【完結】疎遠だった幼馴染に突然キスをされた男の子の話

白井ゆき

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 唇が離れる。熱のこもった目で見つめる塚本が、その端正な顔を再び近づけようとしていることに気が付き、顔を逸した。

「ここ学校」
「ごめん……」

 ハッとし、手を緩めた塚本に背を向け、衣服を整える。
 服の上からでも心臓が激しく動いていることが分かり、顔に熱が集まった。

 ……ここは学校だ。学校なのに一体何をしてるんだ。

 塚本が蹴破ったドアはもちろん外れたままで、人が来なくてよかったと心底思う。

「凛、大丈夫?」
「何が」
「何がって、ほら……その」

 歯切れの悪い様子に眉間に皺が寄る。

「先輩たちのこと言ってんなら気にすんなよ。お前は悪くねぇんだから」
「いや、そっちじゃなくて。……いや、それも心配ではあるんだけど。……何ていうか……」

 言い淀む塚本を振り返る。

 それに、先輩たちのことは衝撃的ではあったが、特に落ち込んでいるわけではない。結果的には、ほとんど何もされていわけだし、俺にとっては塚本が気にするほどのことではない。
 どちらかと言えば、あのとき天井に設置されたプロジェクターを監視カメラと言い張り、先輩を騙したことのほうが気になっている。

 あの人、プライド高いからああいう馬鹿にされるようなこと嫌いだろ。騙したとバレれば今度こそ何をされるか分からない。

「……あの直後に、キスするの無神経だったかな、って。凛がかわいくてつい……わっ」

“かわいい”の一言に顔に熱が集まり、思わず借りていた服を投げつけた。

「じゃあ、2度とすんな」

 かわいい、と言われて嬉しいはずがないのに、落ち着き始めていた心臓が再び暴れ始める。それを誤魔化すように、床に倒れたままのドアを持ち上げた。

「うん、凛が嫌がることは2度としない」

 手伝おうと駆け寄る塚本と視線が絡まる。

 嫌だったわけではない、と本音を伝えるのも癪で「当たり前だろ」と投げやりに返した。

 スライド式のドアは、すんなりとレールに収まり一息ついた。鍵は壊れてしまっているが、ほとんど使われていない教室だし大丈夫だろう。どうにか鍵が直らないかと四苦八苦している塚本に「行くぞ」と声をかける。

「どこに?」
「どこ、って一緒に回るんじゃなかったのかよ」
「あ、回る!」

 鍵を放り出し、小走りで駆け寄る塚本を尻目に賑わっている方へと足を進めた。



「凛、どこか行きたいとこある?」

 昨日チラリと見たパンフレットの内容を思い出していれば、ふと腹の減りに気づき時計を見遣る。
 時刻は1時半を過ぎていた。朝から何も食べていないこともあり、ぐるりと音が鳴る。

「あー、……何か食えるとこ。腹減った」
「じゃあ、中庭行こう。いっぱい屋台あるから」

 2人で階段を降り、中庭へと向かう。

 中庭には、部活動生と3年生が出店している出店が所狭しと並んでいた。
 焼きそば、焼き鳥、チョコバナナと様々な出店にが並ぶ様子は、久しく行っていないお祭りを彷彿とさせ、心が踊る。

 その中から、「あれも買おう、これも買おう」と塚本に導かれるままに買っていく。
 3つ目の袋がいっぱいになったところで、ホットドッグを買おうとする塚本を止めた。

「……買いすぎじゃね。俺そんな食えねぇけど」

 お前食べ切れんの、と言えば怪訝そうな顔で見られる。何だ、と眉間に皺を寄せれば、ため息をつかれ、その皺をより深くした。

「買いすぎじゃないよ。それに、このくらい食べないと大きくなれないよ」

 僅かに眉を顰め、そう言い放つ塚本に今度は俺がため息をつく。お前から見れば大抵のやつは小さいだろ。お前を基準にするな。

 列に並ぼうとする塚本の腕を掴み、強引に飲食スペースに向かう。

「この前から思ってたんだけど、俺が小せぇんじゃなくてお前がデカイだけだよ」
「そんなことないよ。凛、昔は大きかった」

 塚本の言葉にムッとする。

 成長期に伸びたからって偉そうに。俺は昔から平均より少し高いくらいの身長を保ってんだよ。大きく見えたのはお前が小さかったからだろ。

「だからお前が伸びたんだろ」

 2時をすぎていらからか、飲食スペースは意外と空いていて、奥の方の席に腰を下ろした。

「身長だけじゃなくて、全体的に小さくなってる気がする」
「は?」

 荷物すら置かず、立ったまま首を傾げる塚本を見上げる。

「痩せすぎだよ、凛。もっと食べて」

 喧嘩売ってんのか、コイツ。
 椅子に座り、「ほら、これ食べて」とはしまきを差し出す塚本を睨みつけた。確かに、鍛えているのか塚本の体はしっかりしていた気がする。とはいえ、痩せすぎだなんて言われる筋合いはない。

「言いすぎだろ」
「そうかな」

 容器を受け取り、はしまきに口をつける。

「触った感じも細いなぁって思ってたけど、さっき見たら本当に細かったし」

 もっと食べたほうがいいよ、と何でもない様子で言ってのける姿に、はしまきを食べていた手を止めた。

 触った感じ、って……。いや、俺も人のことは言えないけど。本人に言うか、普通。というか、

「……見んなよ」
「そんなこと言ったって、見えちゃったし」
「見えたとしても普通黙っとくんだよ」
「じゃあ、何も見てない」

 いただきます、と行儀よくたこ焼きを食べる塚本に「もう遅ぇよ」と返した。

 最近は食事量も減り、授業以外で運動もしてないけれど、しっかり食べて運動していた中学時代でさえ細いと言われていたから、こればかりは体質だろう。そうは思いつつも、こうも痩せすぎと言われれば気になってしまうのが人間の性で袖口から覗く腕を見比べた。塚本の腕は鍛えているのか、程よく筋肉が付いている。

「たこ焼き食べたいの?」

 勘違いした塚本にたこ焼きを差し出された。
 そういうわけではないけれど、断るのも違うかと身を乗り出し、つまようじに刺されたたこ焼きを口に入れる。

 美味い。

 たこを噛み締めていれば、「凛のも食べたい」といわれ、容器ごと差し出した。

「食べたい」
「食べていいよ」

 さらに容器を押しやっても動こうとしない塚本に首を傾げた。

「食べたい」
「だから食べていいって」

 食べやすいように持ち手を塚本の方へ向ける。それでも食べようとせず、不満そうに顔を歪める姿に、堪らずこちらも顔を歪めた。食べかけが嫌なのだろうか。はじめに声をかけてくれれば、半分にしたのに。そもそも、そんなに食べたかったのであれば、俺に譲らず、食べればよかったものを。

 根元の部分ならまだ口をつけていないから、と伝えようと口を開くと、

「食べさせてくれないの?」
「はぁ?」

 突拍子のない発言にさらに顔が歪んだ。

 俺の考えは的外れだったようで、食べさせてくれないことが不満らしい。何言ってるんだろうか。子供じゃあるまいし、自分で食べられるどろうに。両手も空いているんだから。

「凛ばっかりずるい」

 俺の考えていることが伝わったのか、食べさせてくれないことを悟った塚本の表情が、みるみるうちに不貞腐れていく。もしかして、さっきのたこ焼きのことを言っているのだろうか。あれは塚本が勝手にやっただけだ。

「いや、別に頼んでねぇだろ」
「でも食べたじゃん」
「受け取るには短いからな」

 たこ焼きが刺さった爪楊枝を受け取れば、手が汚れるのは目に見えている。だから、そのまま食べたわけで、差し出されたのがはしまきだったら受け取って自分で食べた。

「でも食べたじゃん」
「だからさぁ、」
「そもそも、凛は俺のことどう思ってるわけ?」

 おもちゃをねだる子供のように聞き分けのない塚本を諭そうとすれば、そう遮られ口を噤んだ。

 どう、ってそりゃあ……。
 塚本のことをどう思っているのか、答えは出たけれど、自覚したばかりで伝える段階まで来ていない。というか、さっきのキスを受け入れたことが俺なりの返事のつもりだった。
 しかし、塚本はそれだけでは不満があるようで、咎めるような視線を送られ、視線をテーブルに落とした。すると、テーブルに乗せていた手を握られる。

「俺、何も聞いてないけど」
「それは……」
「あんな思わせぶりなこと言っておいて、何もないのはひどいと思わない?」

 言い淀んでいると、握られた手を強く引かれた。自然と互いの顔が近づき、焦りの声が漏れる。

「ちょっ、場所考えろよ」
「凛が大きい声出さなければ大丈夫だよ」

 周囲に視線を配る。俺たちが来たときに比べれば人は減っているけれど、いないわけではない。しかも、すぐ側には屋台を見て周る人も大勢いて、誰が見ているか分からない。

 少しでも距離を取るために体を反らす。それを責めるように手に力が込められた。

「で、凛は俺のことどう思ってるの」

 好き、だけど。直接言うには、まだ照れくさい。その上、誰が聞いているのか分からないのに言えるわけがない。
 何と言えばいいのか思索していると、急かさんとばかりに手の甲を撫でられた。手の甲から広がった熱がじわじわと全身を侵食していく。

 目線を上げると、真剣な顔の塚本がいて腹を括った。

「……付き合い、たい、と思ってる」

 やたらと熱い顔を隠すように顔を伏せた。明るい髪が顔を覆い隠し、羞恥心が和らいだ。

「……何か言えよ」
「嬉しい。……俺も、ずっと付き合いたいって思ってたよ」

 嬉しいんだ、塚本も。

 心なしか弾んだ声の塚本に口元が緩みそうになるのを必死に抑えた。すり、と手の甲を撫でる感触がくすぐったく、抜け出そうとする。

「離せよ」
「何で?付き合ってるのに」
「……買ったの冷めるだろ」

 意外にも大人しく手を離した塚本に拍子抜けしながらも、照れを隠そうと、はしまきに手を伸ばした。

「じゃあ、はい」
「何」
「食べさせてよ」

 まだ諦めていなかったのか、と正面を見遣る。早くと言わんばかりに前のめりに口を開ける塚本に、恐る恐るはしまきを近づけた。

 形の整った唇が、ぱくりとはしまきを頬張る。口の端についたソースを舐めとる赤い舌から思わず目を逸らした。

「美味しい」
「……そうかよ」

 ガキじゃねぇんだから、と思うけれど、その些細な仕草1つや塚本の食べたはしまきにすら心臓が早鐘を打ち始める。その俺に気づいているのかいないのか、「もう一個食べる?」とたこ焼きを差し出す塚本に力なく首を振った。

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