Rem-リム- 呪いと再生

雨木良

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第6節 皮肉

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風呂から出ると、正人はリビングで缶ビールを飲み、千里は洗面所で髪の毛を乾かしていた。

一気に缶の半分くらいを飲み干した正人は、プハーと息を吐き、陰気なものも一緒に出ていった気になった。

今日の足立と畑の出来事も夢だったらなと思った。

「ねぇ、あなた。さっきあなたが寝てるときにね、勇気出して由実にメッセージ送ってみたの。」

正人は飲んでいたビールをブファと吐き出し噎せた。

千里はその声に反応し、ドライヤーを掛けながら、洗面所からリビングを覗いた。

「ちょっと大丈夫?」

「あ、あぁ、ビールが変なとこに入っただけ。」

正人は、頭で対策を考えながら答えた。

「そう。…でね、あの子いつもはすぐに既読になって返事をくれたのに。一時間以上経つのに既読にすらならないのよ。…何かあったのかな。」

正人は引き続き考えた。千里が自殺したのが南雲由実が死んでしまったことが原因だったならば、絶対に伏せなければならない。正人は、唾をゴクンと呑み込んだ。

「…あ、あれ?き、記憶に残ってないのか?…ほら、由実は今海外だろ。好きなファッションの勉強のため、パリに留学したってお前から聞いてたぞ。…確か三ヶ月前くらいに。勉強に集中するために携帯は持ってかないって豪語してたって、笑いながら話してくれたじゃんか。」

正人はとっさに考えた嘘に、綻びがなかったか、ヒヤヒヤしながら話した。

「……そっか、そうなんだ。…あれ、記憶に残ってなかったな。ごめんね。…そっか、パリにか。由実の夢だったもんね、ファッションの勉強か…本当に良かった。」

正人はとても残酷な嘘をついてしまったと、心底後悔した。
 
ー 横浜市内某アパート ー

22時25分

ピンポーン。

池畑は、築年数が大分経っていそうな、古びたアパートの2階に位置する部屋のインターフォンを押した。

直ぐに部屋に明かりが灯ったのがわかった。

ガチャっ。

家主が鍵を開けた途端、池畑はドアを全開に開き、足で閉まらないように押さえ込んだ。

その隙に、秋吉と石井、溝口が部屋の中に駆け込んだ。

「…残念ですよ、鷲尾さん。」

池畑は、逮捕状を鷲尾に提示した。

「!?…ふっ、ははは。何だ、何の冗談だ!?今日はエイプリルフールでもないぞ。」

鷲尾は笑って手を叩きながら言った。池畑は、冷静に話を続けた。

「…鷲尾さん、千代田に呪いをかけたのはあなたですね。」

「何の話だ?全くわからん。」

すると、奥の部屋から秋吉が紙の束を持ってきて、鷲尾の前で床に投げ付けた。

「じゃあ何なんですか!?この紙は!」

それは大量の呪いの紙だった。

「もう証拠は揃ってます。千代田が呪いをかけられた時、その方向にはあなたがいた。そして、この呪いの紙はkiriこと長尾智美から購入したものですよね?あなたが長尾智美、偽名の藁科美帆の口座に振り込む映像もある。何よりその紙がここにあることが一番の証拠です。」

鷲尾は何も答えなかった。

「何で歩美さんを!!」

石井が鷲尾に掴みかかった。乱暴に身体を揺らしたが、鷲尾は何にも答えなかった。

秋吉と溝口が石井を落ち着かせるために、鷲尾から引き離した。

「鷲尾さん。千代田を消したのは、上の命令ですか?それとも、あなた個人の感情ですか?」

秋吉の質問に、鷲尾はニヤリと怪しい笑みのみで答えた。

すると、次の瞬間、鷲尾は素早く床にばら蒔かれた紙を集め、天井に向かって散らすように投げた。

それは、紙ふぶきのようにバラバラと落ちていった。玄関に立っていた池畑が、その紙に目線を向けた瞬間、鷲尾は池畑にタックルし玄関の壁に叩きつけ、そのまま部屋の外に逃亡した。

「鷲尾ぉぉぉぉぉ!」

秋吉と石井も玄関から追いかけた。 

鷲尾は、二階から一階へ階段をカンカン音をたてながら勢いよく降りていた。

そして、残り五段に差し掛かった際、何かに足をぶつけ、そのまま階段を転げ落ちた。

背中に痛みを感じ、悶える鷲尾に秋吉と石井が追い付き、取り押さえた。

「鷲尾くん、残念だよ。」

「課長!?いらしてたんですか。」

階段で鷲尾の足に庭に落ちていた物干し竿を引っ掛けて転ばせたのは杉崎だった。

秋吉は、杉崎は執務室で待機していると聞いていたので、現場に来ていることに驚いた。

秋吉が鷲尾に手錠をかけると、2階から溝口に肩を支えられながら池畑が下りてきた。

「あれ、課長何でここに?」

池畑が腰を押さえながら聞いた。

「…待ってられるか。千代田くんを殺した犯人が鷲尾くんだなんて。…あまりに残酷すぎる結果だ。」

杉崎は取り押さえられてる鷲尾の目線に合わせるために、中腰になり、鷲尾の目を見ながら話した。

「鷲尾くん。私はさっきまで君を信じていた。池畑くんたちの捜査が無駄になれば良いと思ってたよ。…君がこうなってしまったのは、きっと私にも責任があるだろう。…事情を聞かせてくれるか?」

鷲尾は手錠を掛けられながらも、身体を横に振って秋吉と石井を払いのけ、階段に腰掛けゆっくり口を開いた。

「…千代田には迷惑してた。いつだって、本当にやるべき仕事は私に任せて、自分勝手な行動。別に最初は殺すつもりはなかった。たまたま、話題だった桐生朱美についてインターネットで調べていたら、kiriというハンドルネームにつながり、それから色々なリンク先にとんでいたら、変な掲示板にたどり着いただけ。…そこには、呪いの紙についての販売記述があったんだ。」

「ふん、殺すために買ってるんじゃないか。」

秋吉が反論した。

「…最初は本当にイタズラするために買ったんだ。」

鷲尾が視点をキョロキョロさせながら話している素振りを杉崎は見落とさなかった。

「鷲尾くん、本当は誰かの命令なんじゃないか。」

「…………。」

「まぁ、いい、時間も時間だ。こんな時間に騒いでいたら近所迷惑だ。署に連れていこう。」

杉崎が車を指差しながら指示をし、秋吉と石井は鷲尾を抱えあげ、車に向かって歩き出した。

ポキッ。

鷲尾の口の中で、何かが弾ける音がした。

気が付くと、鷲尾は顔中汗だくだった。鷲尾は、秋吉に顔を向け、一言呟いた。

「………悪いな、事件は迷宮入りだ……。」

その言葉を最後に鷲尾は意識を失い、秋吉と石井の支えに身体を預けるように倒れた。

口からは一筋の血が流れていた。

「鷲尾さん!?」

「ちっ、口の中で薬物噛みやがったか……。」

秋吉は、鷲尾を支えていた腕を引き抜いた。石井だけではとても支えきれずに、鷲尾は地面に倒れこんだ。
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