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第1章 少女と紫色
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夏音は、今までの人生でいじめの対象になったことはなかった。それは、夏音が自ら目立たぬように日々を送っていたからかもしれない。この特殊な能力も、今まで親にすら話したことがなく、この能力での悩みも今まで全て自分一人で解決してきた。
だから、椅子に画鋲を置かれたことを、夏音自身はいじめとは考えなかった。
正直、夏音は奏を疑っていた。きっと奏の誘いを断ったことが、余程気に障ったのだと考えていた。
夏音と奏は、高校一年の時に美術部で初めて出会った。一年生の時は、クラスが別々だったため、最初は放課後の部活で会うくらいの仲だったが、奏が夏音の作品を褒めたことをきっかけによく話をする仲になった。
夏音は、ただ部室で好きな絵を描ければ良いと思ってこの美術部に入ったのだが、奏はとても行動派で、写生や美術館の見学など、外に出る企画を多く計画してくれた。
最初はあまり乗り気じゃなかった夏音だったが、外の世界で描く絵は、小さな教室で描く絵より美しく描けるような気がした。また、美術館などの見学も、インドアな夏音は一人で行くことは絶対に無かったので、様々な事を学ぶ素晴らしい機会になったと毎回感じていた。
言うならば、奏は夏音の人生に彩りを与えてくれた人物で、夏音もそれを感じており、奏に感謝していたし、それにとても好きだった。
そんな楽しい部活に異変を感じるようになったのは、3ヶ月前に環奈が入部してきてからだった。
環奈を美術部に誘ったのは先輩だったが、環奈は入部をするや否や直ぐに頭角を現した。夏音の得意な技法は水彩画だったのに対し、環奈は油絵を得意としていた。環奈は、たまたま入部後すぐに開催された県のコンクールで、あっさりと金賞を取ったのだ。
ジャンルが違うから、環奈の父親は画家だから、などと銅賞を受賞した夏音は考えていた。環奈が入部してくるまでは、顧問の先生や部長、何より奏に一番褒められていたのは自分だったのに…。
しかし、夏音は金賞が取れなかったことや、その金賞を環奈が取ったことが悔しかった訳じゃなかった。奏を奪われたことが、何よりツラかった。
環奈が入部したての時は、奏の誘いでよく三人で出掛けていた。しかし、環奈の実力を知って以来、奏は夏音よりも環奈と仲良くし、二人で出掛けている姿もよく見ていた。三人で出掛けた最後は、夏音の記憶によれば一ヶ月以上前だった。
夏音は、何だかわからないが、気持ちが上手くコントロール出来なくなり、それが絵にも表れるようになった。今まで褒めてくれていた先生も先輩も、今では意見を言うばかりになり、夏音自身も納得する作品が描けていなかった。
そんな矢先、珍しく夏音を交えての美術館見学の誘いだった。
本心を言えば、環奈がいることで、あまり乗り気じゃなかったが、それよりも奏から誘ってくれたことが嬉しかった。
だが、今はその誘いを断ったせいで、更にはイロカゲの能力のせいで、奏の見たくなかった感情と、環奈の理解出来ない感情に悩ませられていた。
その奏と環奈の感情の真意をずっと考えていたら、1限目の日本史はあっという間に終わりの時間を迎えようとしていた。夏音は、ふと時計に目を向けその事に気が付いたが、黒板にびっしり書かれた年表に対して、真っ白な夏音のノートに心の中で悲鳴を上げた。
夏音は、必死にノートを取り始めたが、非情にも教師は鐘が鳴ると同時に黒板消しを手に取り、夏音が書き始めた右側とは逆の左側から文字を軽快に消し始めた。夏音の心の中の悲鳴は音量を上げていた。
ノートを取るのを諦めて頭を抱えていると、スッと視界に綺麗に授業内容が纏められた誰かのノートが入ってきた。驚いて顔を上げると、来がいた。
「大丈夫?さっきといい、体調悪いなら無理しないで。ノートは、次の日本史までに返してくれればいいから。」
来はそう言うと、男友達数人を誘って教室を出て行った。予想していなかった来の行動に、夏音はお礼の一つも言えなかった。
そんな二人のやり取りを、奏は自席からじっと眺めていた。
だから、椅子に画鋲を置かれたことを、夏音自身はいじめとは考えなかった。
正直、夏音は奏を疑っていた。きっと奏の誘いを断ったことが、余程気に障ったのだと考えていた。
夏音と奏は、高校一年の時に美術部で初めて出会った。一年生の時は、クラスが別々だったため、最初は放課後の部活で会うくらいの仲だったが、奏が夏音の作品を褒めたことをきっかけによく話をする仲になった。
夏音は、ただ部室で好きな絵を描ければ良いと思ってこの美術部に入ったのだが、奏はとても行動派で、写生や美術館の見学など、外に出る企画を多く計画してくれた。
最初はあまり乗り気じゃなかった夏音だったが、外の世界で描く絵は、小さな教室で描く絵より美しく描けるような気がした。また、美術館などの見学も、インドアな夏音は一人で行くことは絶対に無かったので、様々な事を学ぶ素晴らしい機会になったと毎回感じていた。
言うならば、奏は夏音の人生に彩りを与えてくれた人物で、夏音もそれを感じており、奏に感謝していたし、それにとても好きだった。
そんな楽しい部活に異変を感じるようになったのは、3ヶ月前に環奈が入部してきてからだった。
環奈を美術部に誘ったのは先輩だったが、環奈は入部をするや否や直ぐに頭角を現した。夏音の得意な技法は水彩画だったのに対し、環奈は油絵を得意としていた。環奈は、たまたま入部後すぐに開催された県のコンクールで、あっさりと金賞を取ったのだ。
ジャンルが違うから、環奈の父親は画家だから、などと銅賞を受賞した夏音は考えていた。環奈が入部してくるまでは、顧問の先生や部長、何より奏に一番褒められていたのは自分だったのに…。
しかし、夏音は金賞が取れなかったことや、その金賞を環奈が取ったことが悔しかった訳じゃなかった。奏を奪われたことが、何よりツラかった。
環奈が入部したての時は、奏の誘いでよく三人で出掛けていた。しかし、環奈の実力を知って以来、奏は夏音よりも環奈と仲良くし、二人で出掛けている姿もよく見ていた。三人で出掛けた最後は、夏音の記憶によれば一ヶ月以上前だった。
夏音は、何だかわからないが、気持ちが上手くコントロール出来なくなり、それが絵にも表れるようになった。今まで褒めてくれていた先生も先輩も、今では意見を言うばかりになり、夏音自身も納得する作品が描けていなかった。
そんな矢先、珍しく夏音を交えての美術館見学の誘いだった。
本心を言えば、環奈がいることで、あまり乗り気じゃなかったが、それよりも奏から誘ってくれたことが嬉しかった。
だが、今はその誘いを断ったせいで、更にはイロカゲの能力のせいで、奏の見たくなかった感情と、環奈の理解出来ない感情に悩ませられていた。
その奏と環奈の感情の真意をずっと考えていたら、1限目の日本史はあっという間に終わりの時間を迎えようとしていた。夏音は、ふと時計に目を向けその事に気が付いたが、黒板にびっしり書かれた年表に対して、真っ白な夏音のノートに心の中で悲鳴を上げた。
夏音は、必死にノートを取り始めたが、非情にも教師は鐘が鳴ると同時に黒板消しを手に取り、夏音が書き始めた右側とは逆の左側から文字を軽快に消し始めた。夏音の心の中の悲鳴は音量を上げていた。
ノートを取るのを諦めて頭を抱えていると、スッと視界に綺麗に授業内容が纏められた誰かのノートが入ってきた。驚いて顔を上げると、来がいた。
「大丈夫?さっきといい、体調悪いなら無理しないで。ノートは、次の日本史までに返してくれればいいから。」
来はそう言うと、男友達数人を誘って教室を出て行った。予想していなかった来の行動に、夏音はお礼の一つも言えなかった。
そんな二人のやり取りを、奏は自席からじっと眺めていた。
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