!?自分じゃないっすよ。」
「馬鹿か!屁じゃねぇよ。あの編集長だ。…気のせいかもしれんが、嫌な感じだった。」
秋吉はそう言うと、乱暴に扉を開けて出ていった。
ー 群馬県警 署内 ー
18時00分
「初めての案件だから、判断が出るまで時間がかかる。下手に保釈して、新たな犠牲者が出たら目も当てられんからな。池畑たちは、一度横浜に戻った方がいい。」
「大丈夫ですよ。課長には話してあるんで。」
応接室で、池畑、溝口、犬童の三人は、足立の今後について話をしていた。
「失礼しまぁす。」
ノックもせずに入ってきた松蔭は、資料をペラペラと掲げながら犬童の隣に座った。
「見てください。長尾智美から呪いの紙を購入したと思われる人物のうち、一人だけ顔が分かりました。」
松蔭は、監視カメラの画像を印刷したものを机に置いた。その画像を見た途端、池畑と溝口は絶句した。
「…知ってるやつか?」
二人の様子を見て、犬童が聞いた。
「犬童さん、やっぱり今すぐ帰ります。」
ー 村上宅 ー
18時32分
「ただいま。」
正人は、衝撃的な一日を終え、疲れ切った身体をそのままソファに預けた。千里は正人が帰ってきたことに気が付き、リビングに繋がっている奥の部屋から出てきた。
「お帰りなさい。大変な一日だったね。大丈夫?」
正人はもう眠りにつきそうで、頭の中で千里の声が反響しているような感覚だった。
「あぁ、…ありがとぅ……。」
正人はそのまま眠りについた。
寝ていることに気が付いた千里は、うつ伏せで寝る正人にタオルケット毛布を掛けた。
「無茶しないでね。…私にはあなたしかいないんだから。」
千里は、正人の頭を撫でながら寝顔を見て微笑んでいた。
「……あなたしかいないんだから。」
千里は、正人が事故死した自分を生き返らせてくれたことには感謝していた。しかし、この前の義母のゆかりの反応を見て、気軽に街を歩いたり、友人に連絡したりは多分できないのだろうと感じていた。
今日も正人がいない間は、家から一切出ることはなく、寂しさからか、不安からか、自然と涙が流れる時間もあった。
だが、正人の寝顔を見ていると癒されている自分がいることにも気が付いた。
少し前向きに生きていこうと、心の中で強く思った。
「………ん?…寝ちゃった…か。」
正人が目を覚まし、ふと目線を窓に向けると千里がベランダに立っていた。
徐にサンダルを脱ぎ、綺麗に揃え、柵によじ登る姿が見えた。
「え!?千里!…………?」
自分では千里と言ったつもりが、全く声が出ず、止めに動こうとも、まるで何かに押さえ付けられてるように身体が動かなかった。
千里は、柵の上にバランスを取りながら仁王立ちした。
「止めてくれ。」
正人は声にならない声で呼び止めた。
千里はくるっと首を振り返らせ正人を見つめた。千里が何かを喋っているようだが、正人には全く聞こえなかった。
正人は、足をバタバタと動かしたが、やはりびくとも動かない。
急に頭が痛くなり、頭の中で千里の声がこだまのように聞こえ始めた。
その声は、頭の中で徐々にボリュームが大きくなっていった。
「…で……かえ…たの?…んで…きかえ…せたの?…なんでいきかえらせたの?何で生き返らせたの?」
正人は言葉の意味を理解し、ハッと窓を見ると、千里は目線を空に向け、そのまま前に倒れるように落下していった。
「千里ぉぉぉぉぉ!」
正人はハッと目を開け、勢いよく起き上がった。
ふと斜め下に目線をやると、ソファに顔を埋めるように安眠してる千里の姿があった。
「ハァハァ…夢…か。……くそ。」
額から足の先まで嫌な汗でベタベタだった。
正人は千里を起こさないように立ちあがり、シャワーを浴びようと着替えを隣の部屋で物色していると、千里が部屋にそっと入ってきた。
「あ、ごめん、起こしちゃったね。」
「ううん、やだ凄い汗…大丈夫?嫌な夢でも見た…。」
正人は、千里の話を遮るように千里を抱き締めた。千里は驚いたが、正人が小刻みに震えていることに気が付き、背中に腕を回し、ギュッと抱き締めた。
「…私が…嫌な夢見せちゃったかな?」
千里が耳元で囁くように聞いた。
「……いや、いいんだ。千里が居れば。居ればいいんだ……。」
「ずっといるよ。…ねぇ、シャワー浴びるつもりだったんでしょ?……一緒に…入ろうかな。」
二人は洗面所で同時に服を脱ぎ始め、正人から先に風呂場へ入り、シャワーを付けた。シャワーの湯気がたち始めた頃に、千里が風呂場へ入った。
正人は千里にシャワーを浴びせながら、優しくキスをした。千里はキスを受け入れ、正人の頭に腕を回しながら激しいキスをし始めた。
お互いの全てを感じることができた二人は、本能のまま風呂場内で愛し合った。
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