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最終章 先生と透明
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【横浜市中央病院】
同時刻。
茜が、病院の外で地元小田原の葬儀社に連絡をし、彰の遺体を小田原の夏音たちの家に運ぶ手配を済ませていた。夏音と愛弓は、病院地下の霊安室に彰の遺体とともにいた。
二人は彰の顔の横に並んで立ち、涙を流しながら彰を見つめていた。
「ねぇ、夏音。夏音は知ってたの?…父さんのこと。」
愛弓が、彰の頬を撫でながら聞いた。
「…今日午前中に父さんに会ったの。…その時、病気のこと知って、でも父さんは余命は二年くらいあるみたいな話をしてたから…まさか今日こんなことになるなんて…。うぅ…。」
夏音は、その場でうずくまるように座り、声を殺しながら泣いた。
「…父さん、私に言えなかったのかな?それが悔しくて。…父さんの命の期限知ってたら、もっと父さんにやってあげたいこと、父さんと一緒にやりたいこと…いっぱいあったのになぁ…。」
愛弓の涙が彰の頬を伝った。愛弓が、涙を拭いながら続けた。
「…ねぇ、夏音。何なの?“紫”って。」
「え?」
うずくまっていた夏音は、顔を上げた。愛弓は、夏音に振り向いて話を始めた。
「昔、おばあちゃんが死んじゃった時も言ってたよね?紫色だって。あれからさ、夏音は意識してないかもしれないけど、ちょくちょく聞こえてたんだ。オレンジ色だとかネズミ色だとか、誰かを見つめながら呟いている夏音を。…父さん見た時も言ってたじゃない。紫って。」
夏音は、また顔を下げ黙り込んだ。愛弓は、答えない夏音にしびれを切らし、屈んでうずくまる夏音の両肩を掴み揺さぶりながら、問いただした。
「夏音!あんたさ、人の寿命とか気持ちがわかるんじゃないの!?そうなんでしょ?ねぇ、答えてよ。あんたのその能力、本当なら凄いことじゃない!?」
その時、電話を終えた茜が霊安室に入ってきた。茜は、二人の良からぬ雰囲気に顔をしかめた。
「…あんたたち、何やってんの?」
茜の問いかけに、愛弓は無言で立ち上がり、早足で茜の横をすり抜けて、霊安室から出ていった。呆然とする茜の目線には、うずくまったままの夏音の姿があった。茜は、ゆっくりと夏音に歩み寄り屈むと、夏音の頭を撫でながら、優しく話し掛けた。
「夏音。何があったかは今は聞かないからさ。葬儀屋さん、一時間くらいで来てくれるみたいだから、父さんと愛弓連れて帰ろう。ね?」
「…うん。」
夏音は、茜を心配させないために、簡単な返事をした。
愛弓は病院の外にいた。愛弓は落ち着くために自販機で缶コーヒーを買い、一口飲んで大きなため息をついた。脳裏には彰の死に顔と、最後に見た茜の表情がフラッシュバックし、こんな時に何をしているのだろうと、夏音への質問を後悔していた。少し気持ちが落ち着くと、彰が急死した悲しみと、後悔の念で自然と涙が頬を伝った。
愛弓はこのまま、葬儀社が病院に到着し、茜から電話が来るまで、外のベンチで月を眺めていた。
50分後。
葬儀社が到着すると、夏音たちが見守る中、彰の身体は白い袋に入れられ、葬儀社の車へと運ばれていった。
病院から小田原の自宅までは、葬儀社を誘導する形で茜が運転する車が前を走ることになり、三人は霊安室から駐車場へと向かうため、出入口のある一階への階段をゆっくりと上り始めた。
「…夏音。さっきはごめんなさい。」
一番後方を歩いていた愛弓が、先頭の茜には聞こえない声量で、夏音に言った。夏音は、愛弓に振り返ることなく、コクンと頷いて答えた。
夏音は、愛弓がイロカゲの能力に気が付いていることに正直驚いたが、自分の能力を凄いことだと褒めてくれたことがとても嬉しかった。今まで、自分の能力について、家族にさえ何も言われたことがなく、誰も気が付いていないと思っていた。それは、孤独という気持ちもあれば、逆に揶揄されたりはしないという安心感も伴っていた。
愛弓が自分の能力を凄いことだと認めてくれたのなら、素直に喜びを表現すればよいのだが、夏音は胸の内で、まだ複雑な思いを巡らせていた。
そのまま三人は駐車場に向かい、車に乗り込んだ。茜は運転席で葬儀社の車の位置を確認すると、ギアをドライブに変え、ゆっくりと発進させた。
「…母さん。帰りはゆっくりね。葬儀屋さんも父さんも困っちゃうからね。」
助手席の夏音が、まるで幼児を叱るような口調で茜に言った。茜は笑顔とVサインで答えると、葬儀社の車と合流し、前をゆっくりと走っていたが、病院の駐車場から公道へと入った途端、目の前の信号が黄色に変わったと同時にアクセルを踏み込み、信号が赤になる手前で交差点を通り過ぎた。
「…あ。」
やっちゃったという顔で我に返った茜が助手席を見ると、あまりの急発進に夏音は放心状態で顔が青ざめていた。後部座席の愛弓は、後ろを振り返り、赤信号で前に進めず、段々と小さくなっていく葬儀社の車を見つめていた。
「…母さん。」
愛弓も茜の運転の荒さを思い出し、小田原までの帰路を危惧した。
同時刻。
茜が、病院の外で地元小田原の葬儀社に連絡をし、彰の遺体を小田原の夏音たちの家に運ぶ手配を済ませていた。夏音と愛弓は、病院地下の霊安室に彰の遺体とともにいた。
二人は彰の顔の横に並んで立ち、涙を流しながら彰を見つめていた。
「ねぇ、夏音。夏音は知ってたの?…父さんのこと。」
愛弓が、彰の頬を撫でながら聞いた。
「…今日午前中に父さんに会ったの。…その時、病気のこと知って、でも父さんは余命は二年くらいあるみたいな話をしてたから…まさか今日こんなことになるなんて…。うぅ…。」
夏音は、その場でうずくまるように座り、声を殺しながら泣いた。
「…父さん、私に言えなかったのかな?それが悔しくて。…父さんの命の期限知ってたら、もっと父さんにやってあげたいこと、父さんと一緒にやりたいこと…いっぱいあったのになぁ…。」
愛弓の涙が彰の頬を伝った。愛弓が、涙を拭いながら続けた。
「…ねぇ、夏音。何なの?“紫”って。」
「え?」
うずくまっていた夏音は、顔を上げた。愛弓は、夏音に振り向いて話を始めた。
「昔、おばあちゃんが死んじゃった時も言ってたよね?紫色だって。あれからさ、夏音は意識してないかもしれないけど、ちょくちょく聞こえてたんだ。オレンジ色だとかネズミ色だとか、誰かを見つめながら呟いている夏音を。…父さん見た時も言ってたじゃない。紫って。」
夏音は、また顔を下げ黙り込んだ。愛弓は、答えない夏音にしびれを切らし、屈んでうずくまる夏音の両肩を掴み揺さぶりながら、問いただした。
「夏音!あんたさ、人の寿命とか気持ちがわかるんじゃないの!?そうなんでしょ?ねぇ、答えてよ。あんたのその能力、本当なら凄いことじゃない!?」
その時、電話を終えた茜が霊安室に入ってきた。茜は、二人の良からぬ雰囲気に顔をしかめた。
「…あんたたち、何やってんの?」
茜の問いかけに、愛弓は無言で立ち上がり、早足で茜の横をすり抜けて、霊安室から出ていった。呆然とする茜の目線には、うずくまったままの夏音の姿があった。茜は、ゆっくりと夏音に歩み寄り屈むと、夏音の頭を撫でながら、優しく話し掛けた。
「夏音。何があったかは今は聞かないからさ。葬儀屋さん、一時間くらいで来てくれるみたいだから、父さんと愛弓連れて帰ろう。ね?」
「…うん。」
夏音は、茜を心配させないために、簡単な返事をした。
愛弓は病院の外にいた。愛弓は落ち着くために自販機で缶コーヒーを買い、一口飲んで大きなため息をついた。脳裏には彰の死に顔と、最後に見た茜の表情がフラッシュバックし、こんな時に何をしているのだろうと、夏音への質問を後悔していた。少し気持ちが落ち着くと、彰が急死した悲しみと、後悔の念で自然と涙が頬を伝った。
愛弓はこのまま、葬儀社が病院に到着し、茜から電話が来るまで、外のベンチで月を眺めていた。
50分後。
葬儀社が到着すると、夏音たちが見守る中、彰の身体は白い袋に入れられ、葬儀社の車へと運ばれていった。
病院から小田原の自宅までは、葬儀社を誘導する形で茜が運転する車が前を走ることになり、三人は霊安室から駐車場へと向かうため、出入口のある一階への階段をゆっくりと上り始めた。
「…夏音。さっきはごめんなさい。」
一番後方を歩いていた愛弓が、先頭の茜には聞こえない声量で、夏音に言った。夏音は、愛弓に振り返ることなく、コクンと頷いて答えた。
夏音は、愛弓がイロカゲの能力に気が付いていることに正直驚いたが、自分の能力を凄いことだと褒めてくれたことがとても嬉しかった。今まで、自分の能力について、家族にさえ何も言われたことがなく、誰も気が付いていないと思っていた。それは、孤独という気持ちもあれば、逆に揶揄されたりはしないという安心感も伴っていた。
愛弓が自分の能力を凄いことだと認めてくれたのなら、素直に喜びを表現すればよいのだが、夏音は胸の内で、まだ複雑な思いを巡らせていた。
そのまま三人は駐車場に向かい、車に乗り込んだ。茜は運転席で葬儀社の車の位置を確認すると、ギアをドライブに変え、ゆっくりと発進させた。
「…母さん。帰りはゆっくりね。葬儀屋さんも父さんも困っちゃうからね。」
助手席の夏音が、まるで幼児を叱るような口調で茜に言った。茜は笑顔とVサインで答えると、葬儀社の車と合流し、前をゆっくりと走っていたが、病院の駐車場から公道へと入った途端、目の前の信号が黄色に変わったと同時にアクセルを踏み込み、信号が赤になる手前で交差点を通り過ぎた。
「…あ。」
やっちゃったという顔で我に返った茜が助手席を見ると、あまりの急発進に夏音は放心状態で顔が青ざめていた。後部座席の愛弓は、後ろを振り返り、赤信号で前に進めず、段々と小さくなっていく葬儀社の車を見つめていた。
「…母さん。」
愛弓も茜の運転の荒さを思い出し、小田原までの帰路を危惧した。
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