52 / 55
最終章 先生と透明
(10)
しおりを挟む
「もしもし。」
「俺、森末だ。お前から聞いた妹と接触したよ。少々トラブったが、今も目の前にいる。協力してくれないか?能力を使うところ、写真で抑えたいんだよ。」
森末の電話の相手は愛弓だった。
「ちょっと!勝手なことしないでよ。まさか、夏音に危害加えてないでしょうね!?今どこにいるの?」
「…なんだ、協力的じゃないな。じゃあ、お前の力は借りないよ。…じゃあな。」
森末は愛弓の反応を待たずに電話を切り、喫煙所の前を通り過ぎる夏音を眺め、ニヤリと笑みを浮かべた。
愛弓は、森末が話していた背景で、新幹線が通過し、徐々にスピードを落としていく音を聞き逃さなかった。
「…小田原駅の新幹線口の方か。」
愛弓は、幸いにも新幹線口とは反対の出口側だが、駅の近くの葬儀社に茜と来ていた。愛弓は、茜に少し出てくる旨を伝えて、小田原駅に向かって走り出した。
【小田原市立病院 佐藤病室】
同時刻。
曽我から、事の顛末を聞いた来の両親と片倉は、複雑な気持ちだった。来たちを助けた男性が日下部に殺された事実を今聞かされたからだ。
両親も片倉も、正義感の強い来が、きっと誰かを助けるために起こした行動で、ずっと誇らしいことだと考えていた。確かに来の行動の源はそうなのだろう。だが、誰かを巻き込み、更にはその人を死に至ってしまった事実は重く受け止めなければならない。
片倉は、顔を伏せてしゃがみこみ、両親も複雑な表情を浮かべていた。不穏な空気の中、内藤が口を開いた。
「…確かに、我々としては、息子さんたちには、警察を呼んでいただきたかったです。そうしたら、亡くなった方は巻き込まれずに済んだかもしれません。…すみません、こんな話して。」
「いえ、おっしゃる通りです。…正義感だけで、何でもかんでも上手くいくわじゃない。…その方のご家族になんて詫びたらよいか…。」
父親が、眠っている来の顔を見ながら言った。隣の母親は、声を殺して泣いていた。
部屋の隅でうずくまっていた片倉は、ゆっくり立ち上がり、内藤たちを避けて病室から出ていった。
病室の扉が閉まり、片倉の様子を気にした内藤が追いかけようと扉を開くと、片倉が向こう側を向いて立ちすくんでいた。
内藤は、廊下に出て扉を閉めてから、片倉に話し掛けた。
「…何かあったの?」
「………。」
「私で良ければ話聞くわよ。」
内藤に振り向いた片倉の顔は、涙と鼻水でグシャグシャだった。内藤は、微笑んで片倉を抱き締めた。
「うわぁぁぁぁぁん。」
内藤の優しさに触れ、片倉は我慢していたものを吐き出すように、声を出して泣いた。
病室の中では、急な泣き声に神谷が驚いて廊下の方に振り返ったが、曽我は状況を察し、何も触れなかった。
「佐藤くんは大丈夫。きっとすぐに目覚めるわ。」
内藤の言葉に、片倉は首を横に振った。
「違う…違うんです。来がこうなったのは、私のせいなんです。私が、環奈ちゃんの死について、神楽さんが怪しいって言ったから…来は私のために色々動いて…それで…こんなことに…。…関係ない人まで巻き込んで、死んじゃったなんて…。私…私…。」
片倉は、内藤の胸の中で、思いを吐き出した。内藤は、頭を優しく撫でた。
「…そうだったの。話してくれて、ありがとう。確かに、佐藤くんは、あなたのために動いたのかもしれない。でも、それは佐藤くんが、あなたを想ってる証拠でしょ。他人を巻き込んだ結果は悪かったかもしれないけど、佐藤くんが行動を起こしたことは、あなたからは責めないであげて。あなたには今、佐藤くんが目を覚ますのを、近くで待っててあげてほしい。それで、目を覚ました時には、そんな顔じゃなくて、微笑んであげないと。ね?」
内藤の言葉に、片倉は頷いた。少し気持ちに落ち着きを取り戻した片倉は、そっと内藤から離れて、ハンカチで涙と鼻水を拭った。
すると、今度は内藤が片倉に近づき、耳元で囁いた。
「…あなた、まさか妊娠してる?」
片倉はハッとした表情を浮かべた。片倉は、誰にも聞かれたくないのか、小さな声で答えた。
「…はい。昨晩検査薬使ったら陽性で。…よく分かりましたね。」
「ずっと気にしてるように、手をお腹に当ててたし、なんとなくね。私だって一応母親ですから。まぁ、シングルマザーで、仕事柄、親に頼っちゃうことが多いけどね。…相手は佐藤くん?まだ誰にも言ってないんでしょ?」
片倉は、不安そうな表情でゆっくり頷いた。内藤は、その顔を見て、またゆっくり片倉を抱き寄せた。
「初めて会うのに、こんなこと言うのあれだけど…多分これから大変なこともあると思うけど、あなたならきっと大丈夫よ。妊娠がわかった今、少しでも嬉しい気持ちがあるのなら産む方向で考えてみて。私も、あなたほど若くはないけど、大学の時にできちゃってね。警察になりたい夢と天秤に掛けたんだけど、結果両方手に入れた。周りのサポートあってだけどね。…佐藤くんが目覚めたら…。」
ガラガラ。
内藤の言葉の途中で、病室の扉が開き、神谷が勢いよく飛び出してきた。
「わぁ!内藤先輩、こんな近くにいたんですか?あ、目覚めましたよ!佐藤来くん!今医者も呼びましたんで!」
その言葉に内藤と片倉は目を合わせ微笑み、片倉は駆け足で病室の中に入っていった。
「俺、森末だ。お前から聞いた妹と接触したよ。少々トラブったが、今も目の前にいる。協力してくれないか?能力を使うところ、写真で抑えたいんだよ。」
森末の電話の相手は愛弓だった。
「ちょっと!勝手なことしないでよ。まさか、夏音に危害加えてないでしょうね!?今どこにいるの?」
「…なんだ、協力的じゃないな。じゃあ、お前の力は借りないよ。…じゃあな。」
森末は愛弓の反応を待たずに電話を切り、喫煙所の前を通り過ぎる夏音を眺め、ニヤリと笑みを浮かべた。
愛弓は、森末が話していた背景で、新幹線が通過し、徐々にスピードを落としていく音を聞き逃さなかった。
「…小田原駅の新幹線口の方か。」
愛弓は、幸いにも新幹線口とは反対の出口側だが、駅の近くの葬儀社に茜と来ていた。愛弓は、茜に少し出てくる旨を伝えて、小田原駅に向かって走り出した。
【小田原市立病院 佐藤病室】
同時刻。
曽我から、事の顛末を聞いた来の両親と片倉は、複雑な気持ちだった。来たちを助けた男性が日下部に殺された事実を今聞かされたからだ。
両親も片倉も、正義感の強い来が、きっと誰かを助けるために起こした行動で、ずっと誇らしいことだと考えていた。確かに来の行動の源はそうなのだろう。だが、誰かを巻き込み、更にはその人を死に至ってしまった事実は重く受け止めなければならない。
片倉は、顔を伏せてしゃがみこみ、両親も複雑な表情を浮かべていた。不穏な空気の中、内藤が口を開いた。
「…確かに、我々としては、息子さんたちには、警察を呼んでいただきたかったです。そうしたら、亡くなった方は巻き込まれずに済んだかもしれません。…すみません、こんな話して。」
「いえ、おっしゃる通りです。…正義感だけで、何でもかんでも上手くいくわじゃない。…その方のご家族になんて詫びたらよいか…。」
父親が、眠っている来の顔を見ながら言った。隣の母親は、声を殺して泣いていた。
部屋の隅でうずくまっていた片倉は、ゆっくり立ち上がり、内藤たちを避けて病室から出ていった。
病室の扉が閉まり、片倉の様子を気にした内藤が追いかけようと扉を開くと、片倉が向こう側を向いて立ちすくんでいた。
内藤は、廊下に出て扉を閉めてから、片倉に話し掛けた。
「…何かあったの?」
「………。」
「私で良ければ話聞くわよ。」
内藤に振り向いた片倉の顔は、涙と鼻水でグシャグシャだった。内藤は、微笑んで片倉を抱き締めた。
「うわぁぁぁぁぁん。」
内藤の優しさに触れ、片倉は我慢していたものを吐き出すように、声を出して泣いた。
病室の中では、急な泣き声に神谷が驚いて廊下の方に振り返ったが、曽我は状況を察し、何も触れなかった。
「佐藤くんは大丈夫。きっとすぐに目覚めるわ。」
内藤の言葉に、片倉は首を横に振った。
「違う…違うんです。来がこうなったのは、私のせいなんです。私が、環奈ちゃんの死について、神楽さんが怪しいって言ったから…来は私のために色々動いて…それで…こんなことに…。…関係ない人まで巻き込んで、死んじゃったなんて…。私…私…。」
片倉は、内藤の胸の中で、思いを吐き出した。内藤は、頭を優しく撫でた。
「…そうだったの。話してくれて、ありがとう。確かに、佐藤くんは、あなたのために動いたのかもしれない。でも、それは佐藤くんが、あなたを想ってる証拠でしょ。他人を巻き込んだ結果は悪かったかもしれないけど、佐藤くんが行動を起こしたことは、あなたからは責めないであげて。あなたには今、佐藤くんが目を覚ますのを、近くで待っててあげてほしい。それで、目を覚ました時には、そんな顔じゃなくて、微笑んであげないと。ね?」
内藤の言葉に、片倉は頷いた。少し気持ちに落ち着きを取り戻した片倉は、そっと内藤から離れて、ハンカチで涙と鼻水を拭った。
すると、今度は内藤が片倉に近づき、耳元で囁いた。
「…あなた、まさか妊娠してる?」
片倉はハッとした表情を浮かべた。片倉は、誰にも聞かれたくないのか、小さな声で答えた。
「…はい。昨晩検査薬使ったら陽性で。…よく分かりましたね。」
「ずっと気にしてるように、手をお腹に当ててたし、なんとなくね。私だって一応母親ですから。まぁ、シングルマザーで、仕事柄、親に頼っちゃうことが多いけどね。…相手は佐藤くん?まだ誰にも言ってないんでしょ?」
片倉は、不安そうな表情でゆっくり頷いた。内藤は、その顔を見て、またゆっくり片倉を抱き寄せた。
「初めて会うのに、こんなこと言うのあれだけど…多分これから大変なこともあると思うけど、あなたならきっと大丈夫よ。妊娠がわかった今、少しでも嬉しい気持ちがあるのなら産む方向で考えてみて。私も、あなたほど若くはないけど、大学の時にできちゃってね。警察になりたい夢と天秤に掛けたんだけど、結果両方手に入れた。周りのサポートあってだけどね。…佐藤くんが目覚めたら…。」
ガラガラ。
内藤の言葉の途中で、病室の扉が開き、神谷が勢いよく飛び出してきた。
「わぁ!内藤先輩、こんな近くにいたんですか?あ、目覚めましたよ!佐藤来くん!今医者も呼びましたんで!」
その言葉に内藤と片倉は目を合わせ微笑み、片倉は駆け足で病室の中に入っていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる