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第1章 少女と紫色
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環奈がクラスでイジメにあっている。夏音は、その詳細を奏に聞きたがったが、教卓の目の前のテーブル席のため、今は止めておいた。
環奈は、夏音と同じ小学校だったが、家族の都合で近い距離ではあったが引っ越しをしたため、学区が別になり中学校は別々だった。そして、この高校で再び出会ったわけだが、小学校時代も対して接点がなかった二人は、環奈が美術部に入ってきて、ようやく友達という関係になれたと夏音は思っていた。
小学校時代は、接点こそ無かったが、夏音は、環奈の悪い話は噂で聞いていた。それらは今思えば残酷な子どもたちによるでっち上げな噂だとわかるが、当時はそんな噂も本気にしていた。そう、環奈は小学校時代もイジメられていたということを夏音は思い出した。
環奈は、見た目は所謂ぽっちゃり系で、運動が苦手で、勉強もそこそこ、性格は結構上からな態度で接してくることが多く、子どもからしたら、総合的に嫌われやすいタイプだったのかもしれない。勿論、夏音はイジメるグループでもなければ、環奈に救いの手を差しのべるでもなく、目立たぬように小学校時代を過ごしていた。
高校生になった今でも体系と上からな態度は大して変わりないが、化粧や髪型も綺麗にしており、今系な女子高生だ。
「じゃあ、ここからは各自ペアを組んで作業に取りかかるように。」
美術教師の朝倉圭介(あさくらけいすけ)は、夏音たちの美術部の顧問でもあった。夏音が環奈のことを考え、ボーッとしてる間に、朝倉は本日の授業内容の説明を終わらせていた。
「あ、そうだ。皆待ってくれ!」
朝倉は、席を立ち上がり作業に取りかかろうとしていた生徒たちを呼び止めた。
「その場でいいから、これを見てくれ。」
そう言うと朝倉は、一枚の油絵を両手で頭の上に掲げ、皆に見えるように身体ごと反時計回りをさせた。
「これは、うちの美術部の生徒の作品だ。勿論、ここまでレベルが高いものは求めてはいない。技法や構図などを参考にして貰いたい。この机に置いとくから、自由に見てくれ。」
そう言うと、朝倉は一枚の油絵を教卓に置いた。授業内容を全く聞いていなかった夏音は、今日が油絵の実習だったことを理解した。
「ねぇ、夏音ちゃん。あの絵って環奈が描いたやつだよね。」
夏音は奏に手を引かれ、絵を間近に見に行った。
環奈の油絵は、素晴らしいの一言だった。夏音と奏は水彩画を得意としているが、油絵に関しては全く未知だった。美術部全体でも油絵を得意としているのは水彩画に比べると格段に少なく、その中でも環奈は頭二つ分くらい抜きん出ている存在だった。
油絵のキャンパスを手に取り、絵をまじまじと見てみる。朝日に照らされた様々な生き物が、様々な色の影のような形で描かれていた。
(なんか、イロカゲみたいだな。)
夏音はそう思いながら、おもむろにキャンパスの裏面を見てみると、この絵のタイトルだろうか鉛筆で小さく文字が書かれていた。
“色影”
夏音はハッとして、思わず絵を落としそうになった。
(まさか、環奈も見れるの?)
夏音が難しい顔をしていると、いつの間にか奏は真っ白なキャンパスや画材を準備していた。
「夏音ちゃん、行こう!」
二人は写生画を描くため、噴水のある中庭を選んだ。
ベンチに座ると、鉛筆を顔の前に出し、構図を決め始める二人。奏がそのままの格好で、話を始めた。
「夏音ちゃん、さっきの環奈の話だけどさ。」
「え、あぁ…クラスでイジメられてるって話だよね。…全然気が付かなかったよ。」
「環奈は、私にか話してなかったから当然だよ。あんまり回りに迷惑かけたくないって言ってた。でもさ、私も話を聞く相談にはのれるんだけど、具体的にしてあげられることが無くて…。」
奏は構図を決めたのか、手を下ろしてキャンパスに鉛筆で下書きを始めた。
「…イジメって…具体的にどんな?」
夏音は、まだ構図も決められてなかったが、手を下ろして、奏の方を向いて聞いた。
「なんかさ、最初は一部の人だけだったんだって。しかもさ、理由がね、油絵で金賞取って学校で大きく取り上げられたことみたいなの!!
環奈は頑張っていい賞が取れたのに、調子に乗ってるんじゃねぇって感じで!!マジでムカつくよね!さいってい!!!」
普段の天使のような奏は、悪魔のように豹変するくらい興奮していた。確かに奏の言うとおり酷い話だと夏音も憤りを感じていた。
「美術の授業終わったら、環奈のとこに行かない?」
夏音が奏に提案した。奏は、環奈がイジメられていることを環奈の許可を取らずに夏音に話してしまったことについて、急に不安になった。
奏が沈黙で考えていると、見回りをしていて朝倉がやって来た。
「おう!三嶽と小林は噴水か、水の描写はなかなか上級だぞ。……あれ、何か元気ない感じだな…。」
朝倉は、二人がいつもの様子じゃないことに気が付いたようで、二人が座っているベンチに腰を下ろした。
「何かあったのか?」
朝倉の問いかけに夏音は沈黙していたが、奏が口を開いた。もしかしたら、朝倉は環奈から相談されているんじゃないかと考えたのだ。
「…先生、あの…環奈の件聞いてます?」
「…環奈って、由比のことか?何かあったのか?」
朝倉はキョトンとした表情で聞いた。
(え、知らないの!?また勝手に話しちゃったよ。)
奏は後悔しながら頭を掻いた。
環奈は、夏音と同じ小学校だったが、家族の都合で近い距離ではあったが引っ越しをしたため、学区が別になり中学校は別々だった。そして、この高校で再び出会ったわけだが、小学校時代も対して接点がなかった二人は、環奈が美術部に入ってきて、ようやく友達という関係になれたと夏音は思っていた。
小学校時代は、接点こそ無かったが、夏音は、環奈の悪い話は噂で聞いていた。それらは今思えば残酷な子どもたちによるでっち上げな噂だとわかるが、当時はそんな噂も本気にしていた。そう、環奈は小学校時代もイジメられていたということを夏音は思い出した。
環奈は、見た目は所謂ぽっちゃり系で、運動が苦手で、勉強もそこそこ、性格は結構上からな態度で接してくることが多く、子どもからしたら、総合的に嫌われやすいタイプだったのかもしれない。勿論、夏音はイジメるグループでもなければ、環奈に救いの手を差しのべるでもなく、目立たぬように小学校時代を過ごしていた。
高校生になった今でも体系と上からな態度は大して変わりないが、化粧や髪型も綺麗にしており、今系な女子高生だ。
「じゃあ、ここからは各自ペアを組んで作業に取りかかるように。」
美術教師の朝倉圭介(あさくらけいすけ)は、夏音たちの美術部の顧問でもあった。夏音が環奈のことを考え、ボーッとしてる間に、朝倉は本日の授業内容の説明を終わらせていた。
「あ、そうだ。皆待ってくれ!」
朝倉は、席を立ち上がり作業に取りかかろうとしていた生徒たちを呼び止めた。
「その場でいいから、これを見てくれ。」
そう言うと朝倉は、一枚の油絵を両手で頭の上に掲げ、皆に見えるように身体ごと反時計回りをさせた。
「これは、うちの美術部の生徒の作品だ。勿論、ここまでレベルが高いものは求めてはいない。技法や構図などを参考にして貰いたい。この机に置いとくから、自由に見てくれ。」
そう言うと、朝倉は一枚の油絵を教卓に置いた。授業内容を全く聞いていなかった夏音は、今日が油絵の実習だったことを理解した。
「ねぇ、夏音ちゃん。あの絵って環奈が描いたやつだよね。」
夏音は奏に手を引かれ、絵を間近に見に行った。
環奈の油絵は、素晴らしいの一言だった。夏音と奏は水彩画を得意としているが、油絵に関しては全く未知だった。美術部全体でも油絵を得意としているのは水彩画に比べると格段に少なく、その中でも環奈は頭二つ分くらい抜きん出ている存在だった。
油絵のキャンパスを手に取り、絵をまじまじと見てみる。朝日に照らされた様々な生き物が、様々な色の影のような形で描かれていた。
(なんか、イロカゲみたいだな。)
夏音はそう思いながら、おもむろにキャンパスの裏面を見てみると、この絵のタイトルだろうか鉛筆で小さく文字が書かれていた。
“色影”
夏音はハッとして、思わず絵を落としそうになった。
(まさか、環奈も見れるの?)
夏音が難しい顔をしていると、いつの間にか奏は真っ白なキャンパスや画材を準備していた。
「夏音ちゃん、行こう!」
二人は写生画を描くため、噴水のある中庭を選んだ。
ベンチに座ると、鉛筆を顔の前に出し、構図を決め始める二人。奏がそのままの格好で、話を始めた。
「夏音ちゃん、さっきの環奈の話だけどさ。」
「え、あぁ…クラスでイジメられてるって話だよね。…全然気が付かなかったよ。」
「環奈は、私にか話してなかったから当然だよ。あんまり回りに迷惑かけたくないって言ってた。でもさ、私も話を聞く相談にはのれるんだけど、具体的にしてあげられることが無くて…。」
奏は構図を決めたのか、手を下ろしてキャンパスに鉛筆で下書きを始めた。
「…イジメって…具体的にどんな?」
夏音は、まだ構図も決められてなかったが、手を下ろして、奏の方を向いて聞いた。
「なんかさ、最初は一部の人だけだったんだって。しかもさ、理由がね、油絵で金賞取って学校で大きく取り上げられたことみたいなの!!
環奈は頑張っていい賞が取れたのに、調子に乗ってるんじゃねぇって感じで!!マジでムカつくよね!さいってい!!!」
普段の天使のような奏は、悪魔のように豹変するくらい興奮していた。確かに奏の言うとおり酷い話だと夏音も憤りを感じていた。
「美術の授業終わったら、環奈のとこに行かない?」
夏音が奏に提案した。奏は、環奈がイジメられていることを環奈の許可を取らずに夏音に話してしまったことについて、急に不安になった。
奏が沈黙で考えていると、見回りをしていて朝倉がやって来た。
「おう!三嶽と小林は噴水か、水の描写はなかなか上級だぞ。……あれ、何か元気ない感じだな…。」
朝倉は、二人がいつもの様子じゃないことに気が付いたようで、二人が座っているベンチに腰を下ろした。
「何かあったのか?」
朝倉の問いかけに夏音は沈黙していたが、奏が口を開いた。もしかしたら、朝倉は環奈から相談されているんじゃないかと考えたのだ。
「…先生、あの…環奈の件聞いてます?」
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