死後の世界研究倶楽部

雨木良

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第2回

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『人は死んだらどうなるのか?』を知るために、実際に自殺を選ぶ人がいると僕は何かで見たことがある。

だが、その結果を伝える術がなくては、彼らの死は正直無駄になってしまうと僕は思ってしまう。僕は、もし仮死の状態を体験できることがあるとするならば、その後は絶対に息を吹き返し、世の中に僕が体験してきた死後の世界を伝えたい、伝えなければならないと考えてきた。

勿論、友人も同じ考えであり、そんな彼がスマホの画面を僕に見せてきた。

画面には『失神ゲーム』というタイトルが付けられたサイトが開かれていた。

失神ゲーム。それは、世界中で流行している、いわゆる遊びの一種である。だが、実際に死亡してしまったり、後遺症が残るなど、大きな危険を伴う遊びのため、広く禁止を呼び掛けているものである。

勿論、僕もニュースやネットで、単語を目にしたことはあった。だが、所詮は遊びやイジメの一種だと思い、興味が湧かなかった。

友人はいくつか方法がある中で、ひとつの方法を試してみないかと僕に言った。それは、深呼吸をした後に胸を強く圧迫するという方法だった。

『失神=仮死状態』なのかは疑問だったが、てっとり早く、意識を失えると言うので、少なくとも今の状態よりは『死』に一歩近づける気がして、僕は頷いた。

友人は、自分が体験したいと言い出したが、勿論僕も体験したかったので、ジャンケンで決めることにした。

結果、僕が体験をすることになった。

僕たちは、誰にも邪魔されないように、昼休みに体育館の用具倉庫で、マットを敷いてやることに決めた。

僕は、その時が待ち遠しくて、午前中の授業なんて何も頭には入ってこなかった。

四時限目が終わるチャイムが鳴ると、僕と友人は昼飯は後回しに教室を飛び出し、体育館の用具倉庫に向かった。

倉庫は使用しない時は鍵が掛かっていることを知っていた僕らは、三時限目の体育の時に、倉庫内の窓の鍵をこっそり開けておいたのだ。

僕らは、玄関に向かい靴を履くと、誰にも見つからないように体育館の裏側に回り、予め開けておいた窓から倉庫の中に入った。

次に、倉庫の隅で丸まっているマットを引っ張り、倉庫の中央に広げた。誰にも怪しまれないように電気は消したまま、窓ガラス越しにうっすらと入ってくる陽光だけで作業をした。

僕はワクワクする気持ちが抑えられずに、すぐにマットの手前に仁王立ちし、友人に始めようと合図を送った。友人も同じ気持ちだったのか、僕の前にすっと立ち、胸を圧迫する準備として両手を僕の胸の近くで、胸に向けて広げた。 

僕が目で合図を送ると、友人はゆっくり頷いたので、僕は大きく深呼吸をし始めた。大きく息を吸って、一瞬そのまま止めた。ちょっと恐くなって覚悟を決めたかったのだ。

僕は、自分の長所だと思っている好奇心という奴のため、覚悟を決めて、ゆっくり深く息を吐き出した。

すると、その直後に友人が僕の胸を両手で強く圧迫するように押し込んだ。

僕はそのままマットに仰向けで倒れ込んだ。

僕に何が起きたのだろう。

恐らくこの失神ゲームは成功しているのだろう。

僕は今、体験したことのない感情を味わっていた。

僕の予想は少し当たっていた。と言うのも、今僕の目の前には、 マットの上で横たわっている僕自身を下に眺めていたからだ。

マットの上の僕と、今意識のある僕は、細い白い糸のようなもので、各々の胸と胸が繋がっているように見えた。

ついでに、まさか上手くいくとは思っていなかったのか、友人は気絶している僕に、必死で声を掛けている姿も視界に入ってきた。

次の瞬間、僕はもの凄いスピードで真上に向かって上昇を始めた。あっという間に、学校が豆粒みたいな大きさになり、そのまま雲の中と思われる濃い霧の中を、尚もまだ上昇を続けている。

そんな中でも、僕の胸の辺りからは、細く白い糸のようなものが真下に向かって延びていた。きっと、反対側は倉庫で意識を失っている僕の胸に繋がったままだろうと感じた。

その時、僕は気が付いた。糸のようなものは、感覚的には、恐らく僕の胸の辺りから出ているようだが、視点を下に落としても、自分の身体が視界に入ってくることはなかった。

それはまるで、僕が透明人間にでもなったかのようだった。

意識だけはしっかりしており、自分に身体がある感覚もある。具体的に言えば、掌を見ようと顔の前に手を持ってくる動作をしている感覚、指先を動かしいる感覚はあったが、姿が一切見えないのだ。目の前の遥か上空の青々とした空は見えているので、視力の問題では無いようだ。

また、自分が物凄いスピードで上昇しているにも関わらず、一切風を感じなかった。加えて、急上昇により掛けられるはずの負荷や寒さ暑さといった感覚もなく、ただただ目の前の景色だけが上空に変化していくという不思議な感覚だった。

あっという間に、青々と見えていた目の前の景色は薄暗くなり、真上を向くと闇のような黒の中に無数の光の点が輝いていた。

「宇宙だ。」

僕は意識の中で呟いた。
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