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自由時間がないなんてそんな(目逸らし)

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 私とセラフィム様が離れることは滅多にない。私の自由時間は家にいるときがほとんど。それなのに、たまにセラフィム様の気分によっては帰れないこともある。
「セラフィム様とずっと一緒☆」が二日続いたときにはとても焦った。避妊薬を飲むのがギリギリになってしまった。

 それはそれとして、今の私は久しぶりの自由時間。
 セラフィム様はやってきた暗殺者を始末するために私から離れた。平和だ。
 ちなみに暗殺者は私をターゲットにしたりはしない。一度私が暗殺者に殺されかけたことがある。そのときセラフィム様はブチ切れて、暗殺者ギルドに乗り込んだ。そして片っ端からギルドの人間を捕らえ始めて、拷問を与えた。それ以来暗殺者ギルドは私を襲わない。それはいいことなんだけど、あの拷問を見せられた私は地獄だった……。
 というか、セラフィム様の実力が分かったなら、暗殺しようとしないでよ……本気で。

「エリザベータさん」
「アマリー様」

 一人で裏庭でポケっとする私に話しかける声。慌てて立ち上がろうとすると、その手で立ち上がるのを制されて、隣に赤髪の美女が座った。
 赤髪美人こと、俺様王太子の婚約者アマリー・リプレイス侯爵令嬢だ。
 彼女はゲームの中だとヒロインを虐める悪役令嬢。けれど現実のアマリー様はとても優しく、王太子殿下との仲も良好。
 王太子殿下とアマリー様が仲違いするようなことはないだろう。ないはず。あってはならない。ヒロインはセラフィム様の運命なのだから!

「二人で話すのは久しぶりね、エリザベータさん」

 にっこりと微笑む姿は美しく咲く薔薇のようでとても美しい。

「あなたと話したかったから嬉しいわ」
「なにかご用事でしたか?」
「もう、酷い人。あなたとただ話したかっただけに決まってるじゃない。それとも、用がなければ話しかけてはいけない?」
「ま、まさか! とんでもありません!」
「ふふ、よかった」

 嬉しそうに微笑むアマリー様にくらりといってしまいそう。美女にこんなこと言われて落ちない人がいるのだろうか、いやいない。
 はふー、アマリー様って美人でかわいい。
 セラフィム様の婚約者になってよかったことは、毎日が目の保養になるってこと。必然的に顔立ちの整っている高位貴族の方々と顔見知りになる機会が多いから、とっても目の保養になる。高位貴族の方々はみんな顔がいいのだ。セラフィム様然り。アマリー様然り。
 その中でもセラフィム様は別格の美しさなんだけどね。

「セラフィム様とはどうかしら?」
「ええと、とても良くしていただいてもらっていると思います」
「そう。それならいいのだけど……。少し心配だわ、エリザベータさんは押しに弱いから」
「へ、へへへ」

 笑うしかない。その通り過ぎて笑うしかない。
 ふぅ、と色っぽいため息を吐くアマリー様に苦々しくも笑顔を浮かべる。
 アマリー様は何故だか私のことをよく気にかけてくださる優しい女性だ。こんな人が王妃になるなら、この国も安泰だと思う。
 色っぽいアマリー様をうっとりと見つめていると、膝の上に置いていた手をギュッと握られた。

「アマリー様?」
「とても心配だわ。今からでもセラフィム様と婚約解消をして、わたくしの弟と婚約しない?」
「な、お、そんな、恐れ多いことです。セラフィム様と婚約解消したとしても、アマリー様の弟君とだなんて……」

 どうしてそうなる??
 ちなみにアマリー様の弟は童顔ショタ枠の年下侯爵令息。婚約者はいないので、ゲームの中だとアマリー様がルートの悪役令嬢として登場する。
 前世の私の推しはこのショタっ子令息だった。
 セラフィム様と婚約破棄できたら、どんなにいいか。命の危険はなくなるし、ゆっくりできるし。
 ……あ、でも、私って貞操がお亡くなりになってたんだった。他の人の妻とか絶対無理だ。

「あら、いいのよ? あなたがわたくしの妹になるなんて素敵じゃない」
「そんな、恐れ多い……」
「そんなことないわ。ね、ほら、言ってみて?」
「え?」
「言ってちょうだい?」

 な、なんて?
 困惑している私の手を握り、アマリー様はぐいぐいと近づいてくる。シミひとつない陶器のような肌が間近に見えて、その美しい顔にうっとりとしていると、突然首に腕が巻かれた。
 思わず「ぐぇ」とカエルが潰れたような声が出てしまう。

「私がいない間になにをしようとしてる?」
「セラフィム様?」

「アマリー。なにしてるんだ、おまえは……」
「あら、殿下。迷える仔羊を慰めていただけですわ」

 私の後ろには私の首に腕を巻き付けたセラフィム様、アマリー様の後ろには呆れたようなため息を吐く俺様殿下がいた。

「おかえりなさいませ、セラフィム様」
「ただいま、私のエル」

 そう言って後ろから抱き締めてきたセラフィム様は私の頭のてっぺんにキスをする。手はなんだか妖しく私の腰あたりを撫でてるけど、無視をしなければならない。
 アマリー様と俺様殿下がいるなら、セラフィム様も我慢するだろう。
 それにしても、返り血も浴びてないなんて本当上手に殺すようになったなぁ、としみじみと思ってしまう。
 プロ相手にそれってどうなのだろう。一般人として大丈夫?
 なんて考えていると、セラフィム様の腕が座っていた私を立たせようと動く。
 嫌な予感。

「さて、行こうか」
「いえですがアマリー様と殿下が……」

 すりすりと執拗に私の腰を撫でるセラフィム様に嫌な予感しかしない。ここから立ち去ったら絶対に絶対に、そういうことになる。
 避妊薬は侍女に持たせてあるから大丈夫だけど、野外って苦手なんだよね……。というか、外でするのが得意な人っているの? いたわ。セラフィム様得意だった。

「ああ、俺たちのことはいい。さっさとどっかに行け」
「まあ。殿下、なにをおっしゃるの? わたくしはまだエリザベータさんとお話を……むぐっ!」
「アマリーは黙っておけ。ほら、行けセラフィム」
「ありがとうございます、殿下」

 ところで俺様殿下と全く目が合わない。
 何故に?? なにかしたっけ?
 思わず、アマリー様の口を大きな手で覆う俺様殿下を見つめてしまう。顔はいいのよね、俺様殿下。性格は難ありだけど。
 なんて油断して、ボーッとしてたのが悪かったのだろうか。
 セラフィム様は私の耳元に唇を寄せ、

「エル、私は人に見られながらでもいい」

 そう囁いた。

「う、うふふ」
「ふふ」

 引きつった笑みを浮かべる私とは違って、綺麗なセラフィム様の笑顔はまるであどけない天使のように愛らしく美しい。
 そしてわかる。本気だ、この人。

「で、殿下のお言葉に甘えましょう、セラフィム様」
「そう? 私は別に──」
「セラフィム様と二人きりがいいです……!」

 立ち上がって、縋るように彼の腕に抱きつく。セラフィム様はそんな私の様子に満足したのか、私のお尻をもにゅっと掴んだ。そしてそのまま、もにゅもにゅとお尻を揉まれる。
 ………大丈夫、私。平常心よ。
 アマリー様と殿下からは見えない位置なんだから大丈………おや?

「殿下、どうなさいました? 私のエルに、なにか?」
「いや……なんでもない。なんでもないからな!」
「そうですか。それならいいです」

 殿下と目が合ったと思ったら、憐むような目を向けられた。首を傾げると、すかさずセラフィム様が殿下へと問いかける。

 もしや、バレているんだろうか……。色々と。諸々と。

 そう考えると顔が赤く染まって、とてもじゃないけど顔なんてあげられない。

「エル、早く行こうか」

 ……あ。セラフィム様、なんか目が笑ってない。死んだ。
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