メンヘラ令嬢は龍の番〜婚約破棄されて伝説の龍人と相思相愛になりました〜

りんごちゃん

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「で、何の用だ」

 苛立ちを隠さないカムイ様が火竜族の彼に言う。
 私はカムイ様の膝の上で腕の中。決して火竜族の彼を見ないように胸の中に押さえつけられてる。カムイ様の男らしくて少し汗ばんだ硬い胸板が直接触れてて恥ずかしい。けれど落ち着くことも事実で。きっとカムイ様はそれもわかっているのだと思うと恥ずかしい。
 ちなみに私たちは椅子に座っているのに対して、火竜の彼はドラゴンのまま、体だけは小さくして机の前にいる。

「何の用って……。そろそろ聖世祭の時期っすよぅ……。赤龍せきりゅう様も青龍せいりゅう様も緑龍りょくりゅう様も黄龍こうりゅう様も黒龍こくりゅう様ももう揃ってらっしゃいます。あとは白龍様だけなんすよぉ」
「そうか。我は行かぬ」
「あっ、番がいる時点でそうかなぁ、とは思ったけど、無理っす~! そんなの俺に言わないで欲しいっす~! というか龍族の長が来ないっていうのはたぶん無理~絶対無理~!」
「黒に任せい」
「無理っす~~!」

 聖世祭?

「カムイ様……。聖世祭って、龍族の方たちにも国があるのですか?」

 次期王子妃として今まで生きてきたけど、龍が治める国なんて聞いたことがない。
 それに伝説級の龍が白龍であるカムイ様だけでなく他にもいて、その上今の言い方だとドラゴン族の上にいる立場のようだった。龍が伝説的な存在だとは聞いたことがあったけど、ドラゴンを統べるなんて話は聞いたことがない。

「んむ? ああ、そうか。人族であるそなたは知らぬのだな。王族なら知っているのだが……」
「やっぱり人族かぁ~! おれ、まじでカトレアたちに殺されそう……」

 絶望したような声が後ろから聞こえる。それに反してカムイ様の声はとても甘くて優しい。いつも優しくて甘いけど、なんだかいつもより甘く感じる。
 カムイ様の声と比べる声があるからかしら。
 ……考えてみてもわからないのだわ。

「元々この世界は一つだった。この世界が六つの大陸に分かれているのはそなたも知っておるな?」
「はい。赤の大陸、青の大陸、緑の大陸、黄の大陸、黒の大陸、白の大り──あ、龍様たちのお名前……?」

 赤龍、青龍、緑龍、黄竜、黒龍、白龍。先程火竜族の彼が呼んでいた名前。

「ああ、そうだ。誰がそのように大陸を名付けたのかは知らぬが、原初の龍と呼ばれる我らは普段それぞれの名を模す大陸におる。とはいうものの、普段我らが共におると力が強くて魔力の渦が生まれてしまうのでな」
「魔力の、渦……」

 そういえばこの世界には前世とは違い魔法がある。
 私はというとそもそもの魔法の適性が低いが、唯一光の魔法──治癒魔法のみに適性があった。
 ちなみにエドガー様は火、緑、光の魔法の適正、私からエドガー様を奪ったアリーゼ様は闇以外の全ての属性に適性があった。特に光の魔法は強かったらしい。そのせいもあってアリーゼ様は聖女と呼ばれていた。
 世界史には魔王が現れ、勇者と聖女がそれを倒したという事項がある。私が思うよりも、この世界はファンタジーなんだと思う。

「一週間くらいならなんともないんだがな、それ以上になると魔物が多発するからなぁ」
「あんときけっこー大変だったっすよねー。魔物があまりに多発するもんで、黒龍様に魔王なんっつーもんやらせて。んで、白龍様が神の遣いやって、そんとき一番力のあった人族に勇者やらせてー。あれ、おれが生まれる前からやってたんすよね? 人族じゃなくて、魔族とか獣族とか、エルフ族とかでも勇者ってなんでもありなんすよね! あれはなんか楽しかったっす~! 物語みたいで!」

 続いた火竜族の彼の言葉。昔を思い出して遠い目をするカムイ様に私も遠い目をする。
 もしかして、もしかしてなのだけど私、この世界の不思議に触れているのではないかしら?
 確か世界史で魔王と勇者の項目を勉強したとき、魔王が発生する前兆には魔物が多発するってあった気がする。というか、火竜族の彼がすべて言ってしまっていた。
 魔王と勇者って……。物語みたいって……。実際物語になっているのだから笑えない。
「ま、そもそも奴らとはあまり一緒にいたいと思えぬからいいが」と付け加えるカムイ様に私はこっそり息を吐く。カムイ様に特定の特別仲良しの人がいなくてよかったって思ってしまうのは良くないことだけど、そう思ってしまう。
 この世界の不思議よりもカムイ様のことが気になってしまう私は、自分で思っているよりもカムイ様に依存しているのかもしれない。

「そんなことはいい。それでな、我ら龍族はこの世界の始まりからこの世界にいたと言われている。とはいえ、龍族の中で一番長く生きている我でさえ世界の始まりなど知らぬがな。聖世祭とは先代白龍が決めた、この世界の始まりとされる日のことだ。この日ばかりは六龍が一つの大陸に集まり、ドラゴン族とともに宴を開くことが決まっている」
「いちばん、ながいき……」
「あ、気になるのそこっすかー。番様ってマイペースっすね。まあ、そもそも龍族はおれたちドラゴン族とは違って番判定が厳しくて、大抵は一人のまますべてが終わるんす。だから自然発生が多いんすよ~。確かリュウセン様も自然発っせ、んでぇっ!」
「おぬしは本当に口さがない!」

 カムイ様がなにをしたのかわからないけど、突然火竜族の彼が舌を噛んだように口を閉じた。……口を強制的に閉ざされた? のかな?
 カムイ様が手を動かした気配はなかったから、たぶん魔法の力。
 お互いが一緒にいると魔力の渦が出来てしまうということは、つまりカムイ様たち龍族の方々は魔力が強いのだろう。
 それが反発し合って、魔力の渦ができる? それなら仲が悪いのかな、と思うけど火竜族の彼から言葉を聞く限り、そんなことはなさそう。そしたらなんだか悲しいな。魔力のせいで一緒にいられないなんて。
 でも、きっとカムイ様のそばに誰かがいたら、私なんて見向きもされなかった。それなら、これで良かったのかもしれない。
 そもそもカムイ様は私の想像以上に長生きで、もしかしたら私が知らない間にカムイ様の側にいたのかと思うとすごく嫌。モヤモヤしてしまう。
 こんな独占欲はあってもいいことがないのに。

「ベル」
「っ、ひゃ、ひゃいっ!」

 カムイ様のことを考え込んでいたら、耳元のすぐそばでカムイ様に名前を呼ばれた。驚いて変な声を出してしまう。恥ずかしい。
 そう思ってカムイ様へと視線を向けると、どうして悲しそうな顔をしていた。
 え、どうしてそんな顔をなさるの? 私、なにかした?
 自分の行動を思い返してみるけど、原因がわからない。

「ご、ごめんなさい、カムイ様。私、カムイ様になにか……」
「違う。そなたではない」
「なら、」
「我が、その、気持ち悪くないか?」
「カムイ様が? なぜ?」

 カムイ様の言葉に首をかしげる。不安そうにするカムイ様が不思議だった。どうしてそう思うのか。

「我は、そなたのように父と母がいて、母から生まれたわけではない。気が付いたらこの世界にいた。そんな我を、そなたは厭悪するか?」

 付け加えられた言葉に、ああなるほどと頷く。それから慌てて首を振った。

「ちがっ、ちがいますっ! 今の頷きはカムイ様がどうして不安そうにするのかな、って思ってた答えが得られたことに対する頷きで、私がっ、私がカムイ様を嫌うなんて、そんなことありえませんっっ! 私、カムイ様のことが好きだからっ!」

 目に見えてカムイ様から元気が無くなって、慌てて弁解する。思っていた以上の大きな声が出て、自分でも驚いた。
 私、こんなに大きな声が出たんだ。
 でも、カムイ様には、カムイ様にだけは勘違いして欲しくなかった。私の想いを勘違いしないで欲しかった。

「ああ、我が番よ……」
「名前が、いい……」

 ルビリア、そう呼んでくれたのは最初の日だけだった。あとはベルと。ベルローズの名前の愛称はローズだったから、ベルと呼ぶのはカムイ様だけ。それもいいけど、ベルとカムイ様が名前を呼ぶたびにルビリアと魂名で呼んでほしいと強く望むようになった。
 それを言葉にしたのは初めて。カムイ様に嫌がられていないか視線で確認すると、カムイ様は耳まで赤く染めていた。

「な、なぜ、こやつがいるときに限ってそのような愛らしいことを!」
「ぇ、と?」
「白龍様、白龍様、たぶんその番様、名前に関することも、龍族、いや、ドラゴン族? が、どんだけ番に関して心が狭いかってことも知らないっすよ」

 火竜族の彼から途中言葉を投げ掛けられる。
 名前に関すること? 番に関して心が狭い?
 息が止まるほど抱き締められてる私に返事は返せない。そもそもカムイ様が男性と話すことを嫌がるから言葉を返せない。
 けれど火竜族の彼が言った言葉の意味を知りたい。

「名は、大切なものだ」
「ん、はい」
「そなたが我の名を呼ぶのは何度だっていい。心が、魂が震える。龍族、ドラゴン族は皆そうだ」

 ルビリア、とカムイ様の口が私の名前を象る。声には出されない。
 嬉しい、そう思うけど、魂が震えるかと言われるとそれとは違うと思う。私は龍族じゃないから、ドラゴン族じゃないからかな。どうして私はカムイ様と同じ種族に生まれなかったんだろう。すごく口惜しく思う。

「だがな、」

 カムイ様の言葉が続く。
 魂が震える。ということは、カムイ様が私の名前を呼ばないのはなにかとても大きな理由があるのかもしれない。そういえば、火竜の彼が来てからカムイ様は一度しか私の名前を呼んでいない。それも小声で、火竜の彼に聞こえるか聞こえない声で。
 難しい顔をして、言い難そうにするカムイ様の顔を見つめながら、言葉を待つ。

「我が番の名が他の男の頭に刻まれるのがすごく許せぬ」
「……え?」

 え?

「単純に嫌なのだ。とてつもなく嫌なのだ。そなたの名を呼ばずとも、知っているというだけで腹が立つ。苛立つ。そやつの脳を引っ張り出し、全てを忘却の彼方に沈めてやりたくなる。通称名は仕方ないとしよう。だがな、それ以外は我のものである。ゆえに、我は今ここでそなたの名を呼べぬのだ!」

 火竜の彼を睨みながら、とても悔しそうに言葉を放つカムイ様に私は目が点になる。
 な、なんだろう。こんな単純なことなのに。こんな単純なことなのに。

「嬉しい……」
「え゛」

 火竜の彼から驚いたような声が聞こえたけど、そんなの気にならない。
 身の内から溢れ出る感情は喜び。私はカムイ様の独占欲にひどく喜んでいる。
 ああ、どうしようこんなに嬉しくて。こんなに嬉しいことはこの世に生まれて初めて。もしかしたら前世も入れて初めてかもしれない。

「というわけで、さっさと帰れ」
「いやいや、それだけは無理っす~!」
「番になったばかりの二人を引き離そうとするなど、万死に値するがわかっていての言葉か?」
「引き離そうとはしてないっす! もちろん番様もご一緒に!」
「無理だ」
「それをどうか!」
「嫌だ」
「おれが怒られるっす~っっ!」

 火竜の彼はまるで駄々をこねている子供みたいで、少しかわいそうになってくる。
 そう思ってカムイ様の名前を呼ぶと、カムイ様は大きなため息を吐いて一つの提案をした。

「──わかった。我が番と完全なる契約を交わしたあとならば、考えよう」
「それって少なく見積もって一ヶ月は先~! 無理! 早くしないと聖世祭終わっちゃうからぁ! 100年に一度だけなんすよぉ! お願いですからぁ~!」
「はぁ……」

 カムイ様がため息を吐いた。私をジッと見つめて、それから火竜の彼を見る。

「カムイ様、私、平気ですよ」

 ルビリア、とカムイ様の口が私の名前を呼ぶ。

「一人でお留守番できますし、大人しくカムイ様のこと待ってられますよ?」
「いや、それは無理だ」
「え、と……?」
「我がそなたから離れることが考えられぬ。一人で待っているなど、そのような寂しいことは言わないでくれ」

 そう言われて、こくんと頷く。龍族とドラゴン族たちのお祭りらしいし、私は邪魔なのかなと思っての言葉だったんだけど、それは無用の心配だったらしい。

「……我と我の番の部屋を奴らから離すこと、いっそ屋敷を別にしてもよい。我らを決して引き離さぬこと。我らの邪魔はせぬこと。それらを守るのであれば、行っても良い」
「マジで!? ほんと!? よかったー! これで父ちゃんと母ちゃんに怒られずに済むっす~!」

 本当に、子供みたい。
 火竜族の彼の喜びようにくすりと笑うと、私の心を占めるようにカムイ様が私の目元にキスを落とす。
 カムイ様を視界に入れると、蕩けるような笑顔を私に向けて私の関心を奪おうとしているのがわかった。
 たぶん、私もそうだったからカムイ様のことがわかった。
 笑顔だけを浮かべて必死に「私を見て」と叫んでた。声には出せなくて、本当に出せなくて、心の中で叫んで、ただ笑顔だけを浮かべて。でもその笑顔もいつかハリボテになって、どんどん剥がれていって。
 通じる相手がいなかった。きっと他の誰かはとても魅力的で、視線と視線が絡まるだけでお互いのことがわかるような相手がいるのに、私にはいなかったの。
 けど今はいる。カムイ様が私の側にいるの。それってなんて幸せなんだろう。なんて幸福なんだろう。
 エドガー様のことを考えると少し胸が痛むけど、それだけ。きっといつか消えて無くなってしまう思いのカケラ。カムイ様のおかげ。あんなに死にたいほど好きだったのに、今ではカムイ様に塗り替えられている。
 少しだけ考えて、そのカムイ様の頬にチュッと唇をくっつける。

「だいすき」

 自然と口角が上がる。

「お祭りが終わったら、カムイ様の本当のお嫁さんにしてください」

 そう言ったらカムイ様が顔を真っ赤にさせて、それからぎゅーって私を抱き締めてくれて、それからの記憶が私にはない。
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