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第4章 父親と黒色
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【小田原市立図書館】
同時刻。
神楽の自宅を出た奏と来は、市内の図書館に来ていた。
元々、来が神楽の自宅の後に、借りた本を返すために来る予定だったのだが、神楽の口から聞いた事実が衝撃的で、奏は直ぐに帰宅する気分になれず、来にお願いして一緒に付いてきていた。
来が目的の本の返却を完了させると、図書館の隅の空いていたテーブルに対面に座った。
神楽の自宅から図書館に来るまでの間、時間にして10分程度ではあったが、二人は其々に頭の中で考えを巡らし、会話らしい会話は無かった。
そんな中、来が口を開いた。
「久保寺さんの言ってたこと、本当だとしたら結構大事になっちゃいそうだよね。」
奏は頷いて答えた。
「そうだよね。マスコミが好きそうなネタだし。でもまさか、先生が神楽を脅してたなんて…。」
奏は図書館ということを忘れて、いつもの声量で話をしたため、隣のテーブルの人から冷ややかな視線を浴びせられた。その視線に気が付いた来が、慌てて苦笑いでやり過ごした。
「小林さん、も少しボリューム落とそうか。それか、カフェでも行く?」
来の言葉に、奏は首を横に振って答えた。
「…ここで大丈夫。気を付けるから。」
奏は、正直疲れていた。本当なら、恋心を寄せる来とのデート気分でウハウハなはずなのだが、夏音と同じく濃密な二日間の出来事に、心身共に疲労が限界だった。それでも、来が今側にいてくれて、とても心強く感じていた。神楽からの言葉を自分一人で聞いていたら、どうしたら良いのか分からず、きっと頭も心もパンクしていただろうと思った。
「…先生に会いに行って、事実を確かめたいんだけど。…小林さんはどう思う?」
来は、疲労が顔に出ている奏の心情を察してはいたが、一応自分の考えを伝えた。
「…え?今から?」
頷く来に、奏は下を向いて考え込んだ。
【小田原警察署】
同時刻。
「はぁー、結局今日は進展なしですねぇ。」
曽我が自席であくびをしながら言った。気の緩んだ態度に内藤は睨み付けた。
「ちょ、そんな怖い顔しないでくださいよ。…あ、神谷からだ。」
曽我は震えるスマホをポケットから取り出し、神谷からのメッセージアプリを開いた。
「内藤さん!神谷からのメッセージ見ました?今グループに送られてきてますよ、凄い画像と一緒に。」
曽我の言葉に、内藤はスマホを鞄から取り出し、アプリを開いた。
そこには、〈ついさっきです。〉という神谷のメッセージと、朝倉が環奈の家から出てくる写真と、親しそうに玄関先で話す朝倉と紗希の写真が添付されていた。
「…これって、由比環奈の母親ですよね?」
曽我が、資料の写真とスマホの写真を見比べながら言った。
「…そうね。随分親しそうね、この二人。…やっぱり課長の情報通り…。」
内藤が写真を覗き込みながら呟くと、神谷から追加のメッセージが送られてきた。
〈朝倉と由比環奈の母親は、二人の会話によると元恋人関係の模様。憶測だが、環奈は二人の子の可能性あり。〉
「これ、ホントですかね?だとしたら、環奈は実の父親が顧問の部活にいて…あ、でも朝倉は結婚歴はないから、もしかしたら環奈自身は、朝倉が実の父親ってことを知らなかった可能性も…あー、何だか頭がこんがらがりそうです!」
曽我が頭を激しく掻きながら言った。
「仮に、神谷くんの推測通りだとしたら、朝倉は実の娘を殺すと思う?」
混乱している曽我に、内藤が振り向いて聞いた。
「…どうでしょうか…。」
「普通に考えたら実の娘を殺めたりはしないだろ。特段、二人のトラブルの情報もないわけだしな。」
はっきりしない曽我の返しに、自席で話を聞いていた係長の三橋が割り込んで答えた。
「係長…、私も同意見です。」
「だったら、とにかく裏付けを取れ。事実なら由比環奈は、イジメを苦にした自殺で確定だ。」
三橋の言葉に、内藤は頷くと、曽我を連れて執務室を出ていった。
【車中】
同時刻。
横浜市内の中央病院に向かう夏音と茜。
茜は、急ぐ気持ちを運転に乗せ、スピード超過をしながら、荒い運転を続けていた。高速道路の緩いカーブの度に、助手席の夏音は身体を左右に激しく揺られていた。
ただ、茜の運転の荒さは今に始まった事ではなく、夏音は茜の運転では必ず車酔いしてしまうため、なるべく車に乗らないように、この数ヶ月は上手く避けていたのだ。
だが、今日の運転は、いつもに増して荒く、スピードメーターを覗き込むと、警察に見つかったら一発免許停止どころじゃないスピードだった。
「ちょ、ちょっと母さん。そんなに急がなくても…。」
「夏音、あんた父さんに万が一があった場合、死に目に会えなくてもいいの!?」
茜は正面から視線を反らすことなく、夏音に聞いた。
「それは…嫌だけど。」
「…なんかね、母さん嫌な予感がするのよ。…私も怖いの。お父さんとは、離婚してから一回も会ってないし、話もしてない。それは、私が悪いし、お父さんのためにそうしてた。…でもね、自分勝手だけど、またいつかお父さんと会って話がしたかった。過ちを犯したけど、私はずっと…今でも…お父さんが好きで…う、うぅ。」
初めて茜の本心を聞いた夏音。目線を茜に向けると、大粒の涙を流していた。
「母さん…。…泣くと前が滲んで見えなくなっちゃうよ…。」
「…そうだね。待っててね…お父さん。夏音!飛ばすよ、しっかり掴まってて!」
茜は、助手席で青褪めている夏音の返事を待つことなく、アクセルを更に踏み込んだ。
同時刻。
神楽の自宅を出た奏と来は、市内の図書館に来ていた。
元々、来が神楽の自宅の後に、借りた本を返すために来る予定だったのだが、神楽の口から聞いた事実が衝撃的で、奏は直ぐに帰宅する気分になれず、来にお願いして一緒に付いてきていた。
来が目的の本の返却を完了させると、図書館の隅の空いていたテーブルに対面に座った。
神楽の自宅から図書館に来るまでの間、時間にして10分程度ではあったが、二人は其々に頭の中で考えを巡らし、会話らしい会話は無かった。
そんな中、来が口を開いた。
「久保寺さんの言ってたこと、本当だとしたら結構大事になっちゃいそうだよね。」
奏は頷いて答えた。
「そうだよね。マスコミが好きそうなネタだし。でもまさか、先生が神楽を脅してたなんて…。」
奏は図書館ということを忘れて、いつもの声量で話をしたため、隣のテーブルの人から冷ややかな視線を浴びせられた。その視線に気が付いた来が、慌てて苦笑いでやり過ごした。
「小林さん、も少しボリューム落とそうか。それか、カフェでも行く?」
来の言葉に、奏は首を横に振って答えた。
「…ここで大丈夫。気を付けるから。」
奏は、正直疲れていた。本当なら、恋心を寄せる来とのデート気分でウハウハなはずなのだが、夏音と同じく濃密な二日間の出来事に、心身共に疲労が限界だった。それでも、来が今側にいてくれて、とても心強く感じていた。神楽からの言葉を自分一人で聞いていたら、どうしたら良いのか分からず、きっと頭も心もパンクしていただろうと思った。
「…先生に会いに行って、事実を確かめたいんだけど。…小林さんはどう思う?」
来は、疲労が顔に出ている奏の心情を察してはいたが、一応自分の考えを伝えた。
「…え?今から?」
頷く来に、奏は下を向いて考え込んだ。
【小田原警察署】
同時刻。
「はぁー、結局今日は進展なしですねぇ。」
曽我が自席であくびをしながら言った。気の緩んだ態度に内藤は睨み付けた。
「ちょ、そんな怖い顔しないでくださいよ。…あ、神谷からだ。」
曽我は震えるスマホをポケットから取り出し、神谷からのメッセージアプリを開いた。
「内藤さん!神谷からのメッセージ見ました?今グループに送られてきてますよ、凄い画像と一緒に。」
曽我の言葉に、内藤はスマホを鞄から取り出し、アプリを開いた。
そこには、〈ついさっきです。〉という神谷のメッセージと、朝倉が環奈の家から出てくる写真と、親しそうに玄関先で話す朝倉と紗希の写真が添付されていた。
「…これって、由比環奈の母親ですよね?」
曽我が、資料の写真とスマホの写真を見比べながら言った。
「…そうね。随分親しそうね、この二人。…やっぱり課長の情報通り…。」
内藤が写真を覗き込みながら呟くと、神谷から追加のメッセージが送られてきた。
〈朝倉と由比環奈の母親は、二人の会話によると元恋人関係の模様。憶測だが、環奈は二人の子の可能性あり。〉
「これ、ホントですかね?だとしたら、環奈は実の父親が顧問の部活にいて…あ、でも朝倉は結婚歴はないから、もしかしたら環奈自身は、朝倉が実の父親ってことを知らなかった可能性も…あー、何だか頭がこんがらがりそうです!」
曽我が頭を激しく掻きながら言った。
「仮に、神谷くんの推測通りだとしたら、朝倉は実の娘を殺すと思う?」
混乱している曽我に、内藤が振り向いて聞いた。
「…どうでしょうか…。」
「普通に考えたら実の娘を殺めたりはしないだろ。特段、二人のトラブルの情報もないわけだしな。」
はっきりしない曽我の返しに、自席で話を聞いていた係長の三橋が割り込んで答えた。
「係長…、私も同意見です。」
「だったら、とにかく裏付けを取れ。事実なら由比環奈は、イジメを苦にした自殺で確定だ。」
三橋の言葉に、内藤は頷くと、曽我を連れて執務室を出ていった。
【車中】
同時刻。
横浜市内の中央病院に向かう夏音と茜。
茜は、急ぐ気持ちを運転に乗せ、スピード超過をしながら、荒い運転を続けていた。高速道路の緩いカーブの度に、助手席の夏音は身体を左右に激しく揺られていた。
ただ、茜の運転の荒さは今に始まった事ではなく、夏音は茜の運転では必ず車酔いしてしまうため、なるべく車に乗らないように、この数ヶ月は上手く避けていたのだ。
だが、今日の運転は、いつもに増して荒く、スピードメーターを覗き込むと、警察に見つかったら一発免許停止どころじゃないスピードだった。
「ちょ、ちょっと母さん。そんなに急がなくても…。」
「夏音、あんた父さんに万が一があった場合、死に目に会えなくてもいいの!?」
茜は正面から視線を反らすことなく、夏音に聞いた。
「それは…嫌だけど。」
「…なんかね、母さん嫌な予感がするのよ。…私も怖いの。お父さんとは、離婚してから一回も会ってないし、話もしてない。それは、私が悪いし、お父さんのためにそうしてた。…でもね、自分勝手だけど、またいつかお父さんと会って話がしたかった。過ちを犯したけど、私はずっと…今でも…お父さんが好きで…う、うぅ。」
初めて茜の本心を聞いた夏音。目線を茜に向けると、大粒の涙を流していた。
「母さん…。…泣くと前が滲んで見えなくなっちゃうよ…。」
「…そうだね。待っててね…お父さん。夏音!飛ばすよ、しっかり掴まってて!」
茜は、助手席で青褪めている夏音の返事を待つことなく、アクセルを更に踏み込んだ。
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