colors -イロカゲ -

雨木良

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最終章 先生と透明

(1)

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【某アパート前】

夏音たちが悲しみに暮れていた同時刻。

「ここかな?」

来が、アパートの2階の角部屋を指差しながら言った。奏は、紙に書かれた住所のアパート名と目の前のアパート名を照らし合わせて頷いた。

「小林さんは、ここで待ってて。何されるか分かんないからさ。」 

来はそう言うと、アパートの敷地内に入り、外階段を上って2階の角部屋を目指した。奏はその様子を心配そうに見つめた。

来は、奏の方を向き、頷いて合図をすると玄関横のインターホンを押した。

しばらくすると、家の中から声が聞こえてきた。

「どなたですか?」

「佐藤来です。ちょっと聞きたいことがありまして、こんな時間にすみません。」

「佐藤…どうしたんだ。ちょっと待て。」

奏には会話が聞こえていなかったが、来がやり取りしている姿が見え、固唾を飲んで見守っていた。

ガチャ。玄関の扉が開けられた。

「すみません。日下部先生。」

現れたのは、夏音たちの担任の日下部だった。来は話を続けた。

「先生に聞きたいことがありまして。…ここで話します?中がいいですか?」

来の表情を見て、何かを悟った日下部は、無言で来を中に引き入れて、扉を閉めて鍵を掛けた。

「…佐藤くん。」

その様子を見ていた奏は、不安でいっぱいになり、自分が出来ること、すべきことを考えた。

すると、日下部の部屋から激しい物音が聞こえ始めた。奏は、慌ててアパートの外階段を駆け上り、日下部の部屋の扉を開けようとしたが、鍵が掛かっていて開かない。

扉に耳を当て、中の様子を伺うと、来の「やめて」という声が聞こえた。

「佐藤くん!?」

奏は慌てて、扉を激しく叩いた。

「先生!!開けてください!佐藤くんに何を!?」

奏は泣きながら、大声で叫び、扉を叩き続けた。すると、道行く人たちが、徐々に集まりだし、奏の様子を伺っていた。尋常じゃない女子高生の姿に、野次馬の一人のサラリーマンが奏の元まで駆け寄り、事情を聞くと、鞄を床に置き、玄関の扉を激しく蹴り飛ばした。

木製の扉は、築年数の影響もあってか、三回目の蹴りで割れ始め、隙間から手を入れて内側から鍵を解錠することができた。

サラリーマンが扉を開けると、2Kの間取りの部屋、一番奥の畳の上で、来が横たわっていた。サラリーマンと奏はすぐに来に駆け寄り、声を掛けた。

「さ、佐藤くん!起きて!」

来の身体を揺さぶる奏。サラリーマンが救急車を呼ぼうと、スマホを取り出しながら、後ろに振り返ると、押し入れから覗き込む日下部を見つけた。

日下部はサラリーマンと目が合った瞬間、押し入れから飛び出し、持っていた金属バットで殴り掛かった。額の右上にもろに喰らったサラリーマンは、うめき声をあげながら床に倒れこんだ。

サラリーマンが真横に倒れてきたことで、奏は事態に気が付き、目線を上げると、次は自分にバットを振り上げている日下部の姿があった。

「いやぁぁぁぁぁ。」

バキューン!

奏が死を覚悟し目を瞑った瞬間、銃声が響き渡った。

奏は、痛みを感じていないことに不思議な気持ちになり、ゆっくりと目を開いた。すると、目の前には、右肩を押さえ、うずくまる日下部の姿があった。

「ふぅ、良かった、間に合って。」

「はぁはぁ…ホント、危機一髪でしたね。」

振り返った奏の目線には、銃を構えた内藤と曽我が立っていた。うっすらと煙が出ている所を見ると、どうやら曽我が日下部を撃ったようだ。

「流石曽我くん、いい腕してるじゃない。神谷くん!確保して。」

内藤の呼び掛けに、神谷が外から部屋に入り、日下部を押さえつけた。すると、内藤がゆっくりと日下部に歩み寄り、屈んで日下部の顎を掴むと、グイッと自分の方に向けた。

「あんたみたいな最低教師、人生終わりにしてやるから。」

内藤はそう吐き捨てると、曽我と神谷に現場を任せて部屋から出ていった。

すると今度は、救急車のサイレンが聞こえ始め、アパート前で止まり、救急隊員が部屋へと駆け込み、来の様子を伺う者と、サラリーマンの様子を伺う者、日下部の傷の手当てをする者とに分かれた。

隊員は、来の脈拍を確認した。横で見ていることしか出来ない奏は、心臓が潰れる思いで祈ることしか出来なかった。

「…脈確認!早く担架を!」

隊員の言葉に、少し緊張が解けた奏は、そのまま壁にもたれかかるように座り込み、大きな深呼吸をした。

「…良かった…。」

奏の目の前で、来は担架に乗せられ隊員たちに持ち上げられながら、部屋を出ていった。そして、隊員の後ろに付いていくように、怪我の手当てが終わった日下部を、神谷が外に連れ出していった。

「立てるかい?」

曽我が、座り込んでいる奏に手を差し出しながら聞いた。

「…あ、あのぅ…あの人は…?」

奏が震えながらサラリーマンを指差しながら曽我に聞いた。曽我は悲しげな顔をして、ゆっくりと首を横に振った。

「…え?」

すぐに理解出来なかった奏の目の前で、サラリーマンに白いシートが被せられた。
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