colors -イロカゲ -

雨木良

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第4章 父親と黒色

(14)

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【横浜市中央病院】

茜の運転により、カーナビの到着予定時刻を大幅に繰り上げて到着した。茜は、駐車場の空きスペースを見つけると、これまた凄い勢いでバック駐車し、エンジンを止めた。

「さ、夏音行くよ!」

茜は、助手席との間に置いておいた鞄を手に取り、颯爽と運転席から外に出た。

「…夏音?」

中々降りてこない夏音の様子を、運転席の窓から覗くと、青褪めた顔で口を押さえて、小刻みに震えている夏音が座っていた。
 
「…あちゃあ、ごめん、夏音。」

茜は、過去にも同じ状態になった夏音を思い出し、謝りながら助手席側に回り、ドアを開けて、自分の肩で支えながら夏音をゆっくり降ろした。

「…わ…私、母さんの運転が、どの絶叫マシーンよりも怖いと思う。」

力ない声で呟く夏音に、茜は苦笑いで答えることしかできなかった。

「母さん!夏音!」

病院の入口で二人を待っていた愛弓が、叫びながら駆け寄ってきた。

茜は、離婚以来、愛弓とは電話で話したことはあるが、会うのは初めてだった。久しぶりに見て、成長している娘の姿に茜は感極まり、夏音に肩を貸しながら、駆け寄ってきた愛弓を抱き締めた。

「愛弓ぃ、久しぶり。大きくなって!」

「母さんこそ、元気そうで良かったわ。夏音も久しぶり。…あれ?夏音、大丈夫?体調悪いの?」

愛弓の言葉に、夏音は苦笑いを浮かべてた。

「あ、その話は後にして、愛弓、父さんどうなの?」

茜が話をすり替え、愛弓に聞いた。

「今は安定してるみたい。でも、またいつ急変するかわからないって言われてて。…ほぼ毎日顔を合わせていたのに、余命一ヶ月なんて全く知らなくて…。…父さん、私に言いにくかったのかな。」

涙を流しながら話す愛弓の言葉に、夏音は顔を歪めた。確か、午前中に彰から聞いた話では、余命は二年と言っていた覚えがあったからだ。

「余命一ヶ月…そんな。」

茜は落胆しながらも、直ぐに彰の顔を見たいと、夏音を支えながら病院の入口に向かって歩き出した。

【病室】 

病室に着くと、複数の管が繋がられた彰が静かに眠っていた。午前中に会った彰とは、あまりに違う姿に、夏音は口を押さえて絶句した。

「あ、あなた…。」

茜は、ゆっくりと彰の枕元に近づき顔を覗き込んだ。

「こんなに痩せちゃって。…ごめんなさい、私のせいよね。」

茜は彰の髪を撫でながら、涙を流した。夏音も、ゆっくりと彰の顔を覗き込んだ。

微かな呼吸音と、彰を囲む機械の音だけが、静かな病室に響き渡る中、夏音は彰のイロカゲを見た。

「…むら…さき。」

昔、祖母が亡くなる前と同じイロカゲのような気がした。愛弓は、病室の入口付近で、夏音をじっと見つめていた。

しばらくすると、医師が病室にやってきて、三人に彰の病状を説明した。

医師によると、病名は癌で、やはり愛弓が電話で言っていた通り、余命はもって一ヶ月という状態だったようだ。勿論、通常は入院治療を勧める病状だが、彰本人が入院は望まず、通院で治療していたとのことで、医師も心配していたようだ。

一通り説明を終えると、医師が愛弓に向かって話し出した。

「ご家族は、娘さんお一人だと伺っております。あなたの話をする時は、お父さんは本当に嬉しそうで、あなたの写真を見せてくれたこともあります。」

愛弓は、そんなに彰が自分のことを思ってくれていたことを知って嬉しい気持ちと、何故今日彰との約束を守らなかったのかという後悔、相反する二つの気持ちが湧いてきた。

更に、にこやかな表情で話していた医師の顔つきが変わり、愛弓に質問を続けた。

「…お父さんね、延命措置は望んでいないんですよ。寝たきりの植物状態になってしまって、娘に看病させることだけは避けたいって、私には再三言ってましてね。今は呼吸の補助装置だけを付けていますが、直接延命に繋がる措置はしていません。…お若いあなたにこんな判断を仰ぐのは胸が痛いのですが、延命措置をされるかどうかを決めてください。」

愛弓は、何も言えずに固まってしまった。茜がそっと、愛弓に寄り添い肩に抱き寄せた。

「母さん、私どうしたら良い…?」

愛弓は潤んだ目で茜を見つめた。

「結論出ましたら、声掛けください。」

医師と看護師は、そう言うと病室から出ていった。

「ごめんね、愛弓。」

茜は、愛弓の頭を撫でながら、耳元で囁いた。愛弓は、自分がどうすべきか分からずに、涙を拭うことしかできなかった。

コンコン。

ノックとともに、病室の扉が開き、さっきとは違う看護師が入ってきて、軽くお辞儀すると愛弓に一通の手紙を差し出した。

「これは、お父さんから預かった愛弓さん宛の手紙です。自分にもしものことがあったら、渡して欲しいと言われていました。」

愛弓は、ゆっくりその手紙を受け取ると、看護師はお辞儀をして、病室から出ていった。

夏音も、二人の側に寄り添い、愛弓がゆっくりと封筒から手紙を取り出し、二つ折になっている手紙を開いた。
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