colors -イロカゲ -

雨木良

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第2章 先輩と黄色

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夏音が帰宅すると、母親の茜がリビングのドアを開けて、玄関まで駆けてきた。

「夏音!?大丈夫だった!?連絡網が掛かってきて。学校で事件があったんだって!?…今から学校に向かおうかと思ってたところよ!」

茜は夏音を強く抱き締めながら、安堵していた。

「母さん、ありがとう。私は大丈夫。」

夏音は、茜に環奈の話をした。同じ美術部でありながら、今まで茜に環奈の話はしたことがなかった為、茜は誰だかは分からないが、頷きながら夏音の話を聞くだけだった。

「大変だったわね。…友達がいきなり目の前で死んじゃうなんて。…あなたが大丈夫だと言えばそれを信じるけど、無理はしないでね。」

茜はそう言うと、もう一度抱き締めてから、リビングへと戻っていった。夏音は、二階にある自分の部屋へと向かった。

「ふぅ。」

部屋に着くと、心身ともにグッと疲れが襲ってきて、倦怠感に負けてベッドへと倒れこんだ。

「環奈…死んじゃった…。」

密室に一人きりになったことで、思い出したくない環奈の最期の姿が脳に蘇り、寂しさと恐怖に襲われたような夏音。薄手の掛け布団にくるまりながら、声を殺して一頻り泣いた。

どれくらい経ったのかは分からないが、少しスッキリした夏音は、ベッドから起きあがり、ベッドに腰掛ける体勢へと変えた。涙を拭って部屋を見渡し、あることに気が付いた。

「あっ、そうだ!」

今日、奏と環奈との約束を断った理由だった。

夏音は急いで一階のリビングへと向かい、ドアを開けると同時に茜に聞いた。

「母さん!ベル!ベルは!?」

リビングの隅で中腰で何かをしていた茜は夏音に振り向き、笑顔で手招きした。夏音は駆け足で茜の元に行くと、茜が見ていたモノに気が付いた。

「わぁぁ!産まれたんだ!!やったぁ!」

目線の先には、まだ毛も生えていない産まれたばかりのビーグル犬の仔犬が4匹、母親犬に寄り添って眠っていた。

夏音はイロカゲで妊娠している飼い犬のベルが間もなく出産を迎えることを分かっていた。ベルは自分にとっては妹のような存在の大事な家族であるが、価値観が違うであろう奏や環奈には犬を理由に断るのが申し訳ないと思い、理由を話せずにいた。

「三匹がオスで、一匹がメスね。」

茜が仔犬を指差しながら夏音に教えた。新社会人になって間もない姉の愛弓は、就職を機に家を出て一人暮らしを始めており、寂しい思いをしていた夏音は、家族が増えたことが本当に嬉しかった。

「ねぇ、仔犬は全部飼えるんだよね?」

夏音の問いかけに茜は笑顔で頷いた。

「名前、考えてあげてね。」

茜はそう言うと、キッチンへと向かった。

夏音は、リビングにうつ伏せで寝そべり、眠っている仔犬と同じ目線で、微笑みながら眺めていた。時々、ピョコピョコと動く短い手足の可愛さに、闇が覆っていた夏音の心は、少しずつ癒されていた。
 
4匹の内、一匹の仔犬が積極的に身体を動かしていて夏音は目を奪われた。生きようと必死にもがいているようにも見えたその仔犬は、茜が説明していた唯一のメスだった。

「…名前……カンナ。あなたはカンナ…ね。」

一匹の名前が決まった。
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