2 / 55
第1章 少女と紫色
(1)
しおりを挟む
「ごめん。今日行けなくなっちゃった。」
三嶽夏音(みたけかのん)は、地元の高校に通う高校二年生の17歳。
朝礼前。教室の後ろでは、夏音が、自分と同じ美術部のメンバーに謝っていた。今日の放課後、隣町で企画展をしている美術館に皆で一緒に行く約束を断っていた。
「何かあったの?」
美術部で唯一同じクラスの小林奏(こばやしかな)が、心配そうに夏音に聞いた。
「…大したことじゃないんだけど…その…バイトのシフトを急遽チェンジされちゃって!!」
夏音の表情をじっと見つめながら、隣のクラスの由比環奈(ゆいかんな)が詰め寄るように聞いた。
「…夏音、本当か?なぁんか怪しい…。」
「そ、そ、そんなこと…ないって。」
完全に目を泳がせて、怪しさ満点で答える夏音の姿に、環奈は更に詰め寄った。
「…男…か?そうだろ夏音!今まで私たちとの約束を破る事なんて無かったのに!!ちぇっ!」
教室の大半に聞こえそうな声量で話す環奈に、夏音と奏は慌てて落ち着かせようとする。
「環奈ちゃん、そんなに怒らなくても…夏音ちゃんは嘘なんて付かないよ。」
天使のように澄んだ声で、環奈を諭す奏。その横で、夏音はキーキー言っている環奈をじっと見ていた。
「……悲しいの?」
夏音がボソッと呟いた。夏音としては無意識で発した言葉だった。
「…へ?」
環奈はスッと大人しくなって、夏音をじっと見て続けた。
「今、何て?」
環奈の言葉に、夏音はハッと我に返った。
「え!?あ、あ、いや、あれ?今私何て言った?」
惚ける演技も大根中の大根の夏音を見て、環奈は呆れて無言で教室を出て、自分の教室へと戻って行った。
環奈が出ていくと、夏音は奏に向かって両手を合わせて頭を下げた。
「奏ちゃん、迷惑かけてごめんね。その…バイトってのは…咄嗟に出ちゃった嘘なんだけど、違う用事があって…。」
「…デート?」
奏は首を傾げながら、透き通った声で聞いた。
「ち、違うよ!私に男の気なんてあるわけないじゃない。今度ちゃんと話すから。」
奏は、また頭を下げた夏音の頭を撫でた。
「いいよ、無理しなくてさ。夏音ちゃんのことが心配なだけだから。話したくなったら話してね。」
奏は、健全な男子ならイチコロであろう笑顔でそう言うと、足早に自席に向かった。夏音も笑顔で答えてみたが、どうも引きつった笑顔になっていた。
「…奏。あんたは凄いな…。」
夏音はボソッとそう呟くと自席に座った。すると、同時に担任の日下部(くさかべ)が教室に入ってきて、朝礼が始まった。
朝礼では、まず日下部が何なら身の上話をし始めているが、考え事をしている夏音の耳には素通りだった。
夏音は、机からそっとB4サイズのノートを取り出し、音を立てないように、ペラペラとページを捲った。暫く捲ると手を止めた。
「これだ。…やっぱりなぁ。悪いことしちゃったなぁ…。」
夏音が見ているノートは、「マル秘 カラー解読」というタイトルが申し訳程度に鉛筆でうっすらと書かれており、中身はページの左半分に様々な色の水彩絵具が3センチ角の四角形に塗られており、その右側に説明が書かれている。
例えば、今夏音が見ているページには、青系の色が五種類塗られており、各色の右側に「自分に対する悲しみ」、「大事な物を無くした悲しみ」、「大事な人を失った悲しみ」など、色に対する説明が書かれている。
これは夏音が物心ついた時から集めた情報を中学生になってから纏めたノートであり、内容は今でも更新し続けている。
それは、夏音の特殊な能力に関することであり、夏音はその能力によって良い思いもしているが、ツラい思いをしていることが多いと感じており、正に今もそうだった。
夏音は自分の特殊な能力が嫌いだった。
三嶽夏音(みたけかのん)は、地元の高校に通う高校二年生の17歳。
朝礼前。教室の後ろでは、夏音が、自分と同じ美術部のメンバーに謝っていた。今日の放課後、隣町で企画展をしている美術館に皆で一緒に行く約束を断っていた。
「何かあったの?」
美術部で唯一同じクラスの小林奏(こばやしかな)が、心配そうに夏音に聞いた。
「…大したことじゃないんだけど…その…バイトのシフトを急遽チェンジされちゃって!!」
夏音の表情をじっと見つめながら、隣のクラスの由比環奈(ゆいかんな)が詰め寄るように聞いた。
「…夏音、本当か?なぁんか怪しい…。」
「そ、そ、そんなこと…ないって。」
完全に目を泳がせて、怪しさ満点で答える夏音の姿に、環奈は更に詰め寄った。
「…男…か?そうだろ夏音!今まで私たちとの約束を破る事なんて無かったのに!!ちぇっ!」
教室の大半に聞こえそうな声量で話す環奈に、夏音と奏は慌てて落ち着かせようとする。
「環奈ちゃん、そんなに怒らなくても…夏音ちゃんは嘘なんて付かないよ。」
天使のように澄んだ声で、環奈を諭す奏。その横で、夏音はキーキー言っている環奈をじっと見ていた。
「……悲しいの?」
夏音がボソッと呟いた。夏音としては無意識で発した言葉だった。
「…へ?」
環奈はスッと大人しくなって、夏音をじっと見て続けた。
「今、何て?」
環奈の言葉に、夏音はハッと我に返った。
「え!?あ、あ、いや、あれ?今私何て言った?」
惚ける演技も大根中の大根の夏音を見て、環奈は呆れて無言で教室を出て、自分の教室へと戻って行った。
環奈が出ていくと、夏音は奏に向かって両手を合わせて頭を下げた。
「奏ちゃん、迷惑かけてごめんね。その…バイトってのは…咄嗟に出ちゃった嘘なんだけど、違う用事があって…。」
「…デート?」
奏は首を傾げながら、透き通った声で聞いた。
「ち、違うよ!私に男の気なんてあるわけないじゃない。今度ちゃんと話すから。」
奏は、また頭を下げた夏音の頭を撫でた。
「いいよ、無理しなくてさ。夏音ちゃんのことが心配なだけだから。話したくなったら話してね。」
奏は、健全な男子ならイチコロであろう笑顔でそう言うと、足早に自席に向かった。夏音も笑顔で答えてみたが、どうも引きつった笑顔になっていた。
「…奏。あんたは凄いな…。」
夏音はボソッとそう呟くと自席に座った。すると、同時に担任の日下部(くさかべ)が教室に入ってきて、朝礼が始まった。
朝礼では、まず日下部が何なら身の上話をし始めているが、考え事をしている夏音の耳には素通りだった。
夏音は、机からそっとB4サイズのノートを取り出し、音を立てないように、ペラペラとページを捲った。暫く捲ると手を止めた。
「これだ。…やっぱりなぁ。悪いことしちゃったなぁ…。」
夏音が見ているノートは、「マル秘 カラー解読」というタイトルが申し訳程度に鉛筆でうっすらと書かれており、中身はページの左半分に様々な色の水彩絵具が3センチ角の四角形に塗られており、その右側に説明が書かれている。
例えば、今夏音が見ているページには、青系の色が五種類塗られており、各色の右側に「自分に対する悲しみ」、「大事な物を無くした悲しみ」、「大事な人を失った悲しみ」など、色に対する説明が書かれている。
これは夏音が物心ついた時から集めた情報を中学生になってから纏めたノートであり、内容は今でも更新し続けている。
それは、夏音の特殊な能力に関することであり、夏音はその能力によって良い思いもしているが、ツラい思いをしていることが多いと感じており、正に今もそうだった。
夏音は自分の特殊な能力が嫌いだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる